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20. 開演5分前まで [エーリック王子目線]
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何故だ?
どうしてあの方が彼女をエスコートしているのだ?
「エーリック? どうしたの?」
従姉妹にどうしてもと誘われた観劇は、評判の演目だからとパートナーには目を瞑った。この従姉妹にはあまり有り難くない二つ名が付いている。
イノシシ娘。それも我が儘な。という飾り言葉が付くことがある。
そう、個性的なのだ。
「いや。何も無いよ? それより、カテリーナがこういう演目が好きだなんて知らなかった」
確かにこの演目は評判になっているが、元はコレール王国の有名な古典文学で、現代風のアレンジがされていると聞いている。こういったものに興味があるとは知らなかった。
「そう? 実はこの演目ってね、以前にも上演されていたのですって。でも、その時と今回は解釈が違っているんですってよ? それって、面白いと思わない?」
いつも以上に饒舌だ。解釈が違うって? よく知っているな。と感心した。
「でもね、以前の上演って10年前なんですって!! 資料があまり無いのよ! 残念だわ!!」
悔しがるカテリーナは、普通に綺麗な顔の眉間に皺を寄せた。大人しくしていれば、美人で通る容姿なのに。
「やっぱり、再演を望む声は大きくないと駄目よね? ここは一つ劇場の支配人と劇場主に働きかけて……」
「止めておけ」
「そう? でも興行には時間もかかるし! 今から動けば今年中には」
「だから、今は止めておけ。まずは新バージョンを観てからだろう?」
「……確かに。じゃあ観た後に劇団に言っ」
「カテリーナ! 止・め・て・お・け!?」
「……はい」
基本は素直なのだが、いちいち突っ込むのも飽きてきた。
カテリーナは、好き嫌いがはっきりしている上に、相当な行動力がある。だから相手の感じ方や解釈によってはそれが我が儘と取られるのだ。難儀な従姉妹殿だと思っている。
それよりも、さっきの場面だ。
まさか、今夜の観劇にシュゼットが来るなんて思っていなかった。どちらかというと、婚約者候補になりたくないと言っていた彼女の事だから、フェリックス殿が現れる様な社交には顔を出さないと思っていた。
しかし、彼女は現れた。それも、叔父上にエスコートされていた。なぜそういうことになったのだ? 先日彼女を訪問した時には、そんなことは一言も言っていなかった。
叔父上との接点は、彼女が編入試験を受けに来た時と聞いている。まあ、その時に少し噂になったことがあったが、叔父上の性格から言ってもソレは無いと否定していた。
(そうでなかったということか? あんなに自然に微笑んでいるとか、どんだけ親しいのだ?)
シュゼットの姿を思い出した。
パステルブルーのドレスは、淡くて甘い色合いで良く似合っていた。幾重にも重なったドレープが印象的なデザインだった。長い髪も艶やかで、ふわふわして見えた。
彼女の手は、叔父上の肘に載せられていた。そして、そっと叔父上の手が添えられた瞬間を見てしまった。
ムカムカしてきた。
行儀が悪いかもしれないが、肘掛けに頬杖をついてムッとした気持ちを抑えるようにする。いつもは出来る王子の貌が出来ていない自覚があった。
なんで? どうして? 彼女をエスコートしているんだ? いつそんな関係になったんだ?
気になって仕方がない。
「んっ!?」
1階のボックス席に、シュゼットの姿が見えた。金色の髪にパステルブルーのドレスだ。見間違えるはずが無い。2人用のボックス席に彼女を先に座らせてから、叔父上が隣に着席した。ここからは遠くて話し声など聞こえない。でも、彼女が叔父上の方を向いて何か話している様さまは見ることが出来る。
小首を傾げて何か話している。身振り手振りで楽しそうに。そして、嬉しそうに微笑んでいるように見える。叔父上の表情は、ここからは見ることが出来ない。
でも、自分にあんな笑顔が向けられたら……
嫌だ。他の誰かに微笑んでいる彼女を見ているなん。
キュッと心臓が痛んだ。こんな痛みは初めてだと思う。
開演5分前のベルが鳴った。
幕間になったら会いに行く。なぜこうなったかを、はっきり聞く。
そうすれば、この痛みが何なのか判ると思うから。
どうしてあの方が彼女をエスコートしているのだ?
「エーリック? どうしたの?」
従姉妹にどうしてもと誘われた観劇は、評判の演目だからとパートナーには目を瞑った。この従姉妹にはあまり有り難くない二つ名が付いている。
イノシシ娘。それも我が儘な。という飾り言葉が付くことがある。
そう、個性的なのだ。
「いや。何も無いよ? それより、カテリーナがこういう演目が好きだなんて知らなかった」
確かにこの演目は評判になっているが、元はコレール王国の有名な古典文学で、現代風のアレンジがされていると聞いている。こういったものに興味があるとは知らなかった。
「そう? 実はこの演目ってね、以前にも上演されていたのですって。でも、その時と今回は解釈が違っているんですってよ? それって、面白いと思わない?」
いつも以上に饒舌だ。解釈が違うって? よく知っているな。と感心した。
「でもね、以前の上演って10年前なんですって!! 資料があまり無いのよ! 残念だわ!!」
悔しがるカテリーナは、普通に綺麗な顔の眉間に皺を寄せた。大人しくしていれば、美人で通る容姿なのに。
「やっぱり、再演を望む声は大きくないと駄目よね? ここは一つ劇場の支配人と劇場主に働きかけて……」
「止めておけ」
「そう? でも興行には時間もかかるし! 今から動けば今年中には」
「だから、今は止めておけ。まずは新バージョンを観てからだろう?」
「……確かに。じゃあ観た後に劇団に言っ」
「カテリーナ! 止・め・て・お・け!?」
「……はい」
基本は素直なのだが、いちいち突っ込むのも飽きてきた。
カテリーナは、好き嫌いがはっきりしている上に、相当な行動力がある。だから相手の感じ方や解釈によってはそれが我が儘と取られるのだ。難儀な従姉妹殿だと思っている。
それよりも、さっきの場面だ。
まさか、今夜の観劇にシュゼットが来るなんて思っていなかった。どちらかというと、婚約者候補になりたくないと言っていた彼女の事だから、フェリックス殿が現れる様な社交には顔を出さないと思っていた。
しかし、彼女は現れた。それも、叔父上にエスコートされていた。なぜそういうことになったのだ? 先日彼女を訪問した時には、そんなことは一言も言っていなかった。
叔父上との接点は、彼女が編入試験を受けに来た時と聞いている。まあ、その時に少し噂になったことがあったが、叔父上の性格から言ってもソレは無いと否定していた。
(そうでなかったということか? あんなに自然に微笑んでいるとか、どんだけ親しいのだ?)
シュゼットの姿を思い出した。
パステルブルーのドレスは、淡くて甘い色合いで良く似合っていた。幾重にも重なったドレープが印象的なデザインだった。長い髪も艶やかで、ふわふわして見えた。
彼女の手は、叔父上の肘に載せられていた。そして、そっと叔父上の手が添えられた瞬間を見てしまった。
ムカムカしてきた。
行儀が悪いかもしれないが、肘掛けに頬杖をついてムッとした気持ちを抑えるようにする。いつもは出来る王子の貌が出来ていない自覚があった。
なんで? どうして? 彼女をエスコートしているんだ? いつそんな関係になったんだ?
気になって仕方がない。
「んっ!?」
1階のボックス席に、シュゼットの姿が見えた。金色の髪にパステルブルーのドレスだ。見間違えるはずが無い。2人用のボックス席に彼女を先に座らせてから、叔父上が隣に着席した。ここからは遠くて話し声など聞こえない。でも、彼女が叔父上の方を向いて何か話している様さまは見ることが出来る。
小首を傾げて何か話している。身振り手振りで楽しそうに。そして、嬉しそうに微笑んでいるように見える。叔父上の表情は、ここからは見ることが出来ない。
でも、自分にあんな笑顔が向けられたら……
嫌だ。他の誰かに微笑んでいる彼女を見ているなん。
キュッと心臓が痛んだ。こんな痛みは初めてだと思う。
開演5分前のベルが鳴った。
幕間になったら会いに行く。なぜこうなったかを、はっきり聞く。
そうすれば、この痛みが何なのか判ると思うから。
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