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30. 天使の降臨?
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目線がシュゼット ⇒ ロイ ⇒ ローナ ⇒ エーリックと変わります。
判りにくくて申し訳ありませんが、お付き合いください。
°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
始業の鐘が鳴り響きます。
朝の例会に間に合うよう、クラス担任のセントル教授。そうです。あの面接試験官の一人であった学年主任の先生と一緒に白のクラスに向かいます。
お父様は、先生たちにご挨拶が済むと、縋るような目をして私を抱きしめてから、お仕事に向かいましたわ。
(まあ、お父様にはショックなことでしょうけど?)
廊下にはすでに人影はありません。生徒の皆さんは、さすが王立学院ということでしょうか? 教室に入っているようです。遅刻などする不届き者はいないのでしょうか?
「早く! 始まってしまうよ!!」
「ま、待って下さい。い、息が、く、苦しっ!」
廊下の曲がり角から、バタバタと足音と声が聞こえました。と、思った時です。
「わっ!!」 「きゃっ!!」
私の前を歩いていたセントル先生と、角から飛び出してきた人が衝突しました。
あら、お二人ですわ。セントル先生はかなり体格の良い方ですので、ぶつかった人たちの方が倒れてしまいましたわ。
(あら? この方って)
「大丈夫ですか? ロイ様? それからローナ様?」
そうですわ。小動物系と言われる、栗色巻き毛のカリノ侯爵家の双子さんですわ。
私はロイ様に、セントル先生はローナ様に手を差し出します。
「す、すみません。あ、ありがとっ!?」
ロイ様は、よろけながらも立ち上がり、私の顔を見上げると驚いたように固まってしまいました。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド?」
ちょっと? ここにもフルネーム呼びがいますわよ!!
「ロイ、ローナ。遅刻ですよ? 早く教室にお入りなさい」
セントル先生も、落ちた鞄を差し出しながら二人に注意しています。まあ、先生の方には衝突の影響は全く無さそうですけど、お二人の方は結構なダメージがあったでしょうね。
ローナ様が、固まっているロイ様の腕を引っ張ると、頭を下げて一目散に教室に向かって走っていきました。また、転ばなければいいですけど。
「ふう。あの二人はカリノ侯爵家の双子です。あの二人が遅刻するなんて珍しいですね。ところで、貴方は、あの双子をご存じだったのですか?」
先生は、少し乱れた上着を直しながら、私に尋ねました。そうですよね、ロイ様にフルネーム呼びされましたしね。
「ええ。ロイ様には、編入試験の日の帰りにお会いしましたの。ローナ様には今日が初めてですけど、お名前だけは伺っておりました」
そう言うと、ロイ様が生徒会役員であるから、判らないことがあれば聞くと良いと教えて下さいました。
それにしても、すでにロイ様が私の名前を知っているということは、土曜日の劇場で知ったのかしら。もしかしたら、セドリック様のおイタの時に近くにいらっしゃたのかもしれません。
(ということは、ヤツも当然知っているわね)
白のクラスは2階にあります。いよいよですね。
さあ、天使の降臨(マリ談)ですわ。
**********
土曜の夜から、僕の心はソワソワ、フワフワしていた。そのため、ローナには何度も大丈夫か? とか、何かあったのか? と聞かれた。
その理由は、気になっていたあの令嬢の名前を思わぬタイミングで知ることが出来たから。
偶然、歌劇場で見た彼女は、身なりの良い紳士と一緒に来ていた。黒髪の長身で、僕とは全然違うと思った。でも、この前の馬車の順番を譲って貰ったお礼を休憩時間にしようと探したけれど、見つけることが出来なかった。
諦めようと思ったところで、チェリアーナ姫がハート先生のパートナーの事を聞き始めた。
ああ、ハート先生はエーリック殿下や、セドリックと同じダリナスの出身だからか? でも、それが彼女の事だと判った時、固まりが溶けかかったセドリックから名前を聞いた。
シュゼット・メレリア・グリーンフィールド、と。
何故だか、名前を教えてくれたセドリックは、正装に相応しくなく前髪がくしゃくしゃになっていた。そして、在り得ない位に顔が真っ赤だった。
彼女の事を知っているのか? ダリナス王国の令嬢なのか? でも、グリーンフィールドは、我が国の公爵家の名前だ。
「彼女は、グリーンフィールド公爵家令嬢よ?」
ご存じ無いの? というようにカテリーナ様がアーモンド形の瞳を細めて笑った。
そして、さっき、彼女は僕の目の前に姿を現した。
王立学院の制服を着て、胸元には白いリボンが結わえてあった。同じ白のクラスだ。でも、でも・・・
(最悪だ。手を差し伸べてくれたのにお礼も言えなかったし、名前を呼びつけてしまった)
白のクラスの扉をそっと開けて、ローナと共に静かに席に着く。髪を撫でつけて、姿勢を正す。息を整えて、彼女の登場を待たなければ。会いたいような。会いたくないような。複雑な気持ちがザワザワと波打つように渦巻く。
(彼女が来たら、ちゃんとお礼を言おう。まずは、それからだ)
**********
数日前からロイの様子が変でした。地に足が着いていないような、ソワソワしているような。いつもと違う様子にどうしたのかと聞いてみても、
「ああ、ローナ。心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから」
と、全然違うのに、そう言って笑っていました。そうかと思えば、意味もなく歩き回ったり……でも、土曜日の歌劇場で、ある方の名前を伺ってからポーッとして、いつものしっかり者のロイからは想像できないくらい可笑しな様子でした。
シュゼット・メレリア・グリーンフィールド様。その方の名前を聞いてからです。
ロイは覚えていないかもしれません。でも、私はその名前を知っていました。なぜなら、5年前に聞いたことがありますから。
彼女は私と同じ、フェリックス殿下の婚約者候補のお一人です。
ついに、帰って来られたのですね。これで、5人の婚約者候補が全員揃ったということです。
さっき見た綺麗な金髪の後ろ姿に、私はギュウッと身が縮む思いがしました。そして彼女の顔を見ることも、自分の顔を上げることも出来ず、強引にロイを引っ張ってその場から離れました。
(もしかして、あの時のあの方は、こんな気持ちだったのかしら?)
金髪の少女の後ろ姿。走り去って行く、その姿を思い出したのでした。
**********
「エーリック。シュゼットがもう少しで来るんじゃなくて?」
カテリーナが嬉しそうに話しかける。土曜日に会って、シュゼット目盛りが一気に上昇したせいか、一応落ち着きを保てているようだ。良かった。目盛りがマイナスの状態で再会したら、大変なことになったかもしれない。そう思うと思わず苦笑いをしてしまった。
「何かしら? エーリック。何を想像しているのかしら? 大丈夫よ。さすがに教室で抱きしめたりはしないわ」
「そう? それならいいけど」
「それより、何だか面白いことが起きそうな気配がするわ。まあ、私はシュゼットの味方だから? 他はどうでもいいですけど」
さらりと怖いことを言う。
「じゃあ、私と一緒だね? 私もシュゼットの味方だから。まあ、他はどうでもいいとは言わないけどね」
チラッと後ろの席を見る。カリノ家の双子が遅れて来たようだ。後ろの席にはフェリックスがいた。隣の席のオーランドと一緒にロイに声を掛けている。
「さて、彼女は彼にどうするのかな」
「えっ? なあに?」
カテリーナが聞き返してきた。
「何でもないよ?」
教えない。カテリーナには教えられない。
教室の前扉が大きく開いて、セントル先生が巨体を揺らして入って来た。
「さあ、入って来なさい」
教壇に立つと、廊下の方に声を掛ける。失礼します。と、聞き慣れた声がした。
「編入生を紹介しましょう。シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。今日から皆さんと同じ白のクラスの生徒です」
教室にいた者の目が、シュゼットに釘付けになった。
白く小さな貌に、鮮やかなブルーの瞳、通った鼻筋に、熟れ始めの果物の様に艶やかな唇。金色の波打つ長い髪は艶やかで柔らかそうだ。唇には微かに微笑みを浮かべている。柔らかでキラキラしいその表情は、まさしく天使の様に美しい。
皆がシュゼットに眼を奪われていた。そうだろうな。こんな美少女は滅多にいないもの。
(でも、可愛くて綺麗なだけでは無い。シュゼットはそれだけでは無い)
私は、ここにいる誰よりも彼女を知っていると、少しだけ優越感を持っていた。そう。誰よりも。
シュゼットの特別になりたい。そう。誰よりも。
絶対に。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールドと申します。皆様、よろしくお願いしますわ」
そう言って教室を見廻すと、彼女は優雅にカーテシーをした。
判りにくくて申し訳ありませんが、お付き合いください。
°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
始業の鐘が鳴り響きます。
朝の例会に間に合うよう、クラス担任のセントル教授。そうです。あの面接試験官の一人であった学年主任の先生と一緒に白のクラスに向かいます。
お父様は、先生たちにご挨拶が済むと、縋るような目をして私を抱きしめてから、お仕事に向かいましたわ。
(まあ、お父様にはショックなことでしょうけど?)
廊下にはすでに人影はありません。生徒の皆さんは、さすが王立学院ということでしょうか? 教室に入っているようです。遅刻などする不届き者はいないのでしょうか?
「早く! 始まってしまうよ!!」
「ま、待って下さい。い、息が、く、苦しっ!」
廊下の曲がり角から、バタバタと足音と声が聞こえました。と、思った時です。
「わっ!!」 「きゃっ!!」
私の前を歩いていたセントル先生と、角から飛び出してきた人が衝突しました。
あら、お二人ですわ。セントル先生はかなり体格の良い方ですので、ぶつかった人たちの方が倒れてしまいましたわ。
(あら? この方って)
「大丈夫ですか? ロイ様? それからローナ様?」
そうですわ。小動物系と言われる、栗色巻き毛のカリノ侯爵家の双子さんですわ。
私はロイ様に、セントル先生はローナ様に手を差し出します。
「す、すみません。あ、ありがとっ!?」
ロイ様は、よろけながらも立ち上がり、私の顔を見上げると驚いたように固まってしまいました。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド?」
ちょっと? ここにもフルネーム呼びがいますわよ!!
「ロイ、ローナ。遅刻ですよ? 早く教室にお入りなさい」
セントル先生も、落ちた鞄を差し出しながら二人に注意しています。まあ、先生の方には衝突の影響は全く無さそうですけど、お二人の方は結構なダメージがあったでしょうね。
ローナ様が、固まっているロイ様の腕を引っ張ると、頭を下げて一目散に教室に向かって走っていきました。また、転ばなければいいですけど。
「ふう。あの二人はカリノ侯爵家の双子です。あの二人が遅刻するなんて珍しいですね。ところで、貴方は、あの双子をご存じだったのですか?」
先生は、少し乱れた上着を直しながら、私に尋ねました。そうですよね、ロイ様にフルネーム呼びされましたしね。
「ええ。ロイ様には、編入試験の日の帰りにお会いしましたの。ローナ様には今日が初めてですけど、お名前だけは伺っておりました」
そう言うと、ロイ様が生徒会役員であるから、判らないことがあれば聞くと良いと教えて下さいました。
それにしても、すでにロイ様が私の名前を知っているということは、土曜日の劇場で知ったのかしら。もしかしたら、セドリック様のおイタの時に近くにいらっしゃたのかもしれません。
(ということは、ヤツも当然知っているわね)
白のクラスは2階にあります。いよいよですね。
さあ、天使の降臨(マリ談)ですわ。
**********
土曜の夜から、僕の心はソワソワ、フワフワしていた。そのため、ローナには何度も大丈夫か? とか、何かあったのか? と聞かれた。
その理由は、気になっていたあの令嬢の名前を思わぬタイミングで知ることが出来たから。
偶然、歌劇場で見た彼女は、身なりの良い紳士と一緒に来ていた。黒髪の長身で、僕とは全然違うと思った。でも、この前の馬車の順番を譲って貰ったお礼を休憩時間にしようと探したけれど、見つけることが出来なかった。
諦めようと思ったところで、チェリアーナ姫がハート先生のパートナーの事を聞き始めた。
ああ、ハート先生はエーリック殿下や、セドリックと同じダリナスの出身だからか? でも、それが彼女の事だと判った時、固まりが溶けかかったセドリックから名前を聞いた。
シュゼット・メレリア・グリーンフィールド、と。
何故だか、名前を教えてくれたセドリックは、正装に相応しくなく前髪がくしゃくしゃになっていた。そして、在り得ない位に顔が真っ赤だった。
彼女の事を知っているのか? ダリナス王国の令嬢なのか? でも、グリーンフィールドは、我が国の公爵家の名前だ。
「彼女は、グリーンフィールド公爵家令嬢よ?」
ご存じ無いの? というようにカテリーナ様がアーモンド形の瞳を細めて笑った。
そして、さっき、彼女は僕の目の前に姿を現した。
王立学院の制服を着て、胸元には白いリボンが結わえてあった。同じ白のクラスだ。でも、でも・・・
(最悪だ。手を差し伸べてくれたのにお礼も言えなかったし、名前を呼びつけてしまった)
白のクラスの扉をそっと開けて、ローナと共に静かに席に着く。髪を撫でつけて、姿勢を正す。息を整えて、彼女の登場を待たなければ。会いたいような。会いたくないような。複雑な気持ちがザワザワと波打つように渦巻く。
(彼女が来たら、ちゃんとお礼を言おう。まずは、それからだ)
**********
数日前からロイの様子が変でした。地に足が着いていないような、ソワソワしているような。いつもと違う様子にどうしたのかと聞いてみても、
「ああ、ローナ。心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから」
と、全然違うのに、そう言って笑っていました。そうかと思えば、意味もなく歩き回ったり……でも、土曜日の歌劇場で、ある方の名前を伺ってからポーッとして、いつものしっかり者のロイからは想像できないくらい可笑しな様子でした。
シュゼット・メレリア・グリーンフィールド様。その方の名前を聞いてからです。
ロイは覚えていないかもしれません。でも、私はその名前を知っていました。なぜなら、5年前に聞いたことがありますから。
彼女は私と同じ、フェリックス殿下の婚約者候補のお一人です。
ついに、帰って来られたのですね。これで、5人の婚約者候補が全員揃ったということです。
さっき見た綺麗な金髪の後ろ姿に、私はギュウッと身が縮む思いがしました。そして彼女の顔を見ることも、自分の顔を上げることも出来ず、強引にロイを引っ張ってその場から離れました。
(もしかして、あの時のあの方は、こんな気持ちだったのかしら?)
金髪の少女の後ろ姿。走り去って行く、その姿を思い出したのでした。
**********
「エーリック。シュゼットがもう少しで来るんじゃなくて?」
カテリーナが嬉しそうに話しかける。土曜日に会って、シュゼット目盛りが一気に上昇したせいか、一応落ち着きを保てているようだ。良かった。目盛りがマイナスの状態で再会したら、大変なことになったかもしれない。そう思うと思わず苦笑いをしてしまった。
「何かしら? エーリック。何を想像しているのかしら? 大丈夫よ。さすがに教室で抱きしめたりはしないわ」
「そう? それならいいけど」
「それより、何だか面白いことが起きそうな気配がするわ。まあ、私はシュゼットの味方だから? 他はどうでもいいですけど」
さらりと怖いことを言う。
「じゃあ、私と一緒だね? 私もシュゼットの味方だから。まあ、他はどうでもいいとは言わないけどね」
チラッと後ろの席を見る。カリノ家の双子が遅れて来たようだ。後ろの席にはフェリックスがいた。隣の席のオーランドと一緒にロイに声を掛けている。
「さて、彼女は彼にどうするのかな」
「えっ? なあに?」
カテリーナが聞き返してきた。
「何でもないよ?」
教えない。カテリーナには教えられない。
教室の前扉が大きく開いて、セントル先生が巨体を揺らして入って来た。
「さあ、入って来なさい」
教壇に立つと、廊下の方に声を掛ける。失礼します。と、聞き慣れた声がした。
「編入生を紹介しましょう。シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。今日から皆さんと同じ白のクラスの生徒です」
教室にいた者の目が、シュゼットに釘付けになった。
白く小さな貌に、鮮やかなブルーの瞳、通った鼻筋に、熟れ始めの果物の様に艶やかな唇。金色の波打つ長い髪は艶やかで柔らかそうだ。唇には微かに微笑みを浮かべている。柔らかでキラキラしいその表情は、まさしく天使の様に美しい。
皆がシュゼットに眼を奪われていた。そうだろうな。こんな美少女は滅多にいないもの。
(でも、可愛くて綺麗なだけでは無い。シュゼットはそれだけでは無い)
私は、ここにいる誰よりも彼女を知っていると、少しだけ優越感を持っていた。そう。誰よりも。
シュゼットの特別になりたい。そう。誰よりも。
絶対に。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールドと申します。皆様、よろしくお願いしますわ」
そう言って教室を見廻すと、彼女は優雅にカーテシーをした。
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