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33. 見た目と中身が違うって?
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「5年振りということでしょうか? ローナ様、よく覚えていて下さいましたのね」
平静を保ってローナ様に微笑みかけます。立ち止まっていた私達は、再び静養室に向かって歩き始めました。この方、何を言いたいのでしょうか?
「はい。実は、シュゼット様は私のお隣にいらしたのですわ。覚えていらっしゃいますか?」
全く覚えていませんわ。当時の私には、周囲を観察するような余裕は無かったですもの。とにかく緊張していたことと、ヤツにされた仕打ち、周囲の笑い声しか覚えていません。
「ごめんなさい。私、あの時緊張していて……。ローナ様が私のお隣でしたのね?」
公爵家と侯爵家。上位貴族は近くにいましたわね。お隣がローナ様だったとは……朧おぼろげな記憶の扉を思いっきり開け放ってみました。けど、居並ぶ少女達は皆同じような可愛らしいドレスに、ハーフアップの髪型でした。駄目ですわ。ローナ様の事、思い出せませんわ。以前もこの見た目だったのでしょうか?
「良いのです。私もフェリックス様の白パンダが無ければ、記憶に残ったかどうか。シュゼット様のお顔は覚えていないのですが、泣きながら走って出て行く後ろ姿は良く覚えています」
「……」
気のせいでしょうか? いちいち何か引っかかります。ちょっとずつ隅っこをディスられているような?
「ローナ様には、フェリックス殿下が何をされたか良くお判りなのですね?」
あの時、ローナ様は一番近くで見ていたのね。どう思ったのでしょう。
「はい。見ていました」
彼女は、静養室という金色のプレートが掛かった扉の前で立ち止まりました。そして、私を見上げると懐かしそうな表情を浮かべましたが、その表情とは正反対の言葉を言い放ちました。
「シュゼット様。貴方のせいで、フェリックス様はあのお茶会の後、とても陛下に叱られたと聞きました!それに、ご令嬢達からも非難されて! フェリックス様は、貴方を貶めるためにあのように、振る舞った訳ではありませんでしたのに!」
もしかして、このことが言いたくて私と二人キリになったのでしょうか? そうだとしたら、結構な強者ということですわね?
「そうでしたの? それは存じませんしたわ。ローナ様は、殿下の事をよくご存じのようですわね? 静養室までご案内ありがとうございました。ここまでで結構ですわ」
ローナ様の眉がピクリと跳ねたように見えました。まあ、さっきからチクチクと言われたままなので。
私、売られましたよね? 買いますわよ? でも、仕掛けて下さった事に感謝の意味を込めて、天使の微笑みでお帰り頂きましょう。
で? 結局何がしたいワケ?
パタパタと走り去って行くローナ様の後ろ姿。あの丸いフォルムが5年前の私の姿にダブって見えます。あんな感じだったのかしら? でも、まさかローナ様がぶっこんで来るとは思いませんでした。結構地味目の大人し系という触れ込みのはずでしたのに。人の噂など宛てになりませんわね。
「失礼します」
静養室の扉をノックして返事を待ちました。返事がありませんわ。
「入りますわね」
重い扉を開けて、部屋の奥に声を掛けました。でも、人気が無いように見えます。
「どなたもいらっしゃいませんの?」
教室と同じくらいの部屋には、窓側に薬棚や手洗い場、机に本棚などがあります。手前側にはソファセットにローテーブル。多分、あのカーテンの奥にはベッドがあるのでしょう。医務の先生か、看護助手さんやらがいるはずですけど……
「仕方ありませんわ。少し休ませて頂きましょう」
私はソファに腰を下ろすと、先程のローナ様が言ったことを思い出していました。
『シュゼット様。貴方のせいで、フェリックス様はあのお茶会の後、とても陛下に叱られたと聞きました。それに、ご令嬢達からも非難されて! フェリックス様は、貴方を貶めるためにあのように、振る舞った訳ではありませんでしたのに!』
ふむ。陛下に叱られたのは知っています。あの後、お詫びの花束とカードが届けられましたモノ。お詫びの気持ちの入っていないあの、カード。今もリベンジノートの一番最初の頁に張り付けてありますから。
でも、ご令嬢達から非難されて? まあ、分別あるご令嬢だったら引くでしょうね? 王子のあの言葉にあの行動。ドン引かなかったのはローナ様と残っているイザベラ様とドロシア様ってことかしら?
でも、その言われた本人が候補に残っているなんて。当て馬にも程があるわ。
「さて、これからどうしましょう」
思わず独り言が出てしまいました。でも、まあ次の授業が始まるまで、ここで休んでいきましょう。そう思って、深くソファに座り直しました。
カタ……ン!
カーテンの向こうから物音がしました。ン? どなたかいらっしゃるのかしら?
そーっと足音を忍ばせて、カーテンの傍まで近寄りました。
(失礼しますわ。どなたか、いらっしゃいますの?)
小さな声で呼びかけます。返事はありませんわ。
カーテンに手を掛けて、ほんの少しだけ隙間を開けて中を覗き込みました。はしたないなんて、言わないでくださいませ。
「えっ? ハート先生?」
ベッドには、すやすやと寝息を立てているハート先生がいました。ベッドの傍にあるサイドテーブルには、銀のモノクルが転がっていました。さっきの音はこの音の様ですわ。
白い額が全開です。なかなかこの角度で男性のお顔を見下ろすことなんてありません。伏せられた睫毛が影を作るほど長いですわ。思わず見入ってしまいました。
「……見過ぎ」
眠っているはずの先生の口が開きました!! 不味いですわ!! 覗き見がバレてしまいました!!
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド?」
ああ。パチッと開いた黒い瞳とバッチリ目が合いました。数センチ開けただけのカーテンの隙間からバレました。
「ご、ごめんなさい。声をお掛けしたのですがお返事が無くて、でも、物音がしたものですから、ちょっとだけ覗いて!」
しどろもどろで説明をします。男性の寝姿の覗き見なんて! はしたな過ぎです!
「ああ。慌てなくていい。ソファの所で待っててくれ。支度を整えるから」
そ、そうですわね。私はソファのところにすっ飛んで腰かけました。イヤイヤ、落ち着かないと。深呼吸をして息を整えます。
でも、何でハート先生はこんなところで寝ていたのですか? お昼寝ですか!?
「驚かせて済まなかった」
身支度を整えたハート先生が、ソファの向かいに腰を掛けました。
「君は、どうしてここへ? 具合でも悪いのか?」
別に悪くはありませんけど、建前上はそういうことになってますわ。仕方ありませんから、ちょっと熱ぽっかったと伝えました。当然今は何ともないとも伝えましたわ。
「そうか?」
そう言うと、ハート先生はちょいちょいと私に向かって手招きをしました。はて? 何でしょう? 身を乗り出して先生に近づきました。
「つっ!?」
先生の手がピタリと私の額に載せられました。
「ふむ。熱は無さそうだが? 大丈夫なのか?」
一気に熱が上がりました。
「シュゼット? 大丈夫かしら!?」
静養室のドアが思いっきり開きました。この声は、間違えようもありませんわ。カテリーナ様です。
「あら? ハート先生?」
部屋に飛び込んできたカテリーナ様は、ソファにいる私達の姿に驚いたように立ち止まりました。そして、カテリーナ様の後ろからはエーリック殿下とセドリック様のお顔も見えました。もしや、心配して様子を見に来て下さったのかしら? ということは、授業は終わったということですわね。
「シュゼット、体調はどう? 今日はもう帰っていいと、先生から許可を貰って来たよ……何で、先生がいらっしゃるのですか?」
エーリック様が先生の傍までいらっしゃると、私の方を心配そうにご覧になってから、堅い声で問われました。エーリック殿下のこの表情は、結構怒っているというか、イラついている時の表情に思います。
「昼寝をしていたところに、偶然彼女がここに来た」
「偶然? また、偶然ですか?」
エーリック殿下が腕組みをして先生を見上げています。あら? この場面以前にも見たような?
「まあ、偶然としましょう。随分偶然が多いですけど。シュゼット? 早退の許可は取ったから帰ろう。送っていくよ? 公爵家の馬車はまだ迎えに来ていないでしょ。私達のダリナス国専用馬車がずっと待機しているから、それで送って行くよ?」
それはいくら何でも悪いのでは無いでしょうか?
「待て。お前達はまだ授業中だろう。私が送っていくことにしよう」
ハート先生からの申し入れですわ。でも!! 絶対だめです!! マシューにあれだけ言われたのに!!送って頂くなんてしたら、今度こそ本当に叱られます!
「あの。大丈夫ですから。お気遣いなく。家の馬車が迎えに来るまで待ってますから。本当に、大丈夫ですわ。お気持ちだけ頂いておきます」
全力でお断りします!
「それならば、セドリック? 貴方が送ってあげなさいな?」
それまで黙って私を抱きしめていたカテリーナ様が、良いことを思いついたというような、明るい声で言いました。
「貴方なら、グリーンフィールド公爵家にも行ったことがあるでしょう? 昔から知っているし、外交大使の息子だから、外務大臣の娘を送っても良いのではなくて?」
確かにマシューからは、ハート先生やエーリック殿下には気を付けなさいと言われましたが、セドリック様の事は言われていません。でも、それって良いのでしょうか? 逆にもっと何か言われそうですけど。
「じゃあ、セドリック。シュゼットを送ってあげてちょうだい? エーリックは私と一緒に教室に戻りましょう? 先生もお仕事に戻って下さいな」
テキパキと指示をすると、カテリーナ様は私の鞄をセドリック様に持たせました。
「じゃあね。シュゼット、また明日ね? セドリック?」
カテリーナ様がセドリック様を手招きしました。ぎこちない動きで近づいた彼に、カテリーナ様が何か耳打ちをされました。
「あ゛っ!?」
変な声を発したセドリック様の顔が、また真っ赤になりました。そうでした。今日1日変なセドリック様に送って貰って大丈夫でしょうか?
「セドリック様? お言葉に甘えて良いのでしょうか?」
「……」
「セドリッ---」
「大丈夫だ!! 何の問題も無い! 安心して送られるがいい!! シュゼット・メレリア・グリーンフィールド!」
ああ。何でしょう。いつも通りですわ。少し安心しました。
でも、何だか、とっても疲れました。
もう、今日は大人しく帰ります。
というか、帰らせて下さい!
平静を保ってローナ様に微笑みかけます。立ち止まっていた私達は、再び静養室に向かって歩き始めました。この方、何を言いたいのでしょうか?
「はい。実は、シュゼット様は私のお隣にいらしたのですわ。覚えていらっしゃいますか?」
全く覚えていませんわ。当時の私には、周囲を観察するような余裕は無かったですもの。とにかく緊張していたことと、ヤツにされた仕打ち、周囲の笑い声しか覚えていません。
「ごめんなさい。私、あの時緊張していて……。ローナ様が私のお隣でしたのね?」
公爵家と侯爵家。上位貴族は近くにいましたわね。お隣がローナ様だったとは……朧おぼろげな記憶の扉を思いっきり開け放ってみました。けど、居並ぶ少女達は皆同じような可愛らしいドレスに、ハーフアップの髪型でした。駄目ですわ。ローナ様の事、思い出せませんわ。以前もこの見た目だったのでしょうか?
「良いのです。私もフェリックス様の白パンダが無ければ、記憶に残ったかどうか。シュゼット様のお顔は覚えていないのですが、泣きながら走って出て行く後ろ姿は良く覚えています」
「……」
気のせいでしょうか? いちいち何か引っかかります。ちょっとずつ隅っこをディスられているような?
「ローナ様には、フェリックス殿下が何をされたか良くお判りなのですね?」
あの時、ローナ様は一番近くで見ていたのね。どう思ったのでしょう。
「はい。見ていました」
彼女は、静養室という金色のプレートが掛かった扉の前で立ち止まりました。そして、私を見上げると懐かしそうな表情を浮かべましたが、その表情とは正反対の言葉を言い放ちました。
「シュゼット様。貴方のせいで、フェリックス様はあのお茶会の後、とても陛下に叱られたと聞きました!それに、ご令嬢達からも非難されて! フェリックス様は、貴方を貶めるためにあのように、振る舞った訳ではありませんでしたのに!」
もしかして、このことが言いたくて私と二人キリになったのでしょうか? そうだとしたら、結構な強者ということですわね?
「そうでしたの? それは存じませんしたわ。ローナ様は、殿下の事をよくご存じのようですわね? 静養室までご案内ありがとうございました。ここまでで結構ですわ」
ローナ様の眉がピクリと跳ねたように見えました。まあ、さっきからチクチクと言われたままなので。
私、売られましたよね? 買いますわよ? でも、仕掛けて下さった事に感謝の意味を込めて、天使の微笑みでお帰り頂きましょう。
で? 結局何がしたいワケ?
パタパタと走り去って行くローナ様の後ろ姿。あの丸いフォルムが5年前の私の姿にダブって見えます。あんな感じだったのかしら? でも、まさかローナ様がぶっこんで来るとは思いませんでした。結構地味目の大人し系という触れ込みのはずでしたのに。人の噂など宛てになりませんわね。
「失礼します」
静養室の扉をノックして返事を待ちました。返事がありませんわ。
「入りますわね」
重い扉を開けて、部屋の奥に声を掛けました。でも、人気が無いように見えます。
「どなたもいらっしゃいませんの?」
教室と同じくらいの部屋には、窓側に薬棚や手洗い場、机に本棚などがあります。手前側にはソファセットにローテーブル。多分、あのカーテンの奥にはベッドがあるのでしょう。医務の先生か、看護助手さんやらがいるはずですけど……
「仕方ありませんわ。少し休ませて頂きましょう」
私はソファに腰を下ろすと、先程のローナ様が言ったことを思い出していました。
『シュゼット様。貴方のせいで、フェリックス様はあのお茶会の後、とても陛下に叱られたと聞きました。それに、ご令嬢達からも非難されて! フェリックス様は、貴方を貶めるためにあのように、振る舞った訳ではありませんでしたのに!』
ふむ。陛下に叱られたのは知っています。あの後、お詫びの花束とカードが届けられましたモノ。お詫びの気持ちの入っていないあの、カード。今もリベンジノートの一番最初の頁に張り付けてありますから。
でも、ご令嬢達から非難されて? まあ、分別あるご令嬢だったら引くでしょうね? 王子のあの言葉にあの行動。ドン引かなかったのはローナ様と残っているイザベラ様とドロシア様ってことかしら?
でも、その言われた本人が候補に残っているなんて。当て馬にも程があるわ。
「さて、これからどうしましょう」
思わず独り言が出てしまいました。でも、まあ次の授業が始まるまで、ここで休んでいきましょう。そう思って、深くソファに座り直しました。
カタ……ン!
カーテンの向こうから物音がしました。ン? どなたかいらっしゃるのかしら?
そーっと足音を忍ばせて、カーテンの傍まで近寄りました。
(失礼しますわ。どなたか、いらっしゃいますの?)
小さな声で呼びかけます。返事はありませんわ。
カーテンに手を掛けて、ほんの少しだけ隙間を開けて中を覗き込みました。はしたないなんて、言わないでくださいませ。
「えっ? ハート先生?」
ベッドには、すやすやと寝息を立てているハート先生がいました。ベッドの傍にあるサイドテーブルには、銀のモノクルが転がっていました。さっきの音はこの音の様ですわ。
白い額が全開です。なかなかこの角度で男性のお顔を見下ろすことなんてありません。伏せられた睫毛が影を作るほど長いですわ。思わず見入ってしまいました。
「……見過ぎ」
眠っているはずの先生の口が開きました!! 不味いですわ!! 覗き見がバレてしまいました!!
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド?」
ああ。パチッと開いた黒い瞳とバッチリ目が合いました。数センチ開けただけのカーテンの隙間からバレました。
「ご、ごめんなさい。声をお掛けしたのですがお返事が無くて、でも、物音がしたものですから、ちょっとだけ覗いて!」
しどろもどろで説明をします。男性の寝姿の覗き見なんて! はしたな過ぎです!
「ああ。慌てなくていい。ソファの所で待っててくれ。支度を整えるから」
そ、そうですわね。私はソファのところにすっ飛んで腰かけました。イヤイヤ、落ち着かないと。深呼吸をして息を整えます。
でも、何でハート先生はこんなところで寝ていたのですか? お昼寝ですか!?
「驚かせて済まなかった」
身支度を整えたハート先生が、ソファの向かいに腰を掛けました。
「君は、どうしてここへ? 具合でも悪いのか?」
別に悪くはありませんけど、建前上はそういうことになってますわ。仕方ありませんから、ちょっと熱ぽっかったと伝えました。当然今は何ともないとも伝えましたわ。
「そうか?」
そう言うと、ハート先生はちょいちょいと私に向かって手招きをしました。はて? 何でしょう? 身を乗り出して先生に近づきました。
「つっ!?」
先生の手がピタリと私の額に載せられました。
「ふむ。熱は無さそうだが? 大丈夫なのか?」
一気に熱が上がりました。
「シュゼット? 大丈夫かしら!?」
静養室のドアが思いっきり開きました。この声は、間違えようもありませんわ。カテリーナ様です。
「あら? ハート先生?」
部屋に飛び込んできたカテリーナ様は、ソファにいる私達の姿に驚いたように立ち止まりました。そして、カテリーナ様の後ろからはエーリック殿下とセドリック様のお顔も見えました。もしや、心配して様子を見に来て下さったのかしら? ということは、授業は終わったということですわね。
「シュゼット、体調はどう? 今日はもう帰っていいと、先生から許可を貰って来たよ……何で、先生がいらっしゃるのですか?」
エーリック様が先生の傍までいらっしゃると、私の方を心配そうにご覧になってから、堅い声で問われました。エーリック殿下のこの表情は、結構怒っているというか、イラついている時の表情に思います。
「昼寝をしていたところに、偶然彼女がここに来た」
「偶然? また、偶然ですか?」
エーリック殿下が腕組みをして先生を見上げています。あら? この場面以前にも見たような?
「まあ、偶然としましょう。随分偶然が多いですけど。シュゼット? 早退の許可は取ったから帰ろう。送っていくよ? 公爵家の馬車はまだ迎えに来ていないでしょ。私達のダリナス国専用馬車がずっと待機しているから、それで送って行くよ?」
それはいくら何でも悪いのでは無いでしょうか?
「待て。お前達はまだ授業中だろう。私が送っていくことにしよう」
ハート先生からの申し入れですわ。でも!! 絶対だめです!! マシューにあれだけ言われたのに!!送って頂くなんてしたら、今度こそ本当に叱られます!
「あの。大丈夫ですから。お気遣いなく。家の馬車が迎えに来るまで待ってますから。本当に、大丈夫ですわ。お気持ちだけ頂いておきます」
全力でお断りします!
「それならば、セドリック? 貴方が送ってあげなさいな?」
それまで黙って私を抱きしめていたカテリーナ様が、良いことを思いついたというような、明るい声で言いました。
「貴方なら、グリーンフィールド公爵家にも行ったことがあるでしょう? 昔から知っているし、外交大使の息子だから、外務大臣の娘を送っても良いのではなくて?」
確かにマシューからは、ハート先生やエーリック殿下には気を付けなさいと言われましたが、セドリック様の事は言われていません。でも、それって良いのでしょうか? 逆にもっと何か言われそうですけど。
「じゃあ、セドリック。シュゼットを送ってあげてちょうだい? エーリックは私と一緒に教室に戻りましょう? 先生もお仕事に戻って下さいな」
テキパキと指示をすると、カテリーナ様は私の鞄をセドリック様に持たせました。
「じゃあね。シュゼット、また明日ね? セドリック?」
カテリーナ様がセドリック様を手招きしました。ぎこちない動きで近づいた彼に、カテリーナ様が何か耳打ちをされました。
「あ゛っ!?」
変な声を発したセドリック様の顔が、また真っ赤になりました。そうでした。今日1日変なセドリック様に送って貰って大丈夫でしょうか?
「セドリック様? お言葉に甘えて良いのでしょうか?」
「……」
「セドリッ---」
「大丈夫だ!! 何の問題も無い! 安心して送られるがいい!! シュゼット・メレリア・グリーンフィールド!」
ああ。何でしょう。いつも通りですわ。少し安心しました。
でも、何だか、とっても疲れました。
もう、今日は大人しく帰ります。
というか、帰らせて下さい!
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