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49. 天使守護者のひととき
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昨日はシュゼットの魔法術鑑定式があった。
結果は、100年振りに発現した光の識別者。魔力があったどころの話では無い。
5人いる婚約者候補の、その中の1人の身分が変わった。公爵令嬢であったシュゼット・メレリア・グリーンフィールドが、国の保護対象になる程の希少な光の識別者となったのだ。
婚約者候補の選定バランスが一気に崩れた。
「さて、あの方はどうするつもりかしら? 大変ですわね」
朝日の眩しい光が差し込む化粧室で、白いリボンを襟元に結んで貰いながら、鏡の中の自分にニッコリと笑いかけた。
「カテリーナ様? 何かおっしゃいましたか?」
いいえ。何も。答える替わりに頭を振る。
さあ、学院に行きますわよ! きっと、今日も・楽しくなりそうですもの。
ダリナスの大使館から馬車はいつも通りの時間に、王太后の住まう離宮にカテリーナを迎えに来た。すでに、エーリックとセドリックが乗り込んでいる。
「おはよう。エーリック。それにセドリック?」
「おはようございます。カテリーナ様。いま疑問形で呼びませんでしたか?」
「気のせいよ?」
シュゼットの事では、面白いほどに表情の変わるセドリックが、今朝は普段通りだ。
昨日、自分が帰った後に何もなかったのか? そんなはずは無いだろう。彼女の識別を聞いた時、セドリックは固まっていたのだから。
その瞬間、表情も無くなってしまいタダのキレイな顔になっていた。黙っていれば、北方系の高貴な美貌に見えないことも無いのに……いや、やっぱり見えないか?
きっと、内面ではグルグルと思考が渦巻いていたはずだ。
そのセドリックの正面に座っている、従兄弟のエーリック。こちらもいつもと表情は変わらない。この従兄弟は、穏やかな表情をしているが、この表情こそが実はポーカーフェイスなのだ。昔からこの顔に騙される人は多い。近づいてイイように見せていても、かっちり線を引き、切るときはバッサリと切るのだから。まあ、一度懐に入ってしまえば、何を置いても助けてくれると思うけど。多分、シュゼットについてもそのはず。
「おはよう。カテリーナ。今日も元気そうで何よりだ」
エーリックが、爽やかに微笑んでいる。さりげなく手を出してエスコートして隣に座らせてくれる。確かにこの立ち振る舞いと、この顔に惹かれる女子達は多い。何と言っても眩しい。はっきり言って羨ましい限りだ。
「エーリック。昨日は遅かったの? シュゼットはどうしたのかしら?」
さあ、私・のシュゼットがどうなったか教えなさいな!
「そう。シュゼットは特別講義を受けるの。それは、貴方やフェリックス殿下が受けているのと同じなの?」
カテリーナには、シュゼットとフェリックスの5年前の事を話していない。敢えて彼女に知らせる必要は無いと思っている。だから、魔法科学省で特別講義を受ける事だけ伝えた。
「いや。暫くはレイシル様の個人講義のようだ。それが終わってからは一緒になるかもしれないけど」
事実だけを伝える。
「そう。そうすると、放課後シュゼットに会えない時もあるのね・」
カテリーナがチラリとセドリックを見たような気がした。そうか、セドリックも魔法術の講義は受講していないから、彼の気持ちを推し量っているのだろう。
「ねえ、セドリック? 私達魔法術が使えなくって残念だわ。シュゼットと一緒の時間もエーリックだけまた増えるし。何だかすっごくズルくない?」
少し膨れたような表情は、カテリーナを年相応の少女に見せる。こんな顔を見せるのは私達の前だけだと思う。話を振られたセドリックは、腕組みをしたまま頷く。
「そうです。殿下はズルいのです。魔法術に関しては、残念ながら私とカテリーナ様は部外者ですから、魔法術絡みで彼女に関わられたらお手上げですからね! はっ!? まさか、殿下はそれを口実にしようなどとは思っていませんよね!?」
この言い方。お前……私を何だと思っているのだ?
「あら? セドリック。その言い方は、幾ら何でもエーリックに失礼でないこと? エーリックはそんなあからさまな事はしないわよ? もっと腹黒くヤルわよ?」
カテリーナ、お前の言い方も酷い。庇かばう気ゼロだろ。
「お前達、いい加減にしろよ? まったく私を何だと思っているんだ? 魔法術に関しては私の意向が反映されている訳ではないからな。寧ろ、レイシル様やシルヴァ叔父上の方が関わり方は密になるだろう。そちらの方を心配しろ」
カテリーナとセドリックが顔を見合わせた。
「エーリック? レイシル様って、フェリクス殿下にそっくりと評判の神官長様ね? どう? 似ていらした? あの方、余り外に出て来られないのよね。まだお会いしていないのよ」
そうか。カテリーナとはまだ会っていなかったのか。確かにあの方は、王室行事に積極的に出てくるタイプではなさそうだし、神官長として携わる祭事もこの半年は無かったから。
「似ているかと言えば、よく似ているな。何も言われなければ兄弟のように見える。ただ、性格は随分違うように感じたけど。神官長とは思えない言葉遣いもするし、それに独自のお考えを持っているように見えたな」
「独自?」
セドリックがピクリとした。昨日帰る時には言っていなかったな。
「ああ。レイシル様は、婚約者候補という制度については反対なようだ。魔法科学省に入省させようとしたのを止めるため、フェリックス殿がシュゼットが候補者であるから無理だと、伝えた時にそうおっしゃった」
「婚約者候補制度に反対?」
当事者であるカテリーナの目もキラリと光った。
「あの方は陛下の異母弟であるから、側室制度にも考えるところがあるのだろうね」
もうこれ以上は言わない。あの方の真意が判らない以上、憶測になってしまうから。
「ところで殿下。そのレイシル様とシルヴァ王弟殿下を心配しろとは、どう言う意味ですか?」
「言葉の通りだ。お前、気が付かないのか?」
そうか。セドリックはあの応接室の中でのことを見ていないから。でも、シルヴァ叔父上の態度に何も気が付かないのか? 思い出してイラっとした。
あの、
頭ポン。
ふと思い立ち、カテリーナの頭をポンとしてみた。
「……ナニかしら? エーリック?」
思いっきり怪訝そうな声が帰って来た。もしかして、コレはカテリーナにはダメなやつか?
「いや、カテリーナは、こうされるとどう思う?」
思いっきり大きな瞳が開かれると、思い当たる何かに気付いて黒曜石の様な瞳がキラッキラに光った。
「する人と、されるシチュエーションに依りますわね。それによって評価は雲泥の差に分かれますわ。これって、一部女子憧れの頭ポン! というものでしょう? 最近女子の間で流行っている雑誌に載っていましたわ!」
シルヴァ叔父上はそんな事とは知らずにやったと思うが、する人間とシチュによるとなると、彼女の気持ちが測れるかもしれない。しかし、そうなるとあの時のシュゼットは決して嫌がっているようには見えなかった。寧ろ、少し頬を染めていなかったか?
「ふーん?」
判っていないセドリックを前に気付いたカテリーナが、にんまりとした微笑みを浮かべてこちらを見ている。
チッ!
普段は感情を露にしないシルヴァ叔父上が、暴走しがちなレイシル様を諫める様な言葉にも、彼女に対して労りを感じた。そして、気のせいかもしれないが、レイシル様を牽制するような気配を感じた……気がした。
そうだった。セドリックが気が付かないのも頷ける。
だって、コイツはつい先日シュゼットへの気持ちに気付いたばかりなのだ。自分の本当の気持ちにさえそうなのだから、大人の二人の態度や言葉で気付けというのは無理か? 絶対無理だな。
「セドリック。とにかく二人には気を付けよう。私達がシュゼットを守るのだ」
「? 良く判りませんが、彼女を守るためにはご協力しましょう!」
オマエ、何で上から目線なんだ?
カテリーナは私達の会話を面白そうに聞いていた。
馬車はもうすぐ学院に到着する。
「ああ殿下? 頭ポン! をむやみにヤラナイでくださいね?」
何だコイツ!?
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「カテリーナ様? 何かおっしゃいましたか?」
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「おはよう。エーリック。それにセドリック?」
「おはようございます。カテリーナ様。いま疑問形で呼びませんでしたか?」
「気のせいよ?」
シュゼットの事では、面白いほどに表情の変わるセドリックが、今朝は普段通りだ。
昨日、自分が帰った後に何もなかったのか? そんなはずは無いだろう。彼女の識別を聞いた時、セドリックは固まっていたのだから。
その瞬間、表情も無くなってしまいタダのキレイな顔になっていた。黙っていれば、北方系の高貴な美貌に見えないことも無いのに……いや、やっぱり見えないか?
きっと、内面ではグルグルと思考が渦巻いていたはずだ。
そのセドリックの正面に座っている、従兄弟のエーリック。こちらもいつもと表情は変わらない。この従兄弟は、穏やかな表情をしているが、この表情こそが実はポーカーフェイスなのだ。昔からこの顔に騙される人は多い。近づいてイイように見せていても、かっちり線を引き、切るときはバッサリと切るのだから。まあ、一度懐に入ってしまえば、何を置いても助けてくれると思うけど。多分、シュゼットについてもそのはず。
「おはよう。カテリーナ。今日も元気そうで何よりだ」
エーリックが、爽やかに微笑んでいる。さりげなく手を出してエスコートして隣に座らせてくれる。確かにこの立ち振る舞いと、この顔に惹かれる女子達は多い。何と言っても眩しい。はっきり言って羨ましい限りだ。
「エーリック。昨日は遅かったの? シュゼットはどうしたのかしら?」
さあ、私・のシュゼットがどうなったか教えなさいな!
「そう。シュゼットは特別講義を受けるの。それは、貴方やフェリックス殿下が受けているのと同じなの?」
カテリーナには、シュゼットとフェリックスの5年前の事を話していない。敢えて彼女に知らせる必要は無いと思っている。だから、魔法科学省で特別講義を受ける事だけ伝えた。
「いや。暫くはレイシル様の個人講義のようだ。それが終わってからは一緒になるかもしれないけど」
事実だけを伝える。
「そう。そうすると、放課後シュゼットに会えない時もあるのね・」
カテリーナがチラリとセドリックを見たような気がした。そうか、セドリックも魔法術の講義は受講していないから、彼の気持ちを推し量っているのだろう。
「ねえ、セドリック? 私達魔法術が使えなくって残念だわ。シュゼットと一緒の時間もエーリックだけまた増えるし。何だかすっごくズルくない?」
少し膨れたような表情は、カテリーナを年相応の少女に見せる。こんな顔を見せるのは私達の前だけだと思う。話を振られたセドリックは、腕組みをしたまま頷く。
「そうです。殿下はズルいのです。魔法術に関しては、残念ながら私とカテリーナ様は部外者ですから、魔法術絡みで彼女に関わられたらお手上げですからね! はっ!? まさか、殿下はそれを口実にしようなどとは思っていませんよね!?」
この言い方。お前……私を何だと思っているのだ?
「あら? セドリック。その言い方は、幾ら何でもエーリックに失礼でないこと? エーリックはそんなあからさまな事はしないわよ? もっと腹黒くヤルわよ?」
カテリーナ、お前の言い方も酷い。庇かばう気ゼロだろ。
「お前達、いい加減にしろよ? まったく私を何だと思っているんだ? 魔法術に関しては私の意向が反映されている訳ではないからな。寧ろ、レイシル様やシルヴァ叔父上の方が関わり方は密になるだろう。そちらの方を心配しろ」
カテリーナとセドリックが顔を見合わせた。
「エーリック? レイシル様って、フェリクス殿下にそっくりと評判の神官長様ね? どう? 似ていらした? あの方、余り外に出て来られないのよね。まだお会いしていないのよ」
そうか。カテリーナとはまだ会っていなかったのか。確かにあの方は、王室行事に積極的に出てくるタイプではなさそうだし、神官長として携わる祭事もこの半年は無かったから。
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セドリックがピクリとした。昨日帰る時には言っていなかったな。
「ああ。レイシル様は、婚約者候補という制度については反対なようだ。魔法科学省に入省させようとしたのを止めるため、フェリックス殿がシュゼットが候補者であるから無理だと、伝えた時にそうおっしゃった」
「婚約者候補制度に反対?」
当事者であるカテリーナの目もキラリと光った。
「あの方は陛下の異母弟であるから、側室制度にも考えるところがあるのだろうね」
もうこれ以上は言わない。あの方の真意が判らない以上、憶測になってしまうから。
「ところで殿下。そのレイシル様とシルヴァ王弟殿下を心配しろとは、どう言う意味ですか?」
「言葉の通りだ。お前、気が付かないのか?」
そうか。セドリックはあの応接室の中でのことを見ていないから。でも、シルヴァ叔父上の態度に何も気が付かないのか? 思い出してイラっとした。
あの、
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「……ナニかしら? エーリック?」
思いっきり怪訝そうな声が帰って来た。もしかして、コレはカテリーナにはダメなやつか?
「いや、カテリーナは、こうされるとどう思う?」
思いっきり大きな瞳が開かれると、思い当たる何かに気付いて黒曜石の様な瞳がキラッキラに光った。
「する人と、されるシチュエーションに依りますわね。それによって評価は雲泥の差に分かれますわ。これって、一部女子憧れの頭ポン! というものでしょう? 最近女子の間で流行っている雑誌に載っていましたわ!」
シルヴァ叔父上はそんな事とは知らずにやったと思うが、する人間とシチュによるとなると、彼女の気持ちが測れるかもしれない。しかし、そうなるとあの時のシュゼットは決して嫌がっているようには見えなかった。寧ろ、少し頬を染めていなかったか?
「ふーん?」
判っていないセドリックを前に気付いたカテリーナが、にんまりとした微笑みを浮かべてこちらを見ている。
チッ!
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そうだった。セドリックが気が付かないのも頷ける。
だって、コイツはつい先日シュゼットへの気持ちに気付いたばかりなのだ。自分の本当の気持ちにさえそうなのだから、大人の二人の態度や言葉で気付けというのは無理か? 絶対無理だな。
「セドリック。とにかく二人には気を付けよう。私達がシュゼットを守るのだ」
「? 良く判りませんが、彼女を守るためにはご協力しましょう!」
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