51 / 121
50. 動き出したら止まらない?
しおりを挟む
「「シュゼットお姉様!!」」
馬車から降りたところで、大きな声で呼ばれました。
さすがに、コレール王国の王室馬車は玄関近くに寄せられていますので、私が降り立った場所からは少し離れています。でも、その大きな呼びかけは周囲の皆様も振り返る位の大きさでした。
「おはようございます。パリス様、カルン様。お元気そうで何よりですわ」
少しだけ制服のスカートを摘んでご挨拶をします。
お二人は、子猫さながらに私の前まで駆け寄っていらっしゃると、そのグリーンがかった琥珀色の瞳をキラキラさせています。なんてお可愛らしい!! 本当に高貴な子猫のようですわ!!
「シュゼットお姉様、昨日はお会いできて嬉しかったです。今朝は、お約束をしたくてお待ちしていました」
パリス様が可愛らしく小首を傾げて言います。
「なんでしょうか?」
つられて私も小首を傾げます。
「あのですね。来週の木曜日の講義は、私達と受けられるでしょう? 中等部の教室で行われるのですけど、シュゼットお姉様は中等部はご存じないかと思って、お迎えに行こうって! カルンと相談したのです」
カルン様もうんうんと頷いています。確かに、中等部の教室は行ったことはありませんわね。
「「シュゼットお姉様、僕達、教室までお迎えに行っても良いですか?」」
声を揃えてそうおっしゃいます。
やーん!! 可愛いー!! なにこの攻め方!!
マリが鞄を渡すタイミングも忘れて、肩を震わせて堪えています。あらイヤだ、ツボが同じなのですね?
おっと。銀色子猫ちゃん達に気を取られていましたが、少し離れた場所でヤツとオーランド様がこちらを見ています。
早く玄関に入ればイイのに。
「ありがとうございます。でも、ご迷惑ではありませんか? パリス様、カルン様」
この二人に誘われて、断わる理由はありません。寧ろ、仲良くなって愛でたいですわ!!
(お嬢様! 抑えてくださいまし!)
マリが小声で耳打ちします。いや、アナタもそうでしょう?
「「僕達が案内したいの!! お願い、シュゼットお姉様!」」
「ええ。こちらこそ喜んで。カルン様、パリス様、木曜日にお待ちしていますわ。よろしくお願いしますね?」
双子王子に天使150%で微笑みかけます。これは自然発生した微笑みです。だって、仕方ありませんでしょう? 朝から、ヤラレマシタワ。
約束の印と言って、お二人から押し花付きのカードを頂きました。カードにはお迎えに行くという文字と、お名前が手書きでされています。
そして、私がそのカードを受け取ると、手を振ってヤツとオーランド様の所に走って行かれました。ヤツがお二人に目を向けている時に、オーランド様が小さくお辞儀をされました。
面倒を掛けて済まない。といった表情ですから、それに私は天使150%でそんなことありませんと答えます。こちらは、意識ありありの150%ですけど。
(シュゼットお嬢様? モテモテですね?)
小声で囁くマリに、振り返って鞄を受け取ります。なんともこういう風景を身内に見られるのは、恥ずかしいものですね? 私の顔は少し赤くなって、マリに抗議の目を向けていたと思います。
(あっ! フェッリクス王子が、こちらをご覧になっていますよ?)
私の背中越しに、マリからヤツの様子が見えたようです。
「そう? でも何ともないわ。昨日の作戦通りですもの。じゃあ、行って参りますわ」
頂いたカードを、手提げポーチに大事に仕舞って玄関に足を向けました。
ヤツ達の姿はさっきの場には見えません。教室に向かったのでしょう。
さあ、私も急ぎましょう!
「シュゼット!! おはよう!!」
ぐえっ! 毎朝の恒例行事。カテリーナ様からの力いっぱいのハグです。
「おはよう。シュゼット。カテリーナ、止めてあげて」
エーリック殿下もいつものようにそう言って、カテリーナ様を引きはがして下さいます。これ、もう何年もやっていますわね。
「おはようございます。エーリック殿下、カテリーナ様」
「おはよう! シュゼット・メレ、いや、疲れていないか?」
セドリック様。またフルネーム呼びしそうになりましたわね? そろそろ慣れても良いのではありませんか? でも、昨日の事を労わって下さるのですね。
「おはようございます。セドリック様。大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」
アッシュブロンドの前髪がキラキラとしています。やっぱり、前髪が長いですわ。思わずじっと見詰めてしまいました。
「っ!? い、いや大丈夫なら良いのだ。でも、何かあったらすぐ私に言えばいい! そうだ何でも言うがいいぞ!!」
若干の上から目線を感じますが、まあ、平常運転ですわね。何故かホッとします。
「おはようございます。シュゼット様」
おお。ロイ様とローナ様の登場ですわ。このお二人は結構時間ギリギリですわね。お家が遠いのかしら?それとも何か理由があるのかしら?
「おはようございます。ロイ様。それに、ローナ様」
ご挨拶をして下さったのは、勿論ロイ様です。ローナ様は口を開きませんけど、近くにいるエーリック殿下やカテリーナ様、セドリック様には会釈をされました。
見ようによっては、人見知りの内気そう……に見えないこともありませんけどね。
当然、私には目も合わせなければ、会釈もありませんわ。イイですけど。
「あの、この前言っていた校内行事等のお話ですけど、今日の放課後とか如何ですか?」
ロイ様からのお誘いですね。良いじゃないでしょうか? 今日は特に予定はありませんから。
「ロイ様のご都合が宜しければ、ぜひお願いしますわ」
私がお誘いした訳ではありませんからね? ローナ様、そんなに睨んでもしょうがないでしょう? 貴方のお兄様に言ってくださいな。
「いいだろう、ローナ?」
ロイ様が、相槌を求めるようにローナ様に声を掛けました。でも、彼女は……
「わ、私は放課後は……」
用事でもあるのでしょうか。歯切れが悪いですね。
「あっ、そうか。今日は楽しみにしていたピアノのレッスンの日だったね。それなら仕方ない、先に帰っておくれ。いいかい?」
ロイ様は、無理にローナ様をお誘いすることはありませんでした。
そんな話をしていると、始業の鐘が鳴りましたわ。
ロイ様、良い情報を頂きました。
ローナ様は、ピアノをお弾きになるのですね? それもレッスンを楽しみにされる位にお好きなのですね?
私、ピアノも得意なのですわ。
この時の私の顔は、ワルかったと思いますわ。マリが見ていたなら、きっとこう言ったでしょう。
『クロい! 笑顔が黒いです! 皆さーん!! ここに悪役令嬢がいますよー!!』と。
ランチの時間になりました。私達4人は、いつものように食堂ホールに向かいます。この学院の食堂はとっても美味しいので、ランチの時間が楽しみです。
ヤツとオーランド様、ロイ様と今日は珍しいですわね、ローナ様もご一緒にテーブルにいらっしゃいます。あら、今日はドロシア様とイザベラ様はどうされたのかしら?
ああ、お二人はヤツのテーブルから少し離れた丸テーブルで、それぞれ女子4人でいらっしゃいます。もしかしたら、お取り巻き? と言われるご令嬢達でしょうか? クラスメートではありますけど、まだお話をしたことが無い方々ばかりですわ。そう言えば、私がお話するのって、このテーブルのダリナスのお三人ばかりですね。もう少し、他の方々と交流したほうが良いですわね。
「さあ、今日のお薦めは何かしら? あら、オムライスだわ。私はこれにするわ」
カテリーナ様がニコニコです。トロトロオムライスですね。美味しそうです。季節のサラダとスープ。デザートはマスカットのゼリーですか。これに決めましょう。エーリック殿下とセドリック様は午前に行われた男女別の授業で、剣術の授業に出られていましたから、もっとがっつりした物が食べたいようです。
因みに、女子は刺繍の授業でした。今は、学院主催の慈善バザーで販売するという、ハンカチーフの刺繍をしています。貴族の令嬢が刺繍したハンカチーフは、バザーの目玉なのですって。バザー当日までに1人5枚のノルマを負っているのです。頑張らないといけません。
ええ。刺繍も得意ですのよ? ワ・タ・ク・シ。
ランチが来るまで、私達はワイワイとお喋りをしています。
「ところで、剣術の授業ってどうやっているのですか?」
素朴な疑問です。
「ああ。今日はトーナメント方式だった」
エーリック殿下が、グラスの水を飲み干して言いました。随分、喉が渇いていたようですね。
「で? 今日はどなたが勝ったの? 二人はどうだったのかしら?」
カテリーナ様が、詰め寄ります。そう言えば、エーリック殿下は剣術も得意で有名でした。コレールに来てもそれは変わらないでしょうね。セドリック様は、どちらかというと文系の方ですから、剣術は余り得意でないと聞いていますけど。
「予想通りだよ。オーランド殿が優勝」
二杯目の水を飲みかけて、エーリック殿下がチラリと視線を外して言います。悔しかったのですね。
「そう。エーリックはどうだったの? セドリックは?」
引き下がらないカテリーナ様に、エーリックが不機嫌そうに横を向いたままです。こんな表情は珍しいですわ。
「エーリック殿下は、3位だった。私は……9位くらい?」
「お前は、12位だ」
ぷっ。と笑ってしまいました。エーリック殿下は普段は冷静で思慮深い方なのに、今はこんなに表情豊かです。3位ということは、オーランド様、次は……
「2位はフェリックス殿下だった。でも、今日はいつもと違う感じがしたような?」
「あら? 何それ?」
セドリック様の言葉にカテリーナ様が食いつきました。
「それが、随分と本気だったというか? 気迫が違ったと言うか? それも、エーリック殿下との一戦にですけど」
ふうん? 何ですか? じゃあ、いつもは力を抜いているんですか?
「まあ、そうだろうね。彼からすれば、私の存在は気になるだろうからね?」
エーリック殿下が、じっと私を見詰めました。何時になく熱い視線に、居た堪れない気持ちになりました。
「ところで、シュゼット・メッ! 今日の放課後だが、私も付き合うからな! まさか、駄目だとは言わないだろうな?」
ああ。セドリック様の空気の読めなさ感が---、今はありがたいですわ。
馬車から降りたところで、大きな声で呼ばれました。
さすがに、コレール王国の王室馬車は玄関近くに寄せられていますので、私が降り立った場所からは少し離れています。でも、その大きな呼びかけは周囲の皆様も振り返る位の大きさでした。
「おはようございます。パリス様、カルン様。お元気そうで何よりですわ」
少しだけ制服のスカートを摘んでご挨拶をします。
お二人は、子猫さながらに私の前まで駆け寄っていらっしゃると、そのグリーンがかった琥珀色の瞳をキラキラさせています。なんてお可愛らしい!! 本当に高貴な子猫のようですわ!!
「シュゼットお姉様、昨日はお会いできて嬉しかったです。今朝は、お約束をしたくてお待ちしていました」
パリス様が可愛らしく小首を傾げて言います。
「なんでしょうか?」
つられて私も小首を傾げます。
「あのですね。来週の木曜日の講義は、私達と受けられるでしょう? 中等部の教室で行われるのですけど、シュゼットお姉様は中等部はご存じないかと思って、お迎えに行こうって! カルンと相談したのです」
カルン様もうんうんと頷いています。確かに、中等部の教室は行ったことはありませんわね。
「「シュゼットお姉様、僕達、教室までお迎えに行っても良いですか?」」
声を揃えてそうおっしゃいます。
やーん!! 可愛いー!! なにこの攻め方!!
マリが鞄を渡すタイミングも忘れて、肩を震わせて堪えています。あらイヤだ、ツボが同じなのですね?
おっと。銀色子猫ちゃん達に気を取られていましたが、少し離れた場所でヤツとオーランド様がこちらを見ています。
早く玄関に入ればイイのに。
「ありがとうございます。でも、ご迷惑ではありませんか? パリス様、カルン様」
この二人に誘われて、断わる理由はありません。寧ろ、仲良くなって愛でたいですわ!!
(お嬢様! 抑えてくださいまし!)
マリが小声で耳打ちします。いや、アナタもそうでしょう?
「「僕達が案内したいの!! お願い、シュゼットお姉様!」」
「ええ。こちらこそ喜んで。カルン様、パリス様、木曜日にお待ちしていますわ。よろしくお願いしますね?」
双子王子に天使150%で微笑みかけます。これは自然発生した微笑みです。だって、仕方ありませんでしょう? 朝から、ヤラレマシタワ。
約束の印と言って、お二人から押し花付きのカードを頂きました。カードにはお迎えに行くという文字と、お名前が手書きでされています。
そして、私がそのカードを受け取ると、手を振ってヤツとオーランド様の所に走って行かれました。ヤツがお二人に目を向けている時に、オーランド様が小さくお辞儀をされました。
面倒を掛けて済まない。といった表情ですから、それに私は天使150%でそんなことありませんと答えます。こちらは、意識ありありの150%ですけど。
(シュゼットお嬢様? モテモテですね?)
小声で囁くマリに、振り返って鞄を受け取ります。なんともこういう風景を身内に見られるのは、恥ずかしいものですね? 私の顔は少し赤くなって、マリに抗議の目を向けていたと思います。
(あっ! フェッリクス王子が、こちらをご覧になっていますよ?)
私の背中越しに、マリからヤツの様子が見えたようです。
「そう? でも何ともないわ。昨日の作戦通りですもの。じゃあ、行って参りますわ」
頂いたカードを、手提げポーチに大事に仕舞って玄関に足を向けました。
ヤツ達の姿はさっきの場には見えません。教室に向かったのでしょう。
さあ、私も急ぎましょう!
「シュゼット!! おはよう!!」
ぐえっ! 毎朝の恒例行事。カテリーナ様からの力いっぱいのハグです。
「おはよう。シュゼット。カテリーナ、止めてあげて」
エーリック殿下もいつものようにそう言って、カテリーナ様を引きはがして下さいます。これ、もう何年もやっていますわね。
「おはようございます。エーリック殿下、カテリーナ様」
「おはよう! シュゼット・メレ、いや、疲れていないか?」
セドリック様。またフルネーム呼びしそうになりましたわね? そろそろ慣れても良いのではありませんか? でも、昨日の事を労わって下さるのですね。
「おはようございます。セドリック様。大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」
アッシュブロンドの前髪がキラキラとしています。やっぱり、前髪が長いですわ。思わずじっと見詰めてしまいました。
「っ!? い、いや大丈夫なら良いのだ。でも、何かあったらすぐ私に言えばいい! そうだ何でも言うがいいぞ!!」
若干の上から目線を感じますが、まあ、平常運転ですわね。何故かホッとします。
「おはようございます。シュゼット様」
おお。ロイ様とローナ様の登場ですわ。このお二人は結構時間ギリギリですわね。お家が遠いのかしら?それとも何か理由があるのかしら?
「おはようございます。ロイ様。それに、ローナ様」
ご挨拶をして下さったのは、勿論ロイ様です。ローナ様は口を開きませんけど、近くにいるエーリック殿下やカテリーナ様、セドリック様には会釈をされました。
見ようによっては、人見知りの内気そう……に見えないこともありませんけどね。
当然、私には目も合わせなければ、会釈もありませんわ。イイですけど。
「あの、この前言っていた校内行事等のお話ですけど、今日の放課後とか如何ですか?」
ロイ様からのお誘いですね。良いじゃないでしょうか? 今日は特に予定はありませんから。
「ロイ様のご都合が宜しければ、ぜひお願いしますわ」
私がお誘いした訳ではありませんからね? ローナ様、そんなに睨んでもしょうがないでしょう? 貴方のお兄様に言ってくださいな。
「いいだろう、ローナ?」
ロイ様が、相槌を求めるようにローナ様に声を掛けました。でも、彼女は……
「わ、私は放課後は……」
用事でもあるのでしょうか。歯切れが悪いですね。
「あっ、そうか。今日は楽しみにしていたピアノのレッスンの日だったね。それなら仕方ない、先に帰っておくれ。いいかい?」
ロイ様は、無理にローナ様をお誘いすることはありませんでした。
そんな話をしていると、始業の鐘が鳴りましたわ。
ロイ様、良い情報を頂きました。
ローナ様は、ピアノをお弾きになるのですね? それもレッスンを楽しみにされる位にお好きなのですね?
私、ピアノも得意なのですわ。
この時の私の顔は、ワルかったと思いますわ。マリが見ていたなら、きっとこう言ったでしょう。
『クロい! 笑顔が黒いです! 皆さーん!! ここに悪役令嬢がいますよー!!』と。
ランチの時間になりました。私達4人は、いつものように食堂ホールに向かいます。この学院の食堂はとっても美味しいので、ランチの時間が楽しみです。
ヤツとオーランド様、ロイ様と今日は珍しいですわね、ローナ様もご一緒にテーブルにいらっしゃいます。あら、今日はドロシア様とイザベラ様はどうされたのかしら?
ああ、お二人はヤツのテーブルから少し離れた丸テーブルで、それぞれ女子4人でいらっしゃいます。もしかしたら、お取り巻き? と言われるご令嬢達でしょうか? クラスメートではありますけど、まだお話をしたことが無い方々ばかりですわ。そう言えば、私がお話するのって、このテーブルのダリナスのお三人ばかりですね。もう少し、他の方々と交流したほうが良いですわね。
「さあ、今日のお薦めは何かしら? あら、オムライスだわ。私はこれにするわ」
カテリーナ様がニコニコです。トロトロオムライスですね。美味しそうです。季節のサラダとスープ。デザートはマスカットのゼリーですか。これに決めましょう。エーリック殿下とセドリック様は午前に行われた男女別の授業で、剣術の授業に出られていましたから、もっとがっつりした物が食べたいようです。
因みに、女子は刺繍の授業でした。今は、学院主催の慈善バザーで販売するという、ハンカチーフの刺繍をしています。貴族の令嬢が刺繍したハンカチーフは、バザーの目玉なのですって。バザー当日までに1人5枚のノルマを負っているのです。頑張らないといけません。
ええ。刺繍も得意ですのよ? ワ・タ・ク・シ。
ランチが来るまで、私達はワイワイとお喋りをしています。
「ところで、剣術の授業ってどうやっているのですか?」
素朴な疑問です。
「ああ。今日はトーナメント方式だった」
エーリック殿下が、グラスの水を飲み干して言いました。随分、喉が渇いていたようですね。
「で? 今日はどなたが勝ったの? 二人はどうだったのかしら?」
カテリーナ様が、詰め寄ります。そう言えば、エーリック殿下は剣術も得意で有名でした。コレールに来てもそれは変わらないでしょうね。セドリック様は、どちらかというと文系の方ですから、剣術は余り得意でないと聞いていますけど。
「予想通りだよ。オーランド殿が優勝」
二杯目の水を飲みかけて、エーリック殿下がチラリと視線を外して言います。悔しかったのですね。
「そう。エーリックはどうだったの? セドリックは?」
引き下がらないカテリーナ様に、エーリックが不機嫌そうに横を向いたままです。こんな表情は珍しいですわ。
「エーリック殿下は、3位だった。私は……9位くらい?」
「お前は、12位だ」
ぷっ。と笑ってしまいました。エーリック殿下は普段は冷静で思慮深い方なのに、今はこんなに表情豊かです。3位ということは、オーランド様、次は……
「2位はフェリックス殿下だった。でも、今日はいつもと違う感じがしたような?」
「あら? 何それ?」
セドリック様の言葉にカテリーナ様が食いつきました。
「それが、随分と本気だったというか? 気迫が違ったと言うか? それも、エーリック殿下との一戦にですけど」
ふうん? 何ですか? じゃあ、いつもは力を抜いているんですか?
「まあ、そうだろうね。彼からすれば、私の存在は気になるだろうからね?」
エーリック殿下が、じっと私を見詰めました。何時になく熱い視線に、居た堪れない気持ちになりました。
「ところで、シュゼット・メッ! 今日の放課後だが、私も付き合うからな! まさか、駄目だとは言わないだろうな?」
ああ。セドリック様の空気の読めなさ感が---、今はありがたいですわ。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる