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51. 牽制と決心
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「と言う訳で、このセドリック・シン・マラカイトが同席させて頂こう」
やっぱり、上から目線ですのね?
放課後になって、ロイ様と連れ立って食堂ホールに向かいました。普段はダリナス王族専用テーブルにご一緒させて頂いているので、コレール側のテラス席でお茶は初めてですわ。
「ごめんなさい、ロイ様。セドリック様がどーしても、ご一緒したいとおっしゃって」
ロイ様といきなり二人っきり。というのは躊躇してしまいますけど、セドリック様がご自分から同席したいと言って下さって助かりました。
因みに、エーリック殿下はハート先生からの呼び出しがあって、カテリーナ様は王太后様の門限がありますから、すでにお帰りになっています。
「いいえ。僕もお誘いしておきながら、ローナもいないし、どうしようかと思っていました。セドリック殿ともお話したかったので良かったです」
茶色い瞳を細めてロイ様がそう言って下さいました。フンワリ笑顔がやっぱり仔犬のようですわ。
何でしょう? このローナ様との表情の違い? これがこの方の素なのでしょうか?
「そうだ。お二人は学院のバザーは初めてでしょう?」
学院バザー。今、頑張っている刺繍のハンカチーフを売るのでしょう?
「そうなのです。私もエーリック殿下もそのバザーが終わって、すぐに編入してきたのです。ですから、今回のバザーが、初めての参加です。ロイ殿、どのようなバザーなのですか?」
まあ。嘘のように落ち着いたセドリック様ですわ。何でしょう? ヤレバできる子なのですね?
「はい、もうすぐですね。この王立学院は王家が設立し、生徒を貴族に特化した学院です。その為、貴族の務めとして、ノーブレス・オブリージュ。つまり、≪ 身分の高い者はそれに応じて、果たさなければならない社会的責任と義務を負う ≫という学院の理念があるのです。簡単に言えば、バザーはその理念の実践の場という事でしょうか」
貴族たるもの、身分に相応しい振る舞いをしろ。ということですわ。
「そうですか。それで、具体的にはどんなことを行うのですか?」
お二人は気が付いていないかもしれませんけど、この三人の組み合わせは大変注目を浴びています。だって、皆さんが遠巻きにこちらを見ていますもの。
まあ、生徒会役員のカリノ家のロイ様と、ダリナスの外交大使で公爵家出身のセドリック様ですものね?それは目立ちます。特に、セドリック様はいつになく落ち着いていて……
恰好良い……かも?
アッシュブロンドの髪と、薄いブルーの瞳は理知的に見えないこともありませんし。
確かにしゃべらなければ、かなりの美形さんでした。
忘れていましたけど。それはそうですわね? いつもお傍にいらっしゃるのが、エーリック殿下にカテリーナ様、それにシルヴァ様ですものね? こうして普段と違う環境にいると良く判りますわ。
「シュゼット? 聞いていたのか? ……どうしたのだ、気分でも悪いのか? もし、そうなら!!」
ロイ様のお話を聞きながら、セドリック様をポヤっと見ていたのに気付かれてしまいました。
「あ、あのっ。大丈夫です。ごめんなさい。少し考えてしまって」
マズいですわ!! セドリック様に見惚れていたなんて! 急に頬が熱く感じました。
「そうなら良いが。何かあったら、私に言えと言ったろう!? 遠慮はしなくていいのだから」
あら。随分優しい眼差しです。
そして、左手がスイっと私の方に伸ばされました。
「どうした? ほっぺが赤いが……」
少し冷たいセドリック様の指先が、私の頬を滑りました。
((ええっ!? ))
「赤いけど、熱じゃない。か? 本当に大丈夫か?」
ロイ様と私の声にならない驚きを、まるで独り言を言うような呟きで遮りました。
うそ!! セドリック様が私の頬を撫でました! 今までそんな風に触れられたことはありませんわ!
どうしたのですか!?
ナニがあったのですか!?
貴方は、私の知っているセドリック様ですか!?
「だ、大丈夫です。そ、そうですわ、私ハンカチーフを刺繍していますのよ? 何でも大変な人気製品だと伺いました」
心臓が物凄くドキドキしています。心臓の音がお二人に聞こえてしまいそうです(汗)。
ロイ様も、さっきのセドリック様の行為に驚かれているようですが、さすがにそこは突っ込みません。突っ込めませんわよね?
「あ、あっ! そうです。貴族の令嬢が、心を込めて差した刺繍は大変人気があるのです。それを目当てに寄付をしてくれる方が多いのです。特に、お目当ての令嬢の差した刺繍を、婚約者や求婚者が求められるのですよ」
「まあ。そうなのですね?」
「そうなんです。ですから、気持ちの通じ合った二人ならば、事前に刺繍柄を見ていたり、アピールしたい場合は、紋章の一部をデザインしたり髪や瞳の色の刺繍糸を使ったり、名前に由来のあるモノをデザインしたりと、趣向を凝らすようですよ」
そうだったのですね。それで女生徒の気合の入り方が違ったということですか。今日の授業は、いつになく皆様が真剣でしたもの。
「シュゼット様は、どんな柄を刺繍されているのですか? ああ、すみません。聞いてはいけませんでしたか?」
ロイ様が、遠慮がちに問われました。
ふむ。何も考えずに女性用と思って刺していました。
「そんな意味があるとは知らず、女性用のハンカチーフとして刺繍していましたので、色んな種類のお花柄を刺していました」
「そうですか。それは残念がる方が多いでしょうね。でも、学院にいる間は毎年1回は、開催されますからまだ何回もあります」
ロイ様がそう言うと、チラッとセドリック様が目線を上げたような気がしました。ロイ様に視線を向けた感じがしましたけど、それは一瞬の事だったと思います。
それから、バザーでは音楽会や、馬術や剣術の競技、お菓子の出店などが催されるそうです。随分と大掛かりなバザーですわね。ご招待されるのは生徒の家族(つまり貴族ですわね)、王族、国会の議員、教会や大きな商会の関係者などだそうです。かなりのお客様で、学院は大賑わいになるらしいですわ。
「ロイ殿は、生徒会役員ですから、ご準備とかで大変でしょう?」
セドリック様が、改めてロイ様をじっと見ながら口を開きました。
「ええ。そうなのです。バザーは卒業、入学パーティーに次ぐ、学院の3大行事の一つなので大変です。何と言っても、ご招待する方が多いので気を使います。生徒会役員だけでは回らないので、いつも応援を頼んでいるそうです」
「そうなのですね? 応援の方というのは、もう決まっているのですか?」
念のため聞いておきます。
「一応、各クラスの委員長と、その他にローナとオーランド殿が手伝ってくれることになっています」
ふーっ。と溜息を吐いたロイ様は、あともう少しです。と小さくおっしゃいました。
ふむ。どうしましょう。
「ロイ様? 宜しければ、私もお手伝いさせて下さいますか? お邪魔でなければですけど」
カリノの双子、そしてオーランド様に近づけるいい機会です。元々、すでに準備は進んでいますから、途中から入る意味は余りないかもしれませんけど。
「おい、シュゼット!? 君は魔法術の講義も始まるだろう? そんな時間が取れるのか!?」
セドリック様が、慌てて口を挟みました。
余りの実感の無さに忘れていました。ありましたわね、そんなコトが。その講義は、どれだけ負担になるのでしょうか?
判りませんわ。
「……そうでしたわ」
「えっ!? シュゼット様は魔法術の識別者になったのですか? ああ、昨日鑑定式があったと聞きましたけど! それは、おめでとうございます」
ロイ様のこの感じ、この方は魔法術の識別者では無さそうです。
「でも、お忙しい時は遠慮なく声をお掛け下さいな? 少しでもお手伝いできればと思いますから」
講義は毎日では無いはずですから。バザー迄なら何とでもなりそうです。だって、暫くはレイシル様の個別講義のはずですもの。
「大丈夫ですわ。私にもお手伝いさせて下さいな」
天使130%で、ロイ様に微笑みかけます。
ローナ様は嫌がるでしょうけどね。
「判った!! そこまで言うなら私も一緒に手伝おう! ロイ殿、宜しく頼む」
ちょっと! セドリック様、本気ですの? なぜ、ここでやる気になるのですか?
そして、少し上から目線ですわよ。
その後も、学院の行事の事を伺って、少し風が冷たくなってきたのを合図にお開きとしました。
ロイ様は、生徒会室に寄ってからお帰りになるとのことで、食堂ホールの入口の所でお別れしました。小走りで廊下を進む後ろ姿をセドリック様と並んで見送っていました。
「!?」
鞄を持っていない手を繋がれました。
「セドリック様?」
いきなり手を繋ぐなんて、今までありませんでしたわよ?
「馬車まで送る。やっぱり、手が冷たくなってる」
どうしましたの? 驚いている私の顔を見ないで、真っ直ぐ前を向いて廊下を歩いて行きます。
あっ。耳が赤い。
見上げるセドリック様の横顔は、長い前髪に隠れ気味ですけど、チラリと見える耳が真っ赤です。
「大分寒くなってきたから……、手を繋いだ方が温かいからな!」
照れ隠しに、いつもの口調に戻したのでしょうか?
セドリック様。
さっきは、私の事を心配して下さったのでしょう?
魔法術やヤツの、ややこしい事が控えている私を。忙しいのは貴方もそうでしょうに。なのに、一緒にバザーのお手伝いを買って出てくれたのでしょう?
「そうですね。セドリック様は温かいですわね。ありがとうございます」
私の方を見ないセドリック様に向かってお礼を言います。
「……」
「はい? 何ですの? 聞こえませんでしたので、もう一度言って下さいな」
馬車の手前で、小さく呟いたセドリック様に聞き返しました。
「私のセカンドネームのシンは、月の意味がある」
「はぁ」
それが、何か?
ああ、マリが気付いたようです。馬車のドアが小さく開きました。
「だから、月の模様が良い」
歩みを止めたセドリック様は、手を繋いだまま……私の目を見てそう言いました。
やっぱり、上から目線ですのね?
放課後になって、ロイ様と連れ立って食堂ホールに向かいました。普段はダリナス王族専用テーブルにご一緒させて頂いているので、コレール側のテラス席でお茶は初めてですわ。
「ごめんなさい、ロイ様。セドリック様がどーしても、ご一緒したいとおっしゃって」
ロイ様といきなり二人っきり。というのは躊躇してしまいますけど、セドリック様がご自分から同席したいと言って下さって助かりました。
因みに、エーリック殿下はハート先生からの呼び出しがあって、カテリーナ様は王太后様の門限がありますから、すでにお帰りになっています。
「いいえ。僕もお誘いしておきながら、ローナもいないし、どうしようかと思っていました。セドリック殿ともお話したかったので良かったです」
茶色い瞳を細めてロイ様がそう言って下さいました。フンワリ笑顔がやっぱり仔犬のようですわ。
何でしょう? このローナ様との表情の違い? これがこの方の素なのでしょうか?
「そうだ。お二人は学院のバザーは初めてでしょう?」
学院バザー。今、頑張っている刺繍のハンカチーフを売るのでしょう?
「そうなのです。私もエーリック殿下もそのバザーが終わって、すぐに編入してきたのです。ですから、今回のバザーが、初めての参加です。ロイ殿、どのようなバザーなのですか?」
まあ。嘘のように落ち着いたセドリック様ですわ。何でしょう? ヤレバできる子なのですね?
「はい、もうすぐですね。この王立学院は王家が設立し、生徒を貴族に特化した学院です。その為、貴族の務めとして、ノーブレス・オブリージュ。つまり、≪ 身分の高い者はそれに応じて、果たさなければならない社会的責任と義務を負う ≫という学院の理念があるのです。簡単に言えば、バザーはその理念の実践の場という事でしょうか」
貴族たるもの、身分に相応しい振る舞いをしろ。ということですわ。
「そうですか。それで、具体的にはどんなことを行うのですか?」
お二人は気が付いていないかもしれませんけど、この三人の組み合わせは大変注目を浴びています。だって、皆さんが遠巻きにこちらを見ていますもの。
まあ、生徒会役員のカリノ家のロイ様と、ダリナスの外交大使で公爵家出身のセドリック様ですものね?それは目立ちます。特に、セドリック様はいつになく落ち着いていて……
恰好良い……かも?
アッシュブロンドの髪と、薄いブルーの瞳は理知的に見えないこともありませんし。
確かにしゃべらなければ、かなりの美形さんでした。
忘れていましたけど。それはそうですわね? いつもお傍にいらっしゃるのが、エーリック殿下にカテリーナ様、それにシルヴァ様ですものね? こうして普段と違う環境にいると良く判りますわ。
「シュゼット? 聞いていたのか? ……どうしたのだ、気分でも悪いのか? もし、そうなら!!」
ロイ様のお話を聞きながら、セドリック様をポヤっと見ていたのに気付かれてしまいました。
「あ、あのっ。大丈夫です。ごめんなさい。少し考えてしまって」
マズいですわ!! セドリック様に見惚れていたなんて! 急に頬が熱く感じました。
「そうなら良いが。何かあったら、私に言えと言ったろう!? 遠慮はしなくていいのだから」
あら。随分優しい眼差しです。
そして、左手がスイっと私の方に伸ばされました。
「どうした? ほっぺが赤いが……」
少し冷たいセドリック様の指先が、私の頬を滑りました。
((ええっ!? ))
「赤いけど、熱じゃない。か? 本当に大丈夫か?」
ロイ様と私の声にならない驚きを、まるで独り言を言うような呟きで遮りました。
うそ!! セドリック様が私の頬を撫でました! 今までそんな風に触れられたことはありませんわ!
どうしたのですか!?
ナニがあったのですか!?
貴方は、私の知っているセドリック様ですか!?
「だ、大丈夫です。そ、そうですわ、私ハンカチーフを刺繍していますのよ? 何でも大変な人気製品だと伺いました」
心臓が物凄くドキドキしています。心臓の音がお二人に聞こえてしまいそうです(汗)。
ロイ様も、さっきのセドリック様の行為に驚かれているようですが、さすがにそこは突っ込みません。突っ込めませんわよね?
「あ、あっ! そうです。貴族の令嬢が、心を込めて差した刺繍は大変人気があるのです。それを目当てに寄付をしてくれる方が多いのです。特に、お目当ての令嬢の差した刺繍を、婚約者や求婚者が求められるのですよ」
「まあ。そうなのですね?」
「そうなんです。ですから、気持ちの通じ合った二人ならば、事前に刺繍柄を見ていたり、アピールしたい場合は、紋章の一部をデザインしたり髪や瞳の色の刺繍糸を使ったり、名前に由来のあるモノをデザインしたりと、趣向を凝らすようですよ」
そうだったのですね。それで女生徒の気合の入り方が違ったということですか。今日の授業は、いつになく皆様が真剣でしたもの。
「シュゼット様は、どんな柄を刺繍されているのですか? ああ、すみません。聞いてはいけませんでしたか?」
ロイ様が、遠慮がちに問われました。
ふむ。何も考えずに女性用と思って刺していました。
「そんな意味があるとは知らず、女性用のハンカチーフとして刺繍していましたので、色んな種類のお花柄を刺していました」
「そうですか。それは残念がる方が多いでしょうね。でも、学院にいる間は毎年1回は、開催されますからまだ何回もあります」
ロイ様がそう言うと、チラッとセドリック様が目線を上げたような気がしました。ロイ様に視線を向けた感じがしましたけど、それは一瞬の事だったと思います。
それから、バザーでは音楽会や、馬術や剣術の競技、お菓子の出店などが催されるそうです。随分と大掛かりなバザーですわね。ご招待されるのは生徒の家族(つまり貴族ですわね)、王族、国会の議員、教会や大きな商会の関係者などだそうです。かなりのお客様で、学院は大賑わいになるらしいですわ。
「ロイ殿は、生徒会役員ですから、ご準備とかで大変でしょう?」
セドリック様が、改めてロイ様をじっと見ながら口を開きました。
「ええ。そうなのです。バザーは卒業、入学パーティーに次ぐ、学院の3大行事の一つなので大変です。何と言っても、ご招待する方が多いので気を使います。生徒会役員だけでは回らないので、いつも応援を頼んでいるそうです」
「そうなのですね? 応援の方というのは、もう決まっているのですか?」
念のため聞いておきます。
「一応、各クラスの委員長と、その他にローナとオーランド殿が手伝ってくれることになっています」
ふーっ。と溜息を吐いたロイ様は、あともう少しです。と小さくおっしゃいました。
ふむ。どうしましょう。
「ロイ様? 宜しければ、私もお手伝いさせて下さいますか? お邪魔でなければですけど」
カリノの双子、そしてオーランド様に近づけるいい機会です。元々、すでに準備は進んでいますから、途中から入る意味は余りないかもしれませんけど。
「おい、シュゼット!? 君は魔法術の講義も始まるだろう? そんな時間が取れるのか!?」
セドリック様が、慌てて口を挟みました。
余りの実感の無さに忘れていました。ありましたわね、そんなコトが。その講義は、どれだけ負担になるのでしょうか?
判りませんわ。
「……そうでしたわ」
「えっ!? シュゼット様は魔法術の識別者になったのですか? ああ、昨日鑑定式があったと聞きましたけど! それは、おめでとうございます」
ロイ様のこの感じ、この方は魔法術の識別者では無さそうです。
「でも、お忙しい時は遠慮なく声をお掛け下さいな? 少しでもお手伝いできればと思いますから」
講義は毎日では無いはずですから。バザー迄なら何とでもなりそうです。だって、暫くはレイシル様の個別講義のはずですもの。
「大丈夫ですわ。私にもお手伝いさせて下さいな」
天使130%で、ロイ様に微笑みかけます。
ローナ様は嫌がるでしょうけどね。
「判った!! そこまで言うなら私も一緒に手伝おう! ロイ殿、宜しく頼む」
ちょっと! セドリック様、本気ですの? なぜ、ここでやる気になるのですか?
そして、少し上から目線ですわよ。
その後も、学院の行事の事を伺って、少し風が冷たくなってきたのを合図にお開きとしました。
ロイ様は、生徒会室に寄ってからお帰りになるとのことで、食堂ホールの入口の所でお別れしました。小走りで廊下を進む後ろ姿をセドリック様と並んで見送っていました。
「!?」
鞄を持っていない手を繋がれました。
「セドリック様?」
いきなり手を繋ぐなんて、今までありませんでしたわよ?
「馬車まで送る。やっぱり、手が冷たくなってる」
どうしましたの? 驚いている私の顔を見ないで、真っ直ぐ前を向いて廊下を歩いて行きます。
あっ。耳が赤い。
見上げるセドリック様の横顔は、長い前髪に隠れ気味ですけど、チラリと見える耳が真っ赤です。
「大分寒くなってきたから……、手を繋いだ方が温かいからな!」
照れ隠しに、いつもの口調に戻したのでしょうか?
セドリック様。
さっきは、私の事を心配して下さったのでしょう?
魔法術やヤツの、ややこしい事が控えている私を。忙しいのは貴方もそうでしょうに。なのに、一緒にバザーのお手伝いを買って出てくれたのでしょう?
「そうですね。セドリック様は温かいですわね。ありがとうございます」
私の方を見ないセドリック様に向かってお礼を言います。
「……」
「はい? 何ですの? 聞こえませんでしたので、もう一度言って下さいな」
馬車の手前で、小さく呟いたセドリック様に聞き返しました。
「私のセカンドネームのシンは、月の意味がある」
「はぁ」
それが、何か?
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