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52. じれったい想い
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「シンには、月神の意味がある。だから、私は月の模様が良い」
目の前にいるセドリック様が、真剣な目で私を見下ろしています。
今までこんな瞳で見られたことはありません。
「無理にとは言えない。でも、もし……」
そこまで言うと、繋いでいた手をそっと引くように持ち上げて、
持ち上げて……
持ち上げて!?
少し、セドリック様の手が震えているように見えます……
ちゅっと、指先に唇を落としました!
「じゃあ、シュゼット。また明日」
目を真ん丸に見開いている私の背を、トンと馬車の方に優しく押しました。
ナニ? ナニ? 何が起きたの?
思わず後ろを振り返ると、見たことも無いような優しい表情で私を見ているセドリック様の顔がありました。ひらりと手を振って、早く馬車に乗れと促していますけど。
指先に落とされたキスに戸惑って、からくり人形のようにギクシャクした動きの私から、マリがさっさと鞄を奪い取り? 有無を言わさず馬車に押し込められました。
馬車の窓から伺うように彼を見ると、
一陣の風に、アッシュブロンドの前髪が煽られます。白く繊細な額がふわりと露あらわになって、優しく細められた淡いブルーの瞳がはっきりと見えました。
『じゃあな』
そう口が動いたのが判りました。
でも私は、初めて見たセドリック様の表情にドキドキしていて、さようならのご挨拶も忘れていました。
「それでは、マラカイトの若様? 失礼致します」
マリが、セドリック様にご挨拶をしているのを聞いて、ようやく我に返りました。
でも言葉を発するタイミングを逃してしまい、窓から見えるセドリック様に軽く会釈をするしか出来ませんでした。
ドキドキが、ドキドキが止まりません。さっきのセドリック様を思い出して、頬がこれ以上無い位に熱くなります!
だって、どうしてあんなことに? ゆ、指先にキス? いえ、その前には頬を撫でられましたよ!?
セドリック様にお会いしてから、もう何年も経ちますけど、必要以上に触れられるとかはありませんでした。
寧ろ、そこは奥手と言うか、硬派というか? エスコートだって普段はしてくれない方でしたよ? 確かに、こちらに帰って来てからちょっと今までと違った印象はありましたし、変わった行動もありましたけど!
「お嬢様? 一体セドリック様と何があったのですか?」
マリがじとっとした目で聞いてきます。
いや、イヤ、嫌? 私の方こそ聞きたいですわ? どうして突然ああなったのか。前触れなんて、全く感じませんでしたよ?
「それが、良く判らないの。さっきまで、ロイ様と三人でお茶をしていて色々行事とかの事を伺っていたの。それで、バザーの話になって、ハンカチーフの刺繍の---!?」
気が付きました。マリに先程までの話をしていて、気が付きました。
ああ。私、鈍いのにも程があります。自分の事ながら、呆れてしまいますわ。
セドリック様は、月の模様の刺繍をして欲しいとおっしゃったのですね。
ご自分の名前に因んだ、月の模様の刺繍をしたハンカチーフを、私に作って欲しいと……そうおっしゃったのですね?
キュン! と胸が跳ねました。
「ようやく、マラカイト家のお坊ちゃまも、ご自分の気持ちが判ったのですね? 態度で示しだしましたか?」
そう言うマリの目が、好奇心でランランとしています。
「まさか、お嬢様もお気付きでは無かったのですか? セドリック様のお気持ちは、盛大にダダ洩れでしたよ? 必要以上にシュゼットお嬢様を意識した言動でしたもの。あんなに絡んでいたのに、悪意が無く好きな娘を構うような感じでしたからね?」
「そうでしたの?」
マリがそう言うということは、もしかしてエーリック殿下やカテリーナ様も、そう思っていらっしゃたという事でしょうか?
「ええ。恐らくですけど、当事者のセドリック様とお嬢様以外は全員」
うひゃぁああああ! 恥ずかしい。どんな鈍感娘と思われていたのでしょう!?
「でも、大丈夫ですよ。当のセドリック様があんな方向でしたし。ある意味、本人がいつ気付いて、気付いたらどうなるのか、楽しみでしたから」
ニンマリと若干黒い笑顔で、マリは顔を綻ばせます。
「でも、反則ですね。まさか、あそこでイケメンになるとは。セドリック様には思いっきり恥ずかしがって、慌てふためいて貰いたかったのに。ちっ!」
マリさん? 貴方のセドリック様のイメージって?
「とにかく、エーリック殿下とセドリック様に告白されるとは。さすがお嬢様ですわ」
「?」
セドリック様に、告白された? かしら? いつ?
そう言えば、告白はされていませんわよね?
グリーンフィールド家の馬車が、動き出したのを見届けてから自分の馬車に向かった。ダリナスの馬車は、玄関に近い所に停めてあるので少し戻るようになる。
大胆な事をしてしまった。
まず、ロイ・ジルド・カリノに対して。
彼が、シュゼットに対して好意を持っているのが、手に取るように判った。彼女の笑顔に明るい表情で応えていた。その瞳には誰の目にも判る好意があった。
私も、ああなのだろうか?
ロイとシュゼットが直接話をするのに苛立ちを感じた。だから、自分から彼に話を振ったりした。
シュゼットと親しいのは、自分だと。お前より自分だとアピールしたかった。
そして、挙句に自分でも思っていなかった行動をしてしまった。
馬車に控えていた御者が降りてきて、ドアを開けた。
今思い出しても、体中の血が沸騰しそうだ。溜息を吐いて馬車に足を掛ける。
「見たぞ?」
「!?」
物凄い笑顔のエーリック殿下がそこにいた。
目の前にいるセドリック様が、真剣な目で私を見下ろしています。
今までこんな瞳で見られたことはありません。
「無理にとは言えない。でも、もし……」
そこまで言うと、繋いでいた手をそっと引くように持ち上げて、
持ち上げて……
持ち上げて!?
少し、セドリック様の手が震えているように見えます……
ちゅっと、指先に唇を落としました!
「じゃあ、シュゼット。また明日」
目を真ん丸に見開いている私の背を、トンと馬車の方に優しく押しました。
ナニ? ナニ? 何が起きたの?
思わず後ろを振り返ると、見たことも無いような優しい表情で私を見ているセドリック様の顔がありました。ひらりと手を振って、早く馬車に乗れと促していますけど。
指先に落とされたキスに戸惑って、からくり人形のようにギクシャクした動きの私から、マリがさっさと鞄を奪い取り? 有無を言わさず馬車に押し込められました。
馬車の窓から伺うように彼を見ると、
一陣の風に、アッシュブロンドの前髪が煽られます。白く繊細な額がふわりと露あらわになって、優しく細められた淡いブルーの瞳がはっきりと見えました。
『じゃあな』
そう口が動いたのが判りました。
でも私は、初めて見たセドリック様の表情にドキドキしていて、さようならのご挨拶も忘れていました。
「それでは、マラカイトの若様? 失礼致します」
マリが、セドリック様にご挨拶をしているのを聞いて、ようやく我に返りました。
でも言葉を発するタイミングを逃してしまい、窓から見えるセドリック様に軽く会釈をするしか出来ませんでした。
ドキドキが、ドキドキが止まりません。さっきのセドリック様を思い出して、頬がこれ以上無い位に熱くなります!
だって、どうしてあんなことに? ゆ、指先にキス? いえ、その前には頬を撫でられましたよ!?
セドリック様にお会いしてから、もう何年も経ちますけど、必要以上に触れられるとかはありませんでした。
寧ろ、そこは奥手と言うか、硬派というか? エスコートだって普段はしてくれない方でしたよ? 確かに、こちらに帰って来てからちょっと今までと違った印象はありましたし、変わった行動もありましたけど!
「お嬢様? 一体セドリック様と何があったのですか?」
マリがじとっとした目で聞いてきます。
いや、イヤ、嫌? 私の方こそ聞きたいですわ? どうして突然ああなったのか。前触れなんて、全く感じませんでしたよ?
「それが、良く判らないの。さっきまで、ロイ様と三人でお茶をしていて色々行事とかの事を伺っていたの。それで、バザーの話になって、ハンカチーフの刺繍の---!?」
気が付きました。マリに先程までの話をしていて、気が付きました。
ああ。私、鈍いのにも程があります。自分の事ながら、呆れてしまいますわ。
セドリック様は、月の模様の刺繍をして欲しいとおっしゃったのですね。
ご自分の名前に因んだ、月の模様の刺繍をしたハンカチーフを、私に作って欲しいと……そうおっしゃったのですね?
キュン! と胸が跳ねました。
「ようやく、マラカイト家のお坊ちゃまも、ご自分の気持ちが判ったのですね? 態度で示しだしましたか?」
そう言うマリの目が、好奇心でランランとしています。
「まさか、お嬢様もお気付きでは無かったのですか? セドリック様のお気持ちは、盛大にダダ洩れでしたよ? 必要以上にシュゼットお嬢様を意識した言動でしたもの。あんなに絡んでいたのに、悪意が無く好きな娘を構うような感じでしたからね?」
「そうでしたの?」
マリがそう言うということは、もしかしてエーリック殿下やカテリーナ様も、そう思っていらっしゃたという事でしょうか?
「ええ。恐らくですけど、当事者のセドリック様とお嬢様以外は全員」
うひゃぁああああ! 恥ずかしい。どんな鈍感娘と思われていたのでしょう!?
「でも、大丈夫ですよ。当のセドリック様があんな方向でしたし。ある意味、本人がいつ気付いて、気付いたらどうなるのか、楽しみでしたから」
ニンマリと若干黒い笑顔で、マリは顔を綻ばせます。
「でも、反則ですね。まさか、あそこでイケメンになるとは。セドリック様には思いっきり恥ずかしがって、慌てふためいて貰いたかったのに。ちっ!」
マリさん? 貴方のセドリック様のイメージって?
「とにかく、エーリック殿下とセドリック様に告白されるとは。さすがお嬢様ですわ」
「?」
セドリック様に、告白された? かしら? いつ?
そう言えば、告白はされていませんわよね?
グリーンフィールド家の馬車が、動き出したのを見届けてから自分の馬車に向かった。ダリナスの馬車は、玄関に近い所に停めてあるので少し戻るようになる。
大胆な事をしてしまった。
まず、ロイ・ジルド・カリノに対して。
彼が、シュゼットに対して好意を持っているのが、手に取るように判った。彼女の笑顔に明るい表情で応えていた。その瞳には誰の目にも判る好意があった。
私も、ああなのだろうか?
ロイとシュゼットが直接話をするのに苛立ちを感じた。だから、自分から彼に話を振ったりした。
シュゼットと親しいのは、自分だと。お前より自分だとアピールしたかった。
そして、挙句に自分でも思っていなかった行動をしてしまった。
馬車に控えていた御者が降りてきて、ドアを開けた。
今思い出しても、体中の血が沸騰しそうだ。溜息を吐いて馬車に足を掛ける。
「見たぞ?」
「!?」
物凄い笑顔のエーリック殿下がそこにいた。
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