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80. サルベージ -再開-
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「つまり、シルヴァ殿の指輪が錨に出来るという事か」
シュゼットの部屋に呼ばれたレイシルが、シルヴァの指輪を鑑定する。
「……確かに、シュゼット嬢と侍女殿、それからセドリックの気配を強く感じるな。シュゼットは君の事を相当大切に思っていたようだね? えっと……」
「マリと申します。レイシル神官長様」
「マリね。まだ挨拶していなかったな。レイシル・コールだ」
シルヴァの陰に隠れるようにしていたマリだが、流石に神官長で高位議員を前にスルーは出来無かった。一歩前に出ると、公爵家仕込みのカーテシーで頭を垂れた。
「ああ。堅い挨拶は抜きで良い。マリ殿、君のお陰でサルベージの錨が出来た。感謝する」
目を細めて神々しい笑みを浮かべるレイシルに、マリは思わず目を見張った。王子とよく似ていると聞いていたが、年上の分だけ大人っぽく見える。それに、見た目だけは何て美しく神々しい姿なのかしら、と。
「あ、あのイカリと言うのは……?」
先程から度々出てくるイカリとは何の事だろう。自分が関係しているお陰とか、マリにはサッパリ判らなかった。
「ああ、済まない。判らないよね。これからシュゼット嬢の沈んだ意識の引き上げを行うんだ。そして、その引き上げの魔法展開をサルベージと言うんだ」
レイシルがマリに説明する。その隣でエーリックも詳しい事は初めての為、一言一句漏らすまいと真剣に聞いている。
「サルベージに重要なのは、どれだけ沈んだ意識の近くまで降りて行けるかなんだ。でも、自ら意識を沈めたシュゼットの様な場合、近くまで降りて行くのが難しい。他者を近づけ無い強い拒絶があるからだ」
レイシルは口元に指を当てると、少し眉根を寄せて続けた。自分のミスが更に彼女の拒絶を強固にしてしまった可能性があるからだ。
「だから、彼女に強い縁ある者の気・を錨にすれば、彼女の拒絶も少ないはずだ。そのまま近づければ言葉も交わせるし、説得も可能だろう。多分」
「多分? レイシル様、多分とはどういう意味ですか?」
エーリックが聞き逃さずに指摘する。
「レイシルが多分と言っているのは、もう一つの心配があるからだ」
シルヴァが枕元にある花束に眼を向けながら答え、花に顔を寄せて香りを確かめた。良い香りに気分も良くなりそうだ。
花を一輪抜き取ると、シュゼットの小さな耳に髪を掛けてそこに差した。薄桃色の艶やかな頬にほんの少し指が滑ったのは、偶然では無かった。
「文献にあった、負の心。これがサルベージにどんな影響をするか判らないからだ。幾ら強力な錨いかりで意識に近づけたとしても、引き上げるには彼女が自分で浮上する気が無ければ無理だろう。その気になったとしても負の心が重しになれば、簡単には浮上出来まい。とは言え、先程から指輪にシュゼットの気配を感じるから、少し引き上げられたのではないかと思う」
「そ……そんな。負の心って何ですか!? お嬢様に負の心って!」
シルヴァの言葉に、マリが憤慨したように聞き返す。シュゼット至上主義のマリにとっては、主に負の心が影響するなど考えられない事だった。
「落ち着いてくれ。負の心と言うのは、人間なら誰しも持っている。持っていない人間などいない。負の心を全く持たない人間など、如何なる聖人君子でも在り得ない」
「そうだ。レイシル様も神官長ですしね」
シレッとエーリックが言う。
「……煩いよ」
マリが理解したのは、とにかくシルヴァの指輪を使ってサルベージを掛けるらしい。そして、皆で呼びかけをして意識を引き上げ、説得して自ら浮上してくれることを願う。そう言う事の様だ。
「早くしましょう! お嬢様が目覚めれば、セドリック様も助けられますか!? 助けられますよね?」
カイルがセドリックの治療が終わったことを知らせに来ると、そのまま直ぐにシュゼットのサルベージを行う事を伝えられた。
「シュゼットをセドリックの部屋に運ぶ。仮寝台を隣に並べてくれ。シュゼットは私が運ぼう」
シルヴァがそう言うと、マリは寝間着が見えないようにガウンを丁寧に着せたり、膝掛を用意した。髪もさっきシルヴァが差した花が落ちないように編み込んだ。
それを見たシルヴァの口元が、ほんの少し緩んだように見えた。
「それでは、行こう」
掬い上げる様にシルヴァはシュゼットを横抱きにすると、一度揺すり上げて体勢をとった。くったりとした身体は力を感じることも無く凭れ掛かっているが、確かに気配は強くなっている様に感じる。
「指輪に気配がする……やはり、今行うのが良い」
シュゼットを抱いたシルヴァが部屋を出ると、マリが膝掛を持ってその後に続く。レイシルが出て、エーリックが最後に部屋を出ようとして、ふと止まり寝台近くまで戻って来た。
「これ。セドの癖に、随分気が利くじゃないか。これも連れて行こう」
そう呟いて花束に手を伸ばした。
「シュゼットが好きな花。覚えていたんだ……」
部屋に戻ると治療を終えたセドリックの枕元に、フェリックスがいた。
セドリックは、額から頭のほとんどに包帯が巻かれ、顔にも大きな絆創膏が貼られていた。少し血が滲んで見える。腕にも足にもギプスがされているようで、見る限りかなり重症に見えた。
それでも、あの血溜まりに濡れたアッシュブロンドの髪を思い起こせば、今の状態は胸を撫で下ろせる状態に思えた。
医師長らの努力の甲斐が見える。
「やはり、奇跡です。包帯や絆創膏は派手ですが、見た目ほど重症ではありません。ただ、頭の中は判りません。どれほどの衝撃を受けたのか……目を覚ますかどうかは、全くの未知です。とにかく、輸血と痛み止め、感染症予防の薬剤を使用していますので、どちらにしろ今は眠っている状態でしょう」
皆に医師長はそう説明すると、医師と看護師を1名づつ残して部屋から出て行った。
駆け寄るようにエーリックが寝台に近づいた。
「セド? セドリック?」
「……」
やはり薬が効いているせいか、セドリックは穏やかな呼吸ながら目は閉じたままだ。それでも、輸血のせいか顔色は随分良くなった様に見えた。
「良かった……」
ポロリと涙が零れた。意識は戻っていないが、確かに息遣いを、命を感じられるのだから。
セドリックの横たわる寝台の隣に、シュゼットの眠る仮寝台を並べる。
シュゼットとセドリックの手を繋げる。力の無い二人の手をマリがしっかりと握り締めた。勿論、シルヴァの指輪も握り締めている。
「錨の準備は良いか?」
レイシルの声にマリが大きく頷く。そして、もう片方のシュゼットの手に鑑定石を通してレイシル、シルヴァ、エーリック、フェリックスの4人でサルベージを掛ける。
「願うは、シュゼットの目覚め。それだけだ」
レイシルが杖で床を大きく突くと、厳かな神秘の鈴の音と共に、金色に輝くさざ波が床面に広がり出した。
「さあ、始めよう」
シュゼットの部屋に呼ばれたレイシルが、シルヴァの指輪を鑑定する。
「……確かに、シュゼット嬢と侍女殿、それからセドリックの気配を強く感じるな。シュゼットは君の事を相当大切に思っていたようだね? えっと……」
「マリと申します。レイシル神官長様」
「マリね。まだ挨拶していなかったな。レイシル・コールだ」
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「ああ。堅い挨拶は抜きで良い。マリ殿、君のお陰でサルベージの錨が出来た。感謝する」
目を細めて神々しい笑みを浮かべるレイシルに、マリは思わず目を見張った。王子とよく似ていると聞いていたが、年上の分だけ大人っぽく見える。それに、見た目だけは何て美しく神々しい姿なのかしら、と。
「あ、あのイカリと言うのは……?」
先程から度々出てくるイカリとは何の事だろう。自分が関係しているお陰とか、マリにはサッパリ判らなかった。
「ああ、済まない。判らないよね。これからシュゼット嬢の沈んだ意識の引き上げを行うんだ。そして、その引き上げの魔法展開をサルベージと言うんだ」
レイシルがマリに説明する。その隣でエーリックも詳しい事は初めての為、一言一句漏らすまいと真剣に聞いている。
「サルベージに重要なのは、どれだけ沈んだ意識の近くまで降りて行けるかなんだ。でも、自ら意識を沈めたシュゼットの様な場合、近くまで降りて行くのが難しい。他者を近づけ無い強い拒絶があるからだ」
レイシルは口元に指を当てると、少し眉根を寄せて続けた。自分のミスが更に彼女の拒絶を強固にしてしまった可能性があるからだ。
「だから、彼女に強い縁ある者の気・を錨にすれば、彼女の拒絶も少ないはずだ。そのまま近づければ言葉も交わせるし、説得も可能だろう。多分」
「多分? レイシル様、多分とはどういう意味ですか?」
エーリックが聞き逃さずに指摘する。
「レイシルが多分と言っているのは、もう一つの心配があるからだ」
シルヴァが枕元にある花束に眼を向けながら答え、花に顔を寄せて香りを確かめた。良い香りに気分も良くなりそうだ。
花を一輪抜き取ると、シュゼットの小さな耳に髪を掛けてそこに差した。薄桃色の艶やかな頬にほんの少し指が滑ったのは、偶然では無かった。
「文献にあった、負の心。これがサルベージにどんな影響をするか判らないからだ。幾ら強力な錨いかりで意識に近づけたとしても、引き上げるには彼女が自分で浮上する気が無ければ無理だろう。その気になったとしても負の心が重しになれば、簡単には浮上出来まい。とは言え、先程から指輪にシュゼットの気配を感じるから、少し引き上げられたのではないかと思う」
「そ……そんな。負の心って何ですか!? お嬢様に負の心って!」
シルヴァの言葉に、マリが憤慨したように聞き返す。シュゼット至上主義のマリにとっては、主に負の心が影響するなど考えられない事だった。
「落ち着いてくれ。負の心と言うのは、人間なら誰しも持っている。持っていない人間などいない。負の心を全く持たない人間など、如何なる聖人君子でも在り得ない」
「そうだ。レイシル様も神官長ですしね」
シレッとエーリックが言う。
「……煩いよ」
マリが理解したのは、とにかくシルヴァの指輪を使ってサルベージを掛けるらしい。そして、皆で呼びかけをして意識を引き上げ、説得して自ら浮上してくれることを願う。そう言う事の様だ。
「早くしましょう! お嬢様が目覚めれば、セドリック様も助けられますか!? 助けられますよね?」
カイルがセドリックの治療が終わったことを知らせに来ると、そのまま直ぐにシュゼットのサルベージを行う事を伝えられた。
「シュゼットをセドリックの部屋に運ぶ。仮寝台を隣に並べてくれ。シュゼットは私が運ぼう」
シルヴァがそう言うと、マリは寝間着が見えないようにガウンを丁寧に着せたり、膝掛を用意した。髪もさっきシルヴァが差した花が落ちないように編み込んだ。
それを見たシルヴァの口元が、ほんの少し緩んだように見えた。
「それでは、行こう」
掬い上げる様にシルヴァはシュゼットを横抱きにすると、一度揺すり上げて体勢をとった。くったりとした身体は力を感じることも無く凭れ掛かっているが、確かに気配は強くなっている様に感じる。
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シュゼットを抱いたシルヴァが部屋を出ると、マリが膝掛を持ってその後に続く。レイシルが出て、エーリックが最後に部屋を出ようとして、ふと止まり寝台近くまで戻って来た。
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そう呟いて花束に手を伸ばした。
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部屋に戻ると治療を終えたセドリックの枕元に、フェリックスがいた。
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「錨の準備は良いか?」
レイシルの声にマリが大きく頷く。そして、もう片方のシュゼットの手に鑑定石を通してレイシル、シルヴァ、エーリック、フェリックスの4人でサルベージを掛ける。
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