【更新中】悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! -5年前「白パンダ」と私を嗤った皆様に今度は天使の姿でリベンジします! 覚悟は宜しくて?-

薪乃めのう

文字の大きさ
87 / 121

86. バシリスの主

しおりを挟む
 エーリックは薄暗い部屋で目を覚ました。
 昨夜も遅かったのに、眠った気がしないまま夜が明けてしまった。

 理由は判っていた。想い通りにいかない結果を生んだ自分の不甲斐無さ。はっきりしない気持ちのまま迎えた朝は、思った以上にダメージがあったのを再確認してしまった。

 グダグダした気分を吹っ切る様に馬に乗った。久し振りに乗った愛馬は、早朝まだ明けきらない時刻にも関わらず、自分の気配に嘶いなないて答えてくれた。



「バシリス。おはよう」

 王女バシリスの名を持つ黒毛の美しいその姿は、生きた宝石と言われる程だ。

「ゴメンよ、こんな早くに。少し走ってくれないか?」

 首にそっと手を当てると、スリスリと頭に顔を寄せて来た。温かな体温にほっと心が和むような気がした。黒曜石の様に艶やかなその瞳が、早く乗れと催促するように見えた。馬房の気配に気づいた馬番が、慌てた様に駆け寄ると、直ぐに騎乗の準備をしてくれた。まだ仮眠の時間だったはずだが、随分早く彼を起こしてしまったと、少し申し訳ない気もしたが笑顔で馬場に送り出された。

「バシリス。行こう」

 ひらりと背に乗ると、馬番に見送られて奔り出した。久し振りの早朝の散歩に、バシリスも嬉しそうに駆ける。
 冷やりとした空気が頬に当たって、ささくれた気持ちを研ぎ均してくれるような気がした。

 拮抗する二つの気持ちに折り合いを付けるため、頭を空っぽにしたくて愛馬に跨ったはずだった。流れる景色に髪を靡かせて、愛馬と一体になって早朝の馬場を駆けた……なのに……

 ふと手綱の手を緩めた。

「全く。うじうじと考えるなど、私らしくもないか……」

 凪いだ心に大事な二人の顔が浮かぶ。どちらも失うことなど考えられない。
 でも、シュゼットがセドリックのモノになるのも嫌だった。例え、シュゼットがそれを望んだとしても。今の自分にそれが許せるのか? シュゼットの望みだからとそれを祝福できるのか?

 無理だ。何度考えても無理なモノは無理だ。

 圧倒的な差があったとしても。出来てしまったとしても。諦めるには至らない。出来ない。

「でも、セドリックも、シュゼットも。私には必要なんだ」

 そこまで口に出すと、バシリスが歩みを止めた。主の言った言葉を聞き返す様に耳を後ろに倒す。ほんの少し首を曲げてエーリックの言葉の先を促すようにも見えた。

「欲しい者を欲しいと言う。今言わないで、何時言えと言うんだ。そうだろう、バシリス?」

 吹っ切る様に口に出すと、バシリスの首をポンポンと優しく叩く。

「お前、もう少し私に付き合え。たまには私の機嫌を取ってくれ?」

 そう言うと、軽く腹を蹴った。承知したと言わんばかりにバシリスは駆け出した。

「はっ‼」

 エーリックは掛け声と共に、柵目掛けてバシリスを奔らせると、鮮やかに柵越えをして林の中に駆けて行った。















「おはようございます。エーリック殿下」

 今朝のシュゼットは、緩やかなパステルグリーンのワンピースを着て、髪を下ろしたままワンピースと同じ色のリボンでカチューシャの様に纏めていた。寛いだ雰囲気ではあるが、柔らかいパステルグリーンはとても彼女に似合っている。

「おはよう。ああ、顔色も良いね? 体調はどう? 食事は摂れた?」

 変わらない彼女の姿に安心して、矢継ぎ早に問い掛けてしまった。いけない。これじゃあカテリーナだ。
 丁度お茶を飲んでいたらしい彼女は、侍女に目配せをするとソファへどうぞと、声を掛けてくれた。明るい病室の中で、フワフワとした金色の髪が窓からの微かな風に揺らめいている。

 さっきまでのざらつきの残った気持ちが、砂糖菓子の様に溶かされていく。温かい……

「シュゼット、セドリックの部屋には行った?」

 お茶を一口飲んでから聞いてみた。

「いいえ。まだなんです。カイル様からレイシル様がいらっしゃるから、それまではここで待っていてと言われたので……もう、大分経つのですけど。まだいらっしゃらないので、お待ちしてますの。早くセドリック様の所に行きたいのですけど……」

 少しだけ眉根を寄せて、彼女はそう言った。
 レイシル様を待っているのか。まあ、そうだろうな。今のシュゼットの身柄は、魔法科学省で預かっているようなものだし、その長であるレイシル様が責任者だろうから。

「そうか。じゃあ、まだセドリックには会えていないのか。今日はどうだろうな? 目が覚めてくれれば良いが」
「そうですわね。そう願っていますわ。ところで、エーリック殿下は今日は学院をお休みなのですか?」

 シュゼットの目線を追うと、ああ、確かに制服姿でない私だからか。学院など休もうがどうでも良い。

 シュゼットもセドリックもいないなら……カテリーナの面倒を一人で見るのは精神が削れる。今は、ごっそり削られる。医術院にいる二人の事を隠してなんて、不利な条件に疲労困憊するのが目に見えている。

「君達がいない学院なんてどうでも良いよ。君は目覚めたけど、セドリックの事が心配だし、どっちみち今日は土曜日だから午前中で終わるだろう? 休んだって大したこと無いよ。それに君の事も心配だし……」

 そこまで言うと、シュゼットがキラキラした目で見詰めてくれた。嬉しそうな輝く様な笑顔だ。見詰められているこちらの方まで、笑顔になるような幸せな微笑み。

「まあ、エーリック殿下ったら。でも、ご心配頂いてありがとうございます。私もセドリック様の事が心配で、学院はお休みしたかったのです。丁度、カイル様から暫くはここにいる様にと言われていますので、少し学院をお休みすることになるかもしれません。詳しくはレイシル様に聞かなければいけませんけど」
「!?」

 強力な魔法術の気配を感じた。自分に鑑定は無いが、誰かが結界を超える時の空間の違和感は感じられる。

「来た。レイシル様が来たよ」

 そう言うと同時に扉がノックされると、マリによって扉は直ぐに開けられた。

「シュゼット嬢、おはようございます。おや? エーリック殿下もいらっしゃいましたか」

 レイシル様は、シュゼットに向かって笑みを浮かべると、ソファにいた私に素早く視線を向けた。その笑顔の奥に、若干の対抗心? を感じないでもないが、それはお互い様だ。

「ええ。おはようございます。友人二人のお見舞いです。シュゼットも私もセドリックの所に行きたいのですけど、貴方がいらっしゃるまで待てと言われましたので、大人しくお待ちしていました」
「……そうですか。それはお待たせして申し訳ありませんでした。まずは、セドリック殿のご様子を診に行きましょう。その方がシュゼット嬢も安心できるでしょう?」

 あくまでもやんわりと受け答えをしているレイシル様は、魔法科学省の高官と言うよりは、神官長の顔で話す。そう言えば、この衣装は議員服では無い。神官長のローブか?

 ソファから立ち上がって、レイシル様の後ろ姿を眺めた。魔法科学省の紋章が入っていない、白に金色の刺繍が入った白いローブ。

 シュゼットに右手を差し出してエスコートすると、隣に立った彼女も目敏く衣装の違いを感じたようだ。

「今日のレイシル様は、神官長様なのでしょうか……?」

 小声でシュゼットが呟いた。







 ようやくセドリックの部屋に入れる。
 一瞬、昨日の血濡れの姿が頭を過ったが、今は眠っている姿のはずだ。大丈夫だ。

 意を決して部屋の中に入る。私は隣にいるシュゼットの手を、ギュッと握ると彼女にいつもの笑顔で促した。

「さあ、シュゼット。セドリックに会いに行こう」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...