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106. 知らなかった
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王宮の一室。華やかなサロンの一室で、私達は王妃様がいらっしゃるのをお待ちしています。ローナ様の家出の件で、日延べになった王妃様のお茶会が開かれたのです。
目の前のテーブルには、色とりどりの宮廷菓子が並んでいて、部屋中に甘い香りが漂っています。さすがに、王妃様待ちですから余りお喋りする訳にはいきません……けど。
「ふーっ」
イザベラ様が深い溜息を吐いて、ぽそりと呟きました。
「美味しそうね」
「美味しそうですわね」
ドロシア様です。
「どんなデザインのドレスなのかしらね」
イザベラ様です。
「早く見たいですわね」
私です。
「「「ふーっ」」」
3人です。
「「「……」」」
「もし宜しければ、この後私の家にいらっしゃいませんか? 皆様とお話がしたいのですけど」
ドロシア様が、意を決したように口を開きました。そうですわね。多分、一番今回の事情に詳しいのは私ですわ。ドロシア様やイザベラ様には寝耳に水の制度廃止でしょう。それに、ローナ様の事だって、疑問ですよね? 不自然なフェードアウトの仕方ですもの。
でも、正直に話すのも憚れます。どうしたら良いのでしょう。悩みます。
「私は大丈夫ですわ。シュゼット様はいかが? 貴方、まだ医術院にいらっしゃるのでしょう? 体調は宜しいの?」
イザベラ様の問いかけに、助け船を感じました。
「申し訳ございません。まだ医術院から退院が出来ないのです。ですから、お茶会が終わったら直ぐに戻らないといけませんの。退院してからなら大丈夫だと思うのですけど」
頬に手を当てて、困った様にお二人を見廻します。お話しするのにも、もう少し色々整理したいです。ありのままをストレートに言うのは幾ら何でも不味いです。
「そうね……またにしましょう。シュゼット様、大丈夫になったらご連絡頂けません? 私達、グリーンフィールド公爵家に伺いたいですわ。宜しいかしら?」
ドロシア様がそう言って、イザベラ様に同調を求めました。
「ええ。是非そうさせて頂きたいわ。シュゼット様、お願いします」
イザベラ様は、ドロシア様に見えない角度で、パチリとウインクしました。ああ、やっぱりさっきは故意に出して下さったのですね。助かりましたわ。
「はい。そうして頂けると嬉しいです。大丈夫になったらご連絡しますわ。その時は、当家に是非いらして下さいな」
私はニッコリ微笑みました。
それから直ぐに王妃様が来られて、王室御用達のメゾンのデザイナーから、ブライズメイドのドレスのスケッチを見せて貰いました。
王妃様は、デザインは一緒で色をそれぞれのイメージで変えるとおっしゃっていました。ですが、デザイナーが私達3人を見て、色だけでは無理がある! デザインもそれぞれに変えるべき‼ と強く主張したお陰で全員全く違うデザインと色になりました。
確かに、3人ともタイプが違い過ぎますもの。
ただ、ブライズメイドである事が判る様に、ヘッドドレスだけは同じデザインにして統一感を出そうという事になりました。
王室御用達のデザイナーの一点物。全くのオートクチュールを最速で仕上げて貰うのです。一体お幾らになるのでしょう。相当なお値段ではありません事? まあ、今回の衣装については、
「皆さんに無理を言ってお願いするのですもの。ドレスもヘッドドレスも、靴も手袋も王家でご用意するわ。だから皆さんは遠慮しないで頂戴ね? ドレスが出来たらアクセサリーも選ぶから、また打ち合わせをしましょうね?」
とのことで、すべて費用は王室持ちになりました。それに、特権を振りかざして、最速の10日で仕上げてくれるのです。さすが王妃様。
「それでは、ドロシア様がディープグリーン、イザベラ様がチェリーピンク、シュゼット様がパステルブルー。そして、カテリーナ様がローズレッドで、王妃様がゴールデンイエロー。色のバランスも良いですわ。デザインは明後日までに決めますから。お楽しみにして下さいませ。それでは皆さん、お菓子の前に採寸ですわ!! すべてをさらけ出して下さいな!!」
テンションの上がったデザイナー女史の号令に、あっという間に数人のメゾンの方々に囲まれ、ありとあらゆる箇所を計測されました。
そして、やっと終わった頃にはぐったりとソファに座り込んでしまったのです。ええ。3人ともデス‼
帰りの馬車には、迎えに来てくれたマリがいます。思った以上に憔悴? した様子の私に驚いたようです。
「お嬢様? 何故そんなにお疲れなんですか? お茶会だったのでしょう?」
マリは温かい膝掛を掛けてくれながら、クッションを良い位置に宛がってくれました。まあ、そう思いますわね?
「お茶会だったけど、結局ドレスのデザインが3人とも別々に変わったの。だから、細かく打ち合わせして色を決めて、私の実寸大の縫ぐるみが出来るくらい、ありとあらゆる場所を採寸されたわ」
言いながら思い出して溜息が出ました……
「そ、それは、大変でしたね。お、お疲れさまでした?」
マリが苦笑いを浮かべて、労ってくれましたけど。
「ドレスのデザインが明後日には出来るんですって。そうしたら10日で仕上げるってメゾンは言っていたわ。王妃様の力技が炸裂してたわね」
「ドレスの色は決まったのですか?」
「ええ。私はパステルブルー」
キラリとマリの目が光りました。
「さすが、王妃様御用達のデザイナーですね。お嬢様に一番お似合いの色を見抜くとは。普通の人は、ついついピンクをイメージしがちですから。うーん。会ってみたいですわ」
どうも変なライバル心みたいなモノが生まれたみたい。こういう時のマリは、妄想を膨らませていますから凄く楽しそうです。
「それはそうと、ドロシア様とイザベラ様にお誘いを受けたわ。今回の諸々についてお話ししたいって。退院したら屋敷にお呼びする約束をしたけど、何時退院できるのかしらね? 退院したら魔法術の講義が本格的に始まるから、忙しくなりそうだし……」
フッと溜息が出ました。目まぐるしく周りが動いて、正直目が回りそうです。気が付けば、まだ帰国してからそんなに経っていないのですもの。
「まあ、今はセドリック様の回復が一番だわ」
そうこう言っている間に、馬車は医術院に到着しました。
「あら? ダリナスの馬車だわ。エーリック殿下? 今日いらっしゃるご予定だったかしら?」
玄関から入ると、階段を上って5階を目指します。未だ魔法術が扱えない私は、階段を上るしかないのですが、やはりあの踊り場を通る時には足が一瞬竦みます。それはマリも一緒の様で、軽くトラウマになってるみたいで、凄く心配です。
5階に到着してセドリック様の部屋を見ると、扉の前には女性が立っています。あれって、近衛騎士の制服じゃないですか? という事は、あの女性は近衛の女性騎士様? えっ? 部屋の中にいらっしゃるのはどなたですの?
まさか……
部屋の扉が開きました。
部屋から出てきたのは……
「お帰りなさい。シュゼット」
カテリーナ様でした。
「カテリーナ様。いらっしゃていたのですね? 留守にしていて申し訳ございませんでした」
カテリーナ様は、私が王妃様のお茶会に呼ばれた事はご存じのはずです。でも、ここに来たという事は、私に用事では無くてセドリック様に会いに来られたという事です。
「いいのよ。時間が少し出来たから、セドリックの様子を見に来ただけですもの。ほら、これからは今までみたいに一緒には居られないから」
そう言った顔は、なんとも寂しそうな複雑な表情に見えました。こんなカテリーナ様の表情なんて初めてです。確かに、フェリックス殿下の婚約者になった訳ですから、これまでの様にふざけ合ったり、冗談を言い合ったりはなかなか出来なくなります。フェリックス殿下以外の男性とは、一線を引かなければいけませんから。
「さっきまで起きていたけど、今は眠ってしまったみたい。肝心な事はいつも話せないの。ワザとなのか、天然なのか。本当に間が悪いのよ」
階段を降りかけて、カテリーナ様が振り返ります。
「でも、間の悪いセドリックに感謝だわ。言わなくて良い事は、言わない方が良いのですもの」
5階のフロアから、数段下にいるカテリーナ様を見降ろします。普段ならばお見送りをする為に、馬車までご一緒するところですけど、今日に限っては片手で制されました。
「じゃあね? シュゼット。彼セドリックの事とブライズメイドの事、よろしくね?」
そう言うとカテリーナ様は、嘘のように晴れやかな顔になって、優雅に手を振り階段を降りて行きました。
「……」
もしかしたら、
もしかしたら。
カテリーナ様は……
カテリーナ様が、言わないと決めた事って……
私はカテリーナ様のお気持ちに、全く気が付いていなかった事に、たった今気が付いたのです。
目の前のテーブルには、色とりどりの宮廷菓子が並んでいて、部屋中に甘い香りが漂っています。さすがに、王妃様待ちですから余りお喋りする訳にはいきません……けど。
「ふーっ」
イザベラ様が深い溜息を吐いて、ぽそりと呟きました。
「美味しそうね」
「美味しそうですわね」
ドロシア様です。
「どんなデザインのドレスなのかしらね」
イザベラ様です。
「早く見たいですわね」
私です。
「「「ふーっ」」」
3人です。
「「「……」」」
「もし宜しければ、この後私の家にいらっしゃいませんか? 皆様とお話がしたいのですけど」
ドロシア様が、意を決したように口を開きました。そうですわね。多分、一番今回の事情に詳しいのは私ですわ。ドロシア様やイザベラ様には寝耳に水の制度廃止でしょう。それに、ローナ様の事だって、疑問ですよね? 不自然なフェードアウトの仕方ですもの。
でも、正直に話すのも憚れます。どうしたら良いのでしょう。悩みます。
「私は大丈夫ですわ。シュゼット様はいかが? 貴方、まだ医術院にいらっしゃるのでしょう? 体調は宜しいの?」
イザベラ様の問いかけに、助け船を感じました。
「申し訳ございません。まだ医術院から退院が出来ないのです。ですから、お茶会が終わったら直ぐに戻らないといけませんの。退院してからなら大丈夫だと思うのですけど」
頬に手を当てて、困った様にお二人を見廻します。お話しするのにも、もう少し色々整理したいです。ありのままをストレートに言うのは幾ら何でも不味いです。
「そうね……またにしましょう。シュゼット様、大丈夫になったらご連絡頂けません? 私達、グリーンフィールド公爵家に伺いたいですわ。宜しいかしら?」
ドロシア様がそう言って、イザベラ様に同調を求めました。
「ええ。是非そうさせて頂きたいわ。シュゼット様、お願いします」
イザベラ様は、ドロシア様に見えない角度で、パチリとウインクしました。ああ、やっぱりさっきは故意に出して下さったのですね。助かりましたわ。
「はい。そうして頂けると嬉しいです。大丈夫になったらご連絡しますわ。その時は、当家に是非いらして下さいな」
私はニッコリ微笑みました。
それから直ぐに王妃様が来られて、王室御用達のメゾンのデザイナーから、ブライズメイドのドレスのスケッチを見せて貰いました。
王妃様は、デザインは一緒で色をそれぞれのイメージで変えるとおっしゃっていました。ですが、デザイナーが私達3人を見て、色だけでは無理がある! デザインもそれぞれに変えるべき‼ と強く主張したお陰で全員全く違うデザインと色になりました。
確かに、3人ともタイプが違い過ぎますもの。
ただ、ブライズメイドである事が判る様に、ヘッドドレスだけは同じデザインにして統一感を出そうという事になりました。
王室御用達のデザイナーの一点物。全くのオートクチュールを最速で仕上げて貰うのです。一体お幾らになるのでしょう。相当なお値段ではありません事? まあ、今回の衣装については、
「皆さんに無理を言ってお願いするのですもの。ドレスもヘッドドレスも、靴も手袋も王家でご用意するわ。だから皆さんは遠慮しないで頂戴ね? ドレスが出来たらアクセサリーも選ぶから、また打ち合わせをしましょうね?」
とのことで、すべて費用は王室持ちになりました。それに、特権を振りかざして、最速の10日で仕上げてくれるのです。さすが王妃様。
「それでは、ドロシア様がディープグリーン、イザベラ様がチェリーピンク、シュゼット様がパステルブルー。そして、カテリーナ様がローズレッドで、王妃様がゴールデンイエロー。色のバランスも良いですわ。デザインは明後日までに決めますから。お楽しみにして下さいませ。それでは皆さん、お菓子の前に採寸ですわ!! すべてをさらけ出して下さいな!!」
テンションの上がったデザイナー女史の号令に、あっという間に数人のメゾンの方々に囲まれ、ありとあらゆる箇所を計測されました。
そして、やっと終わった頃にはぐったりとソファに座り込んでしまったのです。ええ。3人ともデス‼
帰りの馬車には、迎えに来てくれたマリがいます。思った以上に憔悴? した様子の私に驚いたようです。
「お嬢様? 何故そんなにお疲れなんですか? お茶会だったのでしょう?」
マリは温かい膝掛を掛けてくれながら、クッションを良い位置に宛がってくれました。まあ、そう思いますわね?
「お茶会だったけど、結局ドレスのデザインが3人とも別々に変わったの。だから、細かく打ち合わせして色を決めて、私の実寸大の縫ぐるみが出来るくらい、ありとあらゆる場所を採寸されたわ」
言いながら思い出して溜息が出ました……
「そ、それは、大変でしたね。お、お疲れさまでした?」
マリが苦笑いを浮かべて、労ってくれましたけど。
「ドレスのデザインが明後日には出来るんですって。そうしたら10日で仕上げるってメゾンは言っていたわ。王妃様の力技が炸裂してたわね」
「ドレスの色は決まったのですか?」
「ええ。私はパステルブルー」
キラリとマリの目が光りました。
「さすが、王妃様御用達のデザイナーですね。お嬢様に一番お似合いの色を見抜くとは。普通の人は、ついついピンクをイメージしがちですから。うーん。会ってみたいですわ」
どうも変なライバル心みたいなモノが生まれたみたい。こういう時のマリは、妄想を膨らませていますから凄く楽しそうです。
「それはそうと、ドロシア様とイザベラ様にお誘いを受けたわ。今回の諸々についてお話ししたいって。退院したら屋敷にお呼びする約束をしたけど、何時退院できるのかしらね? 退院したら魔法術の講義が本格的に始まるから、忙しくなりそうだし……」
フッと溜息が出ました。目まぐるしく周りが動いて、正直目が回りそうです。気が付けば、まだ帰国してからそんなに経っていないのですもの。
「まあ、今はセドリック様の回復が一番だわ」
そうこう言っている間に、馬車は医術院に到着しました。
「あら? ダリナスの馬車だわ。エーリック殿下? 今日いらっしゃるご予定だったかしら?」
玄関から入ると、階段を上って5階を目指します。未だ魔法術が扱えない私は、階段を上るしかないのですが、やはりあの踊り場を通る時には足が一瞬竦みます。それはマリも一緒の様で、軽くトラウマになってるみたいで、凄く心配です。
5階に到着してセドリック様の部屋を見ると、扉の前には女性が立っています。あれって、近衛騎士の制服じゃないですか? という事は、あの女性は近衛の女性騎士様? えっ? 部屋の中にいらっしゃるのはどなたですの?
まさか……
部屋の扉が開きました。
部屋から出てきたのは……
「お帰りなさい。シュゼット」
カテリーナ様でした。
「カテリーナ様。いらっしゃていたのですね? 留守にしていて申し訳ございませんでした」
カテリーナ様は、私が王妃様のお茶会に呼ばれた事はご存じのはずです。でも、ここに来たという事は、私に用事では無くてセドリック様に会いに来られたという事です。
「いいのよ。時間が少し出来たから、セドリックの様子を見に来ただけですもの。ほら、これからは今までみたいに一緒には居られないから」
そう言った顔は、なんとも寂しそうな複雑な表情に見えました。こんなカテリーナ様の表情なんて初めてです。確かに、フェリックス殿下の婚約者になった訳ですから、これまでの様にふざけ合ったり、冗談を言い合ったりはなかなか出来なくなります。フェリックス殿下以外の男性とは、一線を引かなければいけませんから。
「さっきまで起きていたけど、今は眠ってしまったみたい。肝心な事はいつも話せないの。ワザとなのか、天然なのか。本当に間が悪いのよ」
階段を降りかけて、カテリーナ様が振り返ります。
「でも、間の悪いセドリックに感謝だわ。言わなくて良い事は、言わない方が良いのですもの」
5階のフロアから、数段下にいるカテリーナ様を見降ろします。普段ならばお見送りをする為に、馬車までご一緒するところですけど、今日に限っては片手で制されました。
「じゃあね? シュゼット。彼セドリックの事とブライズメイドの事、よろしくね?」
そう言うとカテリーナ様は、嘘のように晴れやかな顔になって、優雅に手を振り階段を降りて行きました。
「……」
もしかしたら、
もしかしたら。
カテリーナ様は……
カテリーナ様が、言わないと決めた事って……
私はカテリーナ様のお気持ちに、全く気が付いていなかった事に、たった今気が付いたのです。
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