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108. 私の鑑定石
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円形のホール。
鏡の様に磨き込まれた床の上、大小様々な鑑定石が沢山浮いているのが見えます。
「不思議な光景だ」
私の隣にはレイシル様。ここは、魔法科学省の地下にある鑑定石の保管室です。
「本当ですわね……」
レイシル様がホールの真ん中付近まで歩いて行きます。私もその後を静かに進みます。
「ここが、鑑定石の生まれる場所。採石場という所かな」
レイシル様が指差した先に、丸い穴が開いているのが見えます。鏡のような床にポカリと空間が空いているのです。覗き込めばそこは確かに採石場の様で、岩盤が暗く奥まで続いていました。でも、採掘している様には見えません。足場も工具も、働く人の気配も何も無いのです。
「ココ? ですか?」
ずっと地下深くまで続く深淵。そんな感じに見えて、私は思わず後退りをしました。
「鑑定石はここで生まれる。地下奥深く結晶して、この空間に生み出されるんだ。ここには現世に生きている、全ての魔法識別者の鑑定石がある」
「全ての魔法識別者の? 鑑定石ですか?」
周りにある鑑定石を見廻します。沢山ありますけど、全ての識別者と考えると、そこまで多いとは思えません。数えようと思えば、そこまで時間を掛けずに数えられてしまいそうですもの。
「識別章として加工している鑑定石は、ここにある各々の鑑定石本体から生み出された欠片だ」
すると、ひと際大きくて光の強い鑑定石が、ふわりと音も無くレイシル様の近くに漂ってきました。
「もしや、ソレが?」
「そう。コレが俺の鑑定石。ここに来れば、反応して近寄ってくる。それでだ、君の鑑定石を決めないと識別章も造れない」
へっ? 識別章? 先代の鑑定石を引き継いだのではないのですか? 流石にシルヴァ様が嵌めていたので私には大きいのでチェーンに通して首から下げています。
「あの、レイシル様? 先代のでは駄目なのですか?」
チェーンを引っ張って指輪を見せます。
「それって先代のでしょ。すでにこの場所に本体が無いんだ。
識別者が亡くなると、鑑定石は霧散してしまうんだ。役目を終えたとばかりにね。
多分、その鑑定石ももうすぐ消えると思う。次代の光の識別者の発現を待って、そしてその手に渡っている。まして、その指輪は君のサルベージで使っているから、ダリナス王太子の守護石によって姿を留めていたけど、もうその力も尽きかけているよ。消えるのも時間の問題。
だから、今日ここに来たんだ。君の新しい鑑定石を決めないとね」
チェーンの先の指輪は、硬質で黒曜石も鑑定石も頂いた時と変わらない様に見えています。
でも……
「君も気が付いていただろう? 君が魔法術の鍛錬を積めば積む程、力をコントロールできれば出来る程、ソレの力が薄れていくのを。今の君には感じているだろう?」
確かに。魔法術が少しずつ使える様になって、魔力の強弱が判るようになってから何となく感じていました。そして、今ではその力がほんの僅かになっている事も。
「でも、私の鑑定石は導入教育で溶けてしまったんですよね? 新しい鑑定石なんて簡単に見つけられるのでしょうか?」
ぐるっと周りを見廻して、後ろに振り向いた時です。
「うわっ!?」
すぐ後ろ。顔の高さに、ぶつかりそうな距離で浮かんでいる鑑定石‼
「な? すぐ判っただろ? 君の光の魔力に導かれて現れた。それが、君の鑑定石だ」
私の頭程ある鑑定石は、強い虹色に光り輝いています。つるりとしたその表面に指を当てると、私の鼓動に反応する様に光が瞬いています。
「コレが私の鑑定石……」
「美しい光だな。光の識別者に相応しい、良い石が見つかった。これで識別章を作ろう。シュゼット、両手を当てて魔力を流してみろ」
レイシル様に言われて、抱えるように両手を石に当て静かに魔力を流してみます。温かさが伝わって、まるで生き物のように鑑定石が熱くなりました。
「鑑定石の中に手を入れてみろ。欠片を取り出すことが出来る」
言われるままに右手を石に沿わせると、するりと中に吸い込まれるように指先が石に入り込み、握りしめると温かい欠片を手の中に感じました。
「コレが欠片。私の識別章になるのですね」
石から引き抜いた掌に、光り輝く鳥の卵程の小石が載っていました。本体と変わらない虹色の美しい光です。
直ぐ近くから覗き込んでいるレイシル様が、頷きながら微笑んでいます。
「鑑定石は見つかったようだな?」
声を掛けられて振り返ると、そこにはシルヴァ様とエーリック殿下の姿が。
「ああ。良い石が見つかった」
レイシル様がシルヴァ様にそう言うと、私の掌にある石をまじまじとご覧になりました。
「本当だ。美しくて、力も強い。流石だな」
「シュゼット。良かったね? これで君自身の識別章が作れるね?」
エーリック殿下もそう言って、私の鑑定石をご覧になっています。
「そう言えば、エーリック殿下の鑑定石は見たことありませんわよね? 識別章は成人したら作るっておっしゃっていましたけど」
確か、識別章の事を聞いた時、そう言っていましたけど。
「うん。鑑定石は欠片のままだよ。でも、君が識別章を作るなら私も作ろうかな?」
いつもの柔らかい笑みを浮かべました。そして、そのエーリック殿下の肩の辺りには、同じように柔らかく光る鑑定石が浮かんでいました。
「さて、それでは先代の鑑定石の最期を見届けよう。もうそろそろだろう」
レイシル様が金の杖でとんと床を突きました。
すると、ゆらゆらと空中に丸い水盤が現れました。
「シュゼット。指輪をその上に置いてみて?」
レイシル様に促されて、恐る恐る指輪をそっと置きました。指輪は水盤の上で、沈むことなく漂っています。
「シルヴァ殿、王太子殿の黒曜石は、本当にこのまま良いのか?」
「構わない。このまま先代の石と一緒に弔ってくれ。これで本当の意味で一緒になれる。それが二人の願いだろう」
どうやら、私の新しい鑑定石が見つかったので、役目を終えた先代の鑑定石とダリナス王太子の想いの込められた黒曜石の守護石を一緒に弔うという事です。
でも、どうやって?
「見届け人として、レイシル様からこの場所に招待された。本来だったら、私達は足を踏み入れることは出来ないのだけどね」
コソリとエーリック殿下が教えてくれました。確かに、私の事でもセドリック様の事でも、お二人には大変力になって頂きましたもの。
「それでは、鑑定石が生まれた場所に還そう。100年もの間、苦労をお掛けしてしまった。愛する方と共に、安らかに……」
音も無くその水盤は移動し、私達は水盤を囲むように採掘場所の縁に立ちます。
「光の識別者、セレニア様。安らかに王太子様とお眠りください。私を助けて下さり、ありがとうございました……」
私が言い終わると同時に、水盤に浮いていた指輪が淡く光を放ち、煙の様に光を噴き上げると、形を薄れさせながら滲むように滴り落ちました。
深い地の底で、再びこの世界に生まれ出るのを待つのでしょうか。
私の次の、光の識別者の為に……そうあって欲しいと、私の頬に一筋の涙が流れました。
「良い弔いだった。この場面に居合わせられた事に感謝する。我が王族の悲願だった」
シルヴァ様が跪いて、私の手にキスをされました。
鏡の様に磨き込まれた床の上、大小様々な鑑定石が沢山浮いているのが見えます。
「不思議な光景だ」
私の隣にはレイシル様。ここは、魔法科学省の地下にある鑑定石の保管室です。
「本当ですわね……」
レイシル様がホールの真ん中付近まで歩いて行きます。私もその後を静かに進みます。
「ここが、鑑定石の生まれる場所。採石場という所かな」
レイシル様が指差した先に、丸い穴が開いているのが見えます。鏡のような床にポカリと空間が空いているのです。覗き込めばそこは確かに採石場の様で、岩盤が暗く奥まで続いていました。でも、採掘している様には見えません。足場も工具も、働く人の気配も何も無いのです。
「ココ? ですか?」
ずっと地下深くまで続く深淵。そんな感じに見えて、私は思わず後退りをしました。
「鑑定石はここで生まれる。地下奥深く結晶して、この空間に生み出されるんだ。ここには現世に生きている、全ての魔法識別者の鑑定石がある」
「全ての魔法識別者の? 鑑定石ですか?」
周りにある鑑定石を見廻します。沢山ありますけど、全ての識別者と考えると、そこまで多いとは思えません。数えようと思えば、そこまで時間を掛けずに数えられてしまいそうですもの。
「識別章として加工している鑑定石は、ここにある各々の鑑定石本体から生み出された欠片だ」
すると、ひと際大きくて光の強い鑑定石が、ふわりと音も無くレイシル様の近くに漂ってきました。
「もしや、ソレが?」
「そう。コレが俺の鑑定石。ここに来れば、反応して近寄ってくる。それでだ、君の鑑定石を決めないと識別章も造れない」
へっ? 識別章? 先代の鑑定石を引き継いだのではないのですか? 流石にシルヴァ様が嵌めていたので私には大きいのでチェーンに通して首から下げています。
「あの、レイシル様? 先代のでは駄目なのですか?」
チェーンを引っ張って指輪を見せます。
「それって先代のでしょ。すでにこの場所に本体が無いんだ。
識別者が亡くなると、鑑定石は霧散してしまうんだ。役目を終えたとばかりにね。
多分、その鑑定石ももうすぐ消えると思う。次代の光の識別者の発現を待って、そしてその手に渡っている。まして、その指輪は君のサルベージで使っているから、ダリナス王太子の守護石によって姿を留めていたけど、もうその力も尽きかけているよ。消えるのも時間の問題。
だから、今日ここに来たんだ。君の新しい鑑定石を決めないとね」
チェーンの先の指輪は、硬質で黒曜石も鑑定石も頂いた時と変わらない様に見えています。
でも……
「君も気が付いていただろう? 君が魔法術の鍛錬を積めば積む程、力をコントロールできれば出来る程、ソレの力が薄れていくのを。今の君には感じているだろう?」
確かに。魔法術が少しずつ使える様になって、魔力の強弱が判るようになってから何となく感じていました。そして、今ではその力がほんの僅かになっている事も。
「でも、私の鑑定石は導入教育で溶けてしまったんですよね? 新しい鑑定石なんて簡単に見つけられるのでしょうか?」
ぐるっと周りを見廻して、後ろに振り向いた時です。
「うわっ!?」
すぐ後ろ。顔の高さに、ぶつかりそうな距離で浮かんでいる鑑定石‼
「な? すぐ判っただろ? 君の光の魔力に導かれて現れた。それが、君の鑑定石だ」
私の頭程ある鑑定石は、強い虹色に光り輝いています。つるりとしたその表面に指を当てると、私の鼓動に反応する様に光が瞬いています。
「コレが私の鑑定石……」
「美しい光だな。光の識別者に相応しい、良い石が見つかった。これで識別章を作ろう。シュゼット、両手を当てて魔力を流してみろ」
レイシル様に言われて、抱えるように両手を石に当て静かに魔力を流してみます。温かさが伝わって、まるで生き物のように鑑定石が熱くなりました。
「鑑定石の中に手を入れてみろ。欠片を取り出すことが出来る」
言われるままに右手を石に沿わせると、するりと中に吸い込まれるように指先が石に入り込み、握りしめると温かい欠片を手の中に感じました。
「コレが欠片。私の識別章になるのですね」
石から引き抜いた掌に、光り輝く鳥の卵程の小石が載っていました。本体と変わらない虹色の美しい光です。
直ぐ近くから覗き込んでいるレイシル様が、頷きながら微笑んでいます。
「鑑定石は見つかったようだな?」
声を掛けられて振り返ると、そこにはシルヴァ様とエーリック殿下の姿が。
「ああ。良い石が見つかった」
レイシル様がシルヴァ様にそう言うと、私の掌にある石をまじまじとご覧になりました。
「本当だ。美しくて、力も強い。流石だな」
「シュゼット。良かったね? これで君自身の識別章が作れるね?」
エーリック殿下もそう言って、私の鑑定石をご覧になっています。
「そう言えば、エーリック殿下の鑑定石は見たことありませんわよね? 識別章は成人したら作るっておっしゃっていましたけど」
確か、識別章の事を聞いた時、そう言っていましたけど。
「うん。鑑定石は欠片のままだよ。でも、君が識別章を作るなら私も作ろうかな?」
いつもの柔らかい笑みを浮かべました。そして、そのエーリック殿下の肩の辺りには、同じように柔らかく光る鑑定石が浮かんでいました。
「さて、それでは先代の鑑定石の最期を見届けよう。もうそろそろだろう」
レイシル様が金の杖でとんと床を突きました。
すると、ゆらゆらと空中に丸い水盤が現れました。
「シュゼット。指輪をその上に置いてみて?」
レイシル様に促されて、恐る恐る指輪をそっと置きました。指輪は水盤の上で、沈むことなく漂っています。
「シルヴァ殿、王太子殿の黒曜石は、本当にこのまま良いのか?」
「構わない。このまま先代の石と一緒に弔ってくれ。これで本当の意味で一緒になれる。それが二人の願いだろう」
どうやら、私の新しい鑑定石が見つかったので、役目を終えた先代の鑑定石とダリナス王太子の想いの込められた黒曜石の守護石を一緒に弔うという事です。
でも、どうやって?
「見届け人として、レイシル様からこの場所に招待された。本来だったら、私達は足を踏み入れることは出来ないのだけどね」
コソリとエーリック殿下が教えてくれました。確かに、私の事でもセドリック様の事でも、お二人には大変力になって頂きましたもの。
「それでは、鑑定石が生まれた場所に還そう。100年もの間、苦労をお掛けしてしまった。愛する方と共に、安らかに……」
音も無くその水盤は移動し、私達は水盤を囲むように採掘場所の縁に立ちます。
「光の識別者、セレニア様。安らかに王太子様とお眠りください。私を助けて下さり、ありがとうございました……」
私が言い終わると同時に、水盤に浮いていた指輪が淡く光を放ち、煙の様に光を噴き上げると、形を薄れさせながら滲むように滴り落ちました。
深い地の底で、再びこの世界に生まれ出るのを待つのでしょうか。
私の次の、光の識別者の為に……そうあって欲しいと、私の頬に一筋の涙が流れました。
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