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112. ガーデンパーティー
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「お嬢様、いよいよ明日ですわね」
大きく開かれた衣裳部屋には、トルソーに着せたパステルブルーのドレスが掛かっています。
王家主催の王宮庭園の改装記念のガーデンパーティー。長い期間を掛けて一新された庭園は、今の時期が一番素晴らしいと聞いています。ついにその公開記念のパーティーが行われるのです。
「そうね、あっという間だったわね」
実は今回のガーデンパーティーは、単に庭園のお披露目だけではありません。
何と言ってもメインは、第一王子であるフェリックス殿下とカテリーナ様との婚約発表なのですわ。
まあ、何と言うか紆余曲折? ありましたけど、明日正式に発表されることになりました。
婚約者候補であった私、ドロシア様、イザベラ様の3人は、婚約するお二人のお祝いをする為、王妃様から一足早くブライズメイドの役を賜って、3ヶ所あるという東屋でご招待客の案内をする事になりましたの。
「それにしても、さすが王妃様御用達のメゾンですわね? 何て美しいドレスなんでしょう。お嬢様にぴったりですわね?」
届いたドレスの皺を丁寧にアイロンで伸ばし、360度鋭い目で確認したマリは、漸く立ち上がって腰をうーんと伸ばしました。ああ、お疲れ様ですわ。
「ヘッドドレスはお揃いなのですよね? お嬢様のドレスのコンセプトは……」
「ブローディア」
初夏に咲く百合に似た青い可憐な花は、6枚の花弁で鮮やかな緑の葉が美しいのだそうです。私はまだ見たことが無いので、あくまでも王妃様からの受け売りですけど。この花を選んだ理由を伺いましたけど、にっこり微笑まれて答えを伺うことは出来ませんでした。因みにブローデイアの花言葉は『淡い恋』です。
「そうですわ。ブローディアですわ。あまり聞いた事は無いですけど、綺麗な響きですね。それに、花言葉が意味深で、何とも乙女心を揺さぶりますわね」
嬉しそうに明日の準備を終えたマリが、衣裳部屋の扉をパタンと閉めて振り返りました。最近、マリがとっても綺麗になった様に思うのですけど、それって気のせいでは無いですわよね?
「さあ、お嬢様。そろそろお二人がいらっしゃるお時間ですわ。お出迎えを致しましょう?」
今日はこれから、ドロシア様とイザベラ様がいらっしゃるのです。王妃様のお茶会にお招き頂いた時から、話がしたいと言われていました。でも、学院に復帰してからバザーだ仮縫いだ、やれアクセサリー選びだとか落ち着かない上に、魔法科学省での講義も続いていたので、なかなか時間が取れませんでしたけど、ようやっとお二人をお招きすることが出来たのです。
「そうね、行きましょう。マカロンも準備出来ていて?」
以前お持ちしたマカロンは、イザベラ様が大層気に入って下さいました。
「はい。勿論でございます。新作のフルーツタルトもご用意していますよ」
マリの答えに満足して玄関まで歩きます。きっとお二人供喜んで下さるでしょう。
「で、シュゼット様はローナ様の事をご存じなんでしょう?」
挨拶もそこそこに、イザベラ様が口を開きました。多分お二人からしたら一番知りたい所でしょうね。結局ローナ様は、礼拝堂で倒れてから一度も学院に来る事はありませんでした。
ロイ様によると、体調を崩し、というか精神的に弱ってしまったので、当初より早くご領地で静養する事に踏み切ったそうです。食欲も落ちて不眠症気味になってしまったので、豊かな自然に囲まれた田舎の領地で心と身体を休めるのですって。確かに、環境を変えることは良いと思います。
「ええ。体調を崩してしまいご領地で静養すると伺いましたけど……」
あったこと全てを打ち明ける必要はありませんよね。
「それって、婚約者候補制度の撤廃のせいかしら? カリノ家の事だから、いち早くその情報を掴んで、それを聞いたローナ様がショックを受けたのよ。だって、彼女の世界はフェリックス殿下だけでしたもの? そう思わなくて?」
ピンクのマカロンを口に運びながら、イザベラ様がチラリと目線を寄越しました。
「そうですわね。それが一番尤もらしいですわ」
静かにドロシア様がお茶を飲んでから答えました。
「でも、偶然にもシュゼット様が学院をお休みになった日に、セドリック様とローナ様が早退されたのよ? そして、翌日からお二人供お休みになった。これって、偶然ですの?」
さすがドロシア様です。そうですよね? ほぼ同時に3人のクラスメイトが休んでるのですもの。
「シュゼット様、私達は真実を知りたい訳では無いの。私達の人生が、自分以外の何者かに大きく左右されるのは承知しているわ。だから、尚更その力に巻き込まれて自分を見失わない様にしたいのよ。だって、何があろうと自分の人生は自分の物ですもの」
「自分の人生は、自分のもの。ですか……そう、ですわね」
ドロシア様の言葉に一人納得して呟きました。
「ローナ様も、元気になってくれればイイケド」
イザベラ様がもう一つ、マカロンを口に放り込みました。
「大丈夫だと思います。療養が終わったら、音楽学校に行くとおっしゃっていたようですから」
ピアノが弾きたいというローナ様の希望は、ご自分で選んだ音楽家への道です。
「そう。音楽を……ご自分で決めたのなら良かったわ」
目を伏せたドロシア様が噛み締める様に言うと、聞いていたイザベラ様も大きく頷きました。
「ところで、シュゼット様、変わったのはローナ様だけではありませんわよ。セドリック様とエーリック殿下。お二人供随分表情が柔らかくなったと思いません事? 特にセドリック様。何だか素敵になった様な? ねえ、そう思いません?」
イザベラ様が私に向かって、意味深な目線を向けました。うっ。何でしょう。い、いたたまれません。気のせいでしょうか?
「シュゼット様? 何か、あったでしょう?」
気のせいではありませんでした。私は少し焦りつつ何とか別な方向に話を向けようと、聞いてみたかった事をイザベラ様に尋ねてみました。
「と、ところでお二人は婚約者候補制度、側室制度が無くなって宜しかったのですか? 思惑と随分予定が変わってしまったのではないですか?」
少し遠慮しながら聞いてみます。だって、高位貴族の勢力分布についてお家を背負っていたり、お家の事情も考えていたのですから。
「ああ、その事ね? 大丈夫よ。カテリーナ様がお妃になるので随分変わったわ。側室なんて置かないで済むならその方が良いしね。というところで、私、婚約者が決まりましたの」
「はあっ⁉」
イザベラ様がするっと吐きました。婚約者が決まった!? 一体誰ですか?
「オーランド様です。ゆくゆくは近衛騎士団の団長でしょう? 我が家にぴったりの人材ですわ。それに、剣術で私と勝負が出来る方なんて、あの方ぐらいですもの」
確かに武闘派のイザベラ様にはぴったりです。ほーっと感心して溜息が出ましたわ。
「私も現在攻略中ですわ」
ドロシア様がシレっと言いましたよ?
「ええ。カリノ侯爵家ですわ。ロイ様狙いです」
物凄い笑顔でドロシア様が微笑みました。凄みのあるその笑顔に、私とイザベラ様は顔を見合わせました。
「「「「ぷーっ!!」」」
一瞬の間の後、私達3人は堪えきれずに笑い出しました。
ええ。色んな何かを吹っ切る様に、大笑いしたのです。
晴れ渡る空の下、多くの来賓で騒めく庭園。
咲き誇る花々は、見事に建物に調和してまるで絵画のように見えます。
「さあ、皆様こちらにお飲み物をご用意しておりますので、どうぞ?」
私は担当した東屋の白いポーチの前で皆様に声を掛けます。沢山の色とりどりのオードブルや綺麗なデザート。硝子のグラスや銀のカトラリーが青いブローデイアの花に映えます。
「やあ、シュゼット。いい天気で良かったね? そのドレスも凄く似合って素敵だよ」
エーリック殿下が昼の正装でご挨拶して下さいました。白いジャケットと紫色のタイやサッシュが良くお似合いです。黒髪も艶々で、太陽の光を浴びてキラッキラです。眼福ですわね!!
「やっぱり君にはそのブルーが似合うな。以前も着ていたな? 確か……」
「歌劇場ですわ。セドリック様」
確か歌劇場に行った時、同じようなパステルブルーのドレスを着ていたのです。あの時、酔っぱらってご迷惑をお掛けしたような? よく覚えていませんけど……
「うん。そうだった。歌劇場で会った時だったな」
お客様達はそれぞれに庭園を散策します。少し周りに人がいなくなった時に、セドリック様がコホンと咳ばらいをしました。
「?」
既にセドリック様は、車椅子も松葉杖もお使いにならなくとも歩けるようになりました。何でも、このガーデンパーティーで、私をエスコートして下さるとか? それを励みにリハビリをして下さったのですけど、東屋からほとんど動けないことを知って、凄ーく残念がっていました。
「君が歌劇場で、私に何をしたか覚えてる?」
げっ。今それを言いますか?
「うっ。お、覚えていないです。ごめんなさい…‥」
段々声が小さくなってしまいます。だって、本当に覚えていないのですもの。
「そうか。なら、教えてやろう」
セドリック様がそう言うと、私の頬を優しく両手で挟みました。突然の事に固まってしまった私に、
『あら、こんなところに黒子がありますのね』
そう言って、風で靡いた髪を払ってくれました。そして、右目の辺りをスルっと撫でました。
「!!!!!!!!!!!!」
「君がやった通りだよ? 驚いた?」
そ、そ、そんな大胆な事をしたのですか!? 顔から火が出そうです! イヤ、出てますよ!!
「あれ、シュゼット? 顔が真っ赤だよ? どうしたの?」
お客様とご挨拶していたエーリック殿下が気付いて声を掛けて下さいました。でも、でもですね? 私の心臓はバクバクですよっ。
「おい、セド。お前、シュゼットに何かしたのか?」
訝しそうに尋ねるエーリック様に、セドリック様が別に何も。と答えます。いつから、こんな大胆なことが出来る様になったのでしょう!?
「セドリック。お前、やっぱり打ち所が悪かったな」
「本当だね。君のキャラはそう言うのではないと思っていたけどね?」
聞き慣れた声は、シルヴァ様とレイシル様です。当たり前ですけど、お二人もご招待されていました。でも、皆さん何も同時に集まって来なくても良いと思います。
心臓が持ちません!!
「あら、ここにお集まりでしたのね?」
そこに艶やかな声が響きました。
ええ。今日の主役のお一人、カテリーナ様がフェリックス殿下と共にいらっしゃいました。
「カテリーナ様!」「フェリックス殿」
薔薇色のドレスを着たカテリーナ様と、白地に金色の縫い取りが繊細な正装のフェリックス殿下です。
「賑やかだと思ったら、皆さんここにいらっしゃたのね? あら、シュゼットどうしたの? お顔が真っ赤よ? 誰かに意地悪でもされたのかしら?」
茶目っ気たっぷりにカテリーナ様が皆様を見廻します。さすがに未来のお妃様に誰も反論は出来ませんわね? 気まずそうに目を逸らしたり、咳払いをして誤魔化そうとしていますわ。ええ、セドリック様も同じです。
「カテリーナ様、私の事は大丈夫です。それより、フェリックス殿下、カテリーナ様、今日はご婚約おめでとうございます。家臣として、心よりお祝い申し上げます」
私がカーテシーで深く頭を下げると、周りにいた皆様も礼を執ってお二人にご挨拶しました。
大好きなカテリーナ様のお祝いですもの。心を込めて礼を執ります。
「ありがとう、シュゼット。そのドレスも良く似合っていてよ。今日はブライズメイド宜しくね?」
フェリックス殿下にエスコートされたカテリーナ様。まるで一枚の絵の様に美しいお二人は、見ているこちらが嬉しくなるような笑顔です。
「私達は幸せになるよ。私がカテリーナを護る。君達の大切な姫だからね」
フェリックス殿下が晴れ晴れとした表情でそう言うと、カテリーナ様の瞳がうるっとなったのが判りました。
そうですね、カテリーナ様も婚約者候補と側室制度に心を痛めた一人でした。
私達は、今、15歳なのです。
°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
本編はあと1話です。その後番外編を4話同時投稿致します。
大きく開かれた衣裳部屋には、トルソーに着せたパステルブルーのドレスが掛かっています。
王家主催の王宮庭園の改装記念のガーデンパーティー。長い期間を掛けて一新された庭園は、今の時期が一番素晴らしいと聞いています。ついにその公開記念のパーティーが行われるのです。
「そうね、あっという間だったわね」
実は今回のガーデンパーティーは、単に庭園のお披露目だけではありません。
何と言ってもメインは、第一王子であるフェリックス殿下とカテリーナ様との婚約発表なのですわ。
まあ、何と言うか紆余曲折? ありましたけど、明日正式に発表されることになりました。
婚約者候補であった私、ドロシア様、イザベラ様の3人は、婚約するお二人のお祝いをする為、王妃様から一足早くブライズメイドの役を賜って、3ヶ所あるという東屋でご招待客の案内をする事になりましたの。
「それにしても、さすが王妃様御用達のメゾンですわね? 何て美しいドレスなんでしょう。お嬢様にぴったりですわね?」
届いたドレスの皺を丁寧にアイロンで伸ばし、360度鋭い目で確認したマリは、漸く立ち上がって腰をうーんと伸ばしました。ああ、お疲れ様ですわ。
「ヘッドドレスはお揃いなのですよね? お嬢様のドレスのコンセプトは……」
「ブローディア」
初夏に咲く百合に似た青い可憐な花は、6枚の花弁で鮮やかな緑の葉が美しいのだそうです。私はまだ見たことが無いので、あくまでも王妃様からの受け売りですけど。この花を選んだ理由を伺いましたけど、にっこり微笑まれて答えを伺うことは出来ませんでした。因みにブローデイアの花言葉は『淡い恋』です。
「そうですわ。ブローディアですわ。あまり聞いた事は無いですけど、綺麗な響きですね。それに、花言葉が意味深で、何とも乙女心を揺さぶりますわね」
嬉しそうに明日の準備を終えたマリが、衣裳部屋の扉をパタンと閉めて振り返りました。最近、マリがとっても綺麗になった様に思うのですけど、それって気のせいでは無いですわよね?
「さあ、お嬢様。そろそろお二人がいらっしゃるお時間ですわ。お出迎えを致しましょう?」
今日はこれから、ドロシア様とイザベラ様がいらっしゃるのです。王妃様のお茶会にお招き頂いた時から、話がしたいと言われていました。でも、学院に復帰してからバザーだ仮縫いだ、やれアクセサリー選びだとか落ち着かない上に、魔法科学省での講義も続いていたので、なかなか時間が取れませんでしたけど、ようやっとお二人をお招きすることが出来たのです。
「そうね、行きましょう。マカロンも準備出来ていて?」
以前お持ちしたマカロンは、イザベラ様が大層気に入って下さいました。
「はい。勿論でございます。新作のフルーツタルトもご用意していますよ」
マリの答えに満足して玄関まで歩きます。きっとお二人供喜んで下さるでしょう。
「で、シュゼット様はローナ様の事をご存じなんでしょう?」
挨拶もそこそこに、イザベラ様が口を開きました。多分お二人からしたら一番知りたい所でしょうね。結局ローナ様は、礼拝堂で倒れてから一度も学院に来る事はありませんでした。
ロイ様によると、体調を崩し、というか精神的に弱ってしまったので、当初より早くご領地で静養する事に踏み切ったそうです。食欲も落ちて不眠症気味になってしまったので、豊かな自然に囲まれた田舎の領地で心と身体を休めるのですって。確かに、環境を変えることは良いと思います。
「ええ。体調を崩してしまいご領地で静養すると伺いましたけど……」
あったこと全てを打ち明ける必要はありませんよね。
「それって、婚約者候補制度の撤廃のせいかしら? カリノ家の事だから、いち早くその情報を掴んで、それを聞いたローナ様がショックを受けたのよ。だって、彼女の世界はフェリックス殿下だけでしたもの? そう思わなくて?」
ピンクのマカロンを口に運びながら、イザベラ様がチラリと目線を寄越しました。
「そうですわね。それが一番尤もらしいですわ」
静かにドロシア様がお茶を飲んでから答えました。
「でも、偶然にもシュゼット様が学院をお休みになった日に、セドリック様とローナ様が早退されたのよ? そして、翌日からお二人供お休みになった。これって、偶然ですの?」
さすがドロシア様です。そうですよね? ほぼ同時に3人のクラスメイトが休んでるのですもの。
「シュゼット様、私達は真実を知りたい訳では無いの。私達の人生が、自分以外の何者かに大きく左右されるのは承知しているわ。だから、尚更その力に巻き込まれて自分を見失わない様にしたいのよ。だって、何があろうと自分の人生は自分の物ですもの」
「自分の人生は、自分のもの。ですか……そう、ですわね」
ドロシア様の言葉に一人納得して呟きました。
「ローナ様も、元気になってくれればイイケド」
イザベラ様がもう一つ、マカロンを口に放り込みました。
「大丈夫だと思います。療養が終わったら、音楽学校に行くとおっしゃっていたようですから」
ピアノが弾きたいというローナ様の希望は、ご自分で選んだ音楽家への道です。
「そう。音楽を……ご自分で決めたのなら良かったわ」
目を伏せたドロシア様が噛み締める様に言うと、聞いていたイザベラ様も大きく頷きました。
「ところで、シュゼット様、変わったのはローナ様だけではありませんわよ。セドリック様とエーリック殿下。お二人供随分表情が柔らかくなったと思いません事? 特にセドリック様。何だか素敵になった様な? ねえ、そう思いません?」
イザベラ様が私に向かって、意味深な目線を向けました。うっ。何でしょう。い、いたたまれません。気のせいでしょうか?
「シュゼット様? 何か、あったでしょう?」
気のせいではありませんでした。私は少し焦りつつ何とか別な方向に話を向けようと、聞いてみたかった事をイザベラ様に尋ねてみました。
「と、ところでお二人は婚約者候補制度、側室制度が無くなって宜しかったのですか? 思惑と随分予定が変わってしまったのではないですか?」
少し遠慮しながら聞いてみます。だって、高位貴族の勢力分布についてお家を背負っていたり、お家の事情も考えていたのですから。
「ああ、その事ね? 大丈夫よ。カテリーナ様がお妃になるので随分変わったわ。側室なんて置かないで済むならその方が良いしね。というところで、私、婚約者が決まりましたの」
「はあっ⁉」
イザベラ様がするっと吐きました。婚約者が決まった!? 一体誰ですか?
「オーランド様です。ゆくゆくは近衛騎士団の団長でしょう? 我が家にぴったりの人材ですわ。それに、剣術で私と勝負が出来る方なんて、あの方ぐらいですもの」
確かに武闘派のイザベラ様にはぴったりです。ほーっと感心して溜息が出ましたわ。
「私も現在攻略中ですわ」
ドロシア様がシレっと言いましたよ?
「ええ。カリノ侯爵家ですわ。ロイ様狙いです」
物凄い笑顔でドロシア様が微笑みました。凄みのあるその笑顔に、私とイザベラ様は顔を見合わせました。
「「「「ぷーっ!!」」」
一瞬の間の後、私達3人は堪えきれずに笑い出しました。
ええ。色んな何かを吹っ切る様に、大笑いしたのです。
晴れ渡る空の下、多くの来賓で騒めく庭園。
咲き誇る花々は、見事に建物に調和してまるで絵画のように見えます。
「さあ、皆様こちらにお飲み物をご用意しておりますので、どうぞ?」
私は担当した東屋の白いポーチの前で皆様に声を掛けます。沢山の色とりどりのオードブルや綺麗なデザート。硝子のグラスや銀のカトラリーが青いブローデイアの花に映えます。
「やあ、シュゼット。いい天気で良かったね? そのドレスも凄く似合って素敵だよ」
エーリック殿下が昼の正装でご挨拶して下さいました。白いジャケットと紫色のタイやサッシュが良くお似合いです。黒髪も艶々で、太陽の光を浴びてキラッキラです。眼福ですわね!!
「やっぱり君にはそのブルーが似合うな。以前も着ていたな? 確か……」
「歌劇場ですわ。セドリック様」
確か歌劇場に行った時、同じようなパステルブルーのドレスを着ていたのです。あの時、酔っぱらってご迷惑をお掛けしたような? よく覚えていませんけど……
「うん。そうだった。歌劇場で会った時だったな」
お客様達はそれぞれに庭園を散策します。少し周りに人がいなくなった時に、セドリック様がコホンと咳ばらいをしました。
「?」
既にセドリック様は、車椅子も松葉杖もお使いにならなくとも歩けるようになりました。何でも、このガーデンパーティーで、私をエスコートして下さるとか? それを励みにリハビリをして下さったのですけど、東屋からほとんど動けないことを知って、凄ーく残念がっていました。
「君が歌劇場で、私に何をしたか覚えてる?」
げっ。今それを言いますか?
「うっ。お、覚えていないです。ごめんなさい…‥」
段々声が小さくなってしまいます。だって、本当に覚えていないのですもの。
「そうか。なら、教えてやろう」
セドリック様がそう言うと、私の頬を優しく両手で挟みました。突然の事に固まってしまった私に、
『あら、こんなところに黒子がありますのね』
そう言って、風で靡いた髪を払ってくれました。そして、右目の辺りをスルっと撫でました。
「!!!!!!!!!!!!」
「君がやった通りだよ? 驚いた?」
そ、そ、そんな大胆な事をしたのですか!? 顔から火が出そうです! イヤ、出てますよ!!
「あれ、シュゼット? 顔が真っ赤だよ? どうしたの?」
お客様とご挨拶していたエーリック殿下が気付いて声を掛けて下さいました。でも、でもですね? 私の心臓はバクバクですよっ。
「おい、セド。お前、シュゼットに何かしたのか?」
訝しそうに尋ねるエーリック様に、セドリック様が別に何も。と答えます。いつから、こんな大胆なことが出来る様になったのでしょう!?
「セドリック。お前、やっぱり打ち所が悪かったな」
「本当だね。君のキャラはそう言うのではないと思っていたけどね?」
聞き慣れた声は、シルヴァ様とレイシル様です。当たり前ですけど、お二人もご招待されていました。でも、皆さん何も同時に集まって来なくても良いと思います。
心臓が持ちません!!
「あら、ここにお集まりでしたのね?」
そこに艶やかな声が響きました。
ええ。今日の主役のお一人、カテリーナ様がフェリックス殿下と共にいらっしゃいました。
「カテリーナ様!」「フェリックス殿」
薔薇色のドレスを着たカテリーナ様と、白地に金色の縫い取りが繊細な正装のフェリックス殿下です。
「賑やかだと思ったら、皆さんここにいらっしゃたのね? あら、シュゼットどうしたの? お顔が真っ赤よ? 誰かに意地悪でもされたのかしら?」
茶目っ気たっぷりにカテリーナ様が皆様を見廻します。さすがに未来のお妃様に誰も反論は出来ませんわね? 気まずそうに目を逸らしたり、咳払いをして誤魔化そうとしていますわ。ええ、セドリック様も同じです。
「カテリーナ様、私の事は大丈夫です。それより、フェリックス殿下、カテリーナ様、今日はご婚約おめでとうございます。家臣として、心よりお祝い申し上げます」
私がカーテシーで深く頭を下げると、周りにいた皆様も礼を執ってお二人にご挨拶しました。
大好きなカテリーナ様のお祝いですもの。心を込めて礼を執ります。
「ありがとう、シュゼット。そのドレスも良く似合っていてよ。今日はブライズメイド宜しくね?」
フェリックス殿下にエスコートされたカテリーナ様。まるで一枚の絵の様に美しいお二人は、見ているこちらが嬉しくなるような笑顔です。
「私達は幸せになるよ。私がカテリーナを護る。君達の大切な姫だからね」
フェリックス殿下が晴れ晴れとした表情でそう言うと、カテリーナ様の瞳がうるっとなったのが判りました。
そうですね、カテリーナ様も婚約者候補と側室制度に心を痛めた一人でした。
私達は、今、15歳なのです。
°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
本編はあと1話です。その後番外編を4話同時投稿致します。
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その瞬間、私は全てを思い出した。
私が前世ではただの手芸とゲームが好きなインドア派女子大生だったこと。そして、ゲーム世界に転生して尚も趣味は変わらず、ライバルキャラですらないモブになってしまっていたことを。
幼い頃に一度出会ったきりの初恋の彼と学園で再会出来たらなぁ、なんて淡い期待を抱いて通っていたのに、道理で卒業式までなんにも起きなかったわけだ。
ーーなんて、ひとり納得していたら。
何故だが私が悪役令嬢の断罪イベントの目撃者として名指しされ、一気に渦中の人物に!?
更に、王太子以外の男性陣は皆様悪役令嬢に骨抜き。なので自然と私には、彼女の潔白に繋がる証言が求められる。
しかしながら、私は肝心の事件の日の記憶が訳あって曖昧だったので、致し方なく記憶を呼び覚ます治療を受けさせられる羽目に。
タイムリミットは1年間。
その1年間の私への護衛につけられたのは、悪役令嬢に心奪われた初恋の彼でした。
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