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113. 誓いの丘
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王立学院の時計塔の鐘が、大きく鳴り渡ります。
「君達の未来に、幸多かれ!」
学院長の声に、卒業生たちの歓声が一際大きく響きました。そして、胸を飾っていた白薔薇の花飾りが、青空を覆うように宙を舞います。
「卒業おめでとう!」
そこかしこで聞こえるお祝いの言葉。家族や後輩に囲まれて、幾つもの人の輪が庭園を彩っています。 そして、賑やかな笑い声と、抑えた様な泣き声、喜びの陰に隠れる寂しさと悲しさの空気が、辺りに溢れているように感じます。
「皆様、ご卒業おめでとうございます」
「ええ。貴女もね。今までありがとう。これからも宜しくね」
フェリックス殿下の隣で、カテリーナ様が笑顔で応えてくれました。
お二人が正式な婚約者になって、もうすぐ3年になろうとしています。卒業式の後、直ぐにご成婚式が行われる事になっています。順調に進んでいるお妃様教育の賜物か、ここ一、二年のカテリーナ様は生来持っていたお美しさに、更に内面の美しさが加わったのでしょう。誰もが目を見張る女性になられました。ええ。数年前までイノシシ娘。なんて言われて(コホン! 失礼)いたのが嘘の様です。
「フェリックス殿下も、答辞、ご立派でございました。色々思い出されて感動してしまいました」
フェリックス殿下は、生徒を代表して答辞を述べられましたの。堂々として、感動できる素晴らしい内容で、実はとっても感心してしまいました。さすが次期国王ですわね。
「そうかな? ありがとう。シュゼット、君もおめでとう」
フェリックス殿下も大人っぽくなりましたよ。長い銀髪もグリーントルマリンの瞳もそのままですけど、精悍な感じがします。少年の華奢さが無くなって、立派な青年王族になられました。
もう、お二人が並ぶと色のコントラストもバッチりで、お似合いなんですわ。眼福です。
「ここにいたのか、シュゼット」
エーリック殿下とセドリック様です。お二人供、背後に沢山の後輩の女子生徒を連れています。意図してそうしている訳では無いのでしょうけど。
「お二人供、おめでとうございます……随分と後ろが賑やかそうですけど?」
ちらりと目線を後ろに向けて、お二人にご挨拶し……
「「「きゃぁ!!」」」
歓声が上がりました。な、何ですの?
「君のファンもいるんだよ。君に近づきたくて、私達はダシに使われているんだ。ほら、手を振ってごらんよ」
エーリック殿下にそう言われて、小さく後輩たちに手を振ってみました。
「「「きゃぁああああ!!」」」
さっきより大きな歓声が上がりましたわ。マジですか? 何で私に? こわっ!
思わず後退りします。
「全く。どこに行っても君は人気者だな。さすが私が認めたライバルだな。美しくて、可愛らしくて、頭も良いし、気立ても良い。それに何と言っても優しくて癒される。こんな女性なら人気者でも仕方ないな!!」
セドリック様のいつもの変な誉め言葉。ああ、聞いている方が恥ずかしいですわ! 頼みますから、それ止めて頂けませんか?
エーリック殿下とセドリック様が、優しく微笑んでくれます。お二人供随分背が伸びて、以前の様に偶然にも髪や頬を触る事なんて出来なくなりました(汗)。
エーリック殿下はお人形の様な可憐な美しさから、中性的な雰囲気はあるものの、スッキリとした凛々しさを纏われるようになりました。本当に王子様です。本当の王子様がここにいますわよ!!(確かに本物の王子様ですけどね)
セドリック様も随分と大人っぽくなりました。アッシュブロンドの髪は、今では長く伸ばした前髪を後ろに流して一つに結んでいるのです。
その為、あの特徴的なアイスブルーの瞳が全開で見えるのですわ。勿論、右の目元にある黒子も見えます。実はそれがとてもセクシー? だと一部の女生徒達に騒がれていました。
怪我が治ってからは、苦手な運動や体力作りにも励んでいました。そのお陰か、今では体格もがっちりした様に思います。幾ら結界の影響があったとはいえ、女の子を支えられず自分が落っこちた事にショックを受けた結果ですって。
「君達、卒業おめでとう」
涼やかな声と不思議な音色の杖、白に金色刺繍の眩しいローブ姿。光を浴びた超ロングヘアのレイシル様です。数人の神官様達を後ろに引き連れての登場です。
「ありがとうございます。今日は、神官長のお姿ですね?」
エーリック殿下が、皆を代表するようにお礼を述べて下さいます。レイシル様は、変わらずお美しいです。ええ、全く見た目はお変わりありません。この方は年をとらないのでしょうか。確かに身長は高くなっていますし、髪もずっと長くなっていますけどね。
ただ、以前感じていた、敢えて作っていたような雰囲気や、乱暴で粗雑な言葉遣い、所作などがガラリと変わりました。神官長で魔法科学省の重鎮に相応しい振る舞いになったそうです。カイル様が泣いて喜んでいました。
でも、完全に変わったのかは判りませんよ? 少なくとも私の前ではね?
「皆ここにいたのか。皆集まっているのなら良かった。卒業おめでとう」
「シルヴァ様」
声のした先には、魔法科学省のライトグレーの式服であるローブ姿のお二人が。
はい。シルヴァ様とカイル様です。
シルヴァ様は、今では魔法科学省でレイシル様と共に研究に勤しんでいらっしゃいます。元々、ご自分の事にあまり関心を持っていない様に見えましたけど、ダリナスの王位継承権を返上してから随分雰囲気が変わりました。ご自分の思う事ややりたい事を、はっきりと言ったりやったり出来ているみたい。
ご本人曰く、枷が一つ無くなって身軽になった。とのことです。
よく笑うようになったし、良い傾向だと思います。
「じゃあ、皆、次にお会いするのは結婚式ね? シュゼット、今度は本物のブライズメイドを宜しくね?」
晴れやかに微笑むカテリーナ様に、私も笑顔で頷いたのです。
◇◇◇◇◇◇
「はあ、ここです。ここに来たかったの」
目の前に広がる広大な草原。青々とした草が、まるで海の様に波打っています。
いつか見たと同じ、寄せては返す草の波がずっと先まで続いているのです。
「本当に海の様ですね」
馬の背を降りるのに、手を貸して貰います。肩に手を載せると逞しい温かさを感じて、思わず微笑んでしまいました。
「どうして笑っているかですか? ふふ、どうしてでしょうね?」
今日は無理を言ってここに来ました。ダリナスとの国境近くまで続く大草原。先代の光の識別者、セレニア様の名に因んで、草原を見渡せるこの丘が『セレニアの丘』と新たに名付けられましたので。
「気持ちが良いですね。前に来た時はやっぱり草原でしたから、次は是非花の咲く時期に来たかったのですけど……まだ早かったみたいです」
隣に立つ彼の手を引っ張って、丘の一番高い所に向かいます。
「まあ! 何て見晴らしが良いの!! ずーっと向こうまで見渡せますね!」
そう言って隣を見上げます。綺麗な横顔に、髪がさらさらと靡いています。私の視線に気付いて、優しく目を細めて頷いてくれます。
引っ張ってきた手を今度はしっかりと繫いで寄り添います。
「そうだわ。貴方には言ってなかったことがあるの」
ふと思い出しました。
「私ね、コレールに戻って来た時、悪役令嬢になったつもりで帰って来たの。フェリックス殿下やローナ様、私を笑った方々に仕返ししようと思ってたのよ?
でもね、残念ながら無理だったわ。だって、皆さん優しい方ばかりだったし、気持ちを知ったり交わし合ったら意地悪も仕返しも出来なかったの。私に、悪役令嬢は荷が重かったのね?」
私の告白に、貴方は声を殺して笑いを我慢しています。良いのですよ? 私の悪役令嬢を想像したのでしょう?
暫く堪えていましたが、想像した悪役令嬢姿に、耐えられず……耐えられず、ついに二人して笑ってしまいました。
なんて、幸せな温かい気持ちでしょう。
「100年変わらないセレニア様が思いを込めたこの草原に、私は貴方とこれからの人生を歩むことを報告に来たの」
そうです。新たな人生の門出を、人生を変えるきっかけとなった人に報告したかったのです。
「ここで門出を誓ったら、100年変わらない想いになるかしら?」
ゆっくり振り返って彼を見上げると、繋いだ手を持ち上げてキスを……指先にキスをしてくれました。
指に光る指輪には、彼の瞳の色の石が輝いています。そして、その石の周りを小さな私の鑑定石が囲んでいます。
虹色に輝く私の鑑定石が緩やかに光を放ち始めました。
「ああ。これならセレニア様に届くかもしれません」
私は彼の手ごと指輪を額に掲げて目を閉じ、光の魔力を注ぎ込んでいきます。
温かなぬくもりが額から全身に降りて行くのが判ります。そして、その温かさは虹色の光と共に丘から草原に広がって行くのが感じられます。
「もっと、もっと先まで。この国に、この世界に幸あるように。セレニア様、私はこの方と共に生きて行きます」
ぶわっと一気に辺りが眩しく光りました。瞼を閉じていても感じられる強い煌めきでした。
目を開けると……
「ああ! 花が、花が開いているわ!!」
ずっと先の草原の色が、草原の色が海色に変わっているのです。その色は、本当に波の様に風に靡きながら、青い花を開いているのです。
あれよという間に、足元近くまで青い花が開いて、辺り一面が本当に海原の様になったのです。
風に靡く海。花弁の裏が白いので、風で靡くたびに波打つ泡の白さに見えるのです。
「海です。本当に海の様ですね。これは、セレニア様も私の魔法を受け入れて下さった。という事でしょうか?」
さっきまで堅い蕾だった花が、今は満開に開いています。一陣の風に大きく草原が波打つと、その後は優しい風が渡っています。
「そう、みたいですね」
同意を求めた私に、返事代わりに背中から包むように抱き締めてくれた貴方。
愛していると囁かれて、包まれる温かな胸の中が、どんなに安心できるのか。ようやっと判ったような気がします。
「ええ。私も愛してい……!」
急かされて言った大事な言葉は、貴方の名前を言う前に途切れてしまいました。
貴方の唇で遮られましたから。
私達は、初めてキスを交わしたのです。
青い海の草原で。
100年振りの祝福の中で。
終
「君達の未来に、幸多かれ!」
学院長の声に、卒業生たちの歓声が一際大きく響きました。そして、胸を飾っていた白薔薇の花飾りが、青空を覆うように宙を舞います。
「卒業おめでとう!」
そこかしこで聞こえるお祝いの言葉。家族や後輩に囲まれて、幾つもの人の輪が庭園を彩っています。 そして、賑やかな笑い声と、抑えた様な泣き声、喜びの陰に隠れる寂しさと悲しさの空気が、辺りに溢れているように感じます。
「皆様、ご卒業おめでとうございます」
「ええ。貴女もね。今までありがとう。これからも宜しくね」
フェリックス殿下の隣で、カテリーナ様が笑顔で応えてくれました。
お二人が正式な婚約者になって、もうすぐ3年になろうとしています。卒業式の後、直ぐにご成婚式が行われる事になっています。順調に進んでいるお妃様教育の賜物か、ここ一、二年のカテリーナ様は生来持っていたお美しさに、更に内面の美しさが加わったのでしょう。誰もが目を見張る女性になられました。ええ。数年前までイノシシ娘。なんて言われて(コホン! 失礼)いたのが嘘の様です。
「フェリックス殿下も、答辞、ご立派でございました。色々思い出されて感動してしまいました」
フェリックス殿下は、生徒を代表して答辞を述べられましたの。堂々として、感動できる素晴らしい内容で、実はとっても感心してしまいました。さすが次期国王ですわね。
「そうかな? ありがとう。シュゼット、君もおめでとう」
フェリックス殿下も大人っぽくなりましたよ。長い銀髪もグリーントルマリンの瞳もそのままですけど、精悍な感じがします。少年の華奢さが無くなって、立派な青年王族になられました。
もう、お二人が並ぶと色のコントラストもバッチりで、お似合いなんですわ。眼福です。
「ここにいたのか、シュゼット」
エーリック殿下とセドリック様です。お二人供、背後に沢山の後輩の女子生徒を連れています。意図してそうしている訳では無いのでしょうけど。
「お二人供、おめでとうございます……随分と後ろが賑やかそうですけど?」
ちらりと目線を後ろに向けて、お二人にご挨拶し……
「「「きゃぁ!!」」」
歓声が上がりました。な、何ですの?
「君のファンもいるんだよ。君に近づきたくて、私達はダシに使われているんだ。ほら、手を振ってごらんよ」
エーリック殿下にそう言われて、小さく後輩たちに手を振ってみました。
「「「きゃぁああああ!!」」」
さっきより大きな歓声が上がりましたわ。マジですか? 何で私に? こわっ!
思わず後退りします。
「全く。どこに行っても君は人気者だな。さすが私が認めたライバルだな。美しくて、可愛らしくて、頭も良いし、気立ても良い。それに何と言っても優しくて癒される。こんな女性なら人気者でも仕方ないな!!」
セドリック様のいつもの変な誉め言葉。ああ、聞いている方が恥ずかしいですわ! 頼みますから、それ止めて頂けませんか?
エーリック殿下とセドリック様が、優しく微笑んでくれます。お二人供随分背が伸びて、以前の様に偶然にも髪や頬を触る事なんて出来なくなりました(汗)。
エーリック殿下はお人形の様な可憐な美しさから、中性的な雰囲気はあるものの、スッキリとした凛々しさを纏われるようになりました。本当に王子様です。本当の王子様がここにいますわよ!!(確かに本物の王子様ですけどね)
セドリック様も随分と大人っぽくなりました。アッシュブロンドの髪は、今では長く伸ばした前髪を後ろに流して一つに結んでいるのです。
その為、あの特徴的なアイスブルーの瞳が全開で見えるのですわ。勿論、右の目元にある黒子も見えます。実はそれがとてもセクシー? だと一部の女生徒達に騒がれていました。
怪我が治ってからは、苦手な運動や体力作りにも励んでいました。そのお陰か、今では体格もがっちりした様に思います。幾ら結界の影響があったとはいえ、女の子を支えられず自分が落っこちた事にショックを受けた結果ですって。
「君達、卒業おめでとう」
涼やかな声と不思議な音色の杖、白に金色刺繍の眩しいローブ姿。光を浴びた超ロングヘアのレイシル様です。数人の神官様達を後ろに引き連れての登場です。
「ありがとうございます。今日は、神官長のお姿ですね?」
エーリック殿下が、皆を代表するようにお礼を述べて下さいます。レイシル様は、変わらずお美しいです。ええ、全く見た目はお変わりありません。この方は年をとらないのでしょうか。確かに身長は高くなっていますし、髪もずっと長くなっていますけどね。
ただ、以前感じていた、敢えて作っていたような雰囲気や、乱暴で粗雑な言葉遣い、所作などがガラリと変わりました。神官長で魔法科学省の重鎮に相応しい振る舞いになったそうです。カイル様が泣いて喜んでいました。
でも、完全に変わったのかは判りませんよ? 少なくとも私の前ではね?
「皆ここにいたのか。皆集まっているのなら良かった。卒業おめでとう」
「シルヴァ様」
声のした先には、魔法科学省のライトグレーの式服であるローブ姿のお二人が。
はい。シルヴァ様とカイル様です。
シルヴァ様は、今では魔法科学省でレイシル様と共に研究に勤しんでいらっしゃいます。元々、ご自分の事にあまり関心を持っていない様に見えましたけど、ダリナスの王位継承権を返上してから随分雰囲気が変わりました。ご自分の思う事ややりたい事を、はっきりと言ったりやったり出来ているみたい。
ご本人曰く、枷が一つ無くなって身軽になった。とのことです。
よく笑うようになったし、良い傾向だと思います。
「じゃあ、皆、次にお会いするのは結婚式ね? シュゼット、今度は本物のブライズメイドを宜しくね?」
晴れやかに微笑むカテリーナ様に、私も笑顔で頷いたのです。
◇◇◇◇◇◇
「はあ、ここです。ここに来たかったの」
目の前に広がる広大な草原。青々とした草が、まるで海の様に波打っています。
いつか見たと同じ、寄せては返す草の波がずっと先まで続いているのです。
「本当に海の様ですね」
馬の背を降りるのに、手を貸して貰います。肩に手を載せると逞しい温かさを感じて、思わず微笑んでしまいました。
「どうして笑っているかですか? ふふ、どうしてでしょうね?」
今日は無理を言ってここに来ました。ダリナスとの国境近くまで続く大草原。先代の光の識別者、セレニア様の名に因んで、草原を見渡せるこの丘が『セレニアの丘』と新たに名付けられましたので。
「気持ちが良いですね。前に来た時はやっぱり草原でしたから、次は是非花の咲く時期に来たかったのですけど……まだ早かったみたいです」
隣に立つ彼の手を引っ張って、丘の一番高い所に向かいます。
「まあ! 何て見晴らしが良いの!! ずーっと向こうまで見渡せますね!」
そう言って隣を見上げます。綺麗な横顔に、髪がさらさらと靡いています。私の視線に気付いて、優しく目を細めて頷いてくれます。
引っ張ってきた手を今度はしっかりと繫いで寄り添います。
「そうだわ。貴方には言ってなかったことがあるの」
ふと思い出しました。
「私ね、コレールに戻って来た時、悪役令嬢になったつもりで帰って来たの。フェリックス殿下やローナ様、私を笑った方々に仕返ししようと思ってたのよ?
でもね、残念ながら無理だったわ。だって、皆さん優しい方ばかりだったし、気持ちを知ったり交わし合ったら意地悪も仕返しも出来なかったの。私に、悪役令嬢は荷が重かったのね?」
私の告白に、貴方は声を殺して笑いを我慢しています。良いのですよ? 私の悪役令嬢を想像したのでしょう?
暫く堪えていましたが、想像した悪役令嬢姿に、耐えられず……耐えられず、ついに二人して笑ってしまいました。
なんて、幸せな温かい気持ちでしょう。
「100年変わらないセレニア様が思いを込めたこの草原に、私は貴方とこれからの人生を歩むことを報告に来たの」
そうです。新たな人生の門出を、人生を変えるきっかけとなった人に報告したかったのです。
「ここで門出を誓ったら、100年変わらない想いになるかしら?」
ゆっくり振り返って彼を見上げると、繋いだ手を持ち上げてキスを……指先にキスをしてくれました。
指に光る指輪には、彼の瞳の色の石が輝いています。そして、その石の周りを小さな私の鑑定石が囲んでいます。
虹色に輝く私の鑑定石が緩やかに光を放ち始めました。
「ああ。これならセレニア様に届くかもしれません」
私は彼の手ごと指輪を額に掲げて目を閉じ、光の魔力を注ぎ込んでいきます。
温かなぬくもりが額から全身に降りて行くのが判ります。そして、その温かさは虹色の光と共に丘から草原に広がって行くのが感じられます。
「もっと、もっと先まで。この国に、この世界に幸あるように。セレニア様、私はこの方と共に生きて行きます」
ぶわっと一気に辺りが眩しく光りました。瞼を閉じていても感じられる強い煌めきでした。
目を開けると……
「ああ! 花が、花が開いているわ!!」
ずっと先の草原の色が、草原の色が海色に変わっているのです。その色は、本当に波の様に風に靡きながら、青い花を開いているのです。
あれよという間に、足元近くまで青い花が開いて、辺り一面が本当に海原の様になったのです。
風に靡く海。花弁の裏が白いので、風で靡くたびに波打つ泡の白さに見えるのです。
「海です。本当に海の様ですね。これは、セレニア様も私の魔法を受け入れて下さった。という事でしょうか?」
さっきまで堅い蕾だった花が、今は満開に開いています。一陣の風に大きく草原が波打つと、その後は優しい風が渡っています。
「そう、みたいですね」
同意を求めた私に、返事代わりに背中から包むように抱き締めてくれた貴方。
愛していると囁かれて、包まれる温かな胸の中が、どんなに安心できるのか。ようやっと判ったような気がします。
「ええ。私も愛してい……!」
急かされて言った大事な言葉は、貴方の名前を言う前に途切れてしまいました。
貴方の唇で遮られましたから。
私達は、初めてキスを交わしたのです。
青い海の草原で。
100年振りの祝福の中で。
終
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