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3巻
3-2
しおりを挟む「まあ、済んだことはいいさ。スウィングラーには王家から充分な見舞金が支払われただろうし、今さらガタガタ言ったところではじまらん。まずは、目の前のことからひとつずつ片付けていくしかあるまいよ」
「はい。まずは、ベネディクトさまとの面会ですね」
そのとおりだ、とアレクシアはウィルフレッドとセフィードを順に見た。
「王太子殿下が、面会の場として彼の離宮を提供してくださるそうだから、わたしは現地まで『病弱で繊細な令嬢モード』で赴くことになる。ウィルはいつもどおりわたしの従者としてついてもらうが、セフィードはどうしたものかな」
きょとんとまばたきをしたセフィードが、淡々と口を開く。
「待機命令を出されれば、おれはあの屋敷で待機しているぞ」
「おまえがわたしたちのいない状況でも、きちんと三度の食事をとれるというのなら、ひとりで留守番でもなんでもさせておけるんだがな……」
彼は、非常に賢い子どもである。ひとつひとつ丁寧に教えてやれば、こうして外食をすることも、あるいは屋敷の厨房で自炊することだって、すぐにひとりでできるようになるかもしれない。
しかし、たった数日の付き合いではあるが、わかったことがある。
アレクシアは、じっとりとセフィードを睨みつけた。
「おまえは、わたしたちが命じるか許可を出さなければ、食事をしようとしないじゃないか」
「……食事というのは、許可がなくても実行していいものなのか?」
困惑したように首を傾げるセフィードに、アレクシアは深々とため息をつく。
やはりこの少年は、自分の肉体から出される空腹のシグナルに対して、あまりに無頓着だ。
食事だけの問題ではない。何か不測の事態が起こったとき、彼が『自身の安全』を最優先に考えられるものかどうか、はなはだ不安だ。
「こういうことは、日常生活の中で徐々に理解していくべきだろうし、あまり命令で縛りたくはないんだ。――ウィル、おまえはどうしたらいいと思う?」
悩む彼女に、ウィルフレッドが笑い交じりの声で応じる。
「ならば、セフィードも従者見習いとして同伴させればいいのではありませんか? 何しろあなたは『病弱で繊細な深窓の令嬢』なんです。今は戦時下なのですし、従者を複数伴っていても誰も不思議には思いませんよ」
「……殿下にとってこいつは、敵軍から捕らえたばかりの、戦闘能力保証付きの生物兵器のようなものだと思うんだが。そんなものを連れていって、彼の胃は大丈夫だと思うか?」
ローレンスはどうやら胃痛持ちのようなので、他人事ながら少し心配なのだ。
しかし、ウィルフレッドは軽やかに笑って言った。
「それを言うなら、オレたちだって似たようなものではありませんか。王家に忠誠を誓っているわけでもない、戦闘能力ばかりに秀でた世間知らずの子どもたち。殿下は、そんなものを制御して利用しようというのです。彼の胃が少々痛むことなど、些細な問題にすぎませんよ」
「なるほど。それもそうだ」
実際のところ、今のアレクシアはウィルフレッドとセフィード、それにベネディクトのことを気にかけるだけで精一杯なのだ。
王太子であるローレンスは常に大勢の味方に囲まれているのだし、必要以上にこちらが彼の胃を案じる必要もないだろう。
鶏肉のスパイス揚げを頬張っていたセフィードが、ウィルフレッドを見る。
「アレクシアの従者見習いか。だったらおれは、おまえの後ろに黙ってついていればいいのか?」
「ああ、そうだ。いい機会だから、貴族社会の人間やそれに付き従う者たちがどのような振る舞いをするのか、実際に見て学習するといい。多少のミスならこちらでフォローするが、アレクシアさまの恥になるような真似だけはするなよ」
「了解した」
何やら、実にほほえましい光景である。
考えてみれば、ウィルフレッドにとってセフィードははじめての後輩だ。
それがこれほど素直で愛くるしい少年となれば、さぞ指導のし甲斐があることだろう。
そんなふたりの様子を機嫌よく眺めながら、アレクシアは食後のデザートを注文した。
運ばれてきたチョコレートとレアチーズのタルトは、大変絶品だった。
同じものを注文したセフィードも、よほどそれを気に入ったらしい。
四度おかわりをして、ようやく満足したらしい彼を見たアレクシアは、テーブルの上でぐっと両手を握りしめる。
「これだけボリュームのあるタルトを五ピース食べて、まったく胃もたれする様子がない、だと……?」
「……オレは、見ているだけで胸焼けがしてきました」
ウィルフレッドの顔色が、少し悪い。
とりあえず、セフィードが甘いもの好きであることは、どうやら間違いないようだ。
今はまだ、彼の精神状態を安定させるためのダラダラ期間だから、特に制限をかけるつもりはない。
けれど、いずれは乳脂肪分たっぷりの甘味とカロリーの関係について、じっくりレクチャーする必要がある。
(世話をしている子どもを肥満体にするのは、立派な虐待だからな。……気をつけなければ)
セフィードを拾って保護すると決めたのは、アレクシアなのだ。
これから彼がどんな大人になるにせよ、成人病まっしぐらなぽよった体にだけは絶対にするまい、とアレクシアは固く心に誓うのだった。
◇ ❖ ◇
ローレンスがベネディクトとの面会のために指定してきたのは、聖ゴルトベルガー学園からほど近い場所にある離宮だった。
優美なレリーフを施された鉄柵に、クリーム色とオレンジの夏薔薇が絡まり、今を盛りとばかりに咲き誇っている。
白とレモンイエローを基調としたサマードレスをまとい、つばの広い帽子とシルクの手袋で完全武装――もとい、王族を訪問する際の盛装をしたアレクシアは、招き入れられた中庭の見事さに感嘆していた。
(さすがは、王太子が使用している離宮だな。防衛システムのえげつなさは、王宮中心部レベルと見た)
完璧なまでに整えられた美しい庭園。
そのすべてをフォローしている防衛システムは、すべての術式が見事に調和していて、攻略する気にもなれないレベルだ。
防御魔導フィールドなど、何重にかかっているのかさえはっきりと確認できない。認識阻害の魔術が、ありとあらゆるポイントで組みこまれているようだ。実に興味深い。
そんなことを考えながら、アレクシアは従者の格好をしたウィルフレッドとセフィードを伴い、従僕に先導されるまま、中庭のさらに奥へ進んでいく。
ちょっとした迷路のように入り組んだ生け垣をいくつか抜ける。ぽっかりと開けた芝生の向こうに、愛らしい花々で飾られた四阿があった。
猫足の円形ガーデンテーブルの上には、白磁の茶器といかにも美味しそうな軽食が揃えられている。
そして――。
「ようこそ、アレクシア嬢。来てくれて嬉しいよ。今日はエッカルト産の紅茶を用意してあるから、ぜひ楽しんでいってくれ」
「こちらこそ、この場を用意してくれたこと、感謝する。王太子殿下。ブリュンヒルデさまの祖国のお茶か。ありがとう、のちほど楽しませてもらうよ」
立ち上がって一同を出迎えたローレンスの護衛たちは、みな以前シンフィールド学園で見た顔だ。これならば、令嬢モードでいる必要はない。
アレクシアは、ありがたく通常モードに切り替えた。
さっそく、彼の斜め後ろに控えていたベネディクトに、にこりと笑いかける。
「やあ、ベネディクト――と、呼んでもいいのかな?」
「……アレクシアさん」
硬い表情で名を呼ぶ彼に、アレクシアは肩をすくめた。
「やはり、わたしに馴れ馴れしくされるのは不快だったかね」
「いっ、いえ! 不快だとか、そんなことはまったくありません! ただ、その……あなたには、迷惑をかけてばかり、なので」
俯いたベネディクトが、掠れた声で言う。
「ぼくに……弟と扱っていただく資格など、ないと思います」
「ふむ? よくわからんが、きみが不快ではないのならば、ベネディクトという呼称はこのまま採用させてもらおう。何、呼び方など大した問題ではないさ。すぐに慣れるだろうから、細かいことは気にするな」
一拍置いて、ベネディクトがぎくしゃくとローレンスを見る。この国の王太子は、至極真顔で頷いた。
「気持ちはわかる、ベネディクト。だが、アレクシア嬢は紛れもなくきみの姉君だ。彼女がきみを弟として扱うことには、なんの問題もないと思うよ」
「……そう、なのでしょうか」
何やら釈然としていない様子だが、今日はベネディクトを呼び捨てにするために来たわけではない。
アレクシアは、一度周囲を見回してから、ローレンスに視線を向けた。
「殿下。今日この場で話すことは、一切外部に漏れないと考えていいのかね?」
「もちろんだよ、アレクシア嬢」
なんのためらいもなく応じたローレンスが片手を上げると、護衛たちが一礼したのち下がっていく。
さすがに姿が見えなくなるほどの距離までは離れていかないものの、そこは仕方があるまい。
どうせ、これからの会話も聞かれるのだろう。
そもそも極秘にしなければならないようなことでもないし、護衛の存在に慣れていないベネディクトに対するプレッシャーが減れば充分だ。
そのベネディクトが、困惑した表情を浮かべている。
アレクシアは、苦笑した。
「ベネディクト。きみは今日の面会にあたって、殿下から何か聞いているか?」
「え? あ……はい。先日の件については、バルツァーご夫妻から殿下にご連絡があったことと、そのうえで改めてあなたとお会いする場を設けてくださったとのことで――あぁああの、その節は、本当にありがとうございました!」
突然、ベネディクトが勢いよく頭を下げる。
「すみません……! あなたにお会いできたら、どんなふうにお詫びしようかと、ずっと考えていたのですけれど。もう、本当に、思い出すだけでも情けなくて、恥ずかしくて……。初対面の女の子の前であんな醜態を晒すだなんて、ぼくはいったい何をしでかしているんだと……」
しどろもどろに言う彼に、アレクシアはできるだけ柔らかな口調で応じた。
「謝罪は受け取る。だから、もう謝らないでくれ。わたしはきみに会えて嬉しかった。今も、嬉しい。……本当だよ、ベネディクト。わたしは、きみがわたしの弟で、とても嬉しいんだ」
嬉しい、というよりも、感動している、というほうが正しいかもしれない。
ベネディクトはたしかにエイドリアンとそっくり同じ顔をしているというのに、その口から出てくる言葉は素直で自省に満ちたものばかりだ。
何度見ても、そのギャップにはしみじみと胸が震えてしまう。
(これはもう、世界の七不思議のひとつにカウントしてもいいのではなかろうか。血の繋がりの妙とは、実に不思議なものだな)
ウィルフレッドに聞かれたら、半目で「鏡をお持ちしましょうか?」と言われそうなことを考えながら、アレクシアはベネディクトに近づいた。
そして、彼の目の前でストンとしゃがむ。
頭を下げたままひどく驚いた顔をしている『弟』を見上げ、にやりと笑う。
「顔を上げたまえ、ベネディクト。きみがどう思っていようと、わたしにとってきみはすでに弟なんだ。魔力暴走のフォローくらい、いくらでもしてやるさ」
「……あなたがぼくの姉だから、ですか?」
その問いかけには、首を傾げる。
「さてな。たとえ血の繋がった相手でも、わたしは気に入らない人間に無駄な時間を割くほど暇ではない。わたしにとって血の繋がりというのは、さほど重要なファクターではないんだ」
「え……」
少し考え、アレクシアは立ち上がった。
困惑した様子のベネディクトも、それにつられたように姿勢を戻す。
「手を出してもらえるか?」
「……はい」
おずおずと出された両手を握り、はじめて会ったときと同じように柔らかく指を絡める。
伝わる体温と、魔力の波長。
「やはり、きみとわたしの魔力はよく似ているな。……これが血の繋がりゆえだというなら、たしかにそのとおりではあるのだろう」
だが、とアレクシアは笑って告げた。
「きみの髪や瞳や魔力がどれほど自分に似ていても、その性根がエイドリアンさまのような腐りきったものであったなら、こうして触れ合うことなど絶対になかったぞ」
ベネディクトの目が、丸くなる。
そんな彼の心に届くよう、できるだけゆっくりとした口調で、彼女は続けた。
「わたしは、劣悪な環境で育てられながら、周囲の誰も傷つけることなく、決してあきらめずに足掻き続けたきみの生き様を、見事だと思う」
ベネディクトほどの魔力があれば――まして今より幼い子どもであったのなら、ちょっとした癇癪がすさまじい被害をもたらす魔力暴走に繋がったはずだ。
ろくな食事も与えられず、暗い部屋に閉じ込められる日々の中、彼はひたすら自分の力を押さえ込み、周囲の者たちを自分自身から守り続けた。
ベネディクトにとって、『他者を害すること』はそれほどの禁忌なのだ。
たとえそれが、己を虐待する者たちであったとしても。
彼を「愚かだ」と、「自分自身を守ることに、何をためらう必要がある」と言う者もいるかもしれない。
けれど、ベネディクトのそんな愚かなまでの優しさは、紛れもなく彼自身の強さだとアレクシアは思う。
だから、と彼女は敬愛すべき『弟』に告げる。
「胸を張れ、ベネディクト。きみの強さと優しさは、スウィングラーの血とは関係がない。暗闇の中、きみ自身が選んで自分の力としたものだ。その選択を、誇りに思え」
「……っ」
繋いだ指が震え、アレクシアと同じ色の瞳から透明な雫が溢れ出す。
よく泣く少年だな、と思うけれど、ストレス解消に涙を流すのは非常に有効な手段である。
ここは、気の済むまで泣かせてやるのが正解だろう。
「なあ、ベネディクト。先日、わたしが最後にきみに言ったことを、覚えているか?」
ベネディクトの濡れた睫毛が、ふるりと揺れる。
「あのときまで、きみはずっとひとりで戦っていた。だが、今は違う」
――次にわたしと会うときには、きっと、きみの世界は変わっているよ。
「フェルディナントさまもおっしゃっていただろう。きみはもう、ひとりじゃない。きみが戦うときは、わたしも一緒に戦おう。わたしは、きみという弟がいることを誇りに思うよ」
「……アレクシア、さん」
絡んでいた指先が離れ、そのまま縋るように抱きしめられた。ベネディクトの震える背中に腕を回し、とんとんと叩いてやる。
「ぼく、は……」
涙交じりの声で、ベネディクトが言う。
「あなたの弟に、なりたい。ちゃんと……弟として、あなたの前で胸を張れるようになりたい、です」
「そうか。それは、嬉しいな」
どうやら彼は、アレクシアのことを姉と認めてくれたらしい。
それは、実にありがたいのだが――。
(なん……っだ、この体の薄さは!? あああぁあ、今すぐベネディクトの口に栄養たっぷりの食事を詰め込みたい! 適度な運動と充分な睡眠時間を確保して、このひょろひょろの不健康すぎる体をせめて標準体型にしてやりたいっ!!)
服の上から見ているだけでも、細い細いと思っていたベネディクトの体は、実際に触れてみると想像以上の頼りなさだった。
正直、怖い。
筋肉が少ないせいか基礎体温も低いようだし、ちょっとした病気や怪我で簡単に天に召されてしまいそうだ。
アレクシアが密かに戦慄していると、大きく息を吐いたベネディクトが腕の力を緩めていく。
彼は袖口で目元を拭い、ぎこちなく、けれど柔らかな表情でほほえんだ。
「僕は、あなたの前で泣いてばかりですね」
「そうだな。だがまあ、少しはスッキリしたようで何よりだ」
頷き、アレクシアはそばで待機していた連れの少年たちを振り返る。
そして、二人の様子を見て眉根を寄せた。
「……おまえたち、何をしているんだ?」
彼女の問いかけに、顔を上げたウィルフレッドが、にこりとほほえむ。
「セフィードが、この庭園に展開された防衛システムに興味を抱いてしまいまして。解析したそばから魔術式を延々と口に出していくものですから、物理的に発言を封じております」
「……ほほう」
地面に膝をついたウィルフレッドは、セフィードの両腕を後ろ手にする形で拘束していた。
強制的に座らされ、口元を片手で塞がれてもなお、まばたきもせずじっと中空を眺めているセフィードの姿は、かなり不気味だ。
そんな彼を青ざめた顔で見つめるローレンスも、どん引きした様子である。
ひとつため息をついたアレクシアは、手袋を外してセフィードの目の前に立った。
その鼻先で思い切り手を打ち合わせる。
――沈黙。
「うむ。やはり、無反応か」
「感心している場合ではありませんよ、アレクシアさま。このままでは、ここの防衛システムを解析し終えたセフィードが現実に戻ってくるまで、オレの両手が使えません」
ウィルフレッドの主張に続いて、ローレンスがすちゃっと片手を挙げる。
「アレクシア嬢。いくらきみの庇護下にある少年だといっても、部外者にここの防衛システムを丸裸にされるのは困るよ。僕の護衛たちがこちらへ来てしまう前に、どうにかしてくれ」
「そう言われてもなあ。わたしとしても、どうにかしたいのはやまやまなのだが……」
こんなふうに目の前の作業に没頭してしまった魔導士を、本人が満足する前に引き戻すのは、非常に困難だ。
たとえば何か、命の危機を感じるほどのことでもなければ――と思ったとき、セフィードの頭に、可愛らしい菓子店のロゴが入った紙袋がぽすっとかぶせられた。
突然視界を遮られたセフィードが、一拍置いてもそもそと体を揺らす。
……どうやら、前触れなく視界を遮断されたことに驚いて、トランス状態から脱したらしい。
ものすごく複雑な表情をしたウィルフレッドが手を離しても、そのままおとなしくしている。
彼に紙袋をかぶせたベネディクトは、ほっとした様子でほほえんだ。
「よかった。落ち着かれたようですね」
「ベネディクト。なぜ、その紙袋を……?」
アレクシアの問いかけに、ベネディクトはガーデンテーブルを手のひらで示して応じる。
「はい。先日の件でご迷惑をかけたお詫びに、街で評判のお菓子をご用意してきたんです。よかったら、のちほどみなさんで召し上がってください」
そこには、可愛らしくラッピングされた色とりどりのキャンディーボックスが、丁寧に並べて置かれていた。
果物の果汁を丁寧に煮詰めて作ったというそれらは、アレクシアも一度味わってみたいと思っていたものだ。気遣い上手な弟で、とても嬉しい。
もっとも、彼女が知りたかったのはここに紙袋がある理由ではなく、ベネディクトがセフィードに紙袋をかぶせた理由だったのだが――。
「ここの空一面に、すごい勢いで変化しながら流れていく光の文字や数字が、庭園の防衛システムの魔術式なんですね。あんなものをずっと見ていたら、目が疲れてしまいますよ。紙袋で目隠しができて、よかったです」
「……うむ。そのとおりだな」
さらりと告げられたのは、至極もっともな正論であった。
何はともあれ、ベネディクトのおかげでセフィードを正気に戻せたのだから、感謝せねばなるまい。
それにしても、とアレクシアは思う。
(あの超高速で変化・更新し続ける魔術式を、一目でそれと識別できるのか。一般兵レベルの魔導士ならば、うっすらと光の帯が流れている程度にしかわからないと思うんだが……。ベネディクトの魔導認識能力は、想像以上に精度が高いのかもしれんな)
幼い頃からまっとうな教育を受けさせていれば、ベネディクトはさぞハイレベルな魔導士になっていたに違いない。
ケンブル男爵家も、つくづく愚かな真似をしたものだ。
それから、セフィードが「紙袋をかぶっていたままのほうが、魔術式が気にならなくていい」と主張するのに対し、ウィルフレッドが「おまえは、アレクシアさまに恥をかかせるつもりか?」と笑顔で威圧するという一幕があったものの、どうにかその場は落ち着いた。
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