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目覚め
しおりを挟むぱたぱたと雨音が聞こえる。
薄っすらと目を開けると、ぼんやりと霞みがかった視界に見慣れない部屋が映った。
石造りの床はごつごつとして肌に冷たく、並んだブロックの隙間で悪臭を放つ黒々とした何かがてらてらと光っていた。
ほっそりとした白い腕が床の上に投げ出されていて、指先がわたしの意思に従って動いたことで、その腕が自分のものであることに気が付いた。床に広がった絹糸のように滑らかな白金の髪も、どうやらわたしのものらしい。
重いからだを引きずるように起き上がり、周囲を確認する。然程広くもないその部屋は床も壁も石造りで、壁に並んだ三つの窓は全て鉄板のようなもので塞がれていた。
二度、三度瞬きを繰り返し、先程から気になっていた目の前のそれをまじまじとみつめる。床から伸びた鉄柵のような何かが滑らかなカーブを描き、わたしの頭上で収束していた。
「これは、とりかご……?」
呟いて、鉄柵へと手を伸ばしたところで、じゃらりと金属が擦れる音がして、足首に違和を感じた。音のほうへ目を向ければ、わたしの足首に枷が付けられていて、籠から伸びた鉄の鎖と繋がっていた。
ぞっとして目を見張る。何が起きているのか、わたしには全くわからなかった。
ここがどこなのか。この巨大な鳥籠は何なのか。どうしてわたしは繋がれているのか。
何もかもがわからない。
そう、何もわからないのだ。
自分の名前も、顔も、家族も、どこでどう暮らしていたのかも、何もかもがわからなかった。まるで、記憶の一部が欠如してしまったように。
何故、そう考えたのかわからない。とにかくわたしは考えた。逃げなければ、と。
わたしを閉じ籠めている巨大な鳥籠には、通常のそれと同様に扉があった。けれど、扉には鉄の錠が掛けられていて、わたしがちからを加えた程度ではびくともしなかった。
きっと鍵が必要なのだ。
床の溝からは相変わらずの悪臭が漂って、鉄錆の臭いに似たそれは、わたしの嗅覚をじわじわと侵蝕した。腹の底がむかむかして気持ちが悪くて、頭もくらくらして、足元が覚束ない。
わたしはとうとう、冷たくてごつごつした床の上に座り込んだ。
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