魔女見習いのロッテ

柴咲もも

文字の大きさ
14 / 47
第3話 魔女の媚薬

番外編 悩める騎士の悔恨

しおりを挟む
 魔女の媚薬の件の翌日、ゲオルグは次の出撃に備えて自室で剣の手入れをしていた。
 ディアナとの約束で、今日の昼からロッテの監視役を任されることになってはいるものの、昨夜あのようなことがあった後で、彼女の部屋でふたりきりになるのは流石に躊躇ってしまう。
 額に手をあてて項垂れていると、扉が軽くノックされた。手入れ途中の剣をベッドの脇に立て掛けて、ゲオルグが扉を開く。部屋の前に立っていたのは見慣れた女だった。
「ちょっとゲオルグ、貴方、あの子に何をしたのよ」
 顔を合わせるなり責めるような口振りで、ディアナがゲオルグを睨め付ける。ぎくりと身を強張らせ、ゲオルグは辿々しく呟いた。
「何……って……」
「よっぽど凄んでみせたんでしょう? あの子、相当怯えてたわよ。『お願いディアナさん、ここに居て! ディアナさんに監視して欲しいの!』って、涙ながらに訴えられちゃったわ」
 まんざらでもない様子でディアナに言われ、ゲオルグはがっくりと肩を落とした。

 ——当然か。
 子供の頃から森の奥で魔女とふたりで暮らしてきたロッテだ。異性と関わることも少なかったのだろう。見目麗しく礼儀正しいユリウスに彼女が淡い恋心を抱いていることは、初対面のゲオルグにもすぐにわかった。
 ユリウスの話が正しければ、彼女はまだ十八。恋に恋する年頃の少女だ。知識の有無はわからないとはいえ、あんなことをされたのは初めてだったに違いない。
 大きな溜め息が、唇から洩れる。

 解毒薬を作るロッテを部屋で監視した。そこまでは覚えている。次に我に返ったとき、ゲオルグは己の前を寛げた状態で半裸の彼女を見下ろしていた。
 泣き腫れた琥珀の瞳でゲオルグを見上げる彼女は、白い下腹部から捲れ上がったスカートまで白濁で濡れていて、それまでの記憶は飛んでいたものの、自分が彼女に何をしてしまったのかはすぐに理解できた。即座に謝罪はしたものの、その程度のことでわだかまりが消えるはずもない。
 最後まではしなかったとはいえ、好きでもない——寧ろ嫌われていた可能性すらある——相手にあのようなことをされて、彼女は酷い辱めを受けたと思ったに違いない。ディアナと三人、ユリウスに仕える者同士、協力していければと考えてから、ようやく普通に話ができるようになったのに。振り出しに戻るどころか、取り返しが付かないほどに嫌われてしまったようだ。

「それで、例の薬はどうなったの?」
「棚に戻してそのままだ。だが、安心して良い。あいつはもう殿下に薬を盛ったりしない」
 ディアナに問われ、ゲオルグは即答した。
 ゲオルグが問い質したあのとき、ロッテは確かに「絶対に使わない」と間髪入れずに言い切ったのだ。ユリウスに薬を盛ることを少しでも考えていたとしたら、あのような即答はできない。多少の躊躇いは見せていたはずだ。ゲオルグのあの行為は、異性経験も僅かだった少女の心に想像以上に深い傷跡を残したのかもしれない。

 視線を落として黙り込んだゲオルグを訝しむように睨め付けて、ディアナが溜め息混じりに口を開く。
「そう、なら良いわ。明日からまた討伐任務でしょう? あの子のことは私にまかせてゆっくり休みなさい」
「……お言葉に甘えさせてもらおう」
 ゲオルグが頷くと、ディアナはやれやれと肩を竦め、さっさと部屋を出ていった。遠ざかるディアナの背中を見送りながら、赤銅色の前髪をくしゃりと掻き上げて、ゲオルグは大きな溜め息をついた。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

処理中です...