まさか俺が異世界転生ものの主人公になるなんて!

越路遼介

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第19話 悲劇

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「ボア三体、竹矢で一撃だと!イズミ、お前…!俺たちと組んでいた時は手を抜いていたのか!」
「そうよ!味方を撃ったりして、わざわざ足を引っ張るために組んでいたの!?」

 ギルドに帰り、荷車に乗せたボアの査定を受けていると、イズミは元組んでいた仲間たちに責められた。パーティー『シャイニング』剣士のケインと魔法使いのミナが怒鳴り飛ばす。
「そんなわけないでしょう、全力でやっていたよ。でも、私はモンスターとの戦闘で目を傷めて視力が落ちて弓矢の命中精度が落ちたのよ。かといって」
 イズミは自分がいま付けている眼鏡を指して
「眼鏡を買うお金なんて私にもパーティーにもなかった。こんな高価なもの買ってくれと言ってもダメだと言ったに決まっている!でも…糧を得るには冒険者を続けるしかなかった。親に娼館へ売り飛ばされた私は意地でも娼婦になりたくなかったから」
「「…………」」

「それに竹矢でボアを仕留められたのはレンヤが矢にブーストをかけてくれたから。私は狙いを定めて射ただけ。弓術士にとって、レンヤはこれ以上ないパートナーなの。もう私は彼と組んでやっていく。私の大切な眼鏡を作ってくれた彼と!」
「イズミ」
「…なに、バイソン」 
 バイソンは盾役、タンクだ。モンスターの攻撃を防ぐことが務めだ。
「…目が悪くなっていたのは我々も薄々分かっていた。切り出さなかった我々も思いやりが足りなかったのは認めるが、君の方も、どうしてそれを我々に言ってくれなかった。君から見て我々はそんなに薄情者に見えたのか?」
「…バイソン…」
「言ってもらわねば君がどうしたいか、どうすれば矢の命中精度が元に戻るか、一緒に考えることも出来ない。結果、失敗続きの君を叱るしかなく、さらに委縮して矢の命中精度がおかしくなる…。完全な悪循環だ」
「…………」
「眼鏡を買う金くらい、何とか頑張れば工面出来ただろう。頭から我々が君の願いを突っぱねると決めつけていたのは正直悲しいものがある」

「ごめん」
「レンヤ」
 バイソンはレンヤに向いた。
「なんだ」
「イズミを任せた」
「分かった」
「ごめんなさい…。バイソン、ミナ、ケイン」
「ああもう泣くなよ!察していたのに『視力が落ちたのか』と言ってやんなかった俺も悪い!」
「…まったくだわ。ごめんね、イズミ…」
 異世界転生ものの展開としては落第かと思ったレンヤ、ヒロインがいた元のパーティーに『ざまぁ』の場面が無いのだから。しかし、この世界を現実に生きるレンヤは『こんな展開もありだな』と、いつの間にか和解している彼らを見て思うのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 それから数日後、シャイニングの面々は商人護衛のミッションを受けて、リケード王国城下町から隣国国境の町ジャンディへと行くことになった。冒険者ギルド内のテーブルで

「川魚料理が美味しい町だったよ。以前、旅人がその町の料理人に鰻料理を伝授して、瞬く間に広まったらしい」
「「鰻!?」」
 レンヤの説明に身を乗り出すシャイニングの面々、イズミも食いついている。
「ああ、鰻を裂いて蒸して焼いてな。甘辛いタレが合って実に美味い。俺は飲めないが、酒のつまみにもピッタリらしい」
「「へえ~」」
 実はその旅人はレンヤ自身なのだが言わぬが花だ。

「少し値は張るが商人護衛、しかも金払いのいいワインヅ商会の会頭さんだ。そのくらい食べられるボーナスも出るだろうよ」
「よしっ、このミッション、頑張ろうぜ!」
 ケインが言うと、バイソンとミナも『おおーッ!』と応えた。

 翌日、彼らの出発を見送り、ギルドに戻る途中イズミが
「あ~あ、私も食べたいな、その鰻と言うの」
「この城下町は肉料理メインだしなぁ…。たまには、そういうのも食べたいよな」
「でも商人護衛のミッションは三人以上のパーティーじゃないと受けられないもんね。ただ鰻を食べに行くだけじゃ路銀が…」
「ははは、では今日俺は町の土木工事が仕事だ。夕食の時にまた合流しよう」
「えーっ、ランチのあと、レンヤとしたいよ」
「今日の現場の昼休みは一時間しかないからなぁ…。慌ただしくなっちゃうから夜の楽しみにしておこうよ。俺も我慢するから」
「ぶー、分かった。夜の楽しみにしておく。それじゃ今日、私は図書館に行っているから」


 レンヤとイズミは城下町で別れた。冒険者は何でも屋だ。レンヤは土木などの仕事を好んだ。前世立川廉也は少年時代、額に汗して働く喜び、それを忘れたら人間終わりだと父親に教わった。
 たくさん働いて、その夜は可愛い恋人とセックス、こんな幸せあるまい。


 土木現場の仕事も終えた夕方、依頼達成の書を現場で渡されたレンヤ。手拭いで汗を拭き
「今ごろ、あいつらどのあたりかな」
 と、遠視と遠聴を使ってシャイニングの様子を見た。ほんのただの思いつきだった。何の異変も無ければ、すぐに能力を切るつもりだったが

「……!?」
 レンヤは急ぎ、城下町の図書館に行った。本を読んでいたイズミは血相変えて走ってきたレンヤに驚き
「レンヤ、図書館では静かに」
「シャイニングが護衛する商隊が盗賊に襲われている!」
「なんだって!?」
 イズミの手を握り、図書館の外に。誰もいない建物の影に連れて行く。緊急事態だ。仕方がないと腹を括った。
「イズミ…」
「うん」
「俺は特殊なチカラをちょっと持っている。悪目立ちを避けるため隠していたが…仲間であり恋人である君には見せておく」
「そんなの…眼鏡を魔法で作っちゃったりしているんだから分かっていたよ。鰻をジャンディの町で広めた旅人と言うのもレンヤ本人でしょう?」
「イズミ…」
「肌を合わせた女を甘く見ちゃいけないわ」
 女には敵わないと思う。かつてエレノアもレンヤの変化魔法を一目で見抜いている。秘密を隠す能力は肌を合わせた女に対してはザルらしい。

「そのようだな…。弓具は持ってきてあるか?」
「愚問ね。バッグに入れてあるわ」
「人を殺したことは?」
「ある。数えていないけど」
「よし、すぐに戦闘状態に入ると思ってくれ」
「分かった…。て、うえええええ!?」
 レンヤはイズミをお姫様抱っこし、魔法でロープを2人に結んで固定。宙に舞った。
「ちょっおっとぉぉぉ!聴いていなぁあああああいぃ!」

びゅううううん

 真っ直ぐ襲撃の現場に飛んでいくレンヤとイズミ。
「イヤアアアアアア!」
「落ちないから!絶対に落ちないから落ち着け!」
「うわあああん!おしっこ漏れちゃったよおお!」
「……『洗浄』」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「いやあああ!バイソン!ケイーン!」
「うえへへへ、心配しなくても、すぐにお仲間のところに送ってやるさ。俺たちが楽しんだ後にな」
「この外道がああ!ぐあっ」
「おいっ、いま女をいたぶるのは程々にしておけ。今夜の楽しみだぞ」
「へ、へいっ、すいません、お頭!」

「貴様らになぶり殺されるくらいなら!」
 ミナはナイフで胸を突いた。
「ちぃっ!この女ぁ、ぐえ」
 盗賊の眉間に細い竹の棒が生えた。矢が貫いたのだ。

「後方の援護を頼む!」
「分かった!存分に暴れて!」
 レンヤは盗賊相手に無双、一人残らず切り殺し、手下を置いて逃げようとした頭目に投石、頭部が爆散した。
「……外道が」

「レンヤァ…。ケインとバイソンがぁ……」
「……!おいっ、ケイン!バイソン!」
 バイソンは後方から不意打ちを食らったか矢で頭が射抜かれており、ケインは首の半分が斬られていた。両名とも即死だろう。

「なんてこった…」
 前世立川廉也からすれば息子とも言えるくらいの歳の若者だ。目を開けたまま亡くなっていたので彼らの目を静かに閉じた。
「レンヤ!ミナはまだ…!」
「なに!?」
 胸を自ら突いたミナに駆け寄るレンヤ。
「不幸中の幸いだ。戦闘で体力と魔力を失い、チカラが足りずにナイフが心臓に届かなかったんだ。ハイヒール!」
「……え?」
「もう、君の前ではチカラを隠さない。隠してもセックスしたらバレてしまうんだから」
「……私の他に誰かいたらやめておいた方がいいかもしんない」
「そうするよ、あ…」

「んっ…」
「ミナ!」
「イズミ…。レンヤ……!」
「虫の知らせと言うかな…。追いかけてきたんだよ」
「ミナ…。ケインとバイソンは……」

「……!ケイン、バイソン!」
 彼女の仲間二人は目覚めない。いくらレンヤでも死んだ者は甦らせることは出来ないのだ。
「わああああああ!ケイン!バイソン!うああああ!」
 ミナは二人の亡骸に泣きすがった。
「ちきしょう!」

 ケインの剣を握り、盗賊たちの亡骸を斬りまくるミナ。
「ちきしょう!ちきしょお…!」
「「…………」」
 レンヤはミナに歩み
「弔おう…」
「うっ、ううう…!わあああああ!」
 レンヤの胸に飛び込んで泣きじゃくるミナだった。
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