レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆

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 デュエットに連れられたどり着いたのは、以前訪れた事のあるレオナルドが使う執務室だった。

 扉をノックして「ユリア様とレイルーク様をお連れしました」とデュエットが告げると、中からレオナルドの応答が聞こえた。

 デュエットが扉を開けてくれたので、ユリアと二人で中へと入った。

「やあ! 待ってたよユリア!! それにレイも!」

 レオナルドの隣に座っていた、相変わらず男装な出立ちのルシータは、相変わらず美しい笑顔で迎えてくれた。

「えへへ、気になって一緒に来ちゃった」
「やれやれ、レイは好奇心旺盛だな」

 レオナルドも相変わらず美丈夫だが、やや呆れ顔だ。

 部屋を見回すと両親の他には誰も居ない。
 いつもレオナルドの側に控えているセバスや、案内してくれたデュエットも既に居なかった。魔力測定は家族のみで執り行う様だ。

 テーブルにはボーリングボールよりやや小さめ位の丸い水晶が鎮座していた。お約束なアイテムにレイルークは目を輝かせて駆け寄った。

「父様! これが魔力測定器!? これに手を乗せれば、魔力の属性や魔力量を測れるの!?」
「そうだ。貴重な物だから、遊んだりしては駄目だぞ?」
「うん!!」

(わー綺麗な水晶だな。一体どういう仕組みなんだろう? こういう摩訶不思議なのって本当ファンタジーだよね)

「レイ、一緒に座ろう?」

 魔力測定器の前から動かないレイルークはユリアに頭を撫ぜられ、我に返った。

「はーい」

 両親と反対側のソファーにユリアと座った。

「では、そろそろ始めよう。ユリア、手の平を水晶に乗せてご覧」
「はい、お義父様」

 レイルークは固唾を呑んで見守る。

(どうなるんだろ。すっごくわくわくする!)

 既に興奮状態のレイルークに気付く事なく、ユリアはゆっくりと右手を水晶に近づけ手の平を乗せた。

 水晶の中央が白い光を放ち出す。
 その光は次第に大きくなっていき、やがて水晶全体を白い光で覆い尽くした。

「わー綺麗だ! 父様! これが姉様の魔力?!」
「そうだ。白い光の強さで魔力量を測る事が出来る。ユリアはかなり強い魔力の持ち主だ」
「ユリア!! 水晶を全て光らせる人間はそうそう居ないぞ!! 私やレオを除けば、他の公爵連中ぐらいだ!!」
「おお……」

(流石ユリア姉様! 可愛カッコいい!!)

「二人共、水晶の中央をよくご覧。中央に現れる光の色で、その者の一番得意な属性が分かる」

 すかさずレイルークは水晶の中央を凝視してみる。
 暫くすると、中央の光だけが色を変えていく。その色は……。

「……水色……? でも、緑色も見える気がするけど……? 父様、これは?」

 現れた光は一色ではなく二色。
 透き通る水色と同じく透き通る黄緑に近い緑色が混ざり合う様に渦を巻きながら光っていた。

 レオナルドとルシータも驚いているのが分かった。

「……これは珍しい。ユリアは『水』と『風』の二属性を得意としている様だ」
「え? 二つの属性が現れるのは、そんなに珍しいの?」
「レイ! 得意な属性は、基本一つなんだ! 昔、稀に複数得意属性を持つ者もいたが、最近では聞いた事がない!! 凄いぞユリア!!」

 ユリアはゆっくりと右手を水晶から離した。
 水晶の光は徐々に光を弱めていき、消滅した。

 ユリアは胸元で右手を左手で包み込むと、大きく息を吐いた。

「……信じられない。……得意な属性が、『水』と『風』の二属性もあったなんて……」

 感慨深そうに呟いたユリアを、ルシータはいつの間に回り込んだのか後ろ側から突然抱きしめた。

「……ユリア。ルシアは水の属性を。ユーステウスは風の属性を得意としていた。……ユリアは二人の得意属性を引き継いだんだ!!」
「……お父さんとお母さんの……」

 ユリアは呆然としていたが、ゆっくりと微笑んだ。

「そうなんだ。……だったら、すごく嬉しい」

 自分の手の平を見つめながら嬉しそうに笑うユリアを見て、レイルークも釣られて微笑んだ。

「そうだ! 父様と母様は得意な属性って何?」
「私達か? 私は……」
「レオ! 測定して見せてやれば良いじゃないか!!」

 ルシータはレオナルドの手を掴むと勝手に水晶に乗せた。レオナルドはされるがままに手の平を開いた。
 すると水晶はユリアの時と同じ位に白く輝いた。
 中央に光り輝く光の色は透明な緑色だった。

「ご覧の通りレオの得意属性は『風』!! ちなみに中央の光の色はね、透明な色に近い程、適性が高くなるんだ!! レオの場合、適正値が高いので上位適正として『嵐』の名が与えられているんだ!!」

(上位適正の『嵐』か……。流石父様。確かに凄く透明な緑色だな……)

 レオナルドが水晶から手を離すと、すかさずルシータが自身の手の平を乗せた。

「ついでに私の属性も発表しよう!!」

 水晶は三度みたび同じ位の白い光を放つ。しかし、中央の光の色が変わらない。

「あれ? 光の色が変わらないよ?」
「フッフッフッ。私の得意属性はね、ずばり『光』さ!!」

(おおおおっ! レア属性だ!!)

「『光』や『闇』を得意属性に持つ者は少ない。シータは『光』の魔法を操る魔法剣士。巷では『光の剣士』と言われている」

(父様、そ、それは……! 恥ずかしくないの母様?! いや、すごく似合ってるけど!!)

「ハハハっ! その名に恥じない剣士でありたいものだよ!!」

 ……恥ずかしくないようで、何よりです。

「みんな凄いね! 僕も! 僕もどんな魔力か知りたい!! ね、今、測定しちゃ……駄目、かな?」

 今すぐ自分の魔力を知りたくて、ダメ元で訪ねてみる。

「…………まあ、十歳と規定はあるが、ある程度魔力が安定していれば測定は可能だろう。しかし……」
「ハハハ! 皆測定したんだ! レイが測定したくなるのは無理もない!! 別に危険は無いのだからやらせてあげても良いのではないか? レオ?」

「…………今回だけだ。次は十歳になってからだ」
「やった! ありがとう父様、母様!!」

(僕はどの属性が得意なんだろう? ……闇属性とか、かっこいいよね! それか母様と同じ光属性も良いよね! 加えて父様の風属性との二属性だと、姉様とお揃いみたいでもっと良いな。
……でも、もしかしたらテンプレっぽく全属性対応とかだったりして。……はは、なんちゃって。流石にないよね)

 あれこれ予想しながら手の平を水晶に乗せてみる。

 水晶に白い光が現れた。三人と同じように水晶全体を照らし出す。

(おお。僕ってやっぱりサラブレッドな血筋……ん?)

 突然白い光が勢いを増し、その光は水晶だけでなく部屋を照らす程までに強く光り輝いた。

「あ、あれ……?」

 すると更に中央から透明な光が白い光を塗り替えるように溢れ出してきた。
 余りにも眩しい光に目が眩む。

(ま、眩しい!! 何だよこれ!?)

 音を立てて、水晶に大きなヒビが入ったのが辛うじて見えた。


(! まずい!!)


「姉様!!」

 レイルークは水晶から守る様にユリアを抱き込んで、勢いよくソファーに倒れ込む。
 
 軋む水晶から自分の手のひらが離れた瞬間、水晶はガラスが割れるような大きな破裂音と共に粉々になって砕け散った。
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