レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆

文字の大きさ
16 / 50

16

しおりを挟む
 執務室に沈黙が生まれた。

 覆い被さるように強くユリアを抱きしめられながらソファーに倒れこんだレイルークは、先程のショックなのか、とにかく心臓がバクバクしていた。

(ど、どうしよう。魔力測定器、割れちゃった……)

「レ、レイルーク……。あ、ありがとう。もう、だ、大丈夫だから……」

 レイルークの胸板をユリアが軽く叩く。ハッとして上半身をユリアから離した。 

「ユリア姉様!! 大丈夫?! 怪我は…怪我は無い?!」

 ユリアの顔の左右に両腕を着いて、ユリアを閉じ込めた状態で真上から覗き込むように見下ろした。

「う、うん! だ、だ、大丈夫! 大丈夫だから!! は、離れて……!!」

 何故かユリアは顔を真っ赤にして、レイルークの胸元を押し返してきた。

(? 何でそんなに慌ててるのか分からないけど、どうやら何ともないみたいだ。……良かった)

 安堵と共にレイルークは少し落ち着きを取り戻し、ユリアから上半身を離した。


 未だ顔の赤いユリアの手を引いて上半身を起こしてあげてから、レイルークは改めてテーブルを見た。
 
 水晶は見事な殆どに粉々に砕け散っていた。


「これは……まずい事になった……」
「これは……流石に想定外だね……」

 レオナルドとルシータも全くの無傷だが、レオナルドは疲れたように眉間を指で挟んでいる。
 ルシータは溜息を吐きながら、ソファーにもたれ掛かり天井を仰ぎ見ていた。

 レイルークは自分の顔色が悪く(青く)なるのを感じた。

 不可抗力とはいえ公爵家の貴重な魔力測定器を木っ端微塵にしてしまったのだ。どれ程の価値があったのか、想像もつかない。

(……どうしよう。謝って済む気がしない!!)

「レイルーク」
「ごめんなさい!!」

 レオナルドの声に素早く反応したレイルークは、勢いよく立ち上がると、思いっきり腰を直角に曲げた。


 やはり、謝る以外に方法など無かった。


「本当にごめんなさい! 貴重な魔力測定器を壊してしまって……」
「ああ、別にそれは全く問題ではない。直ぐに新しい物を用意すれば良いだけのことだ」

(え、問題無いの!? 貴重なお品の筈では?!)

「それよりも問題なのは、レイルーク。お前自身だ」
「え?」

 問題児認定ですか? レイルークはかなりのショックを受けた。

「水晶が割れる程の魔力など通常有り得ない。それに加えてあの透明な光。……あれが魔力量よりも更に問題だ」

(魔力量が凄くて水晶が割れたのは理解できたけど。属性は透明、ってどういう意味なんだろう?)

「あの、属性が透明って……。僕の得意属性は……?」
「……属性を示す光は、透明な程適性が高い。無色透明、という事は……。全属性、適性があるという事だ」

(げ! そ、それってテンプレチートってやつだ!!)

レイルークはよろめいて、そのままソファーに座り込んだ。

(なに……僕、魔王とか倒さないといけないの? この世界には魔物は居ても魔族は居ない筈なのに。もしかして……僕って勇者とか何かなのかな。最終的には最強目指して『俺TUEEE~~!!』ってやつやらないといけないのか?! つまりハイファンタジーまっしぐら!?)

「レイ、大丈夫?」

 不安そうなレイルークの肩をユリアがそっと優しく支えてくれる。

 レオナルドは考え込む様に瞼を閉じた。

「……ただでさえ美しすぎる容姿に、加えて憶測の域を出ないが歴代最高であろう魔力量、しかも全属性適性などと……私達の子は本当に妖精だったのか……」
「父様! 気をしっかり持って! 僕は人間だよ!!」
「いや、レイ……。レオの言うことは揶揄するものではないよ。……それくらい前例が無いという事さ!!」

 再び沈黙が生まれた。

「……私が、守ります」

「姉様?」

 レイルークの肩に置いたユリアの手に力が入ったのが分かった。

「どれだけ公爵家で囲っていても、レイルークの噂は既に世に知れ渡っている事は知っています。もしこの件が皆の知ることとなれば。更にどんな手を使ってでも手に入れようと躍起になるでしょう。……そんな事、私が絶対にさせません」

(営利目的な誘拐!!)

 レイルークは僅かに震えた。そんなレイルークを安心させる様にそっと抱き寄せる。

「貴方が大人になるまでは私が守ってあげる。だから、安心してレイルーク」

 優しく語りかけるその声に、強張っていた身体が少し解れた。

「……魔力量は、魔力制御の魔導具で何とかなるだろう。得意適性は……公表する属性を一つか二つに絞った方がいいな。あとは……レイルーク」
「……はい」
「レイの姉であるユリアがお前を守ってくれる。勿論、私達もだ。だからなにも心配する事はない。……ただ、心構えは必要だ。分かるな?」
「はい」
「本当ならば、レイが成長するまでは敢えて魔術から離れるのがいいのだが。レイには耐えられないだろう? ならば、先ずはその膨大な魔力をきちんとコントロール出来る様に、早急に手を打たなければならない」

(流石父様、僕の性格をよく分かってる。けど、どうやって)

「そこで私の出番だな!!」

 ルシータが勢いよく立ち上がった。

「母様?」
「レイの魔力制御、この私が教えようではないか!! 何、私のレイのことだ! 特訓を積み重ねれば、短時間で完璧にコントロール出来る様になるさ!!」


 (僕、近々死ぬかもしれません……)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ
児童書・童話
中学一年生の稲葉加奈は吹奏楽部に所属し、優れた音楽の才能を持っているが、そのせいで一部の部員から妬まれ、冷たい態度を取られる。ショックを受け、内向的な性格になってしまった加奈は、自分の心の奥深くに抱えた悩みやコンプレックスとどう付き合っていけばいいかわからず、どんよりとした気分で毎日を過ごしていた。 そんなある日、加奈の前に突如現れたのは、魔界からやって来た王子様、ルディ。彼は加奈の父親に頼まれ、加奈の悩みを解決するために日本まで来たという。 どうして父が魔界の王子様と知り合いなのか戸惑いながらも、ルディと一緒に生活する中で、ずっと抱えていた悩みを打ち明け、中学生活の最初からつまづいてしまった自分を大きく変えるきっかけを加奈は掴む。 しかし、実はルディ自身も大きな悩みを抱えていた。魔界の次期魔王の座を、もう一人の魔王候補であるガレスと争っているのだが、温厚なルディは荒っぽいガレスと直接対決することを避けていた。そんな中、ガレスがルディを追って、人間界にやって来て……

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

処理中です...