私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら

文字の大きさ
4 / 20

第4話 白い結婚②

しおりを挟む

この一年で、侯爵家は大きく変わった。
まず、ルイス様のご両親が、引退してルイス様が侯爵の座についたのだ。
さらに、ルイス様はティアナに多くの贈り物をし、しかもティアナが欲しいものをすぐに買ってしまうので、お金がどんどん減っていっているのだ。

それでも、前侯爵たちが多くのお金を残してくれたおかげで、まだまだ有り余ってはいるが。

そして今日は結婚してから一年だ。

「侯爵様。奥様が食堂でお待ちになっていますが…」
「…は?」

アークがルイス様に伝えるが、何を言っているのがわからないという表情で返す。
しかし、ルイス様は、アークに頭が上がらない。アークは、ルイス様が幼い頃から侯爵家の多くを手助けし、富を築き上げた一因と言っても過言ではない。ルイス様の仕事も手伝っていることから、彼はアークに恩しかないのだ。

そのため、ルイス様はまともに反抗できずに私のいる食堂へと連れてこられた。

「…一体なんだ。今更構って欲しいのか?」
「いえ。今日は、結婚記念日でしょう。料理人たちが腕によりをかけて作ってくれたのですから…」
「はぁぁー…」

大きなため息。
ルイス様は、私のことを一瞥してから口を開いた。

「だからなんだ。お前に構っている暇なんてないんだ。勝手に食べていろ」

ーーやっぱり。
別に構って欲しいわけじゃない。想いは全て捨てたし、今更ーーなんて、絶対にありえない。
ただ、「記念日だから」と頑張って作ってくれたみんなのために、私はルイス様と一緒に食べて感謝したかったのに。

「…レナ」
「はい、奥様」
「もう、いつも名前でいいって言ってるでしょう」
「…すみません、慣れなくて…」
「使用人一同、呼んできてくれないかしら」

こんなに沢山作ってくれたのに、私だけ食べて残すなんてもったいない。
どうせなら、みんなで食べた方が何倍も美味しいはずよ。

それから食堂にはぞろぞろと使用人たちがやってきて、皆で賑やかに食べた。



夜。

コンコン、と扉がノックされた。
どうぞ、と返すとドアを開けて立っていたのはティアナだった。

「…こんにちは、ティアナさん。どうなさったのですか?」
「今日、ルイスが部屋に来てくれないんです。まさかアイリス様のところにいるのですか!?」
「…いえ。私のところにはいませんわ。ーー来るはずもないでしょう?」
「あっ…そうでした…ルイスは、ね。お邪魔しましたわ~」

なんだ、嫌味を言いに来ただけか。
毎日お元気でーールイス様に愛されない想像など、したことがないのでしょうね。
まあ、別にどうでもいいけど。

しかし、その後何日も夜に、ティアナは嫌味を言いに来た。
なんでも、本当にルイスは部屋に通わなくなったらしい。
初めは嫌味のための嘘かと思っていたが、どうやら違ったようだ。

「ねぇ、ルイスぅ~」
「…なんだ」
「欲しいものがあるのっ!」
「…自由に買え」
「えっ……あっ、ありがと!」

ティアナも困惑している。
だっていつも、「欲しいものがある」と言えば、「一緒に買いに行こう」と受け答えしていたものね?
それが、独りになってさぞかし寂しいでしょうね。

「…アーク。ルイス様は、最近何かあったの?」

別に、何かあったら助けたいとか、そういうのじゃない。
ただの興味本位、だ。

「…いえ…」

アークにしては珍しく、言葉を濁らせた。
問い詰めても相手がアークだと意味がなさそうなので、ひとまずここはやめておく。

それからも、ティアナはだんだん一人になっていったようだ。
一緒にいるところをほとんど見受けられず、そうして半年が経った。



「アイリス様…」

いつもよりも元気のない声で、ティアナはまた夜に私の部屋へきた。
また、嫌味でも言うのだろうか。そんな声で?ーーと苦笑しながら私は何でしょう、とにこやかに返す。

「私は、ここで働くことになりました」
「…へ?」

働く?
ティアナは一応、使用人に「ティアナ様」と呼ばれているような立場で、ルイス様の愛人だ。そんな彼女が、一体どうしたというのだろう。
まさか、彼女が自分から「働きたい」なんて言うはずもない。

「…ルイス様に言われたのですか?」

ティアナは何も言わずにこくんと首を縦に振った。

どうして?
ルイス様は、ティアナを溺愛していたはずだ。

「…私はもう、必要ないそうです」

ティアナは寂しそうだった。
どこかしゅんとしていて、俯き、いつもの晴れやかな顔は見られない。

「必要、ない?」
「はい」

それに、必要ないとは。
逆に、今までティアナを必要とするがあったというのか。

嘘をついているようには見えない。
ルイス様と計画した演技でもなさそうだ。ーールイス様は、人を騙すとか、そういうのを極端に嫌うから。

気持ちに蓋をしているーーというより、彼に対する心を捨てたというのも、見方にとっては「騙す」ようにも見えるのかもしれない。



次の日。
およそ一年ぶりに、ルイス様の書斎をノックした。

「入れ」

ティアナだと思ったのだろうか。あるいは、アークだと思ったのだろうか。
一番予想していなかったであろう私が入ってきたことで、困惑の表情が見られた。

「…なんだ」
「ティアナが、侯爵家《ここ》で働くそうですね」
「ああ。何か悪いか?」
「いえーー二人の仲は冷めきってしまったのかな、と」
「っ、だったらお前に何か関係がーー」

彼ははっとして言うのを止める。
なんでかしらーー私の表情を見たのかしら。

彼は、私が嫉妬してると思ったかもしれない。
そして、チャンスだと乗り込んできたと思ったかもしれない。

だけど、違うのよね。
彼が私によく見せるように、私も冷笑を浮かべて一瞥してやった。
それに、驚いたのかもしれない。

「…っ、小癪《こしゃく》な…!」
「ふふっ…実は、今日はお願いをしに参ったのです」

お願い…?と首を傾げるルイス様。

「…ティアナさんを、専属侍女にしたいのです」

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん
恋愛
本編完結済み。 6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。 王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。 私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。 ※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...