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第12話 幼馴染①
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◇
「…お呼びでしょうか、ルイス様」
「ああ、疲労で倒れたと聞いたんだが…」
あなたのその心配するような表情には、どういう意味が込められているのだろう?
もしかしたら、その心の内では、私を嘲っているかもしれない。
そして、この質問には、なんと答えるべきなのだろう。
「はい」か「いいえ」か。あるいは、「ありがとう」か。いつもならありがとうと言うだろうけれど、もう私は、我慢の限界だった。
「…いいえ」
「…は?」
「私は、疲労で倒れたのではありません」
「なら、どうして?誰がそんなことを!?」
ああーーよく言えたわね、その口で。
私を傷つけてきたのも、裏切ってきたのも、全てーー。
「…あなたです」
「は?」
「私は、あなたに裏切られてきた。ルイス様、あなたは私に反省したとおっしゃいましたわね?それなのに、そんなことも忘れたのですか?」
「…どういう…」
「ルイス様は、未だ多くの女性と懇意になさっているようで」
「っ……!」
真実だろうか、図星だと言わんばかりに彼は黙り込んだ。
そしてその認めたような態度が、余計に私を傷つける。
「…何か、言ってください」
促すように、責めるように、夫を見る。
それが、今私ができる精一杯のことだった。
彼はそれまで俯いていた顔を上げ、私を見据えた。
「っ…ああ、そうだ!だからなんだ!?」
「えっ…」
「お前は、本当に、面倒な女だな!ちょっと大人しいからって放っておけば、いつのまにか調子に乗りやがって……!」
逆ギレした夫は、ティーカップを私に投げつけた。
ふいに耳をかすり、私の背後にあるドアへと突き当たった。
そして私は、というと、耳のかすり傷の痛みよりも心の痛みを感じていた。
ルイス様が放ったその言葉の意味を、理解しようとしながらーー。
「おとな、し、い…?」
すると、はっと彼は口を抑えた。
「いいから出て行け!お前は、もう二度とここに来るな」
「なぜ、やはり…騙していたのですね!?」
「うるさい、うるさい…!言っただろう、お前こそ忘れたのか!?私はーー僕は、お前なんかどうでもいいんだと」
どくん、どくん。
だんだん大きくなる鼓動を無理矢理聞かないようにしながら、私は走った。
走って、走ってーーどれほど走っただろう。
気づけば、屋敷を出ていた。
「う、うぅ、ふぅ……」
涙が溢れて、止まらない。
「お前なんかどうでもいい」ーー何度も聞いたその言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。消えないーー。
「…アイリス?」
ふいに声がして、その方を見ると、リアムが立っていた。
「あ、リア、ム………」
彼は私の顔を見た途端、駆け寄り思い切り私を抱きしめた。
「…泣くな、アイリス。大丈夫、大丈夫だからーー」
久しぶりに聞いた優しいその言葉が、冷めた私の心を溶かしていく。
そう、いつも、この幼馴染は、欲しかった言葉をくれるのだ。
なんとか正気に戻った私は、全てを打ち明けることにした。
◇
「で、抱きしめたわけですかぁ~。やるなぁ、リアムってば」
「う…うるさい。今は、そういう話じゃない」
リアムの書斎にて。
僕の側近のルカがひゅーと口を鳴らす。彼とはこれでも幼い頃からの付き合いで、彼はよくタメ口で話してくるのだ。
そして今、話している内容は、今日街中で会った、大切な人、アイリスのこと。
「それにしても、不憫っすよね~。どれだけ愛しても夫は浮気性で」
「…浮気性とは言ってない」
「まあまあ、そこは置いといて~。で、そのアイリスさんは今後どうするの?」
それについては、彼女は何も語ってこなかった。
昔から、そういう性格だ。
彼女自身は気づいていないが、昔から人のことばかり気遣う。なんでも「人のおかげ」にし、自分は一切何もしていないかのように振る舞っている。
アイリスは小さい頃もあまり泣かない子でーーだからこそ、余計に今日も僕の心臓がどくんと鼓動を打ったのだろう。
元から可愛らしい子だった。
それが成長するにつれ、美しい淑女になった。
その綺麗な顔が、涙を流すほどに苦しんでいると知れば、それは僕にはとても耐えられない。
だってーー昔から、ずっとずっと、好きだから。
悲しいことに、その想いは届いたことはない。
だからこそ、簡単にアイリスは他の男のものになってしまった。
好きなら、いい。
アイリスを大切にしてくれるなら、幸せにしてくれるなら、それでいい。
なのに、その夫ときたら、浮気はするわ妻に嘘はつくわで最低な男だった。
「…なんで、あんなやつが」
あんなやつが何の努力もせずアイリスを手に入れているのか。
思わず僕は舌打ちする。
そして、そんなやつに懸命に愛を注いでいるアイリスを見ていても、辛いのだ。
「ーー愛をどれくらい注いだって、返ってこなければ心が死んでしまう」
あるいは、「心を捨ててしまう」というところか。
今度は、その分誰かが、彼女を愛するべきだ。
そしてその「誰か」に僕がなれるようにーー。
「…お呼びでしょうか、ルイス様」
「ああ、疲労で倒れたと聞いたんだが…」
あなたのその心配するような表情には、どういう意味が込められているのだろう?
もしかしたら、その心の内では、私を嘲っているかもしれない。
そして、この質問には、なんと答えるべきなのだろう。
「はい」か「いいえ」か。あるいは、「ありがとう」か。いつもならありがとうと言うだろうけれど、もう私は、我慢の限界だった。
「…いいえ」
「…は?」
「私は、疲労で倒れたのではありません」
「なら、どうして?誰がそんなことを!?」
ああーーよく言えたわね、その口で。
私を傷つけてきたのも、裏切ってきたのも、全てーー。
「…あなたです」
「は?」
「私は、あなたに裏切られてきた。ルイス様、あなたは私に反省したとおっしゃいましたわね?それなのに、そんなことも忘れたのですか?」
「…どういう…」
「ルイス様は、未だ多くの女性と懇意になさっているようで」
「っ……!」
真実だろうか、図星だと言わんばかりに彼は黙り込んだ。
そしてその認めたような態度が、余計に私を傷つける。
「…何か、言ってください」
促すように、責めるように、夫を見る。
それが、今私ができる精一杯のことだった。
彼はそれまで俯いていた顔を上げ、私を見据えた。
「っ…ああ、そうだ!だからなんだ!?」
「えっ…」
「お前は、本当に、面倒な女だな!ちょっと大人しいからって放っておけば、いつのまにか調子に乗りやがって……!」
逆ギレした夫は、ティーカップを私に投げつけた。
ふいに耳をかすり、私の背後にあるドアへと突き当たった。
そして私は、というと、耳のかすり傷の痛みよりも心の痛みを感じていた。
ルイス様が放ったその言葉の意味を、理解しようとしながらーー。
「おとな、し、い…?」
すると、はっと彼は口を抑えた。
「いいから出て行け!お前は、もう二度とここに来るな」
「なぜ、やはり…騙していたのですね!?」
「うるさい、うるさい…!言っただろう、お前こそ忘れたのか!?私はーー僕は、お前なんかどうでもいいんだと」
どくん、どくん。
だんだん大きくなる鼓動を無理矢理聞かないようにしながら、私は走った。
走って、走ってーーどれほど走っただろう。
気づけば、屋敷を出ていた。
「う、うぅ、ふぅ……」
涙が溢れて、止まらない。
「お前なんかどうでもいい」ーー何度も聞いたその言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。消えないーー。
「…アイリス?」
ふいに声がして、その方を見ると、リアムが立っていた。
「あ、リア、ム………」
彼は私の顔を見た途端、駆け寄り思い切り私を抱きしめた。
「…泣くな、アイリス。大丈夫、大丈夫だからーー」
久しぶりに聞いた優しいその言葉が、冷めた私の心を溶かしていく。
そう、いつも、この幼馴染は、欲しかった言葉をくれるのだ。
なんとか正気に戻った私は、全てを打ち明けることにした。
◇
「で、抱きしめたわけですかぁ~。やるなぁ、リアムってば」
「う…うるさい。今は、そういう話じゃない」
リアムの書斎にて。
僕の側近のルカがひゅーと口を鳴らす。彼とはこれでも幼い頃からの付き合いで、彼はよくタメ口で話してくるのだ。
そして今、話している内容は、今日街中で会った、大切な人、アイリスのこと。
「それにしても、不憫っすよね~。どれだけ愛しても夫は浮気性で」
「…浮気性とは言ってない」
「まあまあ、そこは置いといて~。で、そのアイリスさんは今後どうするの?」
それについては、彼女は何も語ってこなかった。
昔から、そういう性格だ。
彼女自身は気づいていないが、昔から人のことばかり気遣う。なんでも「人のおかげ」にし、自分は一切何もしていないかのように振る舞っている。
アイリスは小さい頃もあまり泣かない子でーーだからこそ、余計に今日も僕の心臓がどくんと鼓動を打ったのだろう。
元から可愛らしい子だった。
それが成長するにつれ、美しい淑女になった。
その綺麗な顔が、涙を流すほどに苦しんでいると知れば、それは僕にはとても耐えられない。
だってーー昔から、ずっとずっと、好きだから。
悲しいことに、その想いは届いたことはない。
だからこそ、簡単にアイリスは他の男のものになってしまった。
好きなら、いい。
アイリスを大切にしてくれるなら、幸せにしてくれるなら、それでいい。
なのに、その夫ときたら、浮気はするわ妻に嘘はつくわで最低な男だった。
「…なんで、あんなやつが」
あんなやつが何の努力もせずアイリスを手に入れているのか。
思わず僕は舌打ちする。
そして、そんなやつに懸命に愛を注いでいるアイリスを見ていても、辛いのだ。
「ーー愛をどれくらい注いだって、返ってこなければ心が死んでしまう」
あるいは、「心を捨ててしまう」というところか。
今度は、その分誰かが、彼女を愛するべきだ。
そしてその「誰か」に僕がなれるようにーー。
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