レオン〜騎士道を知らずに騎士になった少年〜

皇帝さえも憧れる称号

「領地内の畑ではいろんな野菜が採れます。森の泉から湧き出て領地内を流れる川では、魚や海老や蟹も捕れますし」
「それは素晴らしい。釣りが楽しめますな！」
「じゃあ、大きな魚が捕れたら庭の石窯で焼くと良いですよ。ふっくらジューシーに美味しく焼き上がりますから」
「それは愉しみですなぁ」
「だけど現金収入は、後見人の父が大工仕事で稼いできてくれる分しかないんです……」
　父ツィマーマン卿は、嘘偽りのない息子の言葉にうなづく。
「我々への手当は、その何割かで結構です。私には退職金もありますし、それとは別にクラウディウス侯爵からは立ち退き料としてまとまったお金が入りますから」
「じゃあ、帰ってから家族会議を開いて、近いうちにお返事します」
　レオンはマイヤー卿夫妻に約束し、父は息子の言葉にうなづいた。

　当時、騎士の称号を持つことは、平民の男たちだけではなく、貴族や王族の男たちの憧れだった。強くてたくましい「男の中の男」として認められた証だからだ。「王たちの王」である皇帝さえも憧れる称号なのだ。だからどの階級の女たちからも騎士はモテモテだった。
　なるほど、剣術学校で騎士道をしっかりと学んだマイヤー卿は、強いだけの荒くれ者ではなく、礼儀正しく親切で上品な紳士だった。そして夫人は知的で謙虚で、ウィットに富んだ洗練された会話術で人を愉しませることのできる魅力的な女性だった。
　生まれながらの貴族を雇うのは気後れしてしまうから無理だが、マイヤー卿夫妻は二人とも元平民だから、気後れすることなくすぐに打ち解けて話すことができたのである。