君が女の子

papporopueeee

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プロローグ

集められた9人の男の子たち

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 それは朝ぼらけ男子中学校の全校生徒合同遠足の終盤のことだった。昼食も終えて後はバスに乗って帰るだけのところで、朝比奈 小陽(あさひな こはる)は幼馴染である北条 睦美(ほうじょう むつみ)と共に教師からの呼び出しを受けた。

「クラスでボクたちだけ呼び出しなんて……ハル君は心当たりあるかな?」

 睦美は左耳に髪をかけながら、隣の小陽に向けて首を傾げていた。髪を耳にかけるのならば目にかかっている右側にすればいいのにとも思うが、いつものことなので小陽は口には出さなかった。

「僕にもわかんないけど、とりあえず行ってみよう。向こうのバスに行けって言ってたね」

 小陽と睦美はバスに乗るクラスメイトの列を抜け出した。
 各学年の生徒たちが続々と乗り込むバスが並ぶ中、離れた位置にぽつんと一台だけ停車しているバスがあった。その乗車口には珍妙な恰好をした同級生が待っており、小陽たちが近づくのに気付くと手を上げながら声をかけてきた。

「よっすー。あんたらで最後らしいよ?」

 『己の心に素直であれ』という校訓通り、朝ぼらけ男子中の校則はかなり緩い。大抵の髪型と服装が許され、小陽と睦美も学ランとブレザーで分かれている。

 そんな中でも、彼の見た目は群を抜いて自由であった。サイドテールに結んだ長髪にはピンクのメッシュ。ドレスのように改造された長ランと、太ももから膝まで露出した短パン。中学生でありながら化粧もしており、一泊二日の遠足においてもオシャレに抜かりは見られない。

 桜 菜々緒(さくら ななお)は二年生の中で最も目立つ有名人であった。

「睦美と僕だけじゃなくて、菜々緒くんも……というより、その言い方だと他にも呼び出されてる人がいるの?」
「んー、なんか各学年で3人ずつっぽい? 他の人たちは先にバスに乗ってるよん」
「バスに乗るってことは、どこか行くのかな? 遠足ってもう帰るだけじゃないのかな? 菜々緒、どういうことなのかな?」
「アタシが知るわけないっしょー。せんせー、2年揃ったー!」

 菜々緒がバスの中に声をかけると、一人の教師が乗車口から顔を出した。
 小陽は面識は無かったが、その長髪を後ろで結った姿には見覚えがあった。朝ぼらけ男子中の教師は男性のみであり、中性的な容姿をしているだけでも印象に残りやすい。しかしその教師の詳細までは思い出せずにいると、察したらしい睦美が耳打ちをしてくれた。

「ハルくん、榎戸(えと)先生だよ。今年からの先生で、確か一年生の担当してたはずかな……ちょっと目が怖いよね……」

 睦美の言葉通り榎戸は切れ長の瞳をしており、二年生の三人を睨むように一瞥した。

「朝比奈、北条、んで桜の3人で間違いないな? ほなら、皆が待ってるからさっさと乗り。席はテキトーでええから」

 榎戸はそれだけ言うと、さっさとバスの中に戻ってしまった。やはり、小陽たちはこのバスで何処かに連れていかれるようだ。

「せんせー、愛想ないなー。アタシが教えてあげようかー?」

 教師相手に軽口を叩きながら搭乗する菜々緒の背に小陽と睦美も続く。
 バスの運転手を除くと、既に乗車中の人間は菜々緒の言葉通り7人いた。1人は榎戸であり、運転席の真後ろの席に座ってスマホを弄っている。

 榎戸の斜め後方には、腰まで伸ばした長髪が目立つ生徒が礼儀正しく座っていた。

「あっ、生徒会長。こんにちは」
「こんにちは。挨拶をいただけたのは嬉しいですが、私は元生徒会長ですよ。今はただの受験生ですから、もっと気楽な呼び方の方が好ましいですね」

 如月 弥生(きさらぎ やよい)は小陽に向けてにっこりと微笑んだ。菜々緒が二年生の中で最も目立つ存在ならば、弥生は全学年の中で最も目立つ存在だ。
 菜々緒のような改造制服が許されている中で、ネクタイまできっちりと締めたブレザー姿。男子中であることを忘れさせるような髪の長さ。後輩に対しても敬語を使用する礼儀正しさ。弥生は誰もが持つ優しい生徒会長のイメージを体現したかのような生徒である。

 小陽は微笑む弥生に会釈を返しながらバスを進むと、今度はフードを深く被った私服の生徒が座っているのが目に入った。

「……」

 寝入っているのか顔を伏せており、小陽たちの乗車にも気付いていなさそうだ。襟に装着した学年章から三年であることはわかったが、それ以外は何もわからなかった。

 更に車両の中腹まで進んだところで小陽その生徒に気付き、驚きの声を漏らしかけた。
 窓辺に肘をついて、物憂げな表情で外を眺めている生徒は和泉 桃莉(いずみ とおり)。中学生ながらにモデルをやっており、SNSのフォロワー数は数万人も居る。自撮りを上げればコメントと高評価が殺到し、最近は芸能人とのコラボ動画までやっている新進気鋭の人物である。
 長いまつ毛が日の光を受けて輝いており、髪の隙間から見える瞳には引きずり込まれそうな迫力があり、気崩したブレザーすらも衣装のように見えてしまう。桃莉は窓の外を眺めているだけなのに、その光景はメンズグラビアの一幕のようだった。

 小陽の視線に気づいたのか、桃莉は流し目を向けながら左手を軽く上げ、そしてまた窓の外に視線を戻してしまった。

「ハル君、これどういう基準で集められてるのかな……ボクたち何かしちゃったかな?」
「わっかんない……」

 耳元で囁かれた睦美からの困惑に、小陽もまた同じように困惑で返した。

 奇抜な恰好で有名な同級生の菜々緒。フードを被った謎の三年生に、元生徒会長の弥生と人気モデルの桃莉。小陽から見ればこの3人に共通点は無く、集められた理由には皆目見当もつかなかった。

 頭を捻ったまま更に歩みを進めると、一番奥の席で膝を突き合わせて仲睦まじそうにお喋りに興じている一年生たちが目に入った。

 座っているだけなのに花のような雰囲気を纏う、後ろ髪をまとめている学ランの生徒。
 2人に囲まれてあどけない笑顔を浮かべている、短髪に学帽を被った学ランの生徒。
 そして純白のローブと短パンが目立つ、日本人離れした顔立ちの生徒。

 三年生に負けず劣らず個性的な集団に目を奪われていると、菜々緒が一年生たちの方へと駆け出していた。

「えー、何か仲良さそうじゃん。アタシも混っぜてー!」

 小陽が止める間もなく一年生の輪に割り込んでいく菜々緒。上級生の菜々緒が入り込んでは迷惑ではないかと心配したが、バスの中にはすぐに4人の楽しそうなお喋りが響き始めた。

「ハル君、ボクたちはこの辺がいいかな?」
「うん、そうしよう」

 小陽と睦美の着席後、9人の生徒を乗せたバスは緩やかに発車した。



 バスに乗ってから、体感で一時間程度が経過した頃。

 静かな三年生たちと、密やかに囁き合う小陽と睦美と、賑やかな菜々緒と一年生たち。各々が思い思いに時間を過ごしている内にバスは林道に入り、しばらく走った後に停車した。

「全員降りい」

 榎戸から指示を受けて前方の三年生から順に降車していくと、そこは周囲を林に囲まれた砂利道だった。バスが来た道は長く続いており、徒歩では通りに出るまで相当の時間がかかるだろう。

「ねえ、ハル君。あれって何かな? 校舎かな? ここってどこかの学校なのかな?」

 林に囲まれている建物を指さしながら、睦美は小陽の耳に顔を寄せひそひそと話し始めた。

「合宿所だよ、あさ男中の。僕はサッカー部の合宿で来たことあるから知ってる。運動部の合宿だけじゃなくて、受験勉強の合宿に使ってたりもするんだって」
「へえ、そんなのあったんだ……でも、どうしてそんな場所に連れてこられたのかな? ハル君はともかくボクは文芸部だし、受験生でもないし……」

 目的地が判明しても、連れてこられた理由はやはりわからなかった。
 小陽と睦美が互いに困惑を返し合っている内に榎戸を含めた全員がバスから降り、そしてバスはそのまま引き返してしまった。どうやらすぐには帰してもらえないらしい。

「……あれ?」

 引き返すバスを眺める小陽の視界に、ちらりと光る物が映った。それは林道においては不自然な、何か機械的な物のように見えた。

「ハル君、どうかしたの?」
「……何でもない」

 きっと監視カメラか何かだろう。この林道が学校の土地であるならば、それくらいがあってもおかしくはない。そう自分を納得させて、小陽は違和感を拭い取った。
 生徒が少なからず動揺する中、律儀に大きく手を挙げながら榎戸に質問したのは菜々緒だった。

「せんせー、こんなところで何すんの? まさか、補習合宿とかじゃないよねー?」

 放課後ならともかく、遠足終わりに不意打ちで合宿所まで連行するような補習など普通ならありえない。連れてこられた9人が尋常ではない程の阿呆な上に不良生徒ならまだしも、少なくとも睦美の成績は悪くない。菜々緒自身も、本気で補習だとは思っていない様子だった。

 榎戸はちらりとだけ振り向いた後、校舎に向かって歩きながら短く言い放った。

「うちの学校にな、女の子が混ざってるらしいねん。お前らはその候補や。探し出すまで帰れへんから、きびきび動き」
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