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1日目
自由時間5:身体は間違いなく男の子
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合宿所の中にある2つの大浴場。その1つである男湯に久野絵は居た。
普段はフードで隠れている襟足の先を湯舟につけ、黒マスクで隠していた口元からは八重歯を覗かせて、深く息を吐きながら久野絵は温かな湯舟に身を委ねていた。
そんな久野絵のひとりきりの時間を邪魔するように浴場の扉が開き、入ってきたのは弥生だった。
「やはり織田君でしたか。お風呂の時間はしっかりとスケジュールされているというのに、守らないのは関心しませんね」
「……どの口が言ってんだてめえ。素っ裸でご高説されても説得力ねえぞ」
「私はえると先生に確認を取っています。誰かが既に入浴しているようだから、私も入ってしまって良いかと。許可の在る無しは、大きな違いだと思いませんか?」
「決めつけてんじゃねえ。オレだって許可取ってるかもしれねえだろうが」
「その口振りだと、許可なんて取っていないと自白しているようなものですね。それに、織田君はそういう人じゃないでしょう?」
「わかったような口利いてんじゃねえ。くそAIと同じかよてめえは」
「ふふ、くそAIですか。えるが聞いたら何と言うんでしょうか。やはり言葉遣いを咎めるのか……呼び方は何でも良いと言っていましたから、案外そのまま受け入れる可能性もありますかね?」
弥生は風呂椅子に腰をかけると、シャワーを浴び始めた。長い髪を丁寧にお湯で濡らし、シャンプーで頭皮から毛先まで隈なく洗い、そして時間をかけて洗い流していく。
そして身体まで洗い終わると、弥生はぺたぺたと久野絵の浸かる浴槽へと歩いてきた。
「失礼してもいいですか?」
「ダメだって言ったらそのまま引き返すのかよ?」
「では、お邪魔しますね」
「話聞いてねえのかよ、てめえ……こんな奴が生徒会長だったと思うと、震えるな」
「集団の長というのは我儘な方が良いものですよ。程度にも依りますがね」
弥生は腰よりも長い髪を浴用タオルで器用にまとめると、足先から少しずつ湯舟に浸かった。
「っ……少し熱いですね。こんなに温度が高くてはのぼせてしまいませんか?」
「文句言うなら入んな、帰れ」
「貴方の所有物でも無いでしょうに、勝手な言い草ですね……」
熱さに震えながらも、弥生はゆっくりとお湯に身を沈めていく。細かく息を吐いて身体を慣らしながら少しずつ……やがて肩まで浸かると大きく息を吐いた。
「はぁーっ……一度入ってしまえば、この熱さも中々心地良いものですね。勉強になりました」
「一応言っておくが、間違ってものぼせんなよ……他人の介抱なんて御免被るからな」
「ふふっ、それは難しいかもしれませんね。誰だってのぼせたくてのぼせるわけでは無いでしょうから……気を付けていたって、のぼせる時はのぼせてしまうものですよ」
「偉そうな口振りで情けないこと言ってるんじゃねえ」
しばしの間、久野絵と弥生は同じ湯に浸かり続けていた。間に二人分以上の距離を開けて、互いにそっぽを向くようにして……換気扇の音と、偶になる水音と、熱の籠った呼吸の音を交わしながら。
やがて、弥生はお湯ですっかり解れた心を漏らすように口を開いた。
「どうしてスケジュールを守らずに、こんな早い時間にお風呂に入っていたのですか? 皆と一緒だと、何か不都合でもあったのですか? 例えば、見られたくない物があるとか……今も何やら縮こまっていて、何かを隠しているかのように見えます」
「こっち見てんじゃねえ。身体が男なのはもう全員分確認済みだろうが……小さかろうが、オレが女じゃねえのは間違いねえだろ」
「そんな卑下しなくても、大きさなんて私は興味が無いですよ。私が気になっているのは、貴方の気持ちの方ですから」
「はっ、オレの中身が女じゃねえのかってか? 馬鹿らしい……そんなに言うなら見せてやるよ。別に、隠すようなもんなんて何もありゃしねえ」
久野絵は立ち上がると、弥生に身体の正面を向けた。湯舟の波が当たる鼠径部から上を全て、弥生に対して晒け出した。
弥生はどこかぼやけたような表情のまま、差し出された裸体を視界に収めていた。上の方から、下の方まで……そして十分に観察を終えた後に頷くと、久野絵同様に立ち上がった。
「それでは、私も見せますね。そうしないと公平ではありませんから」
久野絵に身体の正面を向ける弥生。湯舟の波が当たる大腿から上を全て、久野絵に対して晒け出した。
「……あほらし」
一通り弥生の身体を観察すると、久野絵はざぶざぶと波を立てながら弥生の横を通り抜けて浴槽から出た。
「一人の時間を満喫していたのなら、邪魔をしてすみませんでした」
「別に、こんな広い風呂を独占したいなんて傲慢なことは考えてねえよ。ただ、もう十分入ったから上がるってだけだ」
「それなら良かったです……明日もこの時間に入るつもりですか?」
「……明日になっても、まだこのふざけた合宿が終わってなかったらな」
久野絵は手早くシャワーで汗を流すと、足早に脱衣所へと去って行った。
弥生は久野絵を見送った後、再び座り込んで湯舟に身を沈めたのだった。
「……やっぱり、少し熱いかもですね」
普段はフードで隠れている襟足の先を湯舟につけ、黒マスクで隠していた口元からは八重歯を覗かせて、深く息を吐きながら久野絵は温かな湯舟に身を委ねていた。
そんな久野絵のひとりきりの時間を邪魔するように浴場の扉が開き、入ってきたのは弥生だった。
「やはり織田君でしたか。お風呂の時間はしっかりとスケジュールされているというのに、守らないのは関心しませんね」
「……どの口が言ってんだてめえ。素っ裸でご高説されても説得力ねえぞ」
「私はえると先生に確認を取っています。誰かが既に入浴しているようだから、私も入ってしまって良いかと。許可の在る無しは、大きな違いだと思いませんか?」
「決めつけてんじゃねえ。オレだって許可取ってるかもしれねえだろうが」
「その口振りだと、許可なんて取っていないと自白しているようなものですね。それに、織田君はそういう人じゃないでしょう?」
「わかったような口利いてんじゃねえ。くそAIと同じかよてめえは」
「ふふ、くそAIですか。えるが聞いたら何と言うんでしょうか。やはり言葉遣いを咎めるのか……呼び方は何でも良いと言っていましたから、案外そのまま受け入れる可能性もありますかね?」
弥生は風呂椅子に腰をかけると、シャワーを浴び始めた。長い髪を丁寧にお湯で濡らし、シャンプーで頭皮から毛先まで隈なく洗い、そして時間をかけて洗い流していく。
そして身体まで洗い終わると、弥生はぺたぺたと久野絵の浸かる浴槽へと歩いてきた。
「失礼してもいいですか?」
「ダメだって言ったらそのまま引き返すのかよ?」
「では、お邪魔しますね」
「話聞いてねえのかよ、てめえ……こんな奴が生徒会長だったと思うと、震えるな」
「集団の長というのは我儘な方が良いものですよ。程度にも依りますがね」
弥生は腰よりも長い髪を浴用タオルで器用にまとめると、足先から少しずつ湯舟に浸かった。
「っ……少し熱いですね。こんなに温度が高くてはのぼせてしまいませんか?」
「文句言うなら入んな、帰れ」
「貴方の所有物でも無いでしょうに、勝手な言い草ですね……」
熱さに震えながらも、弥生はゆっくりとお湯に身を沈めていく。細かく息を吐いて身体を慣らしながら少しずつ……やがて肩まで浸かると大きく息を吐いた。
「はぁーっ……一度入ってしまえば、この熱さも中々心地良いものですね。勉強になりました」
「一応言っておくが、間違ってものぼせんなよ……他人の介抱なんて御免被るからな」
「ふふっ、それは難しいかもしれませんね。誰だってのぼせたくてのぼせるわけでは無いでしょうから……気を付けていたって、のぼせる時はのぼせてしまうものですよ」
「偉そうな口振りで情けないこと言ってるんじゃねえ」
しばしの間、久野絵と弥生は同じ湯に浸かり続けていた。間に二人分以上の距離を開けて、互いにそっぽを向くようにして……換気扇の音と、偶になる水音と、熱の籠った呼吸の音を交わしながら。
やがて、弥生はお湯ですっかり解れた心を漏らすように口を開いた。
「どうしてスケジュールを守らずに、こんな早い時間にお風呂に入っていたのですか? 皆と一緒だと、何か不都合でもあったのですか? 例えば、見られたくない物があるとか……今も何やら縮こまっていて、何かを隠しているかのように見えます」
「こっち見てんじゃねえ。身体が男なのはもう全員分確認済みだろうが……小さかろうが、オレが女じゃねえのは間違いねえだろ」
「そんな卑下しなくても、大きさなんて私は興味が無いですよ。私が気になっているのは、貴方の気持ちの方ですから」
「はっ、オレの中身が女じゃねえのかってか? 馬鹿らしい……そんなに言うなら見せてやるよ。別に、隠すようなもんなんて何もありゃしねえ」
久野絵は立ち上がると、弥生に身体の正面を向けた。湯舟の波が当たる鼠径部から上を全て、弥生に対して晒け出した。
弥生はどこかぼやけたような表情のまま、差し出された裸体を視界に収めていた。上の方から、下の方まで……そして十分に観察を終えた後に頷くと、久野絵同様に立ち上がった。
「それでは、私も見せますね。そうしないと公平ではありませんから」
久野絵に身体の正面を向ける弥生。湯舟の波が当たる大腿から上を全て、久野絵に対して晒け出した。
「……あほらし」
一通り弥生の身体を観察すると、久野絵はざぶざぶと波を立てながら弥生の横を通り抜けて浴槽から出た。
「一人の時間を満喫していたのなら、邪魔をしてすみませんでした」
「別に、こんな広い風呂を独占したいなんて傲慢なことは考えてねえよ。ただ、もう十分入ったから上がるってだけだ」
「それなら良かったです……明日もこの時間に入るつもりですか?」
「……明日になっても、まだこのふざけた合宿が終わってなかったらな」
久野絵は手早くシャワーで汗を流すと、足早に脱衣所へと去って行った。
弥生は久野絵を見送った後、再び座り込んで湯舟に身を沈めたのだった。
「……やっぱり、少し熱いかもですね」
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