君が女の子

papporopueeee

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1日目

可愛いさこそ男の子の証

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 菜々緒は久野絵の主張を受け入れる気は無いらしく、毅然として反論をし始めた。

「はぁ? 意味わからないんだけど……そもそも、お昼だってアタシは有耶無耶になんかしてないし逃げても無いしー。ムッツリンが話題を変えただけじゃん。クノンパイセンが言って欲しいなら何度だって言ってあげるけどさ、逆なんだって。この中で一番男の子なのがアタシなの」
「そんな言葉を素直に受け入れんのは、よっぽどの阿呆かお人よしだけだろうが。てめえは身体こそ男だろうが、恰好は女そのものだ。ドレスを真似たような改造学ランに、女しか履かねえような丈の短パン。髪もなげえどころか、色まで入れて片側で結んでやがる。誰がどう見たって、てめえの恰好は女そのものだ。この中に女が混ざってるってなら、それはてめえ以外ありえねえな」
「はい、クノンパイセンそれ偏見だから。女の子は長髪、男の子は短髪なんて今日日おじさんおばさんの価値観だし。減点げんてーん、そんな偏見はLGBTQ特化AIのえるーんが見逃しませーん。裁判長、彼の不届き者に何らかの罰を求めるものであります!」

 びしっとディスプレイに向けて敬礼する菜々緒。しかしノリノリな菜々緒とは対照的に、えるの反応は落ち着いたものだった。

「この議論の主役はあくまでも皆だから、えるはよっぽど話が脱線しない限りは口出ししないよ? ディスカッションにおいては肯定も否定も同じ個人の意見に過ぎないから、久野絵くんの発言に問題は見受けられません。誹謗中傷が混ざらないようにだけ気を付けて欲しいな」
「はっ、だとよ桜。年貢の納め時ってやつじゃねえか? それでもてめえが認めないってんなら、多数決で決めりゃいい……それで全部終いで、この建物ともおさらばだ」
「むー、えるーんの塩対応は予想外……でもでも、やっぱりアタシの意見は変わらないもんね。この中で一番男の子なのはこのアタシ……だって、アタシは自分が男の子だからこそ可愛いを追求してるんだもん」

 菜々緒はぺろりと赤い舌を見せながら、自身が可愛い男の子であると宣言して見せた。

「意味のわからないこと言ってんじゃねえぞ。だったらその女装は何だって言うんだ?」
「んー、質問を質問で返すようでご無礼だけどさ、クノンパイセン……もしもアタシが女の子だったら、女装なんて出来ないんじゃない?」
「あ? そんなわけ……あぁ? ……はぁ?」

 久野絵は菜々緒の問いに対して即答が出来ず、菜々緒は久野絵の動揺を見るとにまっと笑った。

「理解できちゃった? 女装ってのはさ、男の子にしかできないの。クノンパイセンがアタシの女装を認めた時点で、アタシを男の子だって認めたも同然なんだよねー?」
「はぁっ? そんなのは言葉遊びだろうがっ……とにかくっ、オレはてめえを男の子だなんて認めてねえ!」

 久野絵は語気こそ強めているものの、その言葉は反論にはなっていなかった。菜々緒もそれをわかっているからか、余裕気に笑みを見せている。
 ふたりの議論がヒートアップしていく中で、涼やかに手を挙げたのはイヨだった。

「ナナオさんの主張する女装の話は身体の性別に対するものであり、主題である心の性別とは異なる話かと。心が女の子であるナナオさんは女の子の恰好が羨ましくて、男の子の身体で女装している……こう考えれば、何もおかしくは無いと思いませんか?」
「あ、バレちゃった? イヨラーってば鋭いなー。クノンパイセンはイケそうだったのになー?」
「てめぇっ!」
「でもね、クノンパイセンの言う通り、今のはただの言葉遊びだから。そんなに凄まなくても、ちゃんと教えてあげるよ……アタシが男の子である理由をさ?」

 そうして、菜々緒は語り出した。全員からの注目を浴びながらも、静かに、穏やかに。その胸の内に秘めた想いを晒し始めた。

「世の中の可愛いって、大体が女の子に都合の良いものばっかりじゃない? ふりふりのフリルは、丸みがあって凹凸のあるシルエットに良く似合うし。大きなリボンは、小柄な体型を更に小さく見せてくれる。キュートなワンちゃんネコちゃんも、女の子が抱けば相乗効果でもっと可愛い! 男の子だって可愛いところはあるけれど、それは幼い間だけ……年齢を重ねる程に、その身体からは可愛いが削がれていくの。骨格、筋肉、身長、声、体毛……世間からの視線もそう。成熟した男性を目にした時に、可愛いなんて評価基準は存在すらしないんだから。男への可愛いなんて賞賛は、そのどれもがギャップに対する評価ばっかりで、裏には『男のくせに』って言葉が隠れてる。どれだけ世間が公平平等に傾いたって、可愛いは女の子の為に在るの……だからこそ、今の純粋に可愛いアタシって凄いっしょ?」

 菜々緒は両腕を組み、堂々とした立ち姿で言い切った。この場の誰よりも男の子らしい凛々しさで、己の可憐さを誇っていた。

「女の子よりも不利な環境で、女の子よりも可愛いアタシって凄い……そんなナルシストな自分が、男の子なのに可愛い自分が、アタシは大好きなの。いつまでも可愛いを目指せる女の子とは違う、男の子の時限付きのシンデレラタイム……アタシは、それを誰よりも満喫している自負があるよ。だから、何度だって言ったげる。この中で一番男の子なのがこのアタシ……納得してもらえた?」

 サイドテールを片手で払って揺らしながら、菜々緒は雄々しく宣言した。自身の可愛い恰好こそが、自身が男の子であることの何よりの証明だと。

 菜々緒の話が終わった後も、久野絵とイヨはただ黙っていた。菜々緒は何かしらの証拠を出したわけでも、論理的な説明したわけでもない。ただ自身の想いを晒しただけであり、故にその想いを否定することは誰にもできなかった。
 菜々緒を女の子にしたければ切り口を変える必要があり、確固たる自信を持つ菜々緒を崩すのは難しいだろう。この男の子レースにおいて、菜々緒が一歩抜け出したのは疑いようが無かった。

「ふふーん、納得してもらえたようで何より……ところでぇ? お返しってわけじゃないんだけどさぁ……イヨラーとクノンパイセンにはアタシから聞きたいこともあってぇ……ふたりとも、何でお化粧してるの?」

 菜々緒からの質問に対し、久野絵は舌打ちを返し、イヨはただ黙っていた。
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