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2日目
フラグが立ちました
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間に昼食を挟んで、自習時間は午後まで続いた。授業とは違ってひたすらプリントに取り組み続けるのは心身共に消耗が大きく、生徒たちは殆どが顔に疲労の色を浮かべていた。
そんな中でも流石は元生徒会長と言うべきか、弥生は涼しい顔をしていた。自由時間だというのに勝手に久野絵のプリントをチェックしているらしく、当の久野絵は文句よりも疲労の方が勝っているようで無視しているようだ。
そして、一年生の中に疲れた様子を見せていない人物がもう一人……ジジは勢いよく席を立つと、ずかずかと歩き桃莉の前に立った。
「勉強終わったよ、トオリ。音楽室に行こう」
握り返してくれることを確信しているように手を差し出すジジ。一方の桃莉はその行動を予想していなかったらしく、目を白黒させて驚いていた。
「ジジ、昨日の夜の話を忘れたのか? 俺たちは……仲良くするような間柄じゃないだろ?」
苦虫を嚙み潰したように表情を曇らせる桃莉。言葉にせずとも、その頭に思い浮かべていることは小陽にも伝わって来た。
この中で男の子のままで居られるのは一人だけ。男の子のままで居たかったら、他の者を蹴落として犠牲にしなければならない。
どうせ裏切るのだから、仲良くしたって辛いだけ。桃莉の思いは小陽にも痛いほどわかったが、ジジはそうではないようだった。
「……? トオリが何を気にしているのか、ジジにはよくわかんない。でも、ジジには関係無いよ……ジジは敬虔なる使徒だから、神様からもらった多くを皆に捧げられればそれでいいの……あーめん」
「ジジ……まあ、確かにそうか。歌いたかったら、歌えばいいだけの話だよな。ごちゃごちゃ考えるのはめんどくさいし、楽しんだもん勝ちだ」
ジジの無垢な振る舞いに心を解されたのだろう。桃莉は昨日のように楽し気な笑みを浮かべていた。かく言う小陽も仲睦まじいふたりの様子を見て、心の重荷を少しだけ下せた心地だった。
「ああ、でもちょっと待てジジ。さすがに俺も長時間の自習で疲れてんだ。お前もそうだろ? 音楽室に行くのは休憩してからにしよう」
「ジジは疲れてないよ? イヨが先生みたいに授業してくれてたから。早く行こう」
「いや、だから俺が疲れてるって……ったく」
桃莉が差し出された手を握るよりも前に、ジジは強引に腕を絡めると教室の外へと引っ張って行ってしまった。
周囲を見ればいつの間にか久野絵も居なくなっており、自由時間を過ごす為に各々が行動を始めていた。
『……』
そんな中で、小陽と睦美は無言で席に座り続けていた。睦美の意図はその視線から丸わかりであり、小陽の意図も睦美には知られているのだろう。
後はどちらかが声をかけるだけ。しかしたったそれだけのことが、小陽にはどうしてかできなかった。
(何やってるんだろう、僕……。僕が謝りたいんだから、僕が声をかけないといけないのに……)
わかっているのに、小陽は動けなかった。睦美の方から声をかけて欲しいなんて、まるで奥手な少女のようだと自嘲しながらも、それでも勇気が出なかった。
もしも、小陽の知っている睦美ではなくなっていたら……それが怖くて話しかけられなかった。そして、運命とは行動を起こさない臆病者には微笑まないのが世の常である。
「ムツミさん、少しお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「えっ!? うっ、うん……大丈夫かな……?」
イヨに声をかけられ、睦美は席を立ってしまった。立ち去り際に睦美は小陽に視線を向けたが、小陽には視線を返すことはできず、ただ席に座っているだけだった。
「ハルハルさー、何やってるの? ムッツリンに謝って仲直りするんじゃなかったの?」
「なっ、菜々緒くん……見てたの?」
「そりゃ気にもなるでしょー? 自習中もずっと喧嘩したカップルみたいな空気出しちゃってさー……巻き込まれるアタシの身にもなってよねー」
「うっ、ごっ、ごめん……」
「まったく、仕方無いなー……ほら、行こ?」
菜々緒は大きく溜め息を吐いた後、ネイルを彩った長い爪が目立つ手を差し伸べてきた。
「え? 行くって、どこに?」
「何って、デートっしょ? 昨日だってムッツリンと歩き回ってたじゃん。今日はアタシが付き合ったげるって!」
「いや、僕と睦美はデートしてたわけじゃないし、そもそもそういう関係じゃ――っ!?」
菜々緒は勝手に小陽の手を取ると、強引に引っ張って立ち上がらせた。そして勢い余って転びかける小陽をその身体でしっかりと受け止めると――
「アタシが、ハルハルを立派な男の子にしてあげる……ね!」
――耳元で蠱惑的に囁いたのだった
そんな中でも流石は元生徒会長と言うべきか、弥生は涼しい顔をしていた。自由時間だというのに勝手に久野絵のプリントをチェックしているらしく、当の久野絵は文句よりも疲労の方が勝っているようで無視しているようだ。
そして、一年生の中に疲れた様子を見せていない人物がもう一人……ジジは勢いよく席を立つと、ずかずかと歩き桃莉の前に立った。
「勉強終わったよ、トオリ。音楽室に行こう」
握り返してくれることを確信しているように手を差し出すジジ。一方の桃莉はその行動を予想していなかったらしく、目を白黒させて驚いていた。
「ジジ、昨日の夜の話を忘れたのか? 俺たちは……仲良くするような間柄じゃないだろ?」
苦虫を嚙み潰したように表情を曇らせる桃莉。言葉にせずとも、その頭に思い浮かべていることは小陽にも伝わって来た。
この中で男の子のままで居られるのは一人だけ。男の子のままで居たかったら、他の者を蹴落として犠牲にしなければならない。
どうせ裏切るのだから、仲良くしたって辛いだけ。桃莉の思いは小陽にも痛いほどわかったが、ジジはそうではないようだった。
「……? トオリが何を気にしているのか、ジジにはよくわかんない。でも、ジジには関係無いよ……ジジは敬虔なる使徒だから、神様からもらった多くを皆に捧げられればそれでいいの……あーめん」
「ジジ……まあ、確かにそうか。歌いたかったら、歌えばいいだけの話だよな。ごちゃごちゃ考えるのはめんどくさいし、楽しんだもん勝ちだ」
ジジの無垢な振る舞いに心を解されたのだろう。桃莉は昨日のように楽し気な笑みを浮かべていた。かく言う小陽も仲睦まじいふたりの様子を見て、心の重荷を少しだけ下せた心地だった。
「ああ、でもちょっと待てジジ。さすがに俺も長時間の自習で疲れてんだ。お前もそうだろ? 音楽室に行くのは休憩してからにしよう」
「ジジは疲れてないよ? イヨが先生みたいに授業してくれてたから。早く行こう」
「いや、だから俺が疲れてるって……ったく」
桃莉が差し出された手を握るよりも前に、ジジは強引に腕を絡めると教室の外へと引っ張って行ってしまった。
周囲を見ればいつの間にか久野絵も居なくなっており、自由時間を過ごす為に各々が行動を始めていた。
『……』
そんな中で、小陽と睦美は無言で席に座り続けていた。睦美の意図はその視線から丸わかりであり、小陽の意図も睦美には知られているのだろう。
後はどちらかが声をかけるだけ。しかしたったそれだけのことが、小陽にはどうしてかできなかった。
(何やってるんだろう、僕……。僕が謝りたいんだから、僕が声をかけないといけないのに……)
わかっているのに、小陽は動けなかった。睦美の方から声をかけて欲しいなんて、まるで奥手な少女のようだと自嘲しながらも、それでも勇気が出なかった。
もしも、小陽の知っている睦美ではなくなっていたら……それが怖くて話しかけられなかった。そして、運命とは行動を起こさない臆病者には微笑まないのが世の常である。
「ムツミさん、少しお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「えっ!? うっ、うん……大丈夫かな……?」
イヨに声をかけられ、睦美は席を立ってしまった。立ち去り際に睦美は小陽に視線を向けたが、小陽には視線を返すことはできず、ただ席に座っているだけだった。
「ハルハルさー、何やってるの? ムッツリンに謝って仲直りするんじゃなかったの?」
「なっ、菜々緒くん……見てたの?」
「そりゃ気にもなるでしょー? 自習中もずっと喧嘩したカップルみたいな空気出しちゃってさー……巻き込まれるアタシの身にもなってよねー」
「うっ、ごっ、ごめん……」
「まったく、仕方無いなー……ほら、行こ?」
菜々緒は大きく溜め息を吐いた後、ネイルを彩った長い爪が目立つ手を差し伸べてきた。
「え? 行くって、どこに?」
「何って、デートっしょ? 昨日だってムッツリンと歩き回ってたじゃん。今日はアタシが付き合ったげるって!」
「いや、僕と睦美はデートしてたわけじゃないし、そもそもそういう関係じゃ――っ!?」
菜々緒は勝手に小陽の手を取ると、強引に引っ張って立ち上がらせた。そして勢い余って転びかける小陽をその身体でしっかりと受け止めると――
「アタシが、ハルハルを立派な男の子にしてあげる……ね!」
――耳元で蠱惑的に囁いたのだった
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