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2日目
2回目の話し合い、2回目の告発
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二日目の夜、二回目の話し合いの時間がやってきた。昨日と同じように机をCの形に並べて、昨日とは異なり机には2つの空席が混ざっている。
既に女の子になった睦美と菜々緒は話し合いに参加する気は無いらしく、スマホを弄る榎戸の隣にふたりで並んでいた。えるが咎めないことから、ふたりの欠席はえるの意図でもあるのだろう。
「それでは昨日と同じように、皆でディスカッションを始めるよ。テーマも同じで、自分の女の子らしいと思うところをいっぱい認め合っていこうね!」
裁判長に扮したえるが明るい調子で音頭を取ったものの、7人の生徒の間には重たい空気が流れていた。
全員がこの話し合いの結末を理解してしまっているからだ。誰かを攻撃するということは、その誰かに洗脳ヘルメットを被せるということ……誰もがあのヘルメットを被りたくないと思っており、誰もが被せるようなこともしたくないと思っている。
誰も傷つけない天使のように振舞うのが難しいように、誰をも傷つける悪魔のように振舞うのもまた難しい。誰からも発言が無いままに時間は刻一刻と過ぎていき、やがて生徒たちの間には一種の安堵感すらも生まれ始めていた。
(良かった……今日は何事も無く終わるかもしれない……)
最後の一人になるまで続けることがルールとして定められている以上、先延ばしは決してベストな選択ではない。それでも、誰かをヘルメットの犠牲にする精神的苦痛は耐え難い。それは小陽だけではなく、あの久野絵も同じ気持ちのようだった。
変わらず発言は無いものの場の空気は弛緩し始めて、ミコトが安心しきったように息を吐いたり、弥生が穏やかにお開きのタイミングを窺う中で――
「……」
――桃莉だけは、敵意を込めた瞳でジジを見つめ続けていた。
「トオリ、ジジに何か言いたいことでもあるの?」
桃莉から異常とも思える視線を受けていても、ジジの様子は普段と変わらなかった。感情に乏しい声のまま、感情に乏しい顔で桃莉を見つめ返していた。
音楽室でのふたりのやり取りを知らない生徒たちは桃莉の変わり様に驚愕していた。喧嘩を知っている小陽ですら、今でも信じられない気持ちだった。
小陽と睦美を除けば最も仲の良さそうだったふたりが、どうしてこんな険悪な雰囲気を纏うようになっているのかと。
「ジジ……言われなくてもわかってるだろ。俺の言いたいことなんて」
「うん、多分……トオリ、ジジを女の子だって告発したいんだろうなって……違う?」
「ジジ……っ……くそっ」
ジジの指摘は当たってはいるのだろうが、桃莉自身はまだ覚悟が出来ていないように見えた。桃莉の顔はジジを告発するべきか迷っていて、むしろジジの方が覚悟ができているようだった。
「良いよ。ジジの気持ちは昨日から変わってないから。あのヘルメットを被るのは、ちょっとだけ怖いけど……ジジが、皆の身代わりになってあげる」
ジジは一方的に宣言すると、自ら中央へと向かい始めた。引き留めようとするミコトの手をすり抜け、イヨの動揺した視線に見送られ……その目の前に桃莉が立ち塞がった。
「トオリ……気にしなくていいよ? ジジが皆の為に身代わりになってあげるから」
「っ……いや、身代わりなんかにはしない。お前は、俺が告発する……誰かの代わりにするんじゃない。ジジ、お前はっ……お前は、女の子だ」
「……うん、わかった。ジジは、それを認めます……あーめん」
それは、信徒からの懺悔を受け止める天使様のようだった。苦しみながらも必死に言葉を紡ぐ桃莉と、感情を感じさせないジジの姿が、そんな幻覚を見せていた。
既に女の子になった睦美と菜々緒は話し合いに参加する気は無いらしく、スマホを弄る榎戸の隣にふたりで並んでいた。えるが咎めないことから、ふたりの欠席はえるの意図でもあるのだろう。
「それでは昨日と同じように、皆でディスカッションを始めるよ。テーマも同じで、自分の女の子らしいと思うところをいっぱい認め合っていこうね!」
裁判長に扮したえるが明るい調子で音頭を取ったものの、7人の生徒の間には重たい空気が流れていた。
全員がこの話し合いの結末を理解してしまっているからだ。誰かを攻撃するということは、その誰かに洗脳ヘルメットを被せるということ……誰もがあのヘルメットを被りたくないと思っており、誰もが被せるようなこともしたくないと思っている。
誰も傷つけない天使のように振舞うのが難しいように、誰をも傷つける悪魔のように振舞うのもまた難しい。誰からも発言が無いままに時間は刻一刻と過ぎていき、やがて生徒たちの間には一種の安堵感すらも生まれ始めていた。
(良かった……今日は何事も無く終わるかもしれない……)
最後の一人になるまで続けることがルールとして定められている以上、先延ばしは決してベストな選択ではない。それでも、誰かをヘルメットの犠牲にする精神的苦痛は耐え難い。それは小陽だけではなく、あの久野絵も同じ気持ちのようだった。
変わらず発言は無いものの場の空気は弛緩し始めて、ミコトが安心しきったように息を吐いたり、弥生が穏やかにお開きのタイミングを窺う中で――
「……」
――桃莉だけは、敵意を込めた瞳でジジを見つめ続けていた。
「トオリ、ジジに何か言いたいことでもあるの?」
桃莉から異常とも思える視線を受けていても、ジジの様子は普段と変わらなかった。感情に乏しい声のまま、感情に乏しい顔で桃莉を見つめ返していた。
音楽室でのふたりのやり取りを知らない生徒たちは桃莉の変わり様に驚愕していた。喧嘩を知っている小陽ですら、今でも信じられない気持ちだった。
小陽と睦美を除けば最も仲の良さそうだったふたりが、どうしてこんな険悪な雰囲気を纏うようになっているのかと。
「ジジ……言われなくてもわかってるだろ。俺の言いたいことなんて」
「うん、多分……トオリ、ジジを女の子だって告発したいんだろうなって……違う?」
「ジジ……っ……くそっ」
ジジの指摘は当たってはいるのだろうが、桃莉自身はまだ覚悟が出来ていないように見えた。桃莉の顔はジジを告発するべきか迷っていて、むしろジジの方が覚悟ができているようだった。
「良いよ。ジジの気持ちは昨日から変わってないから。あのヘルメットを被るのは、ちょっとだけ怖いけど……ジジが、皆の身代わりになってあげる」
ジジは一方的に宣言すると、自ら中央へと向かい始めた。引き留めようとするミコトの手をすり抜け、イヨの動揺した視線に見送られ……その目の前に桃莉が立ち塞がった。
「トオリ……気にしなくていいよ? ジジが皆の為に身代わりになってあげるから」
「っ……いや、身代わりなんかにはしない。お前は、俺が告発する……誰かの代わりにするんじゃない。ジジ、お前はっ……お前は、女の子だ」
「……うん、わかった。ジジは、それを認めます……あーめん」
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