56 / 83
4日目
幼馴染なので健全です
しおりを挟む
初日以来の睦美との自由行動。久しぶりのふたりきりの散策に心地よさを感じながら当てもなく彷徨っていると、睦美が大浴場の前で足を止めた。
「今日は誰も入ってないみたいかな……? 脱衣所の明かりがついてないから」
「まだ入浴時間じゃないし、入ってないのが普通じゃないの?」
「そうなんだけど、いつもこの時間に誰か入っているみたいだったかな。男湯だから中までは確認できなくて……わざわざこの時間に入ってるくらいだから、知られたく無いのかなって詮索もしてなかったんだ」
性自認を女性に変えられた生徒たちは女湯を利用しなければならない。合宿所を出た後は睦美も男湯を利用することになるのだろうが、此処ではえるの指示によりそうすることになっていた。
入浴の時間が夜の話し合いの後にスケジュールされている都合上、この合宿所に来てから小陽と睦美は一度もいっしょに入浴したことが無かった。
『……』
互いに何も言わなくても、沈黙だからこそ、お互いの考えが手に取るようにわかった。しかしそれを口に出すのは小陽には憚られた。女の子になってしまった睦美にとって、男の子である小陽と共に入浴するのは耐え難い恥辱かもしれない。そう思うと小陽には何も言えず、代わりに睦美が小陽の手を取ってくれた。
「いっ……いっしょに入っちゃう?」
「っ……睦美は、いいの?」
「う、うん……ハル君となら、いいかな……?」
「じゃっ、じゃあ……あれ、でも……どっち?」
「やっ、やっぱり男湯かな? ボクは女の子だけど、身体は男の子なんだし……ハル君も、そっちの方がいいよね?」
「そっ、そうだね……それじゃあ――」
ぎこちないやり取りをして、いざ脱衣所へと向かおうとしたその時……小陽の胸ポケットから喧しい声が聴こえてきたのだった。
「だめだめだめだめだめー!! 男の子と女の子が同じお風呂に入るなんて破廉恥です! 不純です! 少年少女の健全な生活を見守るえるとしては、許可できないよ!」
スマホには真っ白い学ランを着て、竹刀を地面についたえるが映っていた。額には白い鉢巻をしており、そこには風紀委員と書かれている。
えるに止められては諦めるしか無いだろう。洗脳を受けている睦美はえるに逆らえないのだから。そう思い溜め息を吐いた小陽の手を、睦美が強く握った。
「う、うるさいよえる……ボクがハル君と入りたいって言ってるんだから、何も問題は無いかなって……。それに、お互い身体は男の子なんだから、破廉恥も何も無いかなって」
その赤らんだ頬から、握った手の強さから、睦美の勇気が伝わってきた。
洗脳された睦美でもえるに左右されない意思を持てるという事実が、小陽には何よりも嬉しかった。
「問題は大有りだよ、睦美くん! 心が女の子である睦美くんにとっては、他の男の子の裸体は刺激的すぎるんだよ! 自分が同じ男の子の身体であっても、人はその意識次第でいくらでも興奮できてしまうんだ。健全な精神を育む為にも、ちゃんとえるが守ってあげないと」
「……そんなの、今更な話かな? ボクとハル君が一緒にお風呂に入るなんて、昔から何度もしてきたから……ハル君のおちんちんも飽きる程見てるから、正直見慣れてるかなって」
睦美の言葉は正確では無いものの、全くの嘘というわけでもない。幼馴染であるふたりが一緒にお風呂に入るなんて珍しくもなんともない。しかし、どれだけ仲が良かろうと局部を凝視したりはしない。見慣れているというのは大袈裟だろう……というより大袈裟であって欲しい。
小陽はすぐに睦美の言葉が虚勢であることに気付けたが、えるは人の感情には疎い。睦美の声が震えていることも把握していないのか、素直に納得してしまっていた。
「そっか、ふたりは幼少期からの仲良しさんだもんね。今までに何度もしてきたことなのに、性別を理由に妨げるのは良くないよね……うん、わかりました。ふたりは特別に、今まで通りに思う存分おちんちんを見せ合ってもオッケー! えるが許可するよ!」
「うん……そんな変態行為はしてないかな」
無事にえるを退けた小陽と睦美は、流れで手を繋いだまま脱衣所へと入った。銭湯などの商業施設とは異なり、脱いだ衣服を預ける棚には鍵も付いておらず、籠が用意されているだけの簡単な作りになっている。
「このあたりにしよっか……睦美?」
ふたりしか利用しないのだからどこでもいいだろうと、小陽は入口から少し進んだ辺りの籠を手に取った。しかし振り返ってみれば、睦美は入口で立ち止まってしまっていた。
「っ……ぼ、ボクはこのあたりにしようかな?」
小陽とは離れた入口付近の籠を取る睦美に、小陽は何も言えなかった。今までがそうだったからといって、今回もそうしなければならないルールなど無く……何より、言葉にされたくなかった。
わかったとだけ睦美に返して、小陽は脱衣に取り掛かった。ブレザーを脱いで畳み、ネクタイを解いて丸め、シャツのボタンを外して袖を抜き、肌着を脱ぐ。ベルトを外しながら横目で睦美の様子を窺うと、目が合った。
「っ、ご、ごめんっ、かな……」
睦美は慌てた様子で小陽から視線を逸らした。その身体はいまだにセーラー服に覆われたままであり、小陽が半裸になるまでの時間で睦美はスカーフを外していただけだった。
「どうして謝るのさ……。睦美が謝る必要なんて無いよ……僕、先に入ってるね」
ちくりと痛んだ胸を誤魔化すように手早くズボンと下着を脱いで、小陽は浴用タオルを手に逃げるように浴場へと向かった。
「今日は誰も入ってないみたいかな……? 脱衣所の明かりがついてないから」
「まだ入浴時間じゃないし、入ってないのが普通じゃないの?」
「そうなんだけど、いつもこの時間に誰か入っているみたいだったかな。男湯だから中までは確認できなくて……わざわざこの時間に入ってるくらいだから、知られたく無いのかなって詮索もしてなかったんだ」
性自認を女性に変えられた生徒たちは女湯を利用しなければならない。合宿所を出た後は睦美も男湯を利用することになるのだろうが、此処ではえるの指示によりそうすることになっていた。
入浴の時間が夜の話し合いの後にスケジュールされている都合上、この合宿所に来てから小陽と睦美は一度もいっしょに入浴したことが無かった。
『……』
互いに何も言わなくても、沈黙だからこそ、お互いの考えが手に取るようにわかった。しかしそれを口に出すのは小陽には憚られた。女の子になってしまった睦美にとって、男の子である小陽と共に入浴するのは耐え難い恥辱かもしれない。そう思うと小陽には何も言えず、代わりに睦美が小陽の手を取ってくれた。
「いっ……いっしょに入っちゃう?」
「っ……睦美は、いいの?」
「う、うん……ハル君となら、いいかな……?」
「じゃっ、じゃあ……あれ、でも……どっち?」
「やっ、やっぱり男湯かな? ボクは女の子だけど、身体は男の子なんだし……ハル君も、そっちの方がいいよね?」
「そっ、そうだね……それじゃあ――」
ぎこちないやり取りをして、いざ脱衣所へと向かおうとしたその時……小陽の胸ポケットから喧しい声が聴こえてきたのだった。
「だめだめだめだめだめー!! 男の子と女の子が同じお風呂に入るなんて破廉恥です! 不純です! 少年少女の健全な生活を見守るえるとしては、許可できないよ!」
スマホには真っ白い学ランを着て、竹刀を地面についたえるが映っていた。額には白い鉢巻をしており、そこには風紀委員と書かれている。
えるに止められては諦めるしか無いだろう。洗脳を受けている睦美はえるに逆らえないのだから。そう思い溜め息を吐いた小陽の手を、睦美が強く握った。
「う、うるさいよえる……ボクがハル君と入りたいって言ってるんだから、何も問題は無いかなって……。それに、お互い身体は男の子なんだから、破廉恥も何も無いかなって」
その赤らんだ頬から、握った手の強さから、睦美の勇気が伝わってきた。
洗脳された睦美でもえるに左右されない意思を持てるという事実が、小陽には何よりも嬉しかった。
「問題は大有りだよ、睦美くん! 心が女の子である睦美くんにとっては、他の男の子の裸体は刺激的すぎるんだよ! 自分が同じ男の子の身体であっても、人はその意識次第でいくらでも興奮できてしまうんだ。健全な精神を育む為にも、ちゃんとえるが守ってあげないと」
「……そんなの、今更な話かな? ボクとハル君が一緒にお風呂に入るなんて、昔から何度もしてきたから……ハル君のおちんちんも飽きる程見てるから、正直見慣れてるかなって」
睦美の言葉は正確では無いものの、全くの嘘というわけでもない。幼馴染であるふたりが一緒にお風呂に入るなんて珍しくもなんともない。しかし、どれだけ仲が良かろうと局部を凝視したりはしない。見慣れているというのは大袈裟だろう……というより大袈裟であって欲しい。
小陽はすぐに睦美の言葉が虚勢であることに気付けたが、えるは人の感情には疎い。睦美の声が震えていることも把握していないのか、素直に納得してしまっていた。
「そっか、ふたりは幼少期からの仲良しさんだもんね。今までに何度もしてきたことなのに、性別を理由に妨げるのは良くないよね……うん、わかりました。ふたりは特別に、今まで通りに思う存分おちんちんを見せ合ってもオッケー! えるが許可するよ!」
「うん……そんな変態行為はしてないかな」
無事にえるを退けた小陽と睦美は、流れで手を繋いだまま脱衣所へと入った。銭湯などの商業施設とは異なり、脱いだ衣服を預ける棚には鍵も付いておらず、籠が用意されているだけの簡単な作りになっている。
「このあたりにしよっか……睦美?」
ふたりしか利用しないのだからどこでもいいだろうと、小陽は入口から少し進んだ辺りの籠を手に取った。しかし振り返ってみれば、睦美は入口で立ち止まってしまっていた。
「っ……ぼ、ボクはこのあたりにしようかな?」
小陽とは離れた入口付近の籠を取る睦美に、小陽は何も言えなかった。今までがそうだったからといって、今回もそうしなければならないルールなど無く……何より、言葉にされたくなかった。
わかったとだけ睦美に返して、小陽は脱衣に取り掛かった。ブレザーを脱いで畳み、ネクタイを解いて丸め、シャツのボタンを外して袖を抜き、肌着を脱ぐ。ベルトを外しながら横目で睦美の様子を窺うと、目が合った。
「っ、ご、ごめんっ、かな……」
睦美は慌てた様子で小陽から視線を逸らした。その身体はいまだにセーラー服に覆われたままであり、小陽が半裸になるまでの時間で睦美はスカーフを外していただけだった。
「どうして謝るのさ……。睦美が謝る必要なんて無いよ……僕、先に入ってるね」
ちくりと痛んだ胸を誤魔化すように手早くズボンと下着を脱いで、小陽は浴用タオルを手に逃げるように浴場へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる