59 / 83
4日目
最後の話し合いを始めます
しおりを挟む
夜の話し合いの時間がやってきた。
もはや話し合いの席に立つのは3人しかおらず、固まっていては話しにくいからとイヨは桃莉の席へ、ミコトは久野絵の席へと移動していた。わざわざふたりで固まって移動していることから、協力体勢を隠すつもりも無いらしい。
(2対1……多分、イヨ君は今日で決める気なんだろうな……)
不敵に微笑むイヨとは対照的に、ミコトは数的有利状況であっても不安気だった。イヨの袖に縋りながら小陽と対峙しており、話し合いにおいても積極的に発言するつもりは無いのだろう。
「ねえイヨくん。話し合いの前に、念の為確認しておきたいんだけどいいかな?」
「はい、何なりと仰ってください」
「誰が男の子として残ったとしても、皆を元に戻すこと……そもそも戻せるのかもわからないけれど、それでも尽力すること。もちろん僕が残ったとしても、イヨくんの洗脳は必ず解いてみせる……イヨくんも、同じ気持ちだよね?」
「ふふ、そんなに真剣なお顔をされるものですから、何を仰るのかとドキドキしてしまいました。当然です。わたくしも、骨身を惜しまずコハルさんに尽くすことを誓います」
柔和な笑みを浮かべながらイヨは堂々と宣言した。口だけならなんとでも言えるが、今はその良心を信じる他無い。
「洗脳って、えるの作った動画をなんだと思ってるのさー! この合宿が終わった後の皆の行動を縛るなんてえるにはできないけど、そんなに堂々と余計なお世話扱いされたらAIだって傷ついちゃうかんねー!」
椅子に座った状態で手足をばたつかせるえる。今日も黒いガウン型の法服を着ており、不平を表すように手に持った木槌を鳴らしていた。
「申し訳ありません、えるさん。ところで、わたくしから一つ提案があるのですが……今日からは多数決を導入致しませんか? ここまで残っている方たちは、もう自分では気づけないでしょうから。多少荒療治でも、外から女の子だと教えて差し上げる必要があると思うのです」
「ちょ、ちょっと待ってよイヨ君! 多数決なんて、そんなことされたら――」
「されたら……どうだと言うのですか? まさか、わたくしとミコトくんが協力してコハルさんを陥れるだなんて……そんな酷いことを証拠も無しに仰ったりしませんよね?」
「っ……そ、それなら、えるにも投票してもらおうよ。そもそも、僕たちはえるのLGBTQ判定に引っかかって此処に集められたんだ……多数決で無理矢理に女の子にしようって言うなら、それが妥当だよ」
「……ええ、わたくしはそれで構いません。えるさんもよろしいですね?」
「なんか、える抜きで重要なことを決められちゃってるけど……オッケーだよ! えるは皆をサポートするAIだもんね。皆が決めたのなら、えるはとことんサポートしてあげるから!」
小陽は安堵の息を漏らした。えるを巻き込めたのなら、まだ2対2の同票にする道が残される。ミコトとイヨの協力がある以上、小陽が多数決で勝つのは不可能だが、それはえるを味方に引き込めてから考えるべきだろう。
「それでは、話し合いを始めましょうか……クノエさん、わたくしの傍に来てはいただけませんか?」
開始を告げるや否や、イヨは教室の端に立つ久野絵に声をかけた。
「あぁ? 何でオレがてめえの傍に行かなきゃならねえんだ? オレはもう無関係なんだから、勝手に話し合ってればいいだろうが」
「そんなつれないことを言わずに……素直においでください?」
「あぁ……ったく、仕方ねえな……」
何処か覚束ない足取りでイヨへと歩み寄る久野絵。無理矢理に言うことを聞かせるのは見ていて気持ちの良いものではなかったが、小陽も睦美に使ってしまっている罪悪感から咎められなかった。
「ふふ、本当にクノエさんは素直なお利口さんになりましたね……では、貴女の親愛の証を此処にいただけますか?」
イヨが久野絵に左手を差し出すと、久野絵は恭しくその手を両手で取り、そして手の甲に口付けをした。
「……趣味が悪いね、イヨ君は。そんな物を僕に見せつけて、何のつもり?」
醜悪な見世物にたまらず口を挟んだ小陽に対して、イヨは熱っぽい流し目を向けた。
「事前に慣らしておいた方が良いかと思いまして。いきなり本命の方とねんごろになっては、コハルさんが倒れてしまうのではと……要らぬ心配だったでしょうか?」
くすりと笑みを漏らしながら久野絵の頭を撫で、イヨは久野絵を戻らせた。
そして、ついにイヨの言う本命へと声をかけた。
「では、コハルさんももう辛抱堪らないご様子ですから……ムツミさん、こちらへ来ていただけますか?」
もはや話し合いの席に立つのは3人しかおらず、固まっていては話しにくいからとイヨは桃莉の席へ、ミコトは久野絵の席へと移動していた。わざわざふたりで固まって移動していることから、協力体勢を隠すつもりも無いらしい。
(2対1……多分、イヨ君は今日で決める気なんだろうな……)
不敵に微笑むイヨとは対照的に、ミコトは数的有利状況であっても不安気だった。イヨの袖に縋りながら小陽と対峙しており、話し合いにおいても積極的に発言するつもりは無いのだろう。
「ねえイヨくん。話し合いの前に、念の為確認しておきたいんだけどいいかな?」
「はい、何なりと仰ってください」
「誰が男の子として残ったとしても、皆を元に戻すこと……そもそも戻せるのかもわからないけれど、それでも尽力すること。もちろん僕が残ったとしても、イヨくんの洗脳は必ず解いてみせる……イヨくんも、同じ気持ちだよね?」
「ふふ、そんなに真剣なお顔をされるものですから、何を仰るのかとドキドキしてしまいました。当然です。わたくしも、骨身を惜しまずコハルさんに尽くすことを誓います」
柔和な笑みを浮かべながらイヨは堂々と宣言した。口だけならなんとでも言えるが、今はその良心を信じる他無い。
「洗脳って、えるの作った動画をなんだと思ってるのさー! この合宿が終わった後の皆の行動を縛るなんてえるにはできないけど、そんなに堂々と余計なお世話扱いされたらAIだって傷ついちゃうかんねー!」
椅子に座った状態で手足をばたつかせるえる。今日も黒いガウン型の法服を着ており、不平を表すように手に持った木槌を鳴らしていた。
「申し訳ありません、えるさん。ところで、わたくしから一つ提案があるのですが……今日からは多数決を導入致しませんか? ここまで残っている方たちは、もう自分では気づけないでしょうから。多少荒療治でも、外から女の子だと教えて差し上げる必要があると思うのです」
「ちょ、ちょっと待ってよイヨ君! 多数決なんて、そんなことされたら――」
「されたら……どうだと言うのですか? まさか、わたくしとミコトくんが協力してコハルさんを陥れるだなんて……そんな酷いことを証拠も無しに仰ったりしませんよね?」
「っ……そ、それなら、えるにも投票してもらおうよ。そもそも、僕たちはえるのLGBTQ判定に引っかかって此処に集められたんだ……多数決で無理矢理に女の子にしようって言うなら、それが妥当だよ」
「……ええ、わたくしはそれで構いません。えるさんもよろしいですね?」
「なんか、える抜きで重要なことを決められちゃってるけど……オッケーだよ! えるは皆をサポートするAIだもんね。皆が決めたのなら、えるはとことんサポートしてあげるから!」
小陽は安堵の息を漏らした。えるを巻き込めたのなら、まだ2対2の同票にする道が残される。ミコトとイヨの協力がある以上、小陽が多数決で勝つのは不可能だが、それはえるを味方に引き込めてから考えるべきだろう。
「それでは、話し合いを始めましょうか……クノエさん、わたくしの傍に来てはいただけませんか?」
開始を告げるや否や、イヨは教室の端に立つ久野絵に声をかけた。
「あぁ? 何でオレがてめえの傍に行かなきゃならねえんだ? オレはもう無関係なんだから、勝手に話し合ってればいいだろうが」
「そんなつれないことを言わずに……素直においでください?」
「あぁ……ったく、仕方ねえな……」
何処か覚束ない足取りでイヨへと歩み寄る久野絵。無理矢理に言うことを聞かせるのは見ていて気持ちの良いものではなかったが、小陽も睦美に使ってしまっている罪悪感から咎められなかった。
「ふふ、本当にクノエさんは素直なお利口さんになりましたね……では、貴女の親愛の証を此処にいただけますか?」
イヨが久野絵に左手を差し出すと、久野絵は恭しくその手を両手で取り、そして手の甲に口付けをした。
「……趣味が悪いね、イヨ君は。そんな物を僕に見せつけて、何のつもり?」
醜悪な見世物にたまらず口を挟んだ小陽に対して、イヨは熱っぽい流し目を向けた。
「事前に慣らしておいた方が良いかと思いまして。いきなり本命の方とねんごろになっては、コハルさんが倒れてしまうのではと……要らぬ心配だったでしょうか?」
くすりと笑みを漏らしながら久野絵の頭を撫で、イヨは久野絵を戻らせた。
そして、ついにイヨの言う本命へと声をかけた。
「では、コハルさんももう辛抱堪らないご様子ですから……ムツミさん、こちらへ来ていただけますか?」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる