君が女の子

papporopueeee

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4日目

曝された、男の子

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「別に僕は気にしてないから、謝ってもらわなくてもいいんだけど。それより、イヨくんは僕が男の子だって認めてくれたってことでいいの?」
「それとこれとは話が別かと……ただ、準備してきた作戦を通すのは諦める他無いようです」
「えっ!? い、イヨくん? 諦めちゃうの?」

 ミコトはイヨよりも動揺していた。慌て様から見るに、イヨに全幅の信頼を追いていたのだろう。
 イヨは睦美から離れると、安心させるようにミコトへと寄り添った。

「ご安心ください、ミコトくん。えるさんの説得はできませんでしたが、ミコトくんはわたくしに賛成してくださるでしょう? 既に半数の票がコハルさんに集まっている以上、わたくしたちが票数で負けることはありません。それに、コハルさんはえるさんを納得させて、味方にしなければなりません……はたして、そんなことができるのでしょうか?」

 イヨの言葉は状況を良く表していた。小陽は己への嫌疑を撥ね退けることこそできたが、ただそれだけだ。やっとイヨたちと同じ地点に立てたというだけで、数的不利は覆っていない。
 イヨの顔からは勝利を確信した笑みこそ消えたものの、有利状況を踏まえた余裕のある笑みが残っていた。一方でミコトはまだ懸念があるのか、イヨに抱きしめられながらも不安そうだった。

「で、でも、コハル先輩がえるを説得できちゃったら同数にはされちゃうんだよね? 同数になっちゃったら、どうなるのかな……明日もまた同じことになるんだったら、今日はイヨくんでもいいかなって思うんだけど……」
「……? ミコトさん? それは、いったいどういう意味ですか?」
「あ、あのね、えるに聞いて欲しいんだけど……イヨくんは同性愛者なの。こ、これって、女の子ってことにはならないかな?」

 唐突に、突然に、イヨの秘密は暴露された。呆気なく、易々と、ミコトは己を慈しみ抱きしめているイヨを裏切っていた。

「な、なっ……きゅ、急に何を言って……み、ミコトくん……?」

 小陽は初めてイヨの動揺した姿を見た。夜這いの時にすら品があった所作が、今は崩れていて見る影も無い。可憐な笑みを湛えていた顔が、泣きそうなほどに弱気になっている。
 崖に咲く一輪の花のような、今にも折れてしまいそうな弱々しさで、イヨはミコトを問い詰めていた。

「だ、だって、コハル先輩は今日は無理そうなのかなって、思って。だから、明日じゃなくて今日イヨくんが庇ってくれたらもう終わるかなって……昨日も夜遅かったから、今日は早めに寝たいなって……だ、ダメだった?」

 小陽はイヨとミコトの間でどのような密約が交わされていたのかは知らない。しかしその密約をミコトが勝手に反故にしたことは、イヨの絶句から伝わってきた。

「ねえどうなの、える……同性愛者のイヨくんに、えるは票を入れてくれる?」
「その前に、お説教ですよ命くん! 人の性的嗜好を勝手にカミングアウトするのは、アウティングという人権侵害にあたるんだ! どのような理由があろうと、人権侵害は許されないんだからね!」
「うぅ……ご、ごめんなさい……。で、でも、イヨくんもコハル先輩の二重人格のことバラしてたよ……?」
「アウティングはあくまでSOGI、性的嗜好や性自認の暴露を指す行為だからね。でも、指摘されてみると伊予くんの行いも褒められたものでは無いから、伊予くんも反省してね」

 そもそも、この話し合いの場自体がアウティングにあたるのではないか。そんな突っ込みができる雰囲気では無かった。

「それで命くんの質問についてだけど……結論を述べると、この状況ではえるは伊予くんに票を入れることになるかな」
「っ!? お、お待ちください。同性愛と性別不合は全く別のお話です! ミコトくんの主張は論点が異なっております。仮にわたくしが同性愛者であっても、それが女の子ということにはなりません!!」
「うん、伊予くんの認識は正しいよ。同性愛者だからと言って、心と身体の性別が異なっているとは限らない。男性として男性を好むのは、何もおかしくないんだから。でもね、今此処は多数決の場なんだ。えるは3人の中から、最も女の子らしいと思う人に票を入れないといけないの……えるはそんな押し付けるようなことはしたくないんだけど、皆が決めたんだもんね。現時点でこの話し合いの場で出た情報だけで判断すると、えるは伊予くんに票を入れることになっちゃうんだ。わかってもらえたかな?」

 イヨの顔から血の気が引いていき、日本人形のように青白く染まっていく。一方で隣に立つミコトは心の底から安堵の表情を浮かべていた。

「よかったぁ……これで今日はイヨくんで決まりだね。ぼくもう眠くなってきちゃってて……ふわぁ」
「そっ、そんなっ……そんなのって……ミコトくん……っ」

 縋るようにミコトの両肩を掴むイヨに対して、えるが思い出したように声をかけた。

「あっ、でもちょっと待って。伊予くんが同性愛者なのかは、まだえるの中では確定はしてないんだ。今の段階では、あくまで命くんが言っているだけだからね」
「えぇっ!? で、でも、ぼくはイヨくんからちゃんと教えてもらったよ? あのね、いっしょのベッドで寝た時に教えてもらったんだよ?」
「前にも言った通り、個室での出来事をえるは十全には把握できないからね。物的証拠の提示、信用のおける証言、もしくは確かな証明がされない限り、えるは本人の発言を何よりも重要視するの。どうかな、伊予くん……君は、本当に同性愛者なの?」
「っ……わ、わたくしは……わた、わたくしがっ……愛するのはっ……――」

 その場凌ぎであろうと、嘘を吐けば難は逃れられる。感情の機微に疎いえるならば、明らかな嘘でもきっと騙し通せてしまう。

 イヨは何度も唇を開いては閉じて、何かを言いかけては止めて……そして胸を両手でぎゅっと抑えながら、辛そうに、絞り出すように答えた。

「――っ……お、男の子だけ、です…‥」

 窮地に陥いろうとも偽ることの出来ない本心を、イヨは告白した。
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