君が女の子

papporopueeee

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最終章

真相を此処に

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「? ……え? は? 性別不合……? な、なにを言ってるの……?」

 この話し合いは、性別不合の者を見つけ出す為に開かれていた。身体が男の子であるのに、心が女の子である性別不合者を見つけ出すのが目的だったはずだ。それなのにえるは榎戸を性別不合だと断じ、その上で男性なのだと言い切っていた。

 意味がわからず困惑する小陽の前に、にやにやとした笑みを浮かべながら榎戸が近づいてきた。

「わからない言うなら、無理矢理にでもわからせたる……サービスやで?」
「な、何をする気ですか……っ?」

 暴力を振るわれるのではないか。咄嗟に頭を覆った小陽の右腕が、榎戸の左手に掴まれた。榎戸は掴んだ小陽の右手を引き寄せると、強引に自身の胸に押し当てたのだった。

「っ! っ……? …………えっ!?」

 その行為の意味がわからなかった。何をさせられているのかも理解できなかった。しかし掌越しにその存在を認知した途端に、全てを理解できてしまった。
 榎戸の胸にはわずかではあるものの、確かな膨らみがあった。男性ではありえない柔らかい感触が、小陽の掌に押し付けられていた。

「せ、先生は……おっ、女の人だったの……? で、でも、うちの学校の先生は男の人だけのはずじゃ……」
「だから、秘密にしてんねん。えるのLGBTQ判定には引っかかってもうたけど、ちゃんと説明したら納得してもらえたで。朝比奈も黙っといてな? 先生の身体が女性だってバレたら、結構なお偉いさんの首も飛んでまうからなぁ」
「性別を理由に職業を制限するのは差別に当たるからね。特に榎戸先生は身体こそ女性だけれど、心は立派な男性なんだから。性別を偽って働いていること自体には賛同できないけれど、それを罰するのはAIの役目じゃないんだ。えるは純粋に、榎戸先生の男性としての生き方を応援するよ!」

 榎戸は女性でありながら、男性として朝ぼらけ男子中で教師として働いていた。えるはその心と身体の性別の不一致に気づき榎戸を合宿送りにしたが、結果的に榎戸は性別不合の男性としてえるに認められてしまった。
 それら全てを踏まえた上で、榎戸はルールを定めたのだ――男性は一人だけだと。

「で、でも、それじゃあ……先生はあのヘルメットをもう被ったってことですか? だって、男の子であっても性別不合ではあるんですよね? それなら――」

 素直という言葉が利くかもしれない。そんな小陽の希望を嘲笑うかのように、榎戸は否定した。

「被る訳あらへんよ、あんなもん。えるも言ってたやろ……あれは、女の子として生きていく人のために用意したもんや。お前らみたいな思春期でも素直になれるように用意したもんであって、大人には必要無いで」
「そっ、そんなのっ……そんなのってっ――」

 ずるい、とは言えなかった。それは負けを認める言葉だったから、小陽は歯を食いしばってそれだけは耐えた。
 そんな小陽に追い打ちをかけるように、榎戸は小陽の耳に口を寄せて囁いた。えるには聴こえないように、しかし小陽の身体中に響かせるようにはっきりと。

「ちなみにな、先生が性別不合ってのは真っ赤な嘘やねん。ただ朝ぼらけ中に入りたかったから嘘吐いてるだけで、先生は心も体も歴とした女性や……ほんま、堪忍な」

 その声からは少しも謝罪の気持ちなんて感じられなかった。ただ小陽を侮り、見縊り、嘲っているだけだった。
 小陽は怒りのまま反射的に手を出そうとしたが、榎戸に組み付かれて阻まれてしまった。

「そんな怒んなや……こう見えて先生も苦労してるんやで? 誰だか知らんが、先生の秘密に勘付いた輩がおってなあ……チクった先が先生の協力者じゃ無かったら終わってたわ。どうにか誤魔化してお前ら生徒を巻き込んで、人目のつかんこの合宿までこぎつけたけど……えるを学校に持ち込めなかったら、どうなってたことやら」
「持ち込むって、やっぱりえるは先生の私物なんですか!? 政府公認なんて嘘だったんだ!」

「そらそうやろ。あんなイカれたAIを国が認めてる訳あらへんし、ちゃんとした企業製でもあらへん。先生の同僚がじじいばっかやなかったら騙せへんくらいの出来や。ただ私物ってわけでも無くてな、LGBTQの支援を目的に作られてるのはほんまやねん。えるの中ではLGBTQの支援が至上命令なせいで、融通利かなくてな……先生も性別不合ってことにせなあかんくなってもうたわ」

 榎戸は不幸自慢でもしているかのように、ぺらぺらと種明かしをし始めた。今更何を知ったところで小陽には何もできない、その無力感に歯噛みする姿すら楽しまんとばかりに。

「密告があった以上、一人は女の子が出てこないとあかん……せやけど逆に言えば、一人で十分やねん。本来は初日に北条が女の子になった時点でお終いの予定やったんやけど……惜しくなってもうてなぁ。こんなおもろいもんが見れる機会、二度とあらへんかもしれへんやん? 年頃のガキ共が女の子押し付け合っていがみ合ったり、逆に庇い合うとか……ほんま、おもろうて仕方なかったわ」

「っ……見世物じゃない! 僕たちは、お前を喜ばせる為の玩具じゃない!!」
「だからこそやん。未熟なお前らが懸命に生きているからこそ、大人が見ると眩しくてしょうがないねん。ありがとうなぁ、おかげでお腹いっぱいになれたわ……ほな、ごちそーさん」
「死ね! クズ!! お前はサイテーだ!!」

 小陽が感情のままに喚きたてても、榎戸は意に介するどころか楽しんでいた。上半身を抑えられた状態で必死に蹴りつけてみても、榎戸には痛がる様子も無かった。

「ねえねえ、ふたりだけでいつまで内緒話してるの? もう結論は出たのかな?」
「せやなあ、はっきり言ったれや朝比奈。榎戸しとねは女性の身体に男性の心を持つ性別不合や。そして、えるはそんな先生のことを男性として認めとる。えるの投票先を覆すだけの主張、できるもんならしてみい?」

 榎戸は小陽から離れると、椅子に座り直して脚を組んだ。頬杖をついて、余裕の笑みを浮かべていた。
 身体も心も男の子だと主張する小陽と、身体は女性だけど心は男性だと主張する榎戸。小陽の方が相対的には男性のはずなのに、性的少数派の味方であるえるは榎戸に味方してしまう。

 榎戸の性別不合を嘘だと主張できても、通せる気がしなかった。えるは榎戸にとって都合の良いAIであり、十分に話し合う時間がもらえるとも思えない。

 もしもこれが初日であったのなら、まだ皆が洗脳される前であったのなら、どうにかできたかもしれない。しかし、現実の皆は榎戸の言葉をただ静かに聞いているだけだ。榎戸の敷いたルールを走り始めてしまった時点で、生徒たちの敗北は確定していた。
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