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最終章
ずっと傍で見てた人
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ジジにヘルメットを脱がせてもらい、イヨに涙と汗を拭われるミコト。その顔は泣きべそであるものの、大きな異常は見られなかった。
(終わった……全部……。これで僕は、男の子だ……これからも……小陽が帰ってくるまでは……)
託された身体を守れたことに大きく深く安堵の息を漏らす小陽。その耳に、乾いた拍手が聴こえてきた。
「いやぁ、意外や意外……これは大番狂わせやなぁ。宇佐美はともかくとして、藤原を退けて朝比奈が残るとはなぁ……これは、男を見せたと言ってもいいんちゃうか?」
ずっと手に持っていたスマホを教卓に置いて、榎戸が手を打ち鳴らしていた。初日以降は合宿の運営も洗脳した生徒たちに押し付けて、自習中も話し合い中もスマホばかり見ていた榎戸が、数日振りに小陽へと視線を向けていた。
「先生……僕たちは、もう家に帰してもらえるんですか? それに、皆はちゃんと治療してもらえるんですよね? えるは明らかにおかしいです。文部科学省公認らしいですけど、バグっているとしか思えません。皆が元に戻れるように、学校側が責任を持って協力してくれないと納得できません」
「……本当に皆を戻してええんか? 藤原との約束なんて、所詮は口約束や。宇佐美も、今のままの方が都合が良いって言ってたやん。特に元の織田なんて態度悪いしなぁ……先生は黙っといたるけど、どないする?」
「そんな選択肢はありえません」
榎戸からの誘惑に小陽は即答した。一瞬たりとも惑うことは無く、軽蔑の眼差しを向けながら。
「学校が協力してくれないなら、学校の外に呼びかけるまでです。色んな人に協力を仰いででも、僕は皆の洗脳を解きます」
榎戸は小さく鼻を鳴らして頭を掻いた。結んだ黒い長髪を揺らしながら、小陽を見下していた。
「ガキやなぁ……まあ、それがお前らの良い所なんやろうけど。ならしゃあないわ……最後まで続けよか?」
「続ける……? まだ何か……まさか、イヨくんとミコトくんのお着替えまでしないといけないんですか?」
「それもそうやけど、まだ残ってるやんか男の子が。先生はちゃんと言うたで、こん中で男なのは一人だけ……ちゃんと一人だけになるまで続けてもらわな」
「は……? まさか、えるのことじゃないですよね?」
「当然やん。えるはAIや。男の子の設定なだけで、性別なんて無いも同然や。言っとくけど、お前らが勝手に勘違いしただけやで。お前らが話し合いをしている最中、先生はずっとこの教室におったんやからな」
首を傾げる小陽の焦点が、徐々に榎戸へと合っていく。ずっと舞台の端に立っていた人物を、此処にきて初めて小陽は認識した。
「それってっ、先生も参加者だったってことですか!?」
小陽からの問いかけに、榎戸はただ笑むだけで答えた。歯をむき出しにした意地の悪い笑みは、とても教師が生徒に向けて良いものでは無かった。
「先生もえるの判定に引っかかってもうてなあ……女やないかって疑われてたんや。でも、勝手に女にされるのは誰だって嫌やん? それで息を潜めて成り行きを見守ってたら、誰も話振らんからここまで残ってもうた。ほんま、運が良かったわぁ……」
「そんなっ……そんなの、先生が仕組んでただけじゃないですか! 僕たちが気づかないように仕向けていただけのクセにっ……自分の不正をラッキーで誤魔化さないでください!」
「怖いなー、自分必死やん……。良く考えてみい、先生の不正なんてどうでもええやん。ここで朝比奈が勝てばええだけなんやから。そしたら先生がヘルメット被って、朝比奈が皆を元に戻して全部解決や。当然、先生のことも元に戻す為に、朝比奈は頑張ってくれるもんな?」
「っ……当たり前です。どれだけ最低でも、洗脳していい人なんて居ませんから」
「ふははっ……ほんまええ子ちゃんやなぁ。それじゃあ、勝負しよか……える、先生と朝比奈のどっちに票入れる?」
「もちろん、小陽くんだよ。榎戸先生が男性なのは確定しているからね」
「ほな、そういうことで。ご愁傷様やな、朝比奈?」
唐突に開始された勝負は、一瞬で決着しようとしていた。小陽は明らかな不正に堪らず声を上げた。
「ちょっと待ってください! そんなのおかしいですよ! 先生がえるを裏で操作しているんじゃないですか!?」
「けったいな物言いやな。証拠も無くイカサマの主張なんてしたらあかんで。怖いお兄さんが相手やったら、痛い目見るだけじゃすまへん。優しい先生で良かったな?」
「どこが優しいんですか……! だったら、えるに理由を説明させてください。その理由が納得できるものでないと、とても認められません」
小陽が納得できる理由なんて、えるに説明できるはずが無い。どうせ榎戸の味方をするように言い聞かせているだけなのだから。えるの言葉に耳を傾ける必要は無く、重要なのは公正な勝負に持ち込む方法だ。
えるが話している間に作戦を考えようとしていた小陽だったが、思考は呆気なく吹き飛ばされてしまった。えるの口から、とても聞き捨てならない単語が聞こえてきたのだ。
「榎戸先生は性別不合なんだよ。だから榎戸先生は正真正銘の男性なの。榎戸先生を女性扱いするのは、誰であろうとえるが許さないからね!」
(終わった……全部……。これで僕は、男の子だ……これからも……小陽が帰ってくるまでは……)
託された身体を守れたことに大きく深く安堵の息を漏らす小陽。その耳に、乾いた拍手が聴こえてきた。
「いやぁ、意外や意外……これは大番狂わせやなぁ。宇佐美はともかくとして、藤原を退けて朝比奈が残るとはなぁ……これは、男を見せたと言ってもいいんちゃうか?」
ずっと手に持っていたスマホを教卓に置いて、榎戸が手を打ち鳴らしていた。初日以降は合宿の運営も洗脳した生徒たちに押し付けて、自習中も話し合い中もスマホばかり見ていた榎戸が、数日振りに小陽へと視線を向けていた。
「先生……僕たちは、もう家に帰してもらえるんですか? それに、皆はちゃんと治療してもらえるんですよね? えるは明らかにおかしいです。文部科学省公認らしいですけど、バグっているとしか思えません。皆が元に戻れるように、学校側が責任を持って協力してくれないと納得できません」
「……本当に皆を戻してええんか? 藤原との約束なんて、所詮は口約束や。宇佐美も、今のままの方が都合が良いって言ってたやん。特に元の織田なんて態度悪いしなぁ……先生は黙っといたるけど、どないする?」
「そんな選択肢はありえません」
榎戸からの誘惑に小陽は即答した。一瞬たりとも惑うことは無く、軽蔑の眼差しを向けながら。
「学校が協力してくれないなら、学校の外に呼びかけるまでです。色んな人に協力を仰いででも、僕は皆の洗脳を解きます」
榎戸は小さく鼻を鳴らして頭を掻いた。結んだ黒い長髪を揺らしながら、小陽を見下していた。
「ガキやなぁ……まあ、それがお前らの良い所なんやろうけど。ならしゃあないわ……最後まで続けよか?」
「続ける……? まだ何か……まさか、イヨくんとミコトくんのお着替えまでしないといけないんですか?」
「それもそうやけど、まだ残ってるやんか男の子が。先生はちゃんと言うたで、こん中で男なのは一人だけ……ちゃんと一人だけになるまで続けてもらわな」
「は……? まさか、えるのことじゃないですよね?」
「当然やん。えるはAIや。男の子の設定なだけで、性別なんて無いも同然や。言っとくけど、お前らが勝手に勘違いしただけやで。お前らが話し合いをしている最中、先生はずっとこの教室におったんやからな」
首を傾げる小陽の焦点が、徐々に榎戸へと合っていく。ずっと舞台の端に立っていた人物を、此処にきて初めて小陽は認識した。
「それってっ、先生も参加者だったってことですか!?」
小陽からの問いかけに、榎戸はただ笑むだけで答えた。歯をむき出しにした意地の悪い笑みは、とても教師が生徒に向けて良いものでは無かった。
「先生もえるの判定に引っかかってもうてなあ……女やないかって疑われてたんや。でも、勝手に女にされるのは誰だって嫌やん? それで息を潜めて成り行きを見守ってたら、誰も話振らんからここまで残ってもうた。ほんま、運が良かったわぁ……」
「そんなっ……そんなの、先生が仕組んでただけじゃないですか! 僕たちが気づかないように仕向けていただけのクセにっ……自分の不正をラッキーで誤魔化さないでください!」
「怖いなー、自分必死やん……。良く考えてみい、先生の不正なんてどうでもええやん。ここで朝比奈が勝てばええだけなんやから。そしたら先生がヘルメット被って、朝比奈が皆を元に戻して全部解決や。当然、先生のことも元に戻す為に、朝比奈は頑張ってくれるもんな?」
「っ……当たり前です。どれだけ最低でも、洗脳していい人なんて居ませんから」
「ふははっ……ほんまええ子ちゃんやなぁ。それじゃあ、勝負しよか……える、先生と朝比奈のどっちに票入れる?」
「もちろん、小陽くんだよ。榎戸先生が男性なのは確定しているからね」
「ほな、そういうことで。ご愁傷様やな、朝比奈?」
唐突に開始された勝負は、一瞬で決着しようとしていた。小陽は明らかな不正に堪らず声を上げた。
「ちょっと待ってください! そんなのおかしいですよ! 先生がえるを裏で操作しているんじゃないですか!?」
「けったいな物言いやな。証拠も無くイカサマの主張なんてしたらあかんで。怖いお兄さんが相手やったら、痛い目見るだけじゃすまへん。優しい先生で良かったな?」
「どこが優しいんですか……! だったら、えるに理由を説明させてください。その理由が納得できるものでないと、とても認められません」
小陽が納得できる理由なんて、えるに説明できるはずが無い。どうせ榎戸の味方をするように言い聞かせているだけなのだから。えるの言葉に耳を傾ける必要は無く、重要なのは公正な勝負に持ち込む方法だ。
えるが話している間に作戦を考えようとしていた小陽だったが、思考は呆気なく吹き飛ばされてしまった。えるの口から、とても聞き捨てならない単語が聞こえてきたのだ。
「榎戸先生は性別不合なんだよ。だから榎戸先生は正真正銘の男性なの。榎戸先生を女性扱いするのは、誰であろうとえるが許さないからね!」
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