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最終章
二重人格
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少年は、少女から生まれました。
男の子の身体で生きるのが難しかった少女の代わりに、その身体を任されたのです。
僕の役目は、男の子として生きること。
眠ってしまった小陽の代わりに、この身体を守らないといけない。
いつか小陽が目を覚ますまで、僕が男の子で在り続けるんだ。
両親が選んだ黒いランドセルを背負って、少年は少女の代わりに小学校に通います。
スカートなんて履きたがらず、冬だって半ズボンで外を駆け回ります。
サッカーも始めたので、もう両親が心配することもありません。
ねえ、おままごとはもういいの?
それは、少女の幼馴染からの心配でした。
少女が唯一本心を打ち明けていた為に、少年に対して違和感を抱いたようです。
隠し通せないと観念した少年は、全てを打ち明けました。
ごめんなさい、僕は本当の小陽じゃありません。
君がずっと仲良くしてくれていた小陽は、僕に身体を預けて眠ってしまいました。
僕も君と仲良くしてみたくて、嘘を吐いてました。
本当に、ごめんなさい……偽者の小陽でごめんなさい。
告白を聞き遂げた幼馴染は、ぼろぼろと涙を零し始めました。
本当じゃないなんて言わないで。
君は小陽では無いのかもしれないけれど、偽者なんかじゃ無いよ。
小陽……ううん、ハル君もボクの大事な友達だよ。
幼馴染につられるように、少年もぼろぼろと涙を流しました。
ふたりで泣いて、ふたりで眠ってしまった少女を想い、掛け替えの無い絆を結んだのです。
でも、そんな絆も全部壊されてしまいました。
幼馴染は少女に変えられて、少年もまた少女に変えられてしまったのです。
違うよ、僕は男の子だよ。
だって、小陽が僕を男の子として生んだんだから。
だから、僕は女の子だよ。
違う……違う違う、違う。
僕は男の子だ。小陽が望んだのは男の子だ。だから、僕は女の子だ。違う、男の子だ。だって、僕はこの身体を任されたんだから。小陽の代わりにこの身体を守らないといけないんだから。やっぱり僕は女の子だ。違う、どうしてそうなるんだ。男の子だ、男の子だ男の子だ。女の子だ、僕は女の子だ。女の子だ女の子だ女の子だ女の子なんだ、僕は――
――僕は、女の子……?
でも、それなら……僕はどうして生まれたの……?
ねえ、小陽――
それが、少年の最期の言葉でした。
所詮は自己防衛の為に後から生み出された人格です。外部から植え付けられた矛盾を呑み込めずに、少年は霧散してしまいました。
後に残されたのは、ずっと眠り続けていた少女だけ。
眠り始めてから、もう随分と長い時間が経っています。
何かに怯えるように膝を抱えて。
何かを怖がるように瞼を閉じて。
ただ静かに眠り続けていた少女の頬を、一筋の涙が流れ落ちました。
ごめんね……今までありがとう、ハル……
祈るように、悼むように、少女は少年の名前を呼んで――
ここからは、あたしががんばるね……。
――そして、少女が目を覚まします。
男の子の身体で生きるのが難しかった少女の代わりに、その身体を任されたのです。
僕の役目は、男の子として生きること。
眠ってしまった小陽の代わりに、この身体を守らないといけない。
いつか小陽が目を覚ますまで、僕が男の子で在り続けるんだ。
両親が選んだ黒いランドセルを背負って、少年は少女の代わりに小学校に通います。
スカートなんて履きたがらず、冬だって半ズボンで外を駆け回ります。
サッカーも始めたので、もう両親が心配することもありません。
ねえ、おままごとはもういいの?
それは、少女の幼馴染からの心配でした。
少女が唯一本心を打ち明けていた為に、少年に対して違和感を抱いたようです。
隠し通せないと観念した少年は、全てを打ち明けました。
ごめんなさい、僕は本当の小陽じゃありません。
君がずっと仲良くしてくれていた小陽は、僕に身体を預けて眠ってしまいました。
僕も君と仲良くしてみたくて、嘘を吐いてました。
本当に、ごめんなさい……偽者の小陽でごめんなさい。
告白を聞き遂げた幼馴染は、ぼろぼろと涙を零し始めました。
本当じゃないなんて言わないで。
君は小陽では無いのかもしれないけれど、偽者なんかじゃ無いよ。
小陽……ううん、ハル君もボクの大事な友達だよ。
幼馴染につられるように、少年もぼろぼろと涙を流しました。
ふたりで泣いて、ふたりで眠ってしまった少女を想い、掛け替えの無い絆を結んだのです。
でも、そんな絆も全部壊されてしまいました。
幼馴染は少女に変えられて、少年もまた少女に変えられてしまったのです。
違うよ、僕は男の子だよ。
だって、小陽が僕を男の子として生んだんだから。
だから、僕は女の子だよ。
違う……違う違う、違う。
僕は男の子だ。小陽が望んだのは男の子だ。だから、僕は女の子だ。違う、男の子だ。だって、僕はこの身体を任されたんだから。小陽の代わりにこの身体を守らないといけないんだから。やっぱり僕は女の子だ。違う、どうしてそうなるんだ。男の子だ、男の子だ男の子だ。女の子だ、僕は女の子だ。女の子だ女の子だ女の子だ女の子なんだ、僕は――
――僕は、女の子……?
でも、それなら……僕はどうして生まれたの……?
ねえ、小陽――
それが、少年の最期の言葉でした。
所詮は自己防衛の為に後から生み出された人格です。外部から植え付けられた矛盾を呑み込めずに、少年は霧散してしまいました。
後に残されたのは、ずっと眠り続けていた少女だけ。
眠り始めてから、もう随分と長い時間が経っています。
何かに怯えるように膝を抱えて。
何かを怖がるように瞼を閉じて。
ただ静かに眠り続けていた少女の頬を、一筋の涙が流れ落ちました。
ごめんね……今までありがとう、ハル……
祈るように、悼むように、少女は少年の名前を呼んで――
ここからは、あたしががんばるね……。
――そして、少女が目を覚まします。
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