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弱者の日常
――この子は確かに金の長髪ではあるが少女だ。
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「か、カイナ兄!」
「わかってる。こっちに来い」
慌て転びそうになりながらもカイナの元へと駆け寄るチェル。カイナは手早くチェルの頭にフードを被せると、守るように抱き込んだ。
「不躾で申し訳ないが、両手を上げて出て来てもらおうか。訳あり故に、警戒していることをわかっていただきたい」
毅然とした態度で足音がした方へと語りかけるカイナ。やがてカイナの声に応じるように、一人の男が現れた。
カイナと同年齢程度に見える男は、腰に下げた剣に手を添えたまま口を開いた。
「こちらも訳ありだ。チェルという名の少年を捜しているのだが、心当たりは無いだろうか」
「っ!?」
カイナに抱き込まれていなければ、チェルの身体は飛び上がってしまっていただろう。
男が来ている紺色の軍服はイクスガルドの物ではない。突然目の前に現れた男は、チェルの命を狙う敵国の追手で間違いなかった。
「知らないな。悪いが他を当たってくれ」
突然の追手の登場に動揺するチェルとは対照的にカイナは冷静だった。少しも声を震わせることなく、チェルまで騙されそうな演技で追手と対面していた。
「……念のため、そちらの子供のフードを取ってもらおうか」
フードを透かさんとばかりに追手の視線が突き刺さり、チェルは思わず喉を詰まらせた。
追手はチェルとカイナを怪しんでいるようではあるが、確信があるわけでもないらしい。警戒するように剣に手を添えたままではあるが、声色から感じ取れる敵意は強くはなかった。
「いきなり顔を見せろとは失礼な話だな。まずはそちらの捜しているチェルとやらの特徴を聞かせてもらおうか」
「長い金髪の少年だ」
「そんなのはいくらでも居るだろう。顔は知っているのか?」
「長い金髪がとにかく目立つとは聞いているが、私は顔は知らない。少し遠いが顔を知っている者が待機しているので、その子供が金髪であるならば御同行願おう。そちらに心当たりが無いのであれば、問題あるまい。今から歩けば夜明けまでには着くし、馬ならもっと速い」
バクバクと心臓が弾けそうなほどに暴れ、背中をダラダラと汗が流れる。白い肌は血管まで透けそうなほどに青ざめ、チェルはカイナの胸の内でただ小さく縮こまることしかできない。
いくらなんでも追手が早すぎた。イクスガルドを出てからまだたったの数時間しか経っていないのに、もう国の外でチェルを捜しているなんて。
追手の口ぶりからすれば追手は一人ではなく、チェルの顔を知っている者まで居る。同行なんてすれば間違いなく正体は曝され、同行を拒否しても結局は自白と同じだ。
緊張で息もままならず、祈るように目を瞑り死を覚悟するチェル。一方で、カイナの声は余裕に満ち溢れていた。まるで、チェルを勇気づけ安心させるかのように。
「残念ながら、この子はそちらの捜し人ではない。見ての通り――」
「ぁっ――!?」
カイナはチェルが必死に抑えていたフードを無理矢理剥ぎとってしまった。焚火に照らされて、チェルの長い金髪が夜の森に晒される。
「――この子は確かに金の長髪ではあるが少女だ。少年ではない」
「……え?」
驚きに思わず声を漏らしてしまったチェルであったが、幸いなことに追手には伝わっていなかった。
追手は値踏みするかのようにチェルの全身と顔を隈なく観察し始めて――
「少女……ふむ……確かにそのようだな……」
「……は?」
追手はカイナの言葉に納得し、剣に添えていた手を下してしまった。フードを脱いだチェルの顔をまじまじと見たうえで、疑問を全く抱いていなかった。
「わかってる。こっちに来い」
慌て転びそうになりながらもカイナの元へと駆け寄るチェル。カイナは手早くチェルの頭にフードを被せると、守るように抱き込んだ。
「不躾で申し訳ないが、両手を上げて出て来てもらおうか。訳あり故に、警戒していることをわかっていただきたい」
毅然とした態度で足音がした方へと語りかけるカイナ。やがてカイナの声に応じるように、一人の男が現れた。
カイナと同年齢程度に見える男は、腰に下げた剣に手を添えたまま口を開いた。
「こちらも訳ありだ。チェルという名の少年を捜しているのだが、心当たりは無いだろうか」
「っ!?」
カイナに抱き込まれていなければ、チェルの身体は飛び上がってしまっていただろう。
男が来ている紺色の軍服はイクスガルドの物ではない。突然目の前に現れた男は、チェルの命を狙う敵国の追手で間違いなかった。
「知らないな。悪いが他を当たってくれ」
突然の追手の登場に動揺するチェルとは対照的にカイナは冷静だった。少しも声を震わせることなく、チェルまで騙されそうな演技で追手と対面していた。
「……念のため、そちらの子供のフードを取ってもらおうか」
フードを透かさんとばかりに追手の視線が突き刺さり、チェルは思わず喉を詰まらせた。
追手はチェルとカイナを怪しんでいるようではあるが、確信があるわけでもないらしい。警戒するように剣に手を添えたままではあるが、声色から感じ取れる敵意は強くはなかった。
「いきなり顔を見せろとは失礼な話だな。まずはそちらの捜しているチェルとやらの特徴を聞かせてもらおうか」
「長い金髪の少年だ」
「そんなのはいくらでも居るだろう。顔は知っているのか?」
「長い金髪がとにかく目立つとは聞いているが、私は顔は知らない。少し遠いが顔を知っている者が待機しているので、その子供が金髪であるならば御同行願おう。そちらに心当たりが無いのであれば、問題あるまい。今から歩けば夜明けまでには着くし、馬ならもっと速い」
バクバクと心臓が弾けそうなほどに暴れ、背中をダラダラと汗が流れる。白い肌は血管まで透けそうなほどに青ざめ、チェルはカイナの胸の内でただ小さく縮こまることしかできない。
いくらなんでも追手が早すぎた。イクスガルドを出てからまだたったの数時間しか経っていないのに、もう国の外でチェルを捜しているなんて。
追手の口ぶりからすれば追手は一人ではなく、チェルの顔を知っている者まで居る。同行なんてすれば間違いなく正体は曝され、同行を拒否しても結局は自白と同じだ。
緊張で息もままならず、祈るように目を瞑り死を覚悟するチェル。一方で、カイナの声は余裕に満ち溢れていた。まるで、チェルを勇気づけ安心させるかのように。
「残念ながら、この子はそちらの捜し人ではない。見ての通り――」
「ぁっ――!?」
カイナはチェルが必死に抑えていたフードを無理矢理剥ぎとってしまった。焚火に照らされて、チェルの長い金髪が夜の森に晒される。
「――この子は確かに金の長髪ではあるが少女だ。少年ではない」
「……え?」
驚きに思わず声を漏らしてしまったチェルであったが、幸いなことに追手には伝わっていなかった。
追手は値踏みするかのようにチェルの全身と顔を隈なく観察し始めて――
「少女……ふむ……確かにそのようだな……」
「……は?」
追手はカイナの言葉に納得し、剣に添えていた手を下してしまった。フードを脱いだチェルの顔をまじまじと見たうえで、疑問を全く抱いていなかった。
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