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弱者の日常
ほんとうに……ほんとに……?
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「納得してもらえたなら、早々に立ち去ってもらおう。この子も怯えている」
「……いや、しかし子供の顔はまだ性差が乏しい。少女のように麗しい少年という可能性も捨てきれない。事の重大さを考慮すると、やはり念には念を入れて同行してもらおうか」
見る目は無いが、考える頭は持ち合わせている追手であった。剣からは手を離したものの、チェルが同行するまで踵を返すつもりは無いようだ。
「それなら、顔以外で判断してもらう他あるまい」
「……?」
カイナは抱き込んでいたチェルを突き放すようにして立たせると、簡潔に命令した。
「脱げ」
「……嘘だよね?」
どうか嘘だと言って欲しい。そう願うチェルの瞳を、カイナは真剣な顔で見つめながら言った。
「脱ぐんだ。お前が少年ではないということをあいつにわからせてやれ」
「なるほどな。子供とはいえ、そこまでされてはこちらも心意気を汲んでやらねばなるまい。その子が確かに少女であることを目視で確認できたのならば、大人しく引き下がることを約束しよう」
「心遣いに感謝する。さあ、先方がああ言ってくれているんだ。気にせずに脱げ」
武人のような物言いで12歳の子供に脱衣を強要するカイナと追手。ふたりの視線に挟まれ、チェルの身体は直立したまま硬直してしまっていた。
「えっ……えっ? ほっ、ほんとに……?」
チェルにはカイナの意図がわからなかった。わかるはずもなかった。
チェルは追手が探している人物その人であり、長い金髪の少年そのものだ。遠目では誤魔化せているが、服を脱いでしまえば本当の性別が明らかになってしまうことは避けられない。
騙していたことが知られれば、チェルが捜し人当人であることも知られてしまうだろう。こんな状況で自分から脱ぐ意味がチェルには理解できなかった。
「どうした? まさかあんなことを言っておいて、本当は少年なんじゃないだろうな?」
「恥ずかしがっているだけだ。子供とはいえ少女だからな。見知らぬ男に肌を見られることに羞恥心もあるだろう」
「子供の裸に欲情すると思われていることは耐えがたい屈辱だが、子供の誤りは許すのが大人であろうな。その性別を一目確認できればすぐにでも立ち去る。見たこともすぐに忘れることを約束しよう。だから恥ずかしがるな。その羞恥心は、こちらに対する侮辱でもあるのだ」
「とのことだ。命と羞恥心を天秤にかければ、何が正解かは明白だな?」
「えぇ……えぇ……?」
まるで裏で結託しているかのように、ふたりがかりでチェルを脱がしにかかるカイナと追手。
チェルの心臓は追手が来た時よりも激しく動き、鏡を見なくとも自身の顔が耳まで真っ赤になっていることがわかった。
「ほんとうに……ほんとに……?」
自分自身に確認するようなチェルの呟きに対し、カイナは何も言葉をかけてはくれなかった。ただ真剣な眼差しだけで、服を脱げと瞳で語っていた。
理解も納得もできず、状況にも追いつけていないチェル。真っ白になった頭は何も考えることができず、混乱した身体は操り人形のようにカイナからの命令を実行し始めた。
呼吸と拍動が乱れて震える指先が外套の裾を掴む。焚火のパチパチという音にすら急かされているような心地で、チェルは外套をめくりあげた。
まだ素肌すらも見せていない状況でも、羞恥心で身体は今にも弾けてしまいそうだ。羞恥心を抑え込むように外套を唇で咥えて、チェルは右手の親指をシャツとお腹の間に滑りこませた。
指に当たるお腹の柔らかい感触と、爪先に当たるあばら骨の硬い感触。敏感になった感覚は普段なら気にしたこともないことまで鋭敏に感じ取ってしまい、それが余計に羞恥心を煽り立てた。
命すらも危ぶまれる状況で、自分は一体何をしているのか。
「……いや、しかし子供の顔はまだ性差が乏しい。少女のように麗しい少年という可能性も捨てきれない。事の重大さを考慮すると、やはり念には念を入れて同行してもらおうか」
見る目は無いが、考える頭は持ち合わせている追手であった。剣からは手を離したものの、チェルが同行するまで踵を返すつもりは無いようだ。
「それなら、顔以外で判断してもらう他あるまい」
「……?」
カイナは抱き込んでいたチェルを突き放すようにして立たせると、簡潔に命令した。
「脱げ」
「……嘘だよね?」
どうか嘘だと言って欲しい。そう願うチェルの瞳を、カイナは真剣な顔で見つめながら言った。
「脱ぐんだ。お前が少年ではないということをあいつにわからせてやれ」
「なるほどな。子供とはいえ、そこまでされてはこちらも心意気を汲んでやらねばなるまい。その子が確かに少女であることを目視で確認できたのならば、大人しく引き下がることを約束しよう」
「心遣いに感謝する。さあ、先方がああ言ってくれているんだ。気にせずに脱げ」
武人のような物言いで12歳の子供に脱衣を強要するカイナと追手。ふたりの視線に挟まれ、チェルの身体は直立したまま硬直してしまっていた。
「えっ……えっ? ほっ、ほんとに……?」
チェルにはカイナの意図がわからなかった。わかるはずもなかった。
チェルは追手が探している人物その人であり、長い金髪の少年そのものだ。遠目では誤魔化せているが、服を脱いでしまえば本当の性別が明らかになってしまうことは避けられない。
騙していたことが知られれば、チェルが捜し人当人であることも知られてしまうだろう。こんな状況で自分から脱ぐ意味がチェルには理解できなかった。
「どうした? まさかあんなことを言っておいて、本当は少年なんじゃないだろうな?」
「恥ずかしがっているだけだ。子供とはいえ少女だからな。見知らぬ男に肌を見られることに羞恥心もあるだろう」
「子供の裸に欲情すると思われていることは耐えがたい屈辱だが、子供の誤りは許すのが大人であろうな。その性別を一目確認できればすぐにでも立ち去る。見たこともすぐに忘れることを約束しよう。だから恥ずかしがるな。その羞恥心は、こちらに対する侮辱でもあるのだ」
「とのことだ。命と羞恥心を天秤にかければ、何が正解かは明白だな?」
「えぇ……えぇ……?」
まるで裏で結託しているかのように、ふたりがかりでチェルを脱がしにかかるカイナと追手。
チェルの心臓は追手が来た時よりも激しく動き、鏡を見なくとも自身の顔が耳まで真っ赤になっていることがわかった。
「ほんとうに……ほんとに……?」
自分自身に確認するようなチェルの呟きに対し、カイナは何も言葉をかけてはくれなかった。ただ真剣な眼差しだけで、服を脱げと瞳で語っていた。
理解も納得もできず、状況にも追いつけていないチェル。真っ白になった頭は何も考えることができず、混乱した身体は操り人形のようにカイナからの命令を実行し始めた。
呼吸と拍動が乱れて震える指先が外套の裾を掴む。焚火のパチパチという音にすら急かされているような心地で、チェルは外套をめくりあげた。
まだ素肌すらも見せていない状況でも、羞恥心で身体は今にも弾けてしまいそうだ。羞恥心を抑え込むように外套を唇で咥えて、チェルは右手の親指をシャツとお腹の間に滑りこませた。
指に当たるお腹の柔らかい感触と、爪先に当たるあばら骨の硬い感触。敏感になった感覚は普段なら気にしたこともないことまで鋭敏に感じ取ってしまい、それが余計に羞恥心を煽り立てた。
命すらも危ぶまれる状況で、自分は一体何をしているのか。
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