59 / 67
兄と弟と聖剣
チェルが誰かに討伐されることはない
しおりを挟む
「ごめんなさい、カイナ兄……僕、全部話しちゃったっ……カイナ兄のこと、内緒にできなかったっ……!」
「……開口一番に謝ることがそれか? まだ油断するな。死にたくなければ、俺の指示通りに動け」
「うん……うんっ!」
チェルは立ち上がって涙を拭うと、地面に刺さった大剣を引き抜くカイナに隠れながら追手の様子を窺った。
突然のカイナの乱入に驚いていた二人であったが、既にその表情には冷静さを取り戻していた。カイナを警戒しつつチェルのことも見張っている様子であり、不用意に背を向けて逃げ出せば後ろから斬られ撃たれそうな気迫があった。
大剣を構え出方を窺うカイナに、リザンは剣を構えながらも言葉を投げかけた。
「カイナと呼ばれていたな。イクスガルド国の王子である、カイナ・ユーリィで相違ないか?」
「……」
「お喋りは嫌いか? それとも、銃に狙われた状態では話をする余裕も無いか?」
「……」
リザンからの問いかけに、カイナは何も返さなかった。ただ静かに、目の前の二人の敵に向けて気を払っていた。
そんなカイナの事を馬鹿にするようにリザンは嘲笑すると、煽るような口調で続けた。
「まさか、本当に第一王子が亡命に同行しているとはな。王子が揃いも揃って国から逃げ出すとは、兵士上がりのイクスガルド王の胤から生まれたとはとても思えん。それとも、イクスガルド王は売春婦でも孕ませたか? 誰にでも股を開く女から産まれたのであれば、王族でありながら容易に国を捨てる軽薄な行いにも納得だ」
「……」
「それになんだ、そのバカでかい剣は。その武装だけでもまともな訓練を受けていないことが丸見えだ。大方、聖剣を持つ弟への対抗心だろうな。持て囃される弟を羨んで、目立てる武器を選んだか。実に幼稚で、貧弱なイクスガルドには似合いの武装だ。弟も言っていたぞ。お供の大剣使いは弱いとな」
「……」
度重なる愚弄と侮蔑。それらを受けても尚、カイナは無反応だった。
チェルがカイナの弱さを思い出してしまい、二体一という不利な状況に不安になり始めている一方で、カイナは堂々と大剣を構え続けていた。
「……イレオン」
「ダメです、隙ができません。おそらく、全て聞き流しているかと」
イレオンが首を振りながら答えると、リザンは大きくため息を吐いた。
「だろうな……。仕方ない、カイナは俺が相手する。イレオンは狙えそうな方から狙え。どちらでも殺せそうなら、俺ごと撃ち抜いて構わん。足までなら許す」
「了解」
「ったく……なんであんな馬鹿デカい大剣を相手せにゃならんのだ。腰がイカれちまう……」
「良いじゃないですか。前から退役したがってたでしょう? 立派な傷痍軍人になれますよ」
「腰が砕けたら孫を抱っこできんだろうが!」
「……リザンさんって、そもそもご結婚されてましたっけ?」
リザンがイレオンに指示をする中、カイナもチェルに指示をしていた。
「チェル、俺が前に出たらついて来い。つかず離れず、常に今ぐらいの距離を保ち続けろ」
「う、うん……いたっ……」
「膝に怪我か。走れるか?」
「うん……がんばる……。ちゃんと、カイナ兄に付いて行くね?」
「もっと早くからそれくらい素直だったらな」
「そうだね……でも、もうわかったから……少し遅かったかもだけど……。これからはずっと、カイナ兄の傍から離れないから……カイナ兄も、僕のこと置いて行かないで……ね?」
それぞれがそれぞれの心持ちで、それぞれの様子を窺う。守る者、守られる者。狙う者、援護する者。
命を懸ける緊張感の漂う空気と、場違いに穏やかな川のせせらぎが聴こえる空間。口火を切ったのはリザンだった。
「最後に念の為確認しておく。降伏する意思が少しでもあるのなら、今すぐ武器を捨てろカイナ・ユーリィ。大人しくするならば余計な危害は加えない。仮にこの場を切り抜けることができたとしても、最期まで逃げ切れるとは思っちゃいないだろう。その悪魔はいずれ誰かが討伐する……今この場でお前が見捨てたところで結末は変わらんぞ」
「情けをかけてもらっているようだが、そのまま返そうバンドット兵。チェルが誰かに討伐されることはない……少なくとも、お前たちには到底不可能だ」
「ブラフか? 聖剣があるから、などと言うつもりではあるまいな?」
「違うな、聖剣は関係ない……俺が居るからだ」
「はっ……抜かせ!!」
リザンは右手に持った軍刀を大きく振りかぶると、カイナを吹き飛ばさんとする勢いで右から左へ薙ぎ払った。
「……開口一番に謝ることがそれか? まだ油断するな。死にたくなければ、俺の指示通りに動け」
「うん……うんっ!」
チェルは立ち上がって涙を拭うと、地面に刺さった大剣を引き抜くカイナに隠れながら追手の様子を窺った。
突然のカイナの乱入に驚いていた二人であったが、既にその表情には冷静さを取り戻していた。カイナを警戒しつつチェルのことも見張っている様子であり、不用意に背を向けて逃げ出せば後ろから斬られ撃たれそうな気迫があった。
大剣を構え出方を窺うカイナに、リザンは剣を構えながらも言葉を投げかけた。
「カイナと呼ばれていたな。イクスガルド国の王子である、カイナ・ユーリィで相違ないか?」
「……」
「お喋りは嫌いか? それとも、銃に狙われた状態では話をする余裕も無いか?」
「……」
リザンからの問いかけに、カイナは何も返さなかった。ただ静かに、目の前の二人の敵に向けて気を払っていた。
そんなカイナの事を馬鹿にするようにリザンは嘲笑すると、煽るような口調で続けた。
「まさか、本当に第一王子が亡命に同行しているとはな。王子が揃いも揃って国から逃げ出すとは、兵士上がりのイクスガルド王の胤から生まれたとはとても思えん。それとも、イクスガルド王は売春婦でも孕ませたか? 誰にでも股を開く女から産まれたのであれば、王族でありながら容易に国を捨てる軽薄な行いにも納得だ」
「……」
「それになんだ、そのバカでかい剣は。その武装だけでもまともな訓練を受けていないことが丸見えだ。大方、聖剣を持つ弟への対抗心だろうな。持て囃される弟を羨んで、目立てる武器を選んだか。実に幼稚で、貧弱なイクスガルドには似合いの武装だ。弟も言っていたぞ。お供の大剣使いは弱いとな」
「……」
度重なる愚弄と侮蔑。それらを受けても尚、カイナは無反応だった。
チェルがカイナの弱さを思い出してしまい、二体一という不利な状況に不安になり始めている一方で、カイナは堂々と大剣を構え続けていた。
「……イレオン」
「ダメです、隙ができません。おそらく、全て聞き流しているかと」
イレオンが首を振りながら答えると、リザンは大きくため息を吐いた。
「だろうな……。仕方ない、カイナは俺が相手する。イレオンは狙えそうな方から狙え。どちらでも殺せそうなら、俺ごと撃ち抜いて構わん。足までなら許す」
「了解」
「ったく……なんであんな馬鹿デカい大剣を相手せにゃならんのだ。腰がイカれちまう……」
「良いじゃないですか。前から退役したがってたでしょう? 立派な傷痍軍人になれますよ」
「腰が砕けたら孫を抱っこできんだろうが!」
「……リザンさんって、そもそもご結婚されてましたっけ?」
リザンがイレオンに指示をする中、カイナもチェルに指示をしていた。
「チェル、俺が前に出たらついて来い。つかず離れず、常に今ぐらいの距離を保ち続けろ」
「う、うん……いたっ……」
「膝に怪我か。走れるか?」
「うん……がんばる……。ちゃんと、カイナ兄に付いて行くね?」
「もっと早くからそれくらい素直だったらな」
「そうだね……でも、もうわかったから……少し遅かったかもだけど……。これからはずっと、カイナ兄の傍から離れないから……カイナ兄も、僕のこと置いて行かないで……ね?」
それぞれがそれぞれの心持ちで、それぞれの様子を窺う。守る者、守られる者。狙う者、援護する者。
命を懸ける緊張感の漂う空気と、場違いに穏やかな川のせせらぎが聴こえる空間。口火を切ったのはリザンだった。
「最後に念の為確認しておく。降伏する意思が少しでもあるのなら、今すぐ武器を捨てろカイナ・ユーリィ。大人しくするならば余計な危害は加えない。仮にこの場を切り抜けることができたとしても、最期まで逃げ切れるとは思っちゃいないだろう。その悪魔はいずれ誰かが討伐する……今この場でお前が見捨てたところで結末は変わらんぞ」
「情けをかけてもらっているようだが、そのまま返そうバンドット兵。チェルが誰かに討伐されることはない……少なくとも、お前たちには到底不可能だ」
「ブラフか? 聖剣があるから、などと言うつもりではあるまいな?」
「違うな、聖剣は関係ない……俺が居るからだ」
「はっ……抜かせ!!」
リザンは右手に持った軍刀を大きく振りかぶると、カイナを吹き飛ばさんとする勢いで右から左へ薙ぎ払った。
0
あなたにおすすめの小説
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる