お兄ちゃんと最強から最弱に成り下がった弟

papporopueeee

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兄と弟と聖剣

いじわるな言い方

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「ひぃっ!」

 カイナの後ろに隠れているチェルですら怯んでしまうほどの殺意の籠ったリザンの薙ぎ払い。しかしカイナは地面に大剣を突き刺して壁にすることにより、少しも態勢を崩すことなくリザンの一撃を防いだ。

「ぐぅっ!? 何があんまり強くないだ! やっぱり手練れじゃねえか、ちくしょうが!!」

 悪態を吐きながら一歩後退するリザン。その右足を掠めるようにして一発の銃弾がチェルへと迫る。しかしカイナは足で大剣を小突いて傾きを変えるだけで、難なく銃弾の進路を妨害してみせた。

「えっ……カイナ兄って……もしかして弱くないの?」

 たった二手の攻防。それだけで、カイナは二体一という不利な状況に対抗するだけの力量を示してみせた。それはカイナを聖剣でボコボコにし続け、不意打ちでばかり戦うカイナの姿を見てきたチェルにとっては信じられない光景だった。

 カイナは8本ある聖剣の半分にも満たない、3本の聖剣にすら対応できない、全盛期のチェルと比較したら半人前以下の剣士だった。しかしそれは聖剣が相手であっても2本までなら対応できるということであり、たった2本であっても2人の人間とは比較にならないほど強力なのが聖剣である。

 宙を自在に駆け、予備動作も無く一撃必殺の突進を繰り出す聖剣相手に戦ってきたカイナにとって、地に足を着けた戦士と直線でしか攻撃できない銃士は十分に勝てる見込みのある相手であった。

「イレオン!」

「わかってます!」

 リザンがイレオンの名を呼ぶのと、イレオンが両手で構えていたライフル銃を下ろすのはほぼ同時だった。

 イレオンはライフル銃から右手を離して腰の後ろへと回し――

「チェル、詰めるぞ!」

 ――自身に向けられていた銃口が下がる瞬間をカイナは見逃さなかった。

 イレオンへと迫るカイナと、その進路に立ち塞がるリザン。カイナはお返しと言わんばかりに、リザンに向けて豪快に大剣を薙ぎ払った。

「うおおぉっ!?」

 常人では扱いきれないほどの鉄塊でもある大剣の重量と、身の丈をも越えるほどのリーチによる遠心力。その一撃は軍刀のそれとは正に桁違いであり、リザンは防御こそできたもののあえなく吹っ飛ばされた。

「リザンさんっ! くそっ!!」

 あと一歩でイレオンの首が大剣のリーチに入るというところまでカイナに迫られ、イレオンはライフル銃を両手で構え直した。しかしながら秒にも満たないコンマの時間では迫る獣に照準を着けることは敵わず、イレオンは半ば諦めながら当たらないとわかっている弾を発砲した。

 当然ながらカイナがそんな発砲に怯むはずはなく、当たり前に背後のチェルはそんな発砲に怯んでしまった。

「ひっ!?」

 反射的に銃声に身を竦め、チェルはその足を止めてしまった。ただ一人兵士としての修練の経験が無く、覚悟も持ち合わせていないチェルは銃声に怯んでしまった。

 イレオンの首を落とせても、体勢を立て直したリザンにチェルが討たれては意味が無い。チェルが足を止めた以上、カイナも足を止めざるをえなかった。

「ごっ、ごめんなさいっ……ごめんなさい、カイナ兄……」

「謝るのも反省するのも後でいい。それより状況が変わった。もう少し俺にくっつんだ」

「う、うん……わかった」

 言われた通りにカイナの右足にひっつくように身体を寄せるチェル。

 カイナの言葉通り、四人の状況は先ほどとは変わってしまっていた。先ほどまでは正面から相対していた両陣営であったが、今のカイナとチェルはイレオンとリザンから挟み撃たれてしまっている。

 前方ではイレオンがライフル銃を構えて狙いを定め、後方からは軍刀を構えたリザンが迫る。数的不利には慣れているカイナではあるが、前方と後方から同時に攻められてはチェルを守り切れない。それはリザンとイレオンにとっても明白な事実であった。

「リザンさん、どうしますか?」

「構わん、続けろ。わかるな? 続けるんだ。俺が時間を稼ぐ間に完遂しろ」

「了解……!」

 カイナとチェルに聞かれるのも構わずに作戦を擦り合わせるリザンとイレオン。

 カイナはチェルにだけ聴こえるように、小声で話しかけた。

「チェル、あのイレオンという銃兵は仲間を呼ぶつもりだ。先ほどの右手の動きから察するに、腰に信号弾を装備しているんだろう」

「うん……それじゃあ、どうするの?」

「最優先に狙うのはイレオンだ。逃がしても負けだし、信号弾を撃つ余裕を与えても負けだ。後ろのリザンに追われながら、イレオンを追い詰める」

「……僕、そんなに走れるかな?」

「走るのは俺だけだ。合図をしたら背中にしがみついて首に腕を回せ。チェルが精いっぱいに力を入れたところで俺の首は締まらんから、必死にしがみつくんだ」

「……僕、落ちずにいられるかな?」

「チェル次第だな。あの日落馬した時とは状況がまるで違う。今回は振り落とされたら命は無いと思え」

「……いじわるな言い方。でも……がんばるね」

 じりじりと間合いを詰めるリザンと、ライフルを構えながら後退するイレオン。

 カイナは大剣を目の前に突き刺して盾にすると、即座にしゃがみこんでチェルに叫んだ。

「乗れ!」

 カイナの背をよじ登り、背と胸を、腕と首を、全身を密着させるチェル。それはチェルなりの全速力ではあったが、敵にとってはつけ入るのに十分な隙であった。

「走れ、イレオン!!」

 カイナが立ち上がるよりも早く、イレオンとリザンは動き出した。

 イレオンはバックステップで大きく距離を離し、リザンはカイナの背にしがみついて無防備なチェルの背に軍刀を振り上げる。

「っ!!」

 チェルは何もできなかった。ただカイナの言う通りに力を込めて、その大きな背中に必死にしがみついた。

 イレオンの右手が信号弾の詰まった拳銃を掴む。リザンの持つ軍刀が振り下ろされ空を斬りながらチェルへと迫る。

 そしてカイナは、両手を地面に着き、下半身に力を溜めていた。

「落ちるなよ、チェル」

「う――んぅっ!?」

 チェルが返事を終えるよりも速く、カイナの身体は跳び出した。
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