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兄と弟と聖剣
泣ける兄弟愛
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「っ……あ、あれ……?」
カイナに言われた通りに小さく蹲っていたチェルは気づいていなかった。
銃声がしても身体の何処も痛むことはなく、きっとカイナがまた守ってくれたのだと希望と共に顔を上げようとして、すぐ傍からどしゃっという音が聴こえた。
「えっ……か、カイナ兄……?」
チェルの目の前で倒れているカイナ。まだ戦闘中だというのに、無防備にうつ伏せに倒れ込んでしまい、くぐもった苦悶の声を漏らしている。
その右肩に空いた穴から血が零れだす瞬間と、左の脇腹から地面へと流れ出た血溜まりを見て、ようやくチェルはカイナが自分の身代わりになって撃たれたのだと気づいた。
「うそ……カイナ兄っ……カイナ兄、起きて! カイナ――ひっ!?」
再び銃声が聴こえたのとほぼ同時にカイナの右足が突然跳ね上がった。後方から迫るリザンによって撃たれたらしく、カイナは悲鳴すら上げることができず苦悶の吐息を弱々しく漏らしていた。
「偶々だったんだ。本来はもっと散開して捜索に当たっているはずだった。それが偶々銃声の届く範囲に居たらしい……運の良いことに、銃を撃って音を鳴らした時点でこちらの勝ちだったわけだな。その足ではもう逃げられまいカイナ・ユーリィ、及びチェル・ユーリィ。諦めて大人しく降伏しろ」
リザンは2メートルほどの距離を保ってライフルを構えた。その照準は今度こそ間違いなくチェルに向けられ、蛇に睨まれた蛙のようにチェルの身体が硬直してしまった。
「リザン、状況を報告してくれ。交戦中のようだったが、撃って良かったんだよな?」
「ああ、この倒れてるのがイクスガルドの第一王子であるカイナ・ユーリィだ。イレオンの右腕を斬り落としやがった、チェル・ユーリィの護衛だ。そんで、そっちのガキがチェル・ユーリィ。見た目はガキだがあの聖剣使いだ。力は失ってるらしいが、決して油断はするな。三角形で幅広の短剣……わかってるな?」
「了解。おい、イレオンを手当てしてやれ」
川の向こうで軍刀を構えていた一人がイレオンの元へと駆け寄っていき、チェルとカイナははライフルを装備した二人の軍人に囲まれた。
先ほどまでのカイナであれば二人の人間から銃を向けられても凌ぐことはできたであろうが、今のカイナはまるで芋虫のように這うことしかできていない。
カイナは血を流しながらぎこちない動作で這いずると、射線から庇うようにチェルに覆い被さった。
「カイナ兄っ……っ、ごめんなさいっ……僕の、僕のせいでっ……ちゃんと、掴まってられなかったからっ……」
「ちぇ、るっ……伏せていろっ……俺を、盾にっ……」
「カイナ兄っ……っ!」
もはや焦点も会っていないカイナの瞳であったが、その意思だけは確かにチェルにも伝わってきた。
3発もの銃弾に身体を貫かれ、自力で体重を支えることもできずにチェルに寄りかかりながらも、チェルの盾であろうとするカイナ。その姿を見て、チェルは思わず涙ぐんだ。
「泣ける兄弟愛と言ったところだな。チェル・ユーリィ、お前にカイナからの愛に応える気はあるのか?」
「? ……どういう意味?」
それはチェルにとっては予想だにしない言葉だった。このほぼ勝敗が決まった状況において、リザンはチェルに交渉を持ち出していた。
「予想はしていたが、先ほどのお前の背の感触から確信に変わった。お前は今聖剣を持っているな? それを素直にこちらに渡せ。そうすれば、カイナ・ユーリィは生かしてやる」
「えっ?」
それはチェルにとっては願ってもいない条件だった。
今のチェルにとって聖剣はただの重荷に過ぎず、運が良ければ先ほどのように攻撃を弾いてくれる程度の価値しかない。イクスガルドの国宝であることも、強力すぎる加護でチェルを護ってくれたことも、全ては過去の事実でしかなく、カイナの未来とは比べるべくもない。
何より、カイナをチェルのせいで死なせたくはなかった。チェルがカイナの背から落ちなければ、勝手に夜営地から離れなければ、虫を食べたくないなんて言わなければ、聖剣に見捨てられていなければ、民から嫌われていなければ。カイナがその身に銃弾を受けることも無かった。
カイナが死にかけているのはチェルのせいだから、チェルはカイナの為に全てを差し出したかった。それが動かせなくなった聖剣程度で済むのなら尚の事。
チェルは何の躊躇も無く右手を背中に回し、それを阻んだのはカイナだった。
「だめだっ、チェルっ……信じるなっ。あいつらが約束を守る保証も、見逃す道理もないっ……敵の情けに期待をするなっ……っ!」
「で、でもっ……それじゃあ、カイナ兄が死んじゃうよ? 死んじゃ嫌だよ……死なないでよ、カイナ兄……」
「っ……聖剣を……俺に渡せ……」
カイナに言われた通りに小さく蹲っていたチェルは気づいていなかった。
銃声がしても身体の何処も痛むことはなく、きっとカイナがまた守ってくれたのだと希望と共に顔を上げようとして、すぐ傍からどしゃっという音が聴こえた。
「えっ……か、カイナ兄……?」
チェルの目の前で倒れているカイナ。まだ戦闘中だというのに、無防備にうつ伏せに倒れ込んでしまい、くぐもった苦悶の声を漏らしている。
その右肩に空いた穴から血が零れだす瞬間と、左の脇腹から地面へと流れ出た血溜まりを見て、ようやくチェルはカイナが自分の身代わりになって撃たれたのだと気づいた。
「うそ……カイナ兄っ……カイナ兄、起きて! カイナ――ひっ!?」
再び銃声が聴こえたのとほぼ同時にカイナの右足が突然跳ね上がった。後方から迫るリザンによって撃たれたらしく、カイナは悲鳴すら上げることができず苦悶の吐息を弱々しく漏らしていた。
「偶々だったんだ。本来はもっと散開して捜索に当たっているはずだった。それが偶々銃声の届く範囲に居たらしい……運の良いことに、銃を撃って音を鳴らした時点でこちらの勝ちだったわけだな。その足ではもう逃げられまいカイナ・ユーリィ、及びチェル・ユーリィ。諦めて大人しく降伏しろ」
リザンは2メートルほどの距離を保ってライフルを構えた。その照準は今度こそ間違いなくチェルに向けられ、蛇に睨まれた蛙のようにチェルの身体が硬直してしまった。
「リザン、状況を報告してくれ。交戦中のようだったが、撃って良かったんだよな?」
「ああ、この倒れてるのがイクスガルドの第一王子であるカイナ・ユーリィだ。イレオンの右腕を斬り落としやがった、チェル・ユーリィの護衛だ。そんで、そっちのガキがチェル・ユーリィ。見た目はガキだがあの聖剣使いだ。力は失ってるらしいが、決して油断はするな。三角形で幅広の短剣……わかってるな?」
「了解。おい、イレオンを手当てしてやれ」
川の向こうで軍刀を構えていた一人がイレオンの元へと駆け寄っていき、チェルとカイナははライフルを装備した二人の軍人に囲まれた。
先ほどまでのカイナであれば二人の人間から銃を向けられても凌ぐことはできたであろうが、今のカイナはまるで芋虫のように這うことしかできていない。
カイナは血を流しながらぎこちない動作で這いずると、射線から庇うようにチェルに覆い被さった。
「カイナ兄っ……っ、ごめんなさいっ……僕の、僕のせいでっ……ちゃんと、掴まってられなかったからっ……」
「ちぇ、るっ……伏せていろっ……俺を、盾にっ……」
「カイナ兄っ……っ!」
もはや焦点も会っていないカイナの瞳であったが、その意思だけは確かにチェルにも伝わってきた。
3発もの銃弾に身体を貫かれ、自力で体重を支えることもできずにチェルに寄りかかりながらも、チェルの盾であろうとするカイナ。その姿を見て、チェルは思わず涙ぐんだ。
「泣ける兄弟愛と言ったところだな。チェル・ユーリィ、お前にカイナからの愛に応える気はあるのか?」
「? ……どういう意味?」
それはチェルにとっては予想だにしない言葉だった。このほぼ勝敗が決まった状況において、リザンはチェルに交渉を持ち出していた。
「予想はしていたが、先ほどのお前の背の感触から確信に変わった。お前は今聖剣を持っているな? それを素直にこちらに渡せ。そうすれば、カイナ・ユーリィは生かしてやる」
「えっ?」
それはチェルにとっては願ってもいない条件だった。
今のチェルにとって聖剣はただの重荷に過ぎず、運が良ければ先ほどのように攻撃を弾いてくれる程度の価値しかない。イクスガルドの国宝であることも、強力すぎる加護でチェルを護ってくれたことも、全ては過去の事実でしかなく、カイナの未来とは比べるべくもない。
何より、カイナをチェルのせいで死なせたくはなかった。チェルがカイナの背から落ちなければ、勝手に夜営地から離れなければ、虫を食べたくないなんて言わなければ、聖剣に見捨てられていなければ、民から嫌われていなければ。カイナがその身に銃弾を受けることも無かった。
カイナが死にかけているのはチェルのせいだから、チェルはカイナの為に全てを差し出したかった。それが動かせなくなった聖剣程度で済むのなら尚の事。
チェルは何の躊躇も無く右手を背中に回し、それを阻んだのはカイナだった。
「だめだっ、チェルっ……信じるなっ。あいつらが約束を守る保証も、見逃す道理もないっ……敵の情けに期待をするなっ……っ!」
「で、でもっ……それじゃあ、カイナ兄が死んじゃうよ? 死んじゃ嫌だよ……死なないでよ、カイナ兄……」
「っ……聖剣を……俺に渡せ……」
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