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第7話
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わたくしは手袋を外してキーラ=ターナーに投げつけた。
「キーラ=ターナー嬢。わたくしを陥れた貴女に決闘を申し込みます。
これはわたくしたちのどちらかが死ぬまでの戦いです」
「わたくし、そんな恐ろしい事……、どうして……? それに決闘?」
キーラ=ターナーは自分に攻撃が向くとは全く思っていなかったようだ。
本気で目を丸くしている。
むしろどうしてそんなにボーっとできるんだ?
キーラがアイラ以外の平民を認めなかった理由はわかっている。
この世界をゲームだと思っているからだ。
名前のあるキャラクターに知られると困るから、貴族の前ではいい顔しているが平民は魂のないただのモブだと思っていたんでしょ?
だから足元を掬われるんだよ。
「愚かな……。女が決闘など」
「私は殿下から婚約を破棄され、やってもいない苛めの首謀者だとののしられました。
わたくしは貴族の子女としてだけでなく、女性としての価値も死んだ、いえ殺されたのです。
首謀者のターナー嬢にはわたくしと同じ恥辱を受けていただかねばなりませんが、彼女には婚約者も恋人もいらっしゃいません。
婚約破棄という恥辱の代わりに、女性として死んでいただかねばなりません。
むしろ決闘という挽回のチャンスを与えたのはわたくしの慈悲ですわ」
「貴様は魔法騎士並みの実力者ではないか! 勝てるわけないだろうが‼」
「個人間の争いでなければ、家同士の争いになります。
ターナー嬢だって死ぬ物狂いになれば、勝てはしないまでもわたくしに一太刀入れることが可能かもしれませんわよ」
「ダメだ、ダメだ! せめて代理を立てろ」
ああ、殿下もキーラが白い王妃になることを望んでいるのね。
「でしたら私ファビアン=ル・ブランが、我が敬愛するマリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢の代理に立ちます」
するとキーラはものすごくショックを受けた顔になった。
ファビアンを順調に攻略しているつもりだったのだろう。
わたくしを裏切って自分を助けてくれると思っていたに違いない。
「誰かキーラ=ターナー嬢に手を貸す騎士はいないか?」
レオナルド殿下は見回したが手が上がらない。
先ほどわたくしはどちらかが死ぬまでと決闘の条件を上げたからだ。
ファビアンは麗しのロザリンド様の美貌とともに強い魔力も授かっていて、我が家の騎士団でも一、二を争う騎士だ。
そうでなければまだ若いファビアンがわたくしの護衛騎士になることはなかった。
それにロザリンド様は国王陛下も憧れており、ファビアンの子がその美貌を受け継いでほしいと彼は必ず子を作るように言われていた。
その彼を万に一つでも殺してしまったらと恐怖しかない。
「もうわたくしの負けでいいですわ!
こんな恐ろしい決闘など受けられませんもの。
それに誰も騎士の方々が手を上げなかったんだから令嬢として恥でしょ」
「その程度でわたくしの汚名恥辱が雪がれるとでも?
決闘を申し込んでいるのはこのわたくし。さあ手袋を拾いなさい」
「イヤよ。もうやめて!」
その時だった。
「ならば私ラ・トゥール公爵はターナー侯爵家に宣戦布告を宣言する。
かの家の寄り子たちは寄り親を変えるならば攻め込まない。
我が娘は王家からの申し出により婚約させたのに、このような人を貶める婚約破棄に導いたとは貴族法を鑑みても充分な犯罪だ。
それを個人間の決闘ですませてやろうという娘の気持ちを踏みにじって、さらに我らの名誉を傷つけた。
宣戦布告の理由として十分すぎるくらいだ」
「待て、公爵。そのような戦は認められん」
「いいえ、レオナルド殿下。
150年前に婚約破棄を誘発した件での戦闘が貴族法で許されております。
それでは娘も疲れているでしょうし、我々は戦闘の準備に入らねばなりません。
それともこの件は殿下も了承の出来事なのですか?
まさか王家があなた方のためにずっと戦い抜いたラ・トゥール公爵家を裏切ったのですか?」
殿下はそれを認められなかった。
ラ・トゥール公爵家が離反して、他国と手を組めばひとたまりもないからだ。
だがわたくしたちもそこまでするつもりはない。
「それではキーラ=ターナー嬢とアイラ=ボストン嬢。
この王宮では刃傷沙汰は出来ませんが、一歩でも出られたら我らの敵であることを覚悟されよ」
そう言ってわたくしたちは王宮を後にした。
レオナルド殿下からドレスやエスコートに来ない時点で、こうなることはわかっていた。
それでも殿下が正気に戻って普通の婚約破棄をしてくれれば、慰謝料をもらうだけで黙るつもりだった。
そしてその次に決闘という猶予を与えた。
キーラが決闘を受ければ彼女を殺し、この件の原因であるアイラは男爵家、いやこの国から追放するつもりだった。
だがキーラが決闘を受けなければ、開戦の口実ができる。
そのために父にパーティーをエスコートしてほしいと頼んだのだ。
目障りなターナー侯爵を排除し、その財産と土地を奪い、王家を黙らせることが狙いだ。
父は開戦の準備がなどと言っていたが、それはもうすっかりできている。
ターナー侯爵が愛人宅に泊っていることも調査済みだ。
何も知らずに快楽に溺れている間に、バカな娘のせいですべてを失うなんて思ってもいなかっただろう。
せめてこのパーティーに来ていれば、キーラに決闘を受けさせることもできただろうに。
「キーラ=ターナー嬢。わたくしを陥れた貴女に決闘を申し込みます。
これはわたくしたちのどちらかが死ぬまでの戦いです」
「わたくし、そんな恐ろしい事……、どうして……? それに決闘?」
キーラ=ターナーは自分に攻撃が向くとは全く思っていなかったようだ。
本気で目を丸くしている。
むしろどうしてそんなにボーっとできるんだ?
キーラがアイラ以外の平民を認めなかった理由はわかっている。
この世界をゲームだと思っているからだ。
名前のあるキャラクターに知られると困るから、貴族の前ではいい顔しているが平民は魂のないただのモブだと思っていたんでしょ?
だから足元を掬われるんだよ。
「愚かな……。女が決闘など」
「私は殿下から婚約を破棄され、やってもいない苛めの首謀者だとののしられました。
わたくしは貴族の子女としてだけでなく、女性としての価値も死んだ、いえ殺されたのです。
首謀者のターナー嬢にはわたくしと同じ恥辱を受けていただかねばなりませんが、彼女には婚約者も恋人もいらっしゃいません。
婚約破棄という恥辱の代わりに、女性として死んでいただかねばなりません。
むしろ決闘という挽回のチャンスを与えたのはわたくしの慈悲ですわ」
「貴様は魔法騎士並みの実力者ではないか! 勝てるわけないだろうが‼」
「個人間の争いでなければ、家同士の争いになります。
ターナー嬢だって死ぬ物狂いになれば、勝てはしないまでもわたくしに一太刀入れることが可能かもしれませんわよ」
「ダメだ、ダメだ! せめて代理を立てろ」
ああ、殿下もキーラが白い王妃になることを望んでいるのね。
「でしたら私ファビアン=ル・ブランが、我が敬愛するマリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢の代理に立ちます」
するとキーラはものすごくショックを受けた顔になった。
ファビアンを順調に攻略しているつもりだったのだろう。
わたくしを裏切って自分を助けてくれると思っていたに違いない。
「誰かキーラ=ターナー嬢に手を貸す騎士はいないか?」
レオナルド殿下は見回したが手が上がらない。
先ほどわたくしはどちらかが死ぬまでと決闘の条件を上げたからだ。
ファビアンは麗しのロザリンド様の美貌とともに強い魔力も授かっていて、我が家の騎士団でも一、二を争う騎士だ。
そうでなければまだ若いファビアンがわたくしの護衛騎士になることはなかった。
それにロザリンド様は国王陛下も憧れており、ファビアンの子がその美貌を受け継いでほしいと彼は必ず子を作るように言われていた。
その彼を万に一つでも殺してしまったらと恐怖しかない。
「もうわたくしの負けでいいですわ!
こんな恐ろしい決闘など受けられませんもの。
それに誰も騎士の方々が手を上げなかったんだから令嬢として恥でしょ」
「その程度でわたくしの汚名恥辱が雪がれるとでも?
決闘を申し込んでいるのはこのわたくし。さあ手袋を拾いなさい」
「イヤよ。もうやめて!」
その時だった。
「ならば私ラ・トゥール公爵はターナー侯爵家に宣戦布告を宣言する。
かの家の寄り子たちは寄り親を変えるならば攻め込まない。
我が娘は王家からの申し出により婚約させたのに、このような人を貶める婚約破棄に導いたとは貴族法を鑑みても充分な犯罪だ。
それを個人間の決闘ですませてやろうという娘の気持ちを踏みにじって、さらに我らの名誉を傷つけた。
宣戦布告の理由として十分すぎるくらいだ」
「待て、公爵。そのような戦は認められん」
「いいえ、レオナルド殿下。
150年前に婚約破棄を誘発した件での戦闘が貴族法で許されております。
それでは娘も疲れているでしょうし、我々は戦闘の準備に入らねばなりません。
それともこの件は殿下も了承の出来事なのですか?
まさか王家があなた方のためにずっと戦い抜いたラ・トゥール公爵家を裏切ったのですか?」
殿下はそれを認められなかった。
ラ・トゥール公爵家が離反して、他国と手を組めばひとたまりもないからだ。
だがわたくしたちもそこまでするつもりはない。
「それではキーラ=ターナー嬢とアイラ=ボストン嬢。
この王宮では刃傷沙汰は出来ませんが、一歩でも出られたら我らの敵であることを覚悟されよ」
そう言ってわたくしたちは王宮を後にした。
レオナルド殿下からドレスやエスコートに来ない時点で、こうなることはわかっていた。
それでも殿下が正気に戻って普通の婚約破棄をしてくれれば、慰謝料をもらうだけで黙るつもりだった。
そしてその次に決闘という猶予を与えた。
キーラが決闘を受ければ彼女を殺し、この件の原因であるアイラは男爵家、いやこの国から追放するつもりだった。
だがキーラが決闘を受けなければ、開戦の口実ができる。
そのために父にパーティーをエスコートしてほしいと頼んだのだ。
目障りなターナー侯爵を排除し、その財産と土地を奪い、王家を黙らせることが狙いだ。
父は開戦の準備がなどと言っていたが、それはもうすっかりできている。
ターナー侯爵が愛人宅に泊っていることも調査済みだ。
何も知らずに快楽に溺れている間に、バカな娘のせいですべてを失うなんて思ってもいなかっただろう。
せめてこのパーティーに来ていれば、キーラに決闘を受けさせることもできただろうに。
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