【完結】大金を手に入れたので奴隷を買った!

セイヂ・カグラ

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6話:会いたくない男

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「でくの棒」俺をそう呼ぶのは一人しか居ない。この男は、ツェルダという名のS級冒険者。エルフと人間のハーフだ。エルフの血を引いた美形ともいえる顔立ちと、まぁまぁ珍しい種族であること、S級だからという理由で女達に人気。俺と変わらない身長に金髪と緑の瞳、整った胡散臭い顔をしている。俺は美人な男が好きだが、コイツは嫌い。

 切っ掛けが何だったか分からない。出会ってから長いコイツは会うといちいち俺に絡んできて、馬鹿にする。さっさと行ってしまえばいいのに、俺が帰らない限りずっと絡んでくるのだから、うざったくてしかたがない。俺がギルドで冷たい視線を浴びるようになったのもコイツのせいだ。あることないこと言って、大声で仲間と俺を笑い者にする。嫌いなら話しかけて来なきゃ良いのに。でもS級相手じゃ、敵わないから俺はいつもただヘラヘラ笑っているだけ。それがまた、コイツの何かに触るのだろう。最近は、それが悪化して足を引っ掛けられたり、水を掛けられたり、ひどい目にあっている。

「どうしちゃったの~? 君みたいな平凡で貧乏な男がこんな綺麗な格好しちゃってさ。今更、モテようってのかな、童帝くんっ!」

 がっしりと馴れ馴れしく肩を組んでくるツェルダ。大体、なんでコイツだけ俺に気が付くんだ。他の奴らは、別人だとすら思っているのに。うんざりしながら腕を退かし、俺はまたいつもの笑顔を作った。

「はは、大した理由はないですよ。すみません、今日は少し急いでいるんです。」

 俺一人なら一向に構わないが、今日はローレンスがいる。もし、ローレンスがコイツに変な絡み方をされたら、たまったもんじゃない。ツェルダに背を向けて帰ろうとするが、腕を強く捕まれ歩みを止められた。

「おい、調子乗ってんじゃねぇよ。」

 くそ、めんどくせえな。腕痛ぇよ、馬鹿力が。

「あれー、なにこれぇ?」

 俺の意図に気がついたのか、態とらしくツェルダが声を上げる。布を被せていたローレンスを覗き込んで、口角をニヤリと持ち上げた。最悪だ。そう思ったのもつかの間、あろうことか、ツェルダは布を勝手に捲ってローレンスの顔を露にする。そして、汚い手でローレンスの顎を掴んだのだ。

「おい…」

 咄嗟のこと。
 喉を低く震わせ、ツェルダの動きを制する。
 ローレンスに触れる汚い手を今度は俺が強く掴み、引き剥がした。
 爪がギリギリと肉に食込む感覚。

「俺のモノに触るな。」

 俺の美しい魔物に気安く触るな。
 強い怒りが、苛立ちが自分を支配した。
 お前だけには絶対に触れられたくない。
 お前のようなものが触れたら、この美しい魔物にけがれが付く。
 俺の中にある圧倒的独占欲。
 
 それらの言動は殆ど無意識のものだったが、俺は強くツェルダを睨みつけた。笑うことなど忘れて、細めている眼を見開いた。ローレンスを自分の背に隠し、この汚らわしい男の目に入らないようにする。俺の大切な宝物を奪われるわけにはいかない。

「な…、な、んだ、よ」

 珍しくツェルダが狼狽え、数歩後退りをした。
 ハッとして、俺はまたいつもと同じ笑みを浮かべた。
 いけねぇ、ここはギルドだった。
 S級に楯突いているのを見られたら、何と言われるか…。
 コイツと喧嘩しても絶対負ける、むしろ殺される。
 とりあえず、この場から逃げよう!
 慌てて、またローレンスに布を被せて、半ば強引に手を繋いで踵を返した。
 
「帰るよ、ローレンス。」
「お、ぅ」




 
 ■





 ああ~~~、やっちまった。
 S級に歯向かっちまった。
 俺、明日からどうなるんだろう。もうギルド行けねぇよ~。
 行ったら絶対、殺されるよぉ。
 
 今晩は、帰りに獲ってきた(ローレンスが一瞬で捕まえた)魚を捌いて、ムニエル。それから、畑で取れた葉物野菜のサラダと芋と人参のスープ。夕飯を作りながら、俺は絶望を感じていた。居間の見えるキッチンからは、ギルドの説明冊子を読みながらくつろぐローレンスが見える。まるで俳優のような、舞台のワンシーンのような美しさにうっとりとしながら、今日の忘却を図った。すると、ローレンスの手の中の冊子が途端に閉じられ、現実に戻された。見ていたのがバレていたようだ。気まずくなって慌てて、視線を逸らす。

「アイツ、誰。」
「…えっ?」

 思いもよらない質問だった。

「アイツだ。頭の悪そうな、金髪の」
「あ、ああ。あれはね、俺ちょっと苦手なんだよね。ツェルダっていうんだけど、どうも俺のことが気に食わないらしくてな。何かと絡んでくるんだ。お前は大丈夫だと思うが、気をつけろよ。何かあったら、すぐ俺に言え。」
「お前、アイツに馬鹿にされてんのか。」

 あ痛タタタ…! ド直球すぎるぞ、ローレンス。
 
「そう、だな。まぁ、俺なんて何処にいても馬鹿にされる。」
「何故だ。」
「何故って…、俺が使えないからだよ。魔力なんて持ってないし、力持ちとか怪力があるわけじゃないし、技術もないし、学もないから頭が悪くて、おまけにこの間まで借金まみれ。顔も平凡で図体ばっかりでかいから、奴隷としても売れないうえに男娼としても役立たず。単純で明解。俺は世界から必要とされていない。」
 
 言っていて、自分で悲しくなる。
 話しているうちに段々と声が小さくなって、頭も項垂れた。
 借金が無くなって、金はあるのに『何故、生きているのだろう』という疑問は消えないまま。
 唯一の救いは、俺の手に美しい魔物がいるということ。

「ローレンスがいなかったら、俺はとっくに死んでる。」

 聞こえないくらい小さな声で呟いた言葉が、じんわりと染み込んでくる。
 ああ、俺、ローレンスがいないと生きていけないんだ…。
 ローレンスは、何も言わない。
 きっと興味がないだろうから、途中から殆ど聞いていなかったかもしれない。
 ならば、むしろその方が良い。
 つい、弱くなる時がある。今日が、そういう日だっただけ。
 なるべく弱みは、見せたくない。

「さぁ、できたぞ~! 美味そうだなっ!」

 食卓に夕飯を並べると、ローレンスも座る。
 食べようとフォークを手にしたが、ズキリと腕が傷んだ。

 ガチャン……ッ!

 金属の甲高い音が響く。
 痛みで手の力が緩んでしまったようだ。

「あ、悪いな音立てて…。」

 フォークを拾って顔を上げると、ローレンスの尻尾が不満気に揺れていた。
 魔族やエルフは耳が良いと聞いたことがあるから、こういう音は苦手なのだろう。
 にしても料理をしながら薄々思っていたが、先程から腕が痛い。
 ズキズキと熱を持つような、その違和感に腕を見た。

「うわっ…、すげぇ痕。」

 腕には、くっきりと手形が付いていた。ツェルダに掴まれたせいなのだろう。紫色に変色し、腫れているのを見るに折れてはいないだろうが、骨にヒビが入ったのかもしれない。気付いてしまった途端、腕が先程より強く痛みだした。

「食べてろ、俺ちょっと腕冷やしてくる。」

 包帯…あったかな。この間、ローレンスに使ったやつの余りがあったかもしれない。とりあえず、水で冷やそう。飯は左手で食えばいいし、後で川にでも行くか。あの川は魔力が豊富だし、なんとなく治るのが早そうだ。考えながら椅子から立ち上がる。

「ゔぅっ……!」

 すると突然、激痛が腕に走った。
 ローレンスが俺の痛む腕を掴んだのだ。
 痛みで、息が詰まる。
 じんわりと痛みによる涙が瞼に滲んだ。

「ぁっ…はっ…、痛たっ、」

 俺が悶えても、ローレンスは手を離さない。
 一体、何のつもりだ。

「少し耐えろ。」

 ローレンスがそう言った途端、眩いほどの光が集まってきた。それは、じんわりと温かみを持ち、ローレンスの手から溢れ、俺の腕を包んだ。掴まれる腕は痛いが、じわじわとそれが薄まっていく。やがて、痛みは引いていき温もりだけが残った。

「…治ってる……。」
 
 自分の腕をしばし眺め、握っては開き握っては開きを繰り返した。痛みがない、腫れたあともない、くっきりと付いた手の痕もない! 俺は、半ば興奮気味に顔を上げ、ローレンスを見た。すると、俺が何かを言う前にローレンスは面倒くさそうな顔をして「黙って、食え。」と新しいフォークを差し出してきた。

「ありがとう…! ローレンスはやっぱり素晴らしいな! 俺には勿体ないくらいだ!!」
「……。」







 ローレンスは早速、明日からギルドでダンジョンに潜るらしい。S級判定だが、まずは自分の力試しとして比較的初心者向けのダンジョンからはじめるそうだ。心配なので、ギルドまでは俺ももちろんついて行く。色んな奴らがいるからな。ただでなくてもローレンスは綺麗だから危ない。本当はダンジョンまで着いていきたい気持ちも山々だが、足手まといになるのは目に見えてるのでやめておく。
 ちなみに、ダンジョンで得た金の配分は『8:2』もちろん俺が『8』。だって、ローレンスの主は俺だもの。旦那の財布の紐は、ちゃんと握っておかなくちゃ♡だろー? ローレンスが不服そうにするので、また指先で脅してやると静かになった。ローレンスが怪我をしないか心配で仕方がないのだが、S級判定だったので不安も少ない。ローレンスも少しずつレベルを上げる予定のようだから安心だ。それにローレンスに何かあれば、奴隷紋の反応ですぐに分かるようになっている。



 ああ、でも、アイツにだけは絶対に会いませんように…!




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