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11話:俺は君の奴隷※
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館の中は広くて、歩いても歩いても長い廊下が永遠続く。歩みに合わせて流れていく景色には、不必要なのではないかと思えるほど多くの扉があった。
部屋なんて、こんなにいらないだろ…。
何人住むつもりだよ。
心のなかで悪態を付きながら、俺はツェルダの後について行く。いつまで歩くのだろうと思っていると、ツェルダの足が止まった。顔を上げると、目の前には大きな扉。扉を引いたツェルダに入れと視線で指図される。部屋に入ると、鉄の塊が落ちるような重たい音を立てて扉が閉まった。それから、カシャンっと鍵の閉まる音も聞こえて、俺の身体は一気に緊張が増す。目の前には、分厚い真っ赤な布のカーテン。ツェルダは溶け込むようにその布の中に入って行った。一体、何をされるのか分からない。みっともないが、俺の手は小さく震えていた。
殺される?
それとも拷問される?
魔法の実験台。薬品の治験体。
また売りに出されるかもしれない。
臓器を奪われるかもしれない。
色々な悪いことが次から次へと頭の中を駆け巡る。
それらのイメージは鮮明すぎるほどに浮かび上がった。
足がすくんで、動けなくなった。
だが、ここで怯えてはいけない…。
恐ろしい想像と共に浮かんだのは、美しい俺の魔物。
軽く深呼吸をして、布を掻き分けた。
「は………?」
目に飛び込んだものは真か…、見開いた目を何度か瞬かせた。
立ち尽くしていると、目の前にいる男が言った。
「早く来い。ああ、やめても良いんだよ。」
ベッドだ。赤く派手な布に囲まれた落ち着きのない大きなベッド。
白いシーツにガウン姿でベッドに腰掛けるツェルダは、楽しそうに目を細めた。長い足を組み替え、ブロンドの髪を掻き上げる。淡い光が男の髪をキラキラと眩くした。現状が全く理解できない。ただ「やめてもいい」という脅しにも似たそれに、反射的に身体が動く。黙っていれば、綺麗にも見える男の造形。ほら見ろ、彼だって顔だけは綺麗じゃないか…。ゆっくりとベッドに近づけば、苛立った様子でツェルダが俺の腕を引いた。柔らかな布に全身が埋まる。うつ伏せに倒れ込んだ俺の背に覆いかぶさったツェルダは、耳元で囁いた。
「ヤらせろ。」
やはり、俺には理解できない。
伸し掛かる重み、肺が圧迫されて息が苦しい。
内臓が押しつぶされるみたいだ。
「何故、ですか…」
「何故って? ローレンスくんの代わりだよ。」
「わっ、私なんか、代わりになんてなりません‼」
「あっそ、じゃあローレンスくんを連れてこよう。」
この男なら引く手数多だろうに。単純な疑問。ローレンスのように美しくない、自分よりもデカイ平凡な男を相手にして何が楽しいのだろう。思わず出た言葉にツェルダは、覆い被さるのをやめて起き上がる。ベッドから降りようとするツェルダのガウンを掴み、慌てて引き止めた。
「なぜっ、なぜ、私なんですかっ。」
「…でくのぼうくんだから、おもしろいんだよ。」
俺だからおもしろい…?
ふざけるな。散々俺を玩具にしておいて、コイツはまだ俺で遊びたいらしい。どんなに腹を立てても、相手には敵わない自分が憎い。自分は、この男の言いなりになる以外に宝物を守る方法がないんだ。情けないと思う。
それでも俺は、俺よりもローレンスが大切。
ローレンスは俺が見つけた俺だけの宝石なんだ。誰にも渡さないよ。
俺は、ツェルダの奴隷になるつもりはない。従っているわけでもない。
奴隷なのはローレンスではなく俺の方だ。
俺は、美しい魔物の奴隷なんだ。
身体がまた、ベッドの上に戻される。両腕を一纏めにして抑え込み、ツェルダは片手で器用にボタンを開けていく。素肌に触れる冷たい空気。胸を這う男の手に肌が粟立つ。ちゅっ、ちゅっと唇が首筋に触れていく。生まれてこの方、一切経験のない行為。口角をより一層、深くしたツェルダは首筋から胸の辺りに下りていった。
「ぁ…っ、…、、んっ、」
「ふっ、いい声出るじゃん。」
日々の食生活が見直され、あばら骨の浮き出なくなった俺の胸。ツェルダは、見せつけるように舌をべっと出した。舌は乳首に触れ、ねっとりと這う。アイスキャンディーを舐めるように、ちろちろと舌先が動く。
いやだ…、いやだ、いやだっ。
このまま、コイツに犯されるなんていやだ。
俺は別に綺麗な少年でもないし、年頃の女でもない。それでも、好きではない相手に自分の貞操を捧げるというのは、どうにも我慢ならなかった。頭の中お花畑かよ、と思われるかもしれないが、初めてくらい愛する男が良いと思ってしまっても悪いことじゃないだろう。今の状況だって、上手くやれば最後までしなくて済むかもしれない。ツェルダにそれが通用するか分からないが、俺は意を決して押し倒した。
「ま、まって…、口でさせて、下さい。」
「あぁ?」
「こういうのは、少しずつ味わった方が楽しいと思いませんか…?」
「どういう意味だ。」
これは、駆け引き。
恋愛経験の乏しい俺だが、駆け引きだけはそれなりに得意。
それは俺が『生きる』ために得たものだ。
コイツとの関係が、どれほど長引くかわからないし、この駆け引きをどれほど引き伸ばせるかも分からない。
それでも、コイツが飽きてくれる日が来るまで……。
俺がローレンスと一緒に居られる間だけでも良いから。
「だって、一回で終わらせる気なんて初めから無いんでしょう…?」
こういうのは、びくびくしてちゃ通らない。俺は起き上がり、ツェルダのガウンを開けさせた。いつもの笑み、自分自身を守る笑み。忘れるな俺、笑っていれば大抵のことは上手くいく。笑みは余裕を見せるときに有効。笑え、俺。
「ゆっくり、ぜんぶ教えて下さい。」
「…っ、」
開けたガウンから覗いた男根に指先をつぅっと滑らせてみる。
男の誘い方なんか知らない。
そんなもの知っていたら、とっくに好きな男を誘ってる。
積極的にすれば、もしかしたら気持ち悪いと言ってやめるかと思ったが…。
驚いたな。この男、俺に勃つんだ。
「俺、初めてだから…急いで食べちゃわないでよ。どうせだったら君の手で君好みに美味しく育てて下さい。」
「、あ、、」
少し、たじろいでいるみたいだ。
俺は先程のツェルダを真似て、んべぇと舌を出した。
「まずは、口から躾けてくれますか? ツェルダくんの良いところ、知りたい。」
「……いいよ、乗ってあげる。」
※
息ができない、苦しい。
それに嫌な匂いもする、喉が壊れてしまいそう。
舌、疲れた。もうできない、いやだ。
最悪だ、なんでこんな事するって言ったんだろう。
酸欠で頭がクラクラする。
逃げたい、逃げたい…、逃げたい。
「ん゛んっ…ぅ、うぷっ、ぐっ…!」
「ほらほら、ちゃんと咥えてよ。休んじゃだめー。」
くそ早く、はやくイけよ、遅漏っ!
「ぅん゛っ…ぅ、んぐぅ」
鼻腔を充満する雄の匂い。
喉の奥に容赦なく入り込まれ、吐き気がする。
頭を乱暴に押さえつけて、ツェルダは腰を振った。
まるで、犬のようだ。
はじめは、根本から先に向かって舐めるように指示をされた。言われるがまま、目の前の男根に舌を這わせ、咥え込む。犯されるよりはマシだと言い聞かせて、ツェルダの指示に従った。全部咥えて頭を上下させていたら、気がつけばガツガツと腰を動かされていた。苦しくて苦しくて、じんわりと涙が浮かぶ。ツェルダの顔はぼんやりとして見えないが、俺をジッと見ているような気がする。
「ああっ…、出そう、ちゃんと全部、飲み込んでよっ、」
「んっ、ぅ゛う……ん゛…ぐっ…‼」
びゅぅびゅぅ、と精液が口内に吐き出される。
味わったことのないそれに、更に吐き気を感じた。
手が空を藻掻くが、男根は口から出ていかない。
まだ、まだ出てる…、長い…っ。
やっと出し終わったのか、口からずるりと男根が抜けていった。
「ぅ゛……っ、んむぅっ」
朦朧とする頭。吐き出したくて、抜かれた瞬間に舌を出そうとすると、口を塞がれた。
「だめだよ、言ったでしょ、ちゃんと飲み込んで。」
「んんっ、んっ、ん」
塞がれた口で抗議しながら、小さく頭を振る。
生理的な涙がボロボロ落ちて、助けを求めるようにツェルダを見た。
「あはっ。吐いてもいいけど、後でもう一回してもらうよ?」
さっきのを、もう一回?
そんなの無理だ、もうできないっ。
「じゃあ、ごっくんしないと。飲み込めよ、ゼン。」
これは命令。
なんで、俺、こんなことしているんだっけ。
何のための駆け引きだったけ…?
ああでも、フェラがこんなに苦しかったらセックスはもっと辛いんだろうな。
コイツとのセックスなんて嫌だな、そんでもうフェラも嫌だ。
ねっとりと口内に溜まった精液。舌の上に伸びる不愉快なそれを喉に通そうにも、なかなか動かない。俺が飲み込むのをツェルダがずっと観ている。蔑むような視線が、面白がるような視線が、捕食されてしまうんじゃないかというほど恐ろしい視線が…。広がった精液を喉の奥まで押しやって、俺はやっとの思いでそれを飲み込んだ。喉を通ると同時に味覚や嗅覚を埋め尽くしていく。ああ、最悪だ。
「見せて、ゼン。口開けな。」
「……んぁ」
「ふふっ、いい子だ。これから、頑張ってね。でくのぼーうくん。」
暗い夜道、家々の明かりはとっくに消えてしまっている。射精をしたツェルダは満足したのか、あっさりと俺を開放した。口内に残るツェルダの臭い、触れられた感覚。すべてが気持ち悪い。自分が酷く汚れたような気がする。こんなんじゃ、あの美しい魔物のいる家には帰れないと川に入った。冷たくて凍えるような水。夜更けは、獣や魔物が活動的になる。このまま殺されて食われたほうが良い、だなんて思ってしまう。だが、その夜は不思議なことに何も近寄って来なかった。だから俺は、一人さみしく川の水に浮かんで、沈んで、苦しくなって、水面から這い上がるのを繰り返した。
長い間、ぼんやりとしていたと思う。
どうやって帰ったのかすら覚えていない。
ただ、家に帰るとローレンスがまだ起きていて、ひどく安堵した。
自然と笑みがこぼれたような気もするし、泣きそうになった気もする。
ローレンスには、妙なことを言ってしまった。珍しく困った表情を見て、やってしまったと後悔した。大切なローレンスの手を叩いてしまったことが酷く悲しかった。優しいローレンスの手を恐れてしまった自分が嫌になる。まだ、汚れている感じがして仕方がない。その場から逃げ出したいのもあって、ちゃんとローレンスの顔を見ずに湯浴び場に行った。
抱いて…。
俺が汚くなっちゃう前に……お前で満たして欲しい。
馬鹿だな、俺。
こんなこと、考えちゃいけないだろう。
部屋なんて、こんなにいらないだろ…。
何人住むつもりだよ。
心のなかで悪態を付きながら、俺はツェルダの後について行く。いつまで歩くのだろうと思っていると、ツェルダの足が止まった。顔を上げると、目の前には大きな扉。扉を引いたツェルダに入れと視線で指図される。部屋に入ると、鉄の塊が落ちるような重たい音を立てて扉が閉まった。それから、カシャンっと鍵の閉まる音も聞こえて、俺の身体は一気に緊張が増す。目の前には、分厚い真っ赤な布のカーテン。ツェルダは溶け込むようにその布の中に入って行った。一体、何をされるのか分からない。みっともないが、俺の手は小さく震えていた。
殺される?
それとも拷問される?
魔法の実験台。薬品の治験体。
また売りに出されるかもしれない。
臓器を奪われるかもしれない。
色々な悪いことが次から次へと頭の中を駆け巡る。
それらのイメージは鮮明すぎるほどに浮かび上がった。
足がすくんで、動けなくなった。
だが、ここで怯えてはいけない…。
恐ろしい想像と共に浮かんだのは、美しい俺の魔物。
軽く深呼吸をして、布を掻き分けた。
「は………?」
目に飛び込んだものは真か…、見開いた目を何度か瞬かせた。
立ち尽くしていると、目の前にいる男が言った。
「早く来い。ああ、やめても良いんだよ。」
ベッドだ。赤く派手な布に囲まれた落ち着きのない大きなベッド。
白いシーツにガウン姿でベッドに腰掛けるツェルダは、楽しそうに目を細めた。長い足を組み替え、ブロンドの髪を掻き上げる。淡い光が男の髪をキラキラと眩くした。現状が全く理解できない。ただ「やめてもいい」という脅しにも似たそれに、反射的に身体が動く。黙っていれば、綺麗にも見える男の造形。ほら見ろ、彼だって顔だけは綺麗じゃないか…。ゆっくりとベッドに近づけば、苛立った様子でツェルダが俺の腕を引いた。柔らかな布に全身が埋まる。うつ伏せに倒れ込んだ俺の背に覆いかぶさったツェルダは、耳元で囁いた。
「ヤらせろ。」
やはり、俺には理解できない。
伸し掛かる重み、肺が圧迫されて息が苦しい。
内臓が押しつぶされるみたいだ。
「何故、ですか…」
「何故って? ローレンスくんの代わりだよ。」
「わっ、私なんか、代わりになんてなりません‼」
「あっそ、じゃあローレンスくんを連れてこよう。」
この男なら引く手数多だろうに。単純な疑問。ローレンスのように美しくない、自分よりもデカイ平凡な男を相手にして何が楽しいのだろう。思わず出た言葉にツェルダは、覆い被さるのをやめて起き上がる。ベッドから降りようとするツェルダのガウンを掴み、慌てて引き止めた。
「なぜっ、なぜ、私なんですかっ。」
「…でくのぼうくんだから、おもしろいんだよ。」
俺だからおもしろい…?
ふざけるな。散々俺を玩具にしておいて、コイツはまだ俺で遊びたいらしい。どんなに腹を立てても、相手には敵わない自分が憎い。自分は、この男の言いなりになる以外に宝物を守る方法がないんだ。情けないと思う。
それでも俺は、俺よりもローレンスが大切。
ローレンスは俺が見つけた俺だけの宝石なんだ。誰にも渡さないよ。
俺は、ツェルダの奴隷になるつもりはない。従っているわけでもない。
奴隷なのはローレンスではなく俺の方だ。
俺は、美しい魔物の奴隷なんだ。
身体がまた、ベッドの上に戻される。両腕を一纏めにして抑え込み、ツェルダは片手で器用にボタンを開けていく。素肌に触れる冷たい空気。胸を這う男の手に肌が粟立つ。ちゅっ、ちゅっと唇が首筋に触れていく。生まれてこの方、一切経験のない行為。口角をより一層、深くしたツェルダは首筋から胸の辺りに下りていった。
「ぁ…っ、…、、んっ、」
「ふっ、いい声出るじゃん。」
日々の食生活が見直され、あばら骨の浮き出なくなった俺の胸。ツェルダは、見せつけるように舌をべっと出した。舌は乳首に触れ、ねっとりと這う。アイスキャンディーを舐めるように、ちろちろと舌先が動く。
いやだ…、いやだ、いやだっ。
このまま、コイツに犯されるなんていやだ。
俺は別に綺麗な少年でもないし、年頃の女でもない。それでも、好きではない相手に自分の貞操を捧げるというのは、どうにも我慢ならなかった。頭の中お花畑かよ、と思われるかもしれないが、初めてくらい愛する男が良いと思ってしまっても悪いことじゃないだろう。今の状況だって、上手くやれば最後までしなくて済むかもしれない。ツェルダにそれが通用するか分からないが、俺は意を決して押し倒した。
「ま、まって…、口でさせて、下さい。」
「あぁ?」
「こういうのは、少しずつ味わった方が楽しいと思いませんか…?」
「どういう意味だ。」
これは、駆け引き。
恋愛経験の乏しい俺だが、駆け引きだけはそれなりに得意。
それは俺が『生きる』ために得たものだ。
コイツとの関係が、どれほど長引くかわからないし、この駆け引きをどれほど引き伸ばせるかも分からない。
それでも、コイツが飽きてくれる日が来るまで……。
俺がローレンスと一緒に居られる間だけでも良いから。
「だって、一回で終わらせる気なんて初めから無いんでしょう…?」
こういうのは、びくびくしてちゃ通らない。俺は起き上がり、ツェルダのガウンを開けさせた。いつもの笑み、自分自身を守る笑み。忘れるな俺、笑っていれば大抵のことは上手くいく。笑みは余裕を見せるときに有効。笑え、俺。
「ゆっくり、ぜんぶ教えて下さい。」
「…っ、」
開けたガウンから覗いた男根に指先をつぅっと滑らせてみる。
男の誘い方なんか知らない。
そんなもの知っていたら、とっくに好きな男を誘ってる。
積極的にすれば、もしかしたら気持ち悪いと言ってやめるかと思ったが…。
驚いたな。この男、俺に勃つんだ。
「俺、初めてだから…急いで食べちゃわないでよ。どうせだったら君の手で君好みに美味しく育てて下さい。」
「、あ、、」
少し、たじろいでいるみたいだ。
俺は先程のツェルダを真似て、んべぇと舌を出した。
「まずは、口から躾けてくれますか? ツェルダくんの良いところ、知りたい。」
「……いいよ、乗ってあげる。」
※
息ができない、苦しい。
それに嫌な匂いもする、喉が壊れてしまいそう。
舌、疲れた。もうできない、いやだ。
最悪だ、なんでこんな事するって言ったんだろう。
酸欠で頭がクラクラする。
逃げたい、逃げたい…、逃げたい。
「ん゛んっ…ぅ、うぷっ、ぐっ…!」
「ほらほら、ちゃんと咥えてよ。休んじゃだめー。」
くそ早く、はやくイけよ、遅漏っ!
「ぅん゛っ…ぅ、んぐぅ」
鼻腔を充満する雄の匂い。
喉の奥に容赦なく入り込まれ、吐き気がする。
頭を乱暴に押さえつけて、ツェルダは腰を振った。
まるで、犬のようだ。
はじめは、根本から先に向かって舐めるように指示をされた。言われるがまま、目の前の男根に舌を這わせ、咥え込む。犯されるよりはマシだと言い聞かせて、ツェルダの指示に従った。全部咥えて頭を上下させていたら、気がつけばガツガツと腰を動かされていた。苦しくて苦しくて、じんわりと涙が浮かぶ。ツェルダの顔はぼんやりとして見えないが、俺をジッと見ているような気がする。
「ああっ…、出そう、ちゃんと全部、飲み込んでよっ、」
「んっ、ぅ゛う……ん゛…ぐっ…‼」
びゅぅびゅぅ、と精液が口内に吐き出される。
味わったことのないそれに、更に吐き気を感じた。
手が空を藻掻くが、男根は口から出ていかない。
まだ、まだ出てる…、長い…っ。
やっと出し終わったのか、口からずるりと男根が抜けていった。
「ぅ゛……っ、んむぅっ」
朦朧とする頭。吐き出したくて、抜かれた瞬間に舌を出そうとすると、口を塞がれた。
「だめだよ、言ったでしょ、ちゃんと飲み込んで。」
「んんっ、んっ、ん」
塞がれた口で抗議しながら、小さく頭を振る。
生理的な涙がボロボロ落ちて、助けを求めるようにツェルダを見た。
「あはっ。吐いてもいいけど、後でもう一回してもらうよ?」
さっきのを、もう一回?
そんなの無理だ、もうできないっ。
「じゃあ、ごっくんしないと。飲み込めよ、ゼン。」
これは命令。
なんで、俺、こんなことしているんだっけ。
何のための駆け引きだったけ…?
ああでも、フェラがこんなに苦しかったらセックスはもっと辛いんだろうな。
コイツとのセックスなんて嫌だな、そんでもうフェラも嫌だ。
ねっとりと口内に溜まった精液。舌の上に伸びる不愉快なそれを喉に通そうにも、なかなか動かない。俺が飲み込むのをツェルダがずっと観ている。蔑むような視線が、面白がるような視線が、捕食されてしまうんじゃないかというほど恐ろしい視線が…。広がった精液を喉の奥まで押しやって、俺はやっとの思いでそれを飲み込んだ。喉を通ると同時に味覚や嗅覚を埋め尽くしていく。ああ、最悪だ。
「見せて、ゼン。口開けな。」
「……んぁ」
「ふふっ、いい子だ。これから、頑張ってね。でくのぼーうくん。」
暗い夜道、家々の明かりはとっくに消えてしまっている。射精をしたツェルダは満足したのか、あっさりと俺を開放した。口内に残るツェルダの臭い、触れられた感覚。すべてが気持ち悪い。自分が酷く汚れたような気がする。こんなんじゃ、あの美しい魔物のいる家には帰れないと川に入った。冷たくて凍えるような水。夜更けは、獣や魔物が活動的になる。このまま殺されて食われたほうが良い、だなんて思ってしまう。だが、その夜は不思議なことに何も近寄って来なかった。だから俺は、一人さみしく川の水に浮かんで、沈んで、苦しくなって、水面から這い上がるのを繰り返した。
長い間、ぼんやりとしていたと思う。
どうやって帰ったのかすら覚えていない。
ただ、家に帰るとローレンスがまだ起きていて、ひどく安堵した。
自然と笑みがこぼれたような気もするし、泣きそうになった気もする。
ローレンスには、妙なことを言ってしまった。珍しく困った表情を見て、やってしまったと後悔した。大切なローレンスの手を叩いてしまったことが酷く悲しかった。優しいローレンスの手を恐れてしまった自分が嫌になる。まだ、汚れている感じがして仕方がない。その場から逃げ出したいのもあって、ちゃんとローレンスの顔を見ずに湯浴び場に行った。
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