【完結】大金を手に入れたので奴隷を買った!

セイヂ・カグラ

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12話:違えた触れ合い※

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 俺の日常が変わってもローレンスの日常は変わらない。俺の魔物は日々その美しさに磨きが掛かり、人々の瞳を奪っていく。ああ、今日も俺の魔物は美しい。彼の日常を守ること、それが今、俺の生きがい。ただ眺めるだけで、うっとりとする。どんなに苦しくても幸福感で満たされた。ローレンスはきっと、何も知らないままでいてくれる。ローレンスが当たり前の変わらない日々を送ってくれる限り、俺も平凡な日々を築き上げることができるんだ。それが、見え透いた嘘であろうとも。美しい魔物は、まだ俺の家に居る。まだ、俺のもの。

「食わないのか。」
「…ん、腹がいっぱいになっちまったみたい。欲張って皿に盛りすぎたな。」

 肉を切る手が止まった俺にローレンスが問う。
 最近、飯があまり美味しくない。
 慣れない関係に少し疲れているだけだろう。多少のストレスは否めない。
 だが、きっとそのうちすぐに慣れるはずだ。

「少ないくらいだ。もう少し食え。」
「そうだな。でも、今はやめておく、あとで食べるわ。」

 カトラリーを置いて、残した分を一回り小さな皿に移し替えるため立ち上がる。この家に遺された家具の一つである大きな食器棚。たしか、蓋付きのものがあったはずだと覗き込んだ。

「んっ、」

 突然、腰元を掴まれて擽ったさに声が出た。
 ローレンスが、俺の腹回りや背中を探るように触れてくる。
 その手はだんだんと下におりていき、腿をつねった。

「わ、わ、あ、えっ、な、なんだ…?」
「最近、痩せたようだが」

 皿を持つ手が止まる。あばら骨が妙に浮き出ているとは思っていたが、まさかローレンスに気づかれるとは思わなかった。ましてや、それを指摘されるとは考えておらず、動揺した。

「あ、え、そうか? 太ったから少し気にしていたんだ。痩せたなら嬉しいな。」
「……そうかよ」
「ご、ごめん」

 尻尾が不機嫌そうに揺れて咄嗟に謝った。

「簡単に折れそうだな」
「ぃい゙っ、、!」

 背後から腰を抱いたまま、片方の手でギリギリと手首を掴まれる。凄まじい力、腕の骨が粉々になってしまうのではないかと思うほどの痛みが走った。俺が呻いても、力は弱まらない。次第に、みしみしっと音が聞こえてくる。痛みで俺の額に脂汗が浮かんだ。

「痛い…っ、ローレンス。痛い、頼む、やめてくれ」

 そういうと手は、ぱっと離れた。
 腕がジンジンする。まだ、鈍い痛みが残っている。
 
「は……っぁ、くっ……」

 ひょっとすると、折れてしまったかもしれない。
 利き腕なのに、どうしよう。これでは家事ができない。

 美しい魔物が瞳に苛立ちを浮かべて、俺を見ている。
 何がローレンスを不快にさせたのだろう。
 ああ、そろそろ終わりなのかもしれない。
 この魔物は、俺を殺して俺から離れていく気なのだろうか…。 

「ぁ…、痛、んっ…、ぁ、はぁ、や、なに……して……ばか、」

 ローレンスが手首を口元に寄せ、痛めつけた腕を労るように舌を這わせはじめた。ぬめりを帯びた熱い舌先。ちゅっ、と音を立てながらゆっくりゆっくり見せつけるよう。ぴちゃぴちゃとした水音。唾液が指先まで伝う。情欲的な触れ合いに脳が麻痺するみたいだ。痛みと快楽が混ざり合って、俺の心臓が馬鹿になる。腕の痛みは、だんだんと引いていき舌先の感覚だけが研ぎ澄まされていく。あまりに官能的過ぎる原始的な治癒魔法。前にも俺の腕を治してくれたことがあったが、こんなやり方はしなかった。

「ま、まだ飯の途中だろう。冷める前に食っちまえ。」
「いらん、他に食いたいものができた。」
「はっ…?」

 ローレンスは、俺を軽々と担ぎ上げた。そのまま、寝室に連れて行かれベッドに降ろされる。何が起きているのか分からず混乱する思考。ローレンスは俺に伸し掛かると、首筋をガブガブと噛みはじめた。

 え、えっ……?
 魔族って、人間を食う風習とかあったか?
 魔獣はよく人を捕食するため襲うが、魔族って人間食うのか⁉

 服をたくし上げて、体中に噛みつかれる。肉を突き破るほどではないが、痕が残るくらいには強い。我慢できないほどではない痛みが止めどなく与えられ、体中がジンジンと熱くなった。殺されるかも、とは思っていたが食われるなんて思っていなかった俺はジタバタと暴れた。するとローレンスは、暴れる俺の脚を割り開き、間に身体を入りこませ両手をシーツに縫い付けた。完全に固定され身動きが取れなくなる。食われる…!本能のままに身体が逃げたがる。心臓はずっと痛いくらい脈打って、呼吸も落ち着かない。

「はっ……、はぁ……、‼」

 噛みつきながら腹まで下りてきた口元には鋭利な牙。それが腹を突き破って内臓を取り出すのを想像すると、さすがの俺でもじんわりと涙が浮かんだ。だって、痛いのは嫌だもん。

「怖いか?」
「怖い…、でも……」

 でも、血色の良い唇と美しい銀の糸も獲物を捕らえる強い眼光も、ゆらゆらと揺れる尻尾も、長く伸びた獣のような爪や牙も、長いまつ毛も、冷たさすら感じる美しい造形に相まって、全てが、全てが。

「どうしよう、綺麗だ…。あ゛ぁ、ぃっ」

 がぶっと、内腿に噛みつかれ、淡いグレーのスラックスにじわりと血が滲む。ジリジリ焼けるような痛みだ。早く洗って縫わなければと考えて、いやもう必要ないのだと諦める。すると、これでは食いにくいと考えたのか、ローレンスが俺のスラックスを脱がせた。それからまた噛み付こうと牙を出したのを見て、思わず叫んだ。

「やだぁ……。いたいのはいやだ、痛くしないで…」

 痛めつけながら殺されるのは嫌だ。
 殺すなら一発で仕留めて欲しい。
 殺したあとの俺の死骸は好きにして良いから。
 この美しい魔物に殺されるのなら俺は喜んで死ぬ。
 ただ、殺すのを勿体振らないで欲しいんだ。
 拷問みたいな苦痛は、なるべく味わいたくない。

「はやく、殺してくれないか……?」
「あ?」

 それは殆ど無意識の中。子どもみたいに、縋るようにローレンスに向かって両手を広げた。

「ぁ…? はっ…、ぁ、んっ、あっ」

 あれ…? 何これ、なんで?
 
 ぴちゃっ、ちゅっ、ぢゅ…っ。

 股の間に顔を埋めたローレンスが下着をずらして、俺の陰茎を咥えている。快楽を拾って次第に硬さを持つ先のくびれをくりくりと舌で弄んだ。尿道に舌を挿し込むようにされると、腰が浮いてしまう。的確な愛撫に、ぴくんぴくんっと身体が反応した。こんな行為をされたことない俺はワケもわからず、その快楽に怯えてローレンスの肩を掴んだ。

「ぁ、んっ、離れろ…ぉ、ぁっ、あ」
「人間の肉など食うわけないだろう。そもそも、お前を殺すつもりなどない。」
「ひ…ぃ、、ぁ、あっ、でちゃ、ぁ」
 
 指先で器用に弄られ、包むように擦られる。陰茎に近づくローレンスの熱い息。ゆっくりと煮詰められるような愛撫。深く咥えこんで、長い舌と口内で包まれ、ぐりぐりと刺激されると、俺の目の前がチカチカした。足全体に力が入って、震えてしまう。でも、手には力が入らない。硬直する身体、喉を突き出すように仰け反って、はしたなく橋声を漏らした。出したい…、気持ちいい、イきたい…。それしか、考えられなくなる。

「ぁっ、ぁ、んんっ、ーーーーっ!」

 ぴゅくっ……。

 はーー、はーーと呼吸が勝手に落ち着きを取り戻そうとしてくる。
 どうしよう、ローレンスの口の中で果ててしまった…。
 美しい魔物を汚してしまった。
 なんてことをしてしまったのだろうと、俺の胸が罪悪感でいっぱいになる。
 だんだん、無性に泣きたくなって腕で両目を覆った。
 服の袖にじわじわ温いものが広がる。
 困惑、混乱、罪悪感、頭の中がぐちゃぐちゃだ。それなのに。

「……っ!!」

 俺の吐き出したもので、ぬめりを帯びたローレンスの舌が後孔を濡らしはじめた。その感覚に俺の眼は見開かれ、その危うい状況に瞬時に思考がクリアになった。ダメだ、これは絶対にダメなやつ。

 俺は、やっと身体に力を入れて、ローレンスから離れる。気が緩んでいたのか、手の中から簡単に抜け出すことができた。ベッドから下りて、適当にシーツを手繰り寄せる。ローレンスは、落ち着いた様子で離れた俺に再度手を伸ばした。また押さえつけられては、俺も抵抗できない。あまり、これは使いたくないのだが仕方がない…。

 パチンッ……!!

「ぅ゛っ………!」

 ローレンスを買った日に加減が分からず鳴らした音と同じくらい強く指を鳴らした。途端にローレンスは膝を付き、首元を押さえて悶える。まだ、バチバチと光る奴隷紋。相当な痛みらしい、ローレンスは床に膝を付いたまま動かない。俺は脱がされた服を着て、棚の引き出しを開けた。その中にある袋を取り出し、重さを確認する。これだけ、あれば十分だろう。俺は、うずくまるローレンスを無理矢理に立たせ、引きずって玄関に追いやった。

「小遣いだ、やる。これ使って遊んでこい。」
「どう、いう、意味だ。」
「わざわざ俺なんか選ぶな。溜まってるならもっと綺麗な姉ちゃんや兄ちゃんにしろよ…。ローレンスならむしろ喜ぶやつの方が多いだろ。」
「お前は、喜ばないのか。」
「……っ」

 俺の胸に広がるこの感情は、怒りか、悲しみか。
 いや、自分に対する嫌悪感かもしれない。
 触れられたとき、嫌だとは思わなかった。
 もしかしたら喜んでいたかもしれない。
 だが、そんな自分がどうしても許せなかった。
 無意識にツェルダと比べたりした。
 もっともっとと貪欲に求めてしまいそうになった。

 俺は、玄関の扉を開けてローレンスを追い出して扉を閉め鍵を掛けた。金は渡した。あれだけあれば娼館も行けるし、レストランにも入れる、宿代もある。数週間遊んでも困らない金額だ。それに、ギルドに行けばいつでも金は引き出せるはずだ。奴隷紋があるから、ローレンスの居場所は知ろうと思えば何となく分かる…。心配はない。

 扉を見ていると、何度かドアノブが下がった。
 けれど、鍵を掛けたからかローレンスは入ってこなかった。
 それでもまだ、玄関前にいるらしい。

「……明日には、帰って来いよ。」

 聞こえるか聞こえないか分からないほど小さな声。扉越しでは聞こえていないかもしれない。自分から締め出しておいて馬鹿みたいだが、ローレンスが部屋に居ないだけで急に寂しさが込み上げてきた。本当は女にだって渡したくない。夜道だって歩かせたくない。繁華街なんてもっての外。

「俺とずっと居たのが良くなかったか…」

 ローレンスだって男だ。きっと溜まっていたのだろう。確かにギルドに行く以外、自由にさせた記憶がない。だからきっと毎日一緒にいる俺が手近だっただけ。閉じ込めすぎてしまったようだと、反省した。
 
 勘違いするな、俺。これは事故、何かの間違い。

「はぁ………」

 自分自身のことなのに分からない。
 俺は一体、ローレンスをどうしたいのだろう。
 



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