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side:ローレンス
しおりを挟む閉め出された。
星の輝く夜空の下、魔力に包まれた空気が美味い。
もう一度言おう、オレは家から閉め出された。
手には重たい袋。金貨の大量に入った袋。こんなものをオレに渡して、娼館にでも行けという。あんなにもオレに執着しているのに、オレに他の女を抱けという。あんなにもオレが好きでたまらないような顔をして……、オレが触れると逃げる。確かに喜んでいたはずだ。そのまま抱かれればいいものの、なぜ拒否する? なぜ…、他の男には身体を許している?
近頃、べっとりと染み付いて匂うツェルダのマーキングには嫌気がさしていた。抱かれたいだけなら、オレでも良いだろう。魔族は縄張り意識が強い。自分の巣に他の雄のニオイがするなんてムカムカして仕方がない。
娼館など興味がない、どこに誰が居るかわからない宿で一晩過ごすのもリスクがある。だからゼンを言い包めて、家で眠ろうとドアノブを捻った。しかし、家の扉は開かない。鍵は簡単に解錠できる。だが、押そうが引こうがびくとも動かない。弾かれる感覚すらある。熱を感じて首元をに触れれば、奴隷紋が動いていた。かなり強い高度な奴隷紋を着けられたものだ。並のものでは壊せない。オレの魔力を持ってしてもまだ解除できないのだ。奴隷紋は主人となるものの意思が強く反映される。だからオレが家に入れないのは、ゼン意思。
「……明日には、帰って来いよ。」
もう、扉を爆破しようかとすら考えたときだ。
オレは、家に入るのをやめた。
今夜は森で野宿でもしよう、朝になれば扉も開いているはずだ。
ドアノブを握る手を力なく下ろし、歩き出す。
「俺とずっと居たのが良くなかったか…」
また聞こえた独り言に足がピタリと止まる。
『捨てられる』
そんな言葉が頭に浮かんだ。
いやいや待て待て、オレが捨てられる?何を馬鹿なことを考えているんだ。
捨てられるのはオレじゃない。捨てられるのはゼンの方。
オレがゼンを捨てるんだ。
滲む不安のようなものを感じて、ぎゅっと胸を押さえた。信じない、オレは誰も信じない。信じなければ、裏切られることもないのだ。逃げ去るように森へと走る。少し走ったくらいで息なんて上がらないのに、心臓がずっと強く脈打って痛かった。薄暗い森の中、魔物たちがオレの魔力から逃げていく。さっさと眠ってしまえと、芝生に身を預け、瞼を閉じた。
髪を優しく撫でる指先や何かを隠すように張り付いた笑み、オレを眺めて満足気な笑み、簡単な魔法でガキのようにはしゃぐ姿、心配そうな顔、疲れた顔、胡散臭い笑顔、怯えた顔、熱の籠もった視線。思い出される記憶が全てゼンで埋め尽くされていた。
「くそ、寒いだろうが……」
恨み続けてきた出来事よりゼンとの生活の方が鮮明に浮かんだ。
本当は、胸の何処かでこの生活が永遠に続けば良いとすら思っている。
温かな生活を、愛されていると勘違いしてしまうような生活を手放すのが怖い。
少しずつ、けれど確かに肥大する支配欲と独占欲。
魔力もなく非力なゼンを殺すなんて容易だ。奴隷紋すら使いこなせない男なのだから、自由を得るのも容易。
それでもオレはずっとゼンを殺せないでいる。
「そろそろ殺すか」
ため息交じりの独り言。
冷たい空気に流れて、静かな森に取り残されるみたいに自分の声が耳に残った。
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