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18話:大きな家庭教師
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驚いた。
俺より背の高い男が人間の中にいるとは…。
ゴンゴンといった叩く訪問の知らせで扉を開けると、俺の眼前には壁……ではなく広い胸板。扉の枠に入りきらないせいで首より上が見えない。一体、種族は何なんだ!と思うが人間だと聞いている。
「えっ、と、いっらっしゃい…」
俺がそう招き入れる言葉を発すると、屈むようにして男は部屋に潜り入ってきた。俺は、見上げた。こんなの成人してから初めて。だって俺、背の高さには自身があったから。俺、結構デカイ方なのに悔しいっ。
「家庭教師としてお伺いしました、フォルディです。よろしくお願いします。」
差し出された大きな手を握り返し、どうぞこちらへと居間まで案内をする。
すると途端に、ゴンッ!と鈍い音がした。
それなりに大きな音だったので、何かと振り返ると額を抑えたフォルディが痛そうに涙を溜めている。
どうやら部屋の入口に頭を打ったらしい。
「すみません、僕、ちょっとデカくて…」
「だ、大丈夫ですか? その、うちの天井が低いばかり、に…?」
「ははっ、おもしろい冗談ですね。」
君の『ちょっとデカくて』の方が笑える冗談だけどな。
お互いクスクスと笑いながら、ふとフォルディの顔を見た。
「むっ」
「む…? どうかされたしたか?」
「いや、なんというか…、お綺麗ですね」
ふんわりとした淡い茶髪、クリクリとした大きなパッチリとした瞳、鼻筋は通っているが凛々しすぎない顔立ちには、どこか柔らかさがある。若さ故か、ふんわりと色付く頬と活発な様子を見せる笑み、身長の割に童顔。背の高さに気を取られていたが、これは…、この青年は…確実に美形。いや、可愛い系だ!
「ゼン」
背後からツンっとした声で呼ばれ慌てて、青年を凝視していた目を逸らした。
うっ、見過ぎた…。
さすがに初対面でこれはない。ローレンスに怒られてしまった。
「すみませんっ、こんなこと男に言われても嬉しくないですよね、あはは」
「ふっ、綺麗だなんてはじめて言われたな、嬉しいです。ああでも、貴方の方こそ綺麗ですよ、ゼンさん。」
「へっ、ぁ、そんな私なんて…、滅相もない。綺麗と言うなら、家のローレンスの方が美形でっ…」
「ゼン、先生にあまり馴れ馴れしくするな。」
「あ、ごめん」
そうだったそうだった、彼は先生だ。
ローレンスに無礼を正され、大人しくした。
フォルディ先生を座らせて、そそくさとお茶を出す。もちろんローレンスにも。
俺もローレンスの横に座ると、ズズーーとお茶を啜る音が一斉に響いた。
「えっと、フォルディ先生」
「ディーで良いですよ。僕、年下だろうし。」
「じゃあ…、ディー先生、は何故家庭教師を?」
「ああ、それは……。僕、学園に通っているのですが、我が家はあまり裕福ではないので、こうやって学費を稼いでいるんです。」
この他愛ない会話は、ローレンスの指示。
『身元調査』というやつらしい。
家に招き入れる者には慎重であらねばならない、と眉間にシワを寄せて言っていた。
ディー先生は、19歳の学生さん。
にこやかで話の上手い彼は大人びて見えて、年下とは思えない。
聞けば、けっこうな苦労人のようで、ご両親思いの優しい青年だ。
勉強をして、役職に就くことが夢らしい。うん、見れば見るほど綺麗な顔。
話をよく聞いているふりをしながら、俺はひっそりと彼の造形を観賞した。
「ゼンさんとローレンスくんはどのような関係なんですか?」
屈託のない笑顔で真っ直ぐに聞いてくるディー先生。
人間とエルフ(擬態)が共に暮らし、家庭教師を呼びつけていることが不思議だったのだろう。素朴な疑問と言った所だ。
「ああ、私は彼の保護者のようなものです。孤児だったこの子を拾ったんですよ。」
まぁ、もちろん元主人と元奴隷で今は逆転しています!とは言えないので俺は口からでまかせを話す。
聞かれなくても、怪しまれないよう話すつもりでいたので問題ない。
適当なことを言って終わらせようと思っていたら、ディー先生が俺の手を握り、テーブルに身を乗り出して近づいてきた。
「そうなんですかっ…! ゼンさん、なんてお優しい方なんだ! 見ず知らずの子供を救い、勉学までもを与えるだなんてっ…。僕、ぼく、がんばりますねっ。頑張りましょうねっ、ローレンスくん!」
涙を浮かべながら、そう言うディー先生に俺は自分の吐いた嘘に少し罪悪感覚えた。
くぅっ、純粋無垢!眩しい…‼
「では、また来週、お伺いします!」
手が取れてしまうのではないかと言うほど、長い腕をブンブンと振ってディー先生は帰って行った。ローレンスには、学力を調査するための宿題が残された。
「なんか、すげぇ良い奴だな。心が綺麗すぎて眩しいよ。…あと、顔も綺麗」
「……胡散臭い。善良感丸出し、あんな人間いるものか。」
「え、ローレンスそんなふうに思ってたの? その割には、真面目に話聞いて宿題まで受け取ってるじゃねぇか」
「……うるさい。」
おっ、尻尾が揺れている。
はっはーん、恥ずかしがっているんだな。
「大体、なんだあの鼻の下が伸び切った顔は!」
「は、はぁ⁉ 伸びてねぇーわ!」
「明らかに伸びてたぞ。いつもの猫かぶりも酷いものだ。ゼンは、顔の良い男なら誰にでも吸い寄せられる…とんだ尻軽だな。」
「なんだと…! 人をあばずれみたいに言うな‼」
「ちょっと綺麗と言われたくらいで尻尾を振って、お世辞に決まっているだろう」
「なっ、んなの分かってるつーの! というか、俺、お前と違って尻尾生えてねー!」
「比喩だ、わからんのか阿呆め。ふんっ」
「あ、あほ、、ふんって、お前なぁ~~!」
まるでガキみたいにふて腐れた顔をして、ローレンスはそっぽを向く。口喧嘩なんて滅多にしないから、なんだかローレンスが可愛くて、俺も言い返したり、ふて腐れてみたりした。正直、ちょっとムキになったのもあるけど。そのうち、俺が耐えきれずに吹き出すとローレンスは更に不機嫌モードになってしまった。それから、ごめんごめんと笑いながら飯を食った。
俺より背の高い男が人間の中にいるとは…。
ゴンゴンといった叩く訪問の知らせで扉を開けると、俺の眼前には壁……ではなく広い胸板。扉の枠に入りきらないせいで首より上が見えない。一体、種族は何なんだ!と思うが人間だと聞いている。
「えっ、と、いっらっしゃい…」
俺がそう招き入れる言葉を発すると、屈むようにして男は部屋に潜り入ってきた。俺は、見上げた。こんなの成人してから初めて。だって俺、背の高さには自身があったから。俺、結構デカイ方なのに悔しいっ。
「家庭教師としてお伺いしました、フォルディです。よろしくお願いします。」
差し出された大きな手を握り返し、どうぞこちらへと居間まで案内をする。
すると途端に、ゴンッ!と鈍い音がした。
それなりに大きな音だったので、何かと振り返ると額を抑えたフォルディが痛そうに涙を溜めている。
どうやら部屋の入口に頭を打ったらしい。
「すみません、僕、ちょっとデカくて…」
「だ、大丈夫ですか? その、うちの天井が低いばかり、に…?」
「ははっ、おもしろい冗談ですね。」
君の『ちょっとデカくて』の方が笑える冗談だけどな。
お互いクスクスと笑いながら、ふとフォルディの顔を見た。
「むっ」
「む…? どうかされたしたか?」
「いや、なんというか…、お綺麗ですね」
ふんわりとした淡い茶髪、クリクリとした大きなパッチリとした瞳、鼻筋は通っているが凛々しすぎない顔立ちには、どこか柔らかさがある。若さ故か、ふんわりと色付く頬と活発な様子を見せる笑み、身長の割に童顔。背の高さに気を取られていたが、これは…、この青年は…確実に美形。いや、可愛い系だ!
「ゼン」
背後からツンっとした声で呼ばれ慌てて、青年を凝視していた目を逸らした。
うっ、見過ぎた…。
さすがに初対面でこれはない。ローレンスに怒られてしまった。
「すみませんっ、こんなこと男に言われても嬉しくないですよね、あはは」
「ふっ、綺麗だなんてはじめて言われたな、嬉しいです。ああでも、貴方の方こそ綺麗ですよ、ゼンさん。」
「へっ、ぁ、そんな私なんて…、滅相もない。綺麗と言うなら、家のローレンスの方が美形でっ…」
「ゼン、先生にあまり馴れ馴れしくするな。」
「あ、ごめん」
そうだったそうだった、彼は先生だ。
ローレンスに無礼を正され、大人しくした。
フォルディ先生を座らせて、そそくさとお茶を出す。もちろんローレンスにも。
俺もローレンスの横に座ると、ズズーーとお茶を啜る音が一斉に響いた。
「えっと、フォルディ先生」
「ディーで良いですよ。僕、年下だろうし。」
「じゃあ…、ディー先生、は何故家庭教師を?」
「ああ、それは……。僕、学園に通っているのですが、我が家はあまり裕福ではないので、こうやって学費を稼いでいるんです。」
この他愛ない会話は、ローレンスの指示。
『身元調査』というやつらしい。
家に招き入れる者には慎重であらねばならない、と眉間にシワを寄せて言っていた。
ディー先生は、19歳の学生さん。
にこやかで話の上手い彼は大人びて見えて、年下とは思えない。
聞けば、けっこうな苦労人のようで、ご両親思いの優しい青年だ。
勉強をして、役職に就くことが夢らしい。うん、見れば見るほど綺麗な顔。
話をよく聞いているふりをしながら、俺はひっそりと彼の造形を観賞した。
「ゼンさんとローレンスくんはどのような関係なんですか?」
屈託のない笑顔で真っ直ぐに聞いてくるディー先生。
人間とエルフ(擬態)が共に暮らし、家庭教師を呼びつけていることが不思議だったのだろう。素朴な疑問と言った所だ。
「ああ、私は彼の保護者のようなものです。孤児だったこの子を拾ったんですよ。」
まぁ、もちろん元主人と元奴隷で今は逆転しています!とは言えないので俺は口からでまかせを話す。
聞かれなくても、怪しまれないよう話すつもりでいたので問題ない。
適当なことを言って終わらせようと思っていたら、ディー先生が俺の手を握り、テーブルに身を乗り出して近づいてきた。
「そうなんですかっ…! ゼンさん、なんてお優しい方なんだ! 見ず知らずの子供を救い、勉学までもを与えるだなんてっ…。僕、ぼく、がんばりますねっ。頑張りましょうねっ、ローレンスくん!」
涙を浮かべながら、そう言うディー先生に俺は自分の吐いた嘘に少し罪悪感覚えた。
くぅっ、純粋無垢!眩しい…‼
「では、また来週、お伺いします!」
手が取れてしまうのではないかと言うほど、長い腕をブンブンと振ってディー先生は帰って行った。ローレンスには、学力を調査するための宿題が残された。
「なんか、すげぇ良い奴だな。心が綺麗すぎて眩しいよ。…あと、顔も綺麗」
「……胡散臭い。善良感丸出し、あんな人間いるものか。」
「え、ローレンスそんなふうに思ってたの? その割には、真面目に話聞いて宿題まで受け取ってるじゃねぇか」
「……うるさい。」
おっ、尻尾が揺れている。
はっはーん、恥ずかしがっているんだな。
「大体、なんだあの鼻の下が伸び切った顔は!」
「は、はぁ⁉ 伸びてねぇーわ!」
「明らかに伸びてたぞ。いつもの猫かぶりも酷いものだ。ゼンは、顔の良い男なら誰にでも吸い寄せられる…とんだ尻軽だな。」
「なんだと…! 人をあばずれみたいに言うな‼」
「ちょっと綺麗と言われたくらいで尻尾を振って、お世辞に決まっているだろう」
「なっ、んなの分かってるつーの! というか、俺、お前と違って尻尾生えてねー!」
「比喩だ、わからんのか阿呆め。ふんっ」
「あ、あほ、、ふんって、お前なぁ~~!」
まるでガキみたいにふて腐れた顔をして、ローレンスはそっぽを向く。口喧嘩なんて滅多にしないから、なんだかローレンスが可愛くて、俺も言い返したり、ふて腐れてみたりした。正直、ちょっとムキになったのもあるけど。そのうち、俺が耐えきれずに吹き出すとローレンスは更に不機嫌モードになってしまった。それから、ごめんごめんと笑いながら飯を食った。
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