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21話:貴方の望む世界
しおりを挟む「はぁっ…はぁ…はぁっ、はははっ、はははっ」
フォルディは、とにかく走った。転移魔法を幾つも展開、駆使しながら全速力で逃走する。
絶対に追い付かれてはいけない。今日だけは、逃げ切らなければならない。
「あの瞳の色…、あの魔力量、そして匂い……!! たしかにあのお方と同じ…! 本当に生きていらっしゃるとは……! ようやく見つけましたよ、ようやく!!」
あの様子じゃ、きっと今日は追ってこないだろう。
だが、あの魔族が必ず自分を消すために自分の所まで来ることをフォルディは良く分かっていた。
ダメ元で作ったモノが役に立つだなんて想像もしていなかった。限定した催眠魔法なんて、効果があるのかと。
紙に付与した魔法に惹き寄せられて、ちゃんと家まで持ち帰ったゼンには感謝している。
拾ったのなんだの言っていたが、ゼンはローレンスの奴隷なのだろう。微かに魔力を感じた。
余程気に入っている様子を見るに、上手くローレンスを刺激できただろうと、フォルディは満足気。
わざわざ残り香を薄めて散らしながら転移魔法を展開して罠を作る。
『ローレンスを魔界へと誘き寄せる罠』
最悪、失敗したら、お気に入りの奴隷を攫えばいい。だが、それは最終手段。そんなことをすれば、今以上にフォルディの命が危うくなる。それでも、フォルディは興奮を隠せないでいた。長年探し続けた尊い魔族を見つけ出すことができたのだから…。自分の役目を全うする日がようやく来たのだと。
「ようやくと言えど、おおよそ50年。こんなに早く見つけられるとは思わなかった。」
魔界に入ってしまうと、そこは真っ暗で陰湿で、だけれどとても美しい真っ赤な月が二つ浮かんでいた。この地を綺麗だと思う奴は自分くらいかもしれないとフォルディは思った。
人間界で薄汚れた少女から買った花が朽ちないように魔法を施し、大木の側にポツリとある墓石に手向けた。
「やっと貴方の望む魔界となる日が近付きました。」
しかし…うん…。あの奴隷は、とても魅力的だった。
魔族の性か、涙でぐちょぐちょになりながら自分を見上げるゼンにたまらなく興奮した。
あれは、持っていたら陵辱したくなる…。
少し、煽るだけのつもりだったのになぁ。
「おや…?反応している。貴方の墓石の前だと言うのに…くふふっ、これは罪悪感も伴って悪くないですねぇ。あっ!かけちゃおうかな…♡ そんなことしたら貴方、怒りますか…? 尊敬してやまない貴方の墓石に吐精するなんて、僕、すごく悪い子ちゃんですよね…。お仕置きして欲しいな、ね……、ね。」
欲情と寂しさが混ざる。
貴方がこの世にいないのだと思うと、元気だったものも萎えてしまった。
「死者を蘇らせる魔法が無いだなんて…、酷い話だよね。」
もう、涙なんて出ない。
そういうものを魔族は元々持っていないんだ。
だけれど、悲しいものは悲しい、怒りもある、悦びもある。
でも人間とは違う。僕達は一体何なのだろうか。
欲望のままにこの朽ちて汚れた土地に順応して適応して、こうなっただけ。
魔族なんて単純。強いやつが支配権を持ち、自由になれる。弱いやつは強いやつに從う、それだけ。
僕達、魔族より人間の方がよっぽど悪魔のようだよ。
正直、人間は嫌い。
人間界に迷い込んだ魔族を見つけては恐れのうちに殺す。赤ん坊でも老人でも簡単に殺す。
魔族は人間にとって顔立ちが綺麗だそう。だから魔族を幼いうちだけ愛玩動物にして、遊び終わったら殺して捨てる。
魔力が多い魔族は、いつか人間を脅かすと決めつけて。
でも、あの人が愛したのは人間だった。
ならば、僕もそれに従う。僕は、あの人に服従しているから。
「ふーーーーー、会いたいです。ルジャンドル様…」
久々の登場で皆様、お忘れかもしれません!
●【ルジャンドル】人間界の英雄、Sランク冒険者。ダンジョン36階層を開拓。亡くなってから80年が経つ。ローレンスと面識があり、ギルド受付嬢ミールの父。エルフのふりをしていたが実は、魔族。
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