【完結】大金を手に入れたので奴隷を買った!

セイヂ・カグラ

文字の大きさ
26 / 30

23話:不穏

しおりを挟む

 夕暮れのギルドは、人が多い。ダンジョンから引き上げてきた冒険者達がワラワラと湧く。換金業務や書類を無心でまとめながらミールは、ふんわりとした髪を尖った耳に掛けた。この時間が一番うんざりする。

「やぁ、おねぇさん♡ 君、いい匂いするね」
「あら、やァね、えっち。」

 この一番うんざりするときに変な客に絡まれるなんて、本当に最悪。
 こっそり魔法でも発動させようか、なんて思いながら変な客に視線を向けた。

「フフ、魔族の匂いだ。僕の大好きな人と良く似た匂い♡」

 ミールは目を見開き、男の顔を見た。
 驚きで真っ白だった頭の中は、一瞬にし怒りで赤黒く燃え上がる。

「フォルディ!! アンタ、何をしに来た!」

 ミールは、瞬時にフォルディの首を掴み、爪を立てる。
 この男が、わざわざ自分の前に現れたということは何か良くないことを企てているのだろう。

「おー、怖い怖い。」
「答えなさい!!」

 フォルディは、父上のストーカーのようなもの。魔力はそれほど多くはないが、ずる賢い厄介なやつだ。こいつと関わるとろくなことがない。若返りの魔法で10代のように見せているが、こいつは魔族の中でも良い歳。いい加減ジジィだ。

「ミルゥラン、そんな態度無いだろう?」
「黙れっ!」
「反抗期かなぁ? パパ、悲しいなぁ」

 最悪なことに、この男は私の父親だ。
 母は、もう一人の父、ルジャンドル。魔族はオスメス関係なく孕み孕ませることができる。

「そういえば、まだローレンスは知らないんだね」
「ぁあ?」
「自分の母親が『ルジャンドル』だということを」

 ミールは、スカートの裾を握りしめた。
 この男の目的を早く知らなければ…。

「それがなによ!」

「ローレンスを貰っていく。王の御子息が亡くなられたんだよ。だからもう、ローレンスはから、ごめんね?」
「はっ、あ! 待って! 待ちなさい!!」

 フォルディは、ミールの手から簡単に抜け出すと人混みの中に消えていった。
 手を伸ばして追いかけるも、フォルディの姿はもうそこには無い。
 ミールは、職務を放棄した。そうして、長いスカートの裾を破り駆け出した。
 人の目など気にしていられない。日が沈んだ夜空と冷たい空気。

 おおよそ、50年ぶりの魔力開放だった。

 ピュルルルルルルルピュルルルルルル

 すると、けたたましい声を上げながら魔獣が何処からともなく現れた。
 ミールは、その鳥のような魔獣に跨り雑に頭を撫でて言った。

「久しぶりなのに悪いわね、ゼンのところへ行きたいの」

 ギュルルルルル!
 頷くように鳴き声を上げ、魔獣は飛び立った。





   ▼





 ズバァーーン!と突然扉がふっ飛ばされるように開きゼンは目玉をひん剥く。

 えっ?! 何?! 何事?!
 俺の家の扉、無くなっちゃったんだけど!!

 破られた扉の先には、片足を上げたミール。大胆に裂かれたスカートは非常に短い。ふんわりとした長い髪をひとまとめにした彼女の額には角が生え、口元には牙がある。さらには尻尾をもさらけ出し、月の光に照らされながら氷のような瞳で見下されると、なんとも言えぬ感覚がした。
 
「ローレンスが厄介なのに攫われたわ。話はあと、早く!!」

 言葉を返す間もなく、見たこともない魔獣に乗せられる。
 空高く舞い上がり、俺は恐怖で魔獣に必死にしがみついた。
 そのまま飛行を続ける魔獣の上で、俺はやっとミールに話しかけた。

「ローレンスに何があったんだ!」
「言ったとおりよ、攫われたの。ここ最近、10代くらいの若い男に会わなかったかしら? やたらと背の高い胡散臭い顔の男!」

 少しだけ頭を巡らせ、すぐに頭に浮かんだのは、フォルディという温厚そうな苦学生。

「ディー先生のことかな…。その人なら家庭教師として家に来てもらっていたよ。その人がどうかした?」

 そう聞くと、ミールはあっちゃ~と額を抑え込んだ。

「そいつよ、ソイツ!厄介男!アタシのクソ親父!!」

 クソ親父?親父、、、?
 ミールちゃんの父親って、英雄ルジャンドルじゃなかったか?
 俺の思考を読み取ったのか、ミールがため息混じりに話してくれる。

「フォルディもルジャンドルもどちらも私の父よ。産んだのは、ルジャンドルの方。だから人間で例えるならルジャンドルが母でフォルディが父。わかるかしら?」
「へっ、ぇ、じゃあ、ルジャンドルは女性ということ?」
「チッ…、父は正真正銘、男よ。魔族の特性。」

 ちっ、て…。今、ちっ、て舌打ちしましたよね?!
 ちょーと俺、傷ついちゃうなぁ!!

「そ、それでどうしてローレンスが攫われることに…」
「フォルディは、異常なルジャンドル狂いでね。自らの地位を捨て、魔王から花嫁であるルジャンドルを奪い、アタシを産ませた。」
「へっ、それって…」

 とんでもないことでは…??
 俺があんぐりとしていると、暗い夜空がさらに暗くなり、突如として息がしづらくなった。
 それに気が付いたミールが俺に何か魔法を掛けてくれる。すると、スッと呼吸が楽になった。

「魔界の入口に入った所。さぁ、行くわよ。貴方さえいれば、ローレンスの居場所がわかる。」

 そう言って、ミールは俺の首筋を撫でた…というより、奴隷紋に触れた。

 ピカーーッ!
 突然、眼の前が眩しくなった。
 何事かと驚いていると、魔獣が突然急降下をはじめた。

 ギュルルルルル!ギャルルルルルルル!

「きゃっ! 何⁉ シエル! どうしたの!?」
「あわわわわわ、あああああーー!」

 胃!胃が浮くぅうっ!!
 物凄い勢いで、降下している。いや、落ちている!
 俺達、空から落ちちゃってますけど!?

「シエル!! 大丈夫!? お願いっもう少しだけ耐えてっ!」
「ああああああああーーー!!」

 ドザザザザーーーーッ!

 地面につく直前、魔獣が少しだけ羽ばたいてくれたおかげで、俺達は地面に打ち付けられることは無かった。

 ふーふーふー、怖ぇー!
 怖かった…!! 怖かったぞ!!

 早く起き上がって、ミールに手を差し出さねばなんて考えながら膝を付くと、細く長い指が俺の前に差し出された。女の子に立ち上がらせて貰うって、俺、ダサくね、、? 一方、ミールはピンピンしていて全然へばっていない。労るように魔獣を撫で治癒魔法を施せば、魔獣は安心したかのように瞼を閉じた。

 ふと、明かりが灯っていることに気が付き、建物を見る。
 そこには普通の民家があった。家の扉がゆっくりと開く。

「お疲れ様、早かったね。さっそく、お茶でも如何かな?」

 ニコニコとしながら現れたのはフォルディ。
 ミールは、スタスタとフォルディに向かい歩き、立ち止まった。
 そして、、、

 ゴッ!!

「ぅっ……ぐっ、かはっ、」

 フォルディを殴った。大男は、ゴロゴロと人形のように地面に転がってうずくまる。
 鼻血がボタボタ落ちて、一瞬にして顔が腫れたようだ。

「何が目的? 話しなさい。」

 ミールはフォルディの襟ぐりを掴み、ガクガクと揺さぶった。

「そ、その瞳ぇ……ルジャンドル様にそっくり……。ま、まさか、覚醒したのか、ミルゥラン…!」
「お陰様で、どうやらそうみたいね。さぁ、洗いざらい話してもらうわよ。ローレンスを返しなさい!!」


しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞に応募しましたので、見て頂けると嬉しいです! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

処理中です...