27 / 30
24話:長い話
しおりを挟む
「ローレンスは王位継承者だ」
俺達は半ば強引に、この家の椅子に座らされた。お茶を淹れながら優雅に話を進めるディー先生、基フォルディ。ミールはイライラと脚を揺すりながらも、フォルディの茶番のようなお茶会に付き合うつもりらしい。ローレンスのことが気になってソワソワとする俺を宥め「このまま聞くのが一番早い」と相手を良く知った様子。
「そうあれは僕が、ルジャンドル様と出会った最初の日…」
「そういうのいらないから」
ピシャリと言い放つミールだったが、それでもフォルディの話は長くて俺をヤキモキさせた。
まず、英雄ルジャンドルは魔界でも最強の男だった。それが当時の魔王の心を射抜き、花嫁として選ばれたらしい。
魔族は、雄出生率が異常に少ない。
故に雄雌関係なく孕み孕ませることができる。
魔界の8割は雌が占めており、魔力の多い雄が産まれたら下級魔族ですら魔王の近衛にまで上れるそう。
だが、もしも同じ家に雄が二人以上、生まれてしまったら…。成人を向かえた彼らは、たった一人が残るまで殺し合いを行わなければならない。そういう仕来りがある。そんな魔界の魔王の子を孕んだルジャンドルは双子を孕んだ。それが、ローレンスとローレンスの弟らしい。
「そ、それで…?」
「ルジャンドルは魔族には珍しく人間に友好的でね。人間界が好きだった。魔界では常識である兄弟同士の殺し合いには耐えられなかったんだ。」
そこで、ルジャンドルは兄ローレンスの方を残し、弟の方を連れ、魔界から逃げた。魔王の側近、フォルディと共に。
魔力が豊富で尚且つ雄であるローレンスなら魔王も大切にするだろうと考えた。
それでもルジャンドルは、魔界から一切を経つことはできなかった。何かしら魔界と繋がることのできる者が必要だったのだ。フォルディの得意な魔法は変装、魔力や匂いすらも相手に似せることができる。まさに天才、そしてルジャンドルにとって最高に都合の良い男。
時々、愛しい息子に会うため、危険だと分かりながらもフォルディを頼りこっそりと会うことを繰り返し、魔法や戦闘を教える師匠としてローレンスを見守り続けた。
自分が都合の良い存在にされていると知りながら、ルジャンドルの下手くそなハニートラップに引っ掛かってやったのは、フォルディも人間と争わない変わり者だから…というより、はじめからルジャンドルにゾッコンだったからだ。ルジャンドル以外の生物の多くは、フォルディにとってどうでも良いことである。それ故、人間やエルフ、ルジャンドル以外なら魔族すら無関心。
しばらくして、フォルディの熱烈な想いを応えるようにルジャンドルはミールを産んだ。いつの間にか、フォルディの興味の対象は、ルジャンドルだけでは無くなっていた。
数十年の幸せの中、不幸は突然訪れる。
ルジャンドルが魔王に殺されたのだ。
前触れもなく簡単に、あっけなくルジャンドルは死んだ。
魔王からすれば、自分の元から逃げた挙げ句、他の男との間に子どもを作った浮気者。
けれど一度番ったルジャンドルこそ見つけられたものの、魔王はミールを見つけることはできず、側近であったフォルディの存在すら浮気相手だと見抜けなかった。
それは、フォルディだからこその能力だったと言えよう。
「ルジャンドル様は、人間界も魔界もどちらも愛していたよ。聡明なお方だった。彼は、魔王と本気で国を作ろうとしていた。人間界との和解と貿易を望んでいた。」
「へぇ、でもどうして英雄様はそんなに人間を好きだったんだ?」
「なんでも恩があったとか。人間のお婆さんにお世話になったそうだよ。」
「ふーん、それで? ローレンスに王位を継がせたいわけか?」
「言ったでしょう、魔王はルジャンドルの強さに射抜かれた。魔族はより強い者に跪き仕える種族。」
「まさか…、英雄ルジャンドルは魔王より強かったってことか?」
「その通り。だけれど魔王は権力に固執した。」
にこやかに話していたフォルディの眼が段々と薄暗く何かを深く呪うような、沸々と煮詰まる苛立ちのようなものを浮かべる。
「ローレンスの弟は愚弟でね。ルジャンドルよりも魔王に良く似ていた…否、似てしまったのさ。愚かにも権力を欲し、魔王の側に付き、手を組んだ。愚主の息子もまた愚息。ルジャンドル様の血を引きながら、何故ああなってしまったのだろうね」
そうしてローレンスの弟を、まるで人質かのように見せかけ、ルジャンドルを欺き殺したという。そして、弟は王位継承権を自分だけのものにするためにローレンスを魔界から追い出し、人間界の奴隷商に売り払った。ローレンスに敵わないことが分かっていたから。
「……最悪な話だな」
「ホント、最悪よ。何故、今の今まで黙っていたの。弟は死んだって、言ってたじゃない! 魔王の跡取りは新しい番との子だって! その跡取りも死んだって! 大事なこと全部、話さないで、アンタは…、父さんは…、いつも隠し事と嘘ばかりっ」
「ふふっ、秘密の多い男の方が魅力的だろう? そういうミルゥランこそ、ローレンスに隠し事をしているじゃないか」
「そ、それはっ」
「分かってるよ、ミルゥラン」
「……ローレンスを、兄さんを巻き込むんじゃないわよ」
「どうしても、ルジャンドル様の仇討ちがしたかった。ルジャンドル様の望む魔界を作りたかった。でも僕は弱いから…こうするしか、思い浮かばなくてね」
「兄さんは? どうしているの?」
「全てを話した、ローレンスはすべき事がなにかすぐに解ってくれたよ」
ならばローレンスは今、魔王や弟に刃を向けているというのか。
「父上は、兄弟同士の殺し合いを望んでいないはずでしょう。本当に身勝手で自分勝手ね!」
「そうだね」
「………ああそう、もういいわ、、弱い男はどうでもいい」
俯いて小さく独りごちるように言ったあと、ミールはその場から忽然と姿を消した。
俺もフォルディも呆然として、顔を見合わせる。
娘のキツイ言葉に、流石にフォルディも傷付いただろう。なんと声を掛けるべきか、考え倦ねる。
しばし見つめ合った後、フォルディの口角が気持ち悪いほどグニャリと笑った。
高揚したように頬を赤らめ、クツクツと震えるように笑い声を上げ歓喜しだしたのだ。
「ああっ、そうだっ、そうだね! 魔王家の血筋なんて気にすることじゃなかったよ‼」
突然立ち上がり、大きな声で叫ぶように言ったので、とても驚く。
どうしたのかと目を見開いていると、フォルディにひょいっと担ぎ上げられた。
俺が混乱していても構わず、そのまま魔力を集めていく。すると辺り一面が発光をはじめ、紋章が展開された。
「えっ、へ?」
「さぁ!見に行こう! 最高の瞬間をこの目に焼き付けなくちゃ!!」
俺達は半ば強引に、この家の椅子に座らされた。お茶を淹れながら優雅に話を進めるディー先生、基フォルディ。ミールはイライラと脚を揺すりながらも、フォルディの茶番のようなお茶会に付き合うつもりらしい。ローレンスのことが気になってソワソワとする俺を宥め「このまま聞くのが一番早い」と相手を良く知った様子。
「そうあれは僕が、ルジャンドル様と出会った最初の日…」
「そういうのいらないから」
ピシャリと言い放つミールだったが、それでもフォルディの話は長くて俺をヤキモキさせた。
まず、英雄ルジャンドルは魔界でも最強の男だった。それが当時の魔王の心を射抜き、花嫁として選ばれたらしい。
魔族は、雄出生率が異常に少ない。
故に雄雌関係なく孕み孕ませることができる。
魔界の8割は雌が占めており、魔力の多い雄が産まれたら下級魔族ですら魔王の近衛にまで上れるそう。
だが、もしも同じ家に雄が二人以上、生まれてしまったら…。成人を向かえた彼らは、たった一人が残るまで殺し合いを行わなければならない。そういう仕来りがある。そんな魔界の魔王の子を孕んだルジャンドルは双子を孕んだ。それが、ローレンスとローレンスの弟らしい。
「そ、それで…?」
「ルジャンドルは魔族には珍しく人間に友好的でね。人間界が好きだった。魔界では常識である兄弟同士の殺し合いには耐えられなかったんだ。」
そこで、ルジャンドルは兄ローレンスの方を残し、弟の方を連れ、魔界から逃げた。魔王の側近、フォルディと共に。
魔力が豊富で尚且つ雄であるローレンスなら魔王も大切にするだろうと考えた。
それでもルジャンドルは、魔界から一切を経つことはできなかった。何かしら魔界と繋がることのできる者が必要だったのだ。フォルディの得意な魔法は変装、魔力や匂いすらも相手に似せることができる。まさに天才、そしてルジャンドルにとって最高に都合の良い男。
時々、愛しい息子に会うため、危険だと分かりながらもフォルディを頼りこっそりと会うことを繰り返し、魔法や戦闘を教える師匠としてローレンスを見守り続けた。
自分が都合の良い存在にされていると知りながら、ルジャンドルの下手くそなハニートラップに引っ掛かってやったのは、フォルディも人間と争わない変わり者だから…というより、はじめからルジャンドルにゾッコンだったからだ。ルジャンドル以外の生物の多くは、フォルディにとってどうでも良いことである。それ故、人間やエルフ、ルジャンドル以外なら魔族すら無関心。
しばらくして、フォルディの熱烈な想いを応えるようにルジャンドルはミールを産んだ。いつの間にか、フォルディの興味の対象は、ルジャンドルだけでは無くなっていた。
数十年の幸せの中、不幸は突然訪れる。
ルジャンドルが魔王に殺されたのだ。
前触れもなく簡単に、あっけなくルジャンドルは死んだ。
魔王からすれば、自分の元から逃げた挙げ句、他の男との間に子どもを作った浮気者。
けれど一度番ったルジャンドルこそ見つけられたものの、魔王はミールを見つけることはできず、側近であったフォルディの存在すら浮気相手だと見抜けなかった。
それは、フォルディだからこその能力だったと言えよう。
「ルジャンドル様は、人間界も魔界もどちらも愛していたよ。聡明なお方だった。彼は、魔王と本気で国を作ろうとしていた。人間界との和解と貿易を望んでいた。」
「へぇ、でもどうして英雄様はそんなに人間を好きだったんだ?」
「なんでも恩があったとか。人間のお婆さんにお世話になったそうだよ。」
「ふーん、それで? ローレンスに王位を継がせたいわけか?」
「言ったでしょう、魔王はルジャンドルの強さに射抜かれた。魔族はより強い者に跪き仕える種族。」
「まさか…、英雄ルジャンドルは魔王より強かったってことか?」
「その通り。だけれど魔王は権力に固執した。」
にこやかに話していたフォルディの眼が段々と薄暗く何かを深く呪うような、沸々と煮詰まる苛立ちのようなものを浮かべる。
「ローレンスの弟は愚弟でね。ルジャンドルよりも魔王に良く似ていた…否、似てしまったのさ。愚かにも権力を欲し、魔王の側に付き、手を組んだ。愚主の息子もまた愚息。ルジャンドル様の血を引きながら、何故ああなってしまったのだろうね」
そうしてローレンスの弟を、まるで人質かのように見せかけ、ルジャンドルを欺き殺したという。そして、弟は王位継承権を自分だけのものにするためにローレンスを魔界から追い出し、人間界の奴隷商に売り払った。ローレンスに敵わないことが分かっていたから。
「……最悪な話だな」
「ホント、最悪よ。何故、今の今まで黙っていたの。弟は死んだって、言ってたじゃない! 魔王の跡取りは新しい番との子だって! その跡取りも死んだって! 大事なこと全部、話さないで、アンタは…、父さんは…、いつも隠し事と嘘ばかりっ」
「ふふっ、秘密の多い男の方が魅力的だろう? そういうミルゥランこそ、ローレンスに隠し事をしているじゃないか」
「そ、それはっ」
「分かってるよ、ミルゥラン」
「……ローレンスを、兄さんを巻き込むんじゃないわよ」
「どうしても、ルジャンドル様の仇討ちがしたかった。ルジャンドル様の望む魔界を作りたかった。でも僕は弱いから…こうするしか、思い浮かばなくてね」
「兄さんは? どうしているの?」
「全てを話した、ローレンスはすべき事がなにかすぐに解ってくれたよ」
ならばローレンスは今、魔王や弟に刃を向けているというのか。
「父上は、兄弟同士の殺し合いを望んでいないはずでしょう。本当に身勝手で自分勝手ね!」
「そうだね」
「………ああそう、もういいわ、、弱い男はどうでもいい」
俯いて小さく独りごちるように言ったあと、ミールはその場から忽然と姿を消した。
俺もフォルディも呆然として、顔を見合わせる。
娘のキツイ言葉に、流石にフォルディも傷付いただろう。なんと声を掛けるべきか、考え倦ねる。
しばし見つめ合った後、フォルディの口角が気持ち悪いほどグニャリと笑った。
高揚したように頬を赤らめ、クツクツと震えるように笑い声を上げ歓喜しだしたのだ。
「ああっ、そうだっ、そうだね! 魔王家の血筋なんて気にすることじゃなかったよ‼」
突然立ち上がり、大きな声で叫ぶように言ったので、とても驚く。
どうしたのかと目を見開いていると、フォルディにひょいっと担ぎ上げられた。
俺が混乱していても構わず、そのまま魔力を集めていく。すると辺り一面が発光をはじめ、紋章が展開された。
「えっ、へ?」
「さぁ!見に行こう! 最高の瞬間をこの目に焼き付けなくちゃ!!」
35
あなたにおすすめの小説
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる