転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

文字の大きさ
27 / 132
放浪準備編

26.色々実験してみるよ

しおりを挟む
 実験用材料が揃った翌日、俺はエリナさんを連れて再び杉山村を訪れていた。村長の牧田さんは俺たちの突然の再訪にも嫌な顔ひとつせず、またお茶を出して歓迎してくれた。
 ……しまった、何かお土産に買っていけばよかったな。

「しょうがない、この次までにお土産になりそうなものを見繕っておくか……」
「……それで、あの、トーゴさん? 何故またこの村に?」
「本当は実験用のスペースさえあればこの村でなくてもよかったんだけど、郊外に出てあまりに近いと知らない人に見られる可能性があるしね。俺たちの事情を知ってる人たちで固められている場所っていうと、ここしか思いつかなかったんだよ」
「はあ、なるほど……?」

 もっともそのおかげで、ペトラ杉の依頼を受注した時と同じくらい朝早くに出なくちゃならなかったわけだけど。総合職ギルドがふたつ返事で魔動車を貸してくれて助かった、後でお礼を言っておかないと。

「それにしても水元さん、なかなか凄いことを考えますね。確かにこの魔動車? にしても、頑丈そうな車輪ではありますけど重そうですからね」
「ええ、木のホイールに鉄板を履かせた奴ですから、頑丈と言っても前世のに比べれば壊れやすいですし重いですよね……まあでも、実際作れるかどうかはやってみないと分かりませんのでね。その為の実験ですから」

 ――今回試しに作ってみる材料は2種類。

 まずはポリイソプレン、所謂合成天然ゴム。本当はゴムの木の樹液から抽出出来ればよかったんだけど、この世界にそんな便利なものは存在しない。存在していたらもうちょっと天然ゴムを使ったおもちゃなんかがあってもいいものが、それも全くなかったので予想通りと言えば予想通りだったけど……

 そしてもうひとつはポリブタジエン。ブタジエンという常温で気体をとる炭化水素のポリマーで、とんでもなく柔らかい合成ゴム。基本的な構成はイソプレンとそう変わることはないというかイソプレンもブタジエンの化合物だけど、材料としては両方必要になる。

 そしてなぜこのふたつを今回作ることにしたのかというと……実は、このふたつは材料が共通なのだ。
 不可視インベントリから、昨日買ったスピリタスの瓶を取り出す。買った時より若干量が減っているけど、飲んだわけじゃないからね?

「しかしとんでもなく強い酒があって助かったよ。無水アルコールを大量に求めるとか結構めんどくさいから……基礎材料ギルドなんかで買ったら絶対怪しまれるしね」
「その点お酒なら 蟒蛇うわばみってことで済ませられますしね。……まあ、96%は飲用と言っていいのかどうかって疑問はありますけど」
「元フィンランド人のエリナさんがそれ言っちゃう?」
「私はそもそもお酒飲みませんー。好きな飲み物はヤッファ・アッペルシーニ。ファンタオレンジよりオレンジの味が濃くて好きです」
「アッペルシーニなのにオレンジ……?」
「何か変ですか?」
「それ響き的にはオレンジじゃなくてむしろ……いや、何でもない」
「リンゴではありませんよ?」

 ……やっぱりそう思うんだ皆。ではなく。
 まあいずれにしても不純物のほとんどないアルコールをこうして手に出来てるわけだけど、実際に何かを作るのに向いた材料なのかはわからない。というわけでアルコールで作れるものを先に作ろうという話になったのだった。コールタール採取に比べて、エタノール抽出ならさして手間にはならないしな。

「それじゃさっそく始めようか。最初はポリブタジエンからだな」

 ポリブタジエンを作る前にモノマーであるブタジエンを作らなければならないけど、これはエタノールを触媒化で高熱処理して水と水素を分離すれば作れる。……とはいえこの世界でそんな工業的なことが出来るはずもないし、そもそもブタジエンも気体だからそんな作り方をしていたら分離がものすごく面倒なことになる。
 というわけでちょっと横着しよう。

「ええと、エタノール分子同士を圧縮合成して水と水素を分解、同時にブタジエン同士をノータイムで圧縮合成してポリマー化……ロスをなくすには……」
「気体のロスをなくすということなら、容器に蓋をして内部にだけ魔法を適用すればいいのでは?」
「エリナさん」
「私も協力しなくちゃいけませんから。私は素材分解が出来ないから実際の作業をお手伝いすることは出来ませんし」
「ありがとう。……しかし蓋と言っても、完全に密閉したやつじゃないと無理なんだよな……」
「取り敢えずはその酒瓶を使えばいいと思います。蓋に関しても取り敢えずは今あるものを使うことにしましょう」

 ……この間も思ったけど、エリナさん本当にこの手の話に詳しいな。もしかしたら前世ではそういう関係の職業についていたとかそういう関係が専門の学生だったとかかな。ある程度言葉が通じるようになったら、基礎材料とか重工業関係のギルドに加入してもらうのもいいかもしれない。
 とにかくこれで作ってみて……って、村長さんが何か微妙な目で見てるけど何だろう。

「あの、村長さん? どうかしましたか?」
「いえ、ただ、日本語とエリナさんの……フィンランド語ですか? で、よくお互いに話が通じるなーと……」
「そこらへんは多方向翻訳能力のややこしいところですね。1対1とかなら混乱もないですけど、確かに傍から見ると奇妙ではありますよね」

 まあだから、会話の内容を完全に把握されないっていう利点もあるんだけど……
 取り敢えずは実験だ実験。

「さてと、それじゃ始めますか」



 実験開始からおおよそ1時間ほど後。
 手元の酒瓶の中には黒くてドロドロした液体が、それとは別に急遽持ってきてもらったもうひとつの瓶の中には透明の液体が出来ていた。黒い方がポリブタジエンで無色の方がイソプレンのはずだけど……成功したかな。

「トーゴさん、それで成功ですか?」
「……多分。後はイソプレンをポリマー化して、これと硫黄とカーボンブラック、シリカを混ぜ合わせて――」
「加硫を起こして架橋構造を形成する、ですか」
「うん」

 もっとも今この場にそれらの材料なんかないわけで、実験はひとまずこれで終了って感じなんだけど……思いの外上手く出来たな、後は容器の問題さえ解決出来ればタイヤを作るのはそこまで難しくないかもしれない。
 素材合成に素材分解。使えるなんてもんじゃない。

「しかし水元さん、本当にエタノールからそこまで作れるなんて……少しその材料、見せてもらっても構いませんか?」
「いいですけど、慎重に取り扱ってくださいね? 特にイソプレンは引火したら爆発するし、外に出して蒸気でも放出しようものならここら辺一帯が健康被害で溢れますから」
「大丈夫です。その辺りの失敗は、前世で結構してましたから」
「……村長さんの前世が凄く気になりますよ。なりますけど……それはそれでマナー違反ですね。それでは、はい」

 言って手渡すと、牧田さんは物珍しそうな目で瓶の中身を眺める。するとエリナさんが俺の隣に寄ってきて言う。

「取り敢えず、これで合成ゴムが出来るめどは立ちましたけど……こんなあらゆる意味で危険なもの、街中で作るわけにはいきませんよね」
「……うん、俺もちょうどそんなふうに思ってたとこ」

 もちろん引火しやすいとか蒸気に有害物質が含まれているとか、有機材料によくある話もさることながら、この材料はとにかく技術的に危ない。色々なギルドを見てみた感じ、この世界の人間にとってゴムは間違いなく未知の材料だし、ばらされたら色々と面倒なことになりそうだ。ここを実験場所に選んだのも、理由のひとつはそこへの懸念だったわけだし。

「しかしそうなると、必要な量はどこで作ろうかな。不可視インベントリも感覚的に無限の容量がある感じはしないし、持ち運ぶのも億劫そうなんだよな……」
「そうですね……」
「……あの、水元さん」
「あ、終わりましたか村長さん?」
「はい、ありがとうございます。……それでそれについての話ですが、もしよろしければこの村の一角を是非お使いください」
「……いいんですか?」
「私たちも、水元さんたちの挑戦というか取り組みに興味がありますし……それにこの世界の情報や街との交易をしていただけるのであればこちらとしても助かりますし」

 ……なるほど、要は体裁を整えているということか。それなら断る理由はないな。

「それではご迷惑おかけするかと思いますが、よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ期待しています、頑張ってください」

 そう言葉を交わして俺たちは握手をする。本当にありがたいことだ。



---
 スオミではオレンジ=アッペルシーニ、リンゴ=オメナ、塩化アンモニウム=サルミアッキ
 ……いや最後のはいらねえか。

 次回更新は11/23の予定です!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...