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第八章 迷宮行進曲

おじさんとペンフレンド

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「コホーッ!!」

 噴射拳ジェットナッコウッ!!

『ブベッ!?』
「オラッ!!」
『グオオオオッ!!』

 迷宮にそんな声が響く中、健太郎けんたろう達はアズダハを一方的にボコボコにしていた。
 どうやら三つ首の竜は魔法を絡めた三位一体の攻撃が持ち味だったようで、それを失った今、アズダハは狩られる事を待つだけの獲物と化していた。

 ズズーン、程なく体力の限界に達したアズダハは轟音を響かせ迷宮の床に仰向けに倒れた。
 倒れたアズダハの体は収縮し、人の姿へと変化を遂げる。

「クッ……まさかこの我がこんな無様な姿をさらす事となるとは……」

 試合後のボクサーの様に顔を腫らし、首が二つとなったアズダハは仰向けに寝たまま悔しそうに呟いた。

「ケッ、余裕ブッこいてるからだ。獲物は狩れる時に狩るもんだぜ」
「まったくだ。不意打ちからのブレス攻撃であれば、我々も苦戦は免れなかっただろうに」
「クッ……主に我の力を見せたかったのだ……」
「うーん、そんなにあんた等の主ってのは魅力的なのかい?」

 ミラルダの問い掛けで虚ろだったアズダハの目に光が灯る。

「あの方はお一人で我ら迷宮の守護者をあしらってみせた。そんな事はかつての盟主、メルディス様にしか成し得なかった事だ。あの方こそメルディス様の再来、我らの新たな主よ」
「あんた等を一人で……こりゃかなり厄介そうだねぇ」
「だな。ミシマはともかく、生身の俺たちゃ気ぃ入れていかねぇとやべぇかもしれねぇ」
「うぅ、そんな強い奴が相手だなんて……ディラン達、大丈夫かなぁ……」
「心配するなパム、ディランの目的地は地下九階、迷宮の主なら最下層にいる筈だ。そうなんだろう、アズダハ?」

 グリゼルダが視線を向けるとアズダハは腫れてふさがった目をスッとそむけた。

「こいつもだんまりか……まぁ、その反応で最下層にいる事は分かったがな」
「クッ……」
「ふぅ……それじゃあ、取り敢えず地下四階に下りようか?」
「コホーッ」

 そうだな。

「こいつは尋問しねぇのか?」
「尋問に時間を掛けるより、地下九階の探索に時間を割きたいからねぇ」
「そうか……んじゃ、取り敢えず、縛るだけ縛っておっさんの所に放り込むか?」
「そうだね」
「コホー……」

 いいのかなぁ……。

 迷宮おじさんはまた放り込まれたアズダハを迷宮の外に放り出すだろう。
 しかし、友人を求める彼の心情を考えると健太郎は何だか切なくなってしまった。

「コホーッ!!」

 そうだッ!! これならッ!!


■◇■◇■◇■


「なななっ、何じゃ貴様はッ!? わわわッ、儂は魔物の友人なんぞ求めておらんのじゃッ!!」

 再び扉と壁の隙間から眩い光が漏れる。

「はぁ……何なんじゃ一体……魔物を放り込まれるとは……もしかして儂、なんぞやらかしたじゃろうか…………フフッ、なんぞも何も問答無用で迷宮の外に放り出してしまうんじゃから、嫌われても仕方がないわな……グスッ……」

「コホー……」

 うぅ、切ない、切ないぞおじさん……でも心配ないさッ!! これがあればきっと友達が出来るはずさッ!!

 そう言うと健太郎は道中で遭遇したぼろきれを着た男が持っていた円盾を、おじさんの部屋の扉に表札の様に取り付けた。
 盾にはミラルダに頼んでメッセージを書いてもらっている。



"ここに住んでいるのはとてもシャイなおじさんです。でも友達が欲しいのでまずは文通からお願い出来ませんか? よろしくお願いします"

「コホーッ」

 よし、これでいいだろうッ。

「おじさんに友達が出来るといいね」
「コホーッ」

 ああ、パムの話じゃ感謝してる冒険者は大勢いるらしいから、きっと返事を書ききれないぐらい手紙がくるさッ。

「まったく、お前らはホントお人好しでお節介な奴らだぜ」
「ギャガンはミシマ達のアイデアに反対なの?」
「フフッ、ギャガンも私も二人のお節介で居場所を見つけたんだ。ただこいつは素直じゃないからな」
「チッ、うるせえよ。素直じゃねぇのはお前も一緒だろうがッ」
「そうだな、一緒だな」

 グリゼルダはそう言うと嬉しそうに微笑んだ。


■◇■◇■◇■


 その後、健太郎達はエレベーターに引き返しカードを使って地下四階へと進んだ。
 パムは地下四階へ来た事は無かったが、盗賊兼マッパーとして街で情報収集に励んでいた為、地下四階の事もよく知っていた。
 そのパムの情報によると、地下四階から地下九階へと降りるエレベーターまでは、途中に扉が一つあるだけで基本一本道だそうだ。

 健太郎はその通路に表示されたターゲット表示を赤に変え、扉まで道中の敵を全て掃討した。
 虐殺チックではあったが、手心を加えて仲間を失う訳にはいかない。

「ホントはね、この階で迷宮の警備兵を倒さないと、カードが手に入らないから先へは進めないのッ!!」
「俺たちゃ、吸血鬼からカードを手に入れたから警備兵は倒さなくていいんだな」
「うんうんッ、その通りッ!! 噂じゃ首を刎ねて一撃で殺して来る奴がいるから、超危険なんだってッ!!」
「首か……流石に首を落とされちゃグリゼルダの魔法でも治せねぇなぁ」
「うむ、首以外であればどうにかしてやるから、絶対に落されるなよ」

 グリゼルダはギャガン、ついでミラルダ、パムと視線を巡らせ最後に健太郎を見て苦笑を浮かべた。

「コホーッ?」

 なあに?

 首を捻った健太郎にグリゼルダはクスクスと笑う。

「いや、竜の牙の剣でもそれに魔力を付与してもお前は傷一つ付かなかったからな。きっと首を刎ねられる事は無いだろうと思ってな」
「えっ、竜の牙の剣ってギャガンが持ってる奴だよねッ!? アレって竜神の首をスパッって斬ってたじゃんッ!! あの剣でも無理なのッ!?」
「フフ、ミシマは凄く硬いからねぇ」
「へぇ……そんなに硬いんだ」

 パムは健太郎の太ももをコンコンと叩きながら酷く感心していた。
 そんな事を話しつつ健太郎達が通路を進むと、やがて行く手を阻む金属の扉が現れる。

「えっと、ここにカードを差し込んで……」

 パムはその扉の横にあった金属板のスリットに中程まで青いカードを差し入れた。
 するとブーンと音がして金属の扉がゆっくりと左右にスライドしていく。

「魔力を使った自動ドアだな。カードに付与された魔法陣で通る者を制限しているのだろう」
「奪われて潜入者に使われるんじゃ、余り役には立ってねぇなぁ」
「ふむ……この扉を潜るには首を刎ねる警備兵を倒さねばならん……強者を振るいに掛けているのか?」
「かもかも、ベテラン冒険者が言ってたけど、この迷宮は自分達を試してるみたいだって」
「コホー……」

 試してるか……レベッカ婆さん達が倒したっていう大魔導士メルディス……奴は何がしたかったんだろうか……。

「さてねぇ……もしかしたら暇つぶしだったのかもしれないねぇ……」
「コホー?」

 自分の命を賭けて暇つぶしするの? そりゃ酔狂すぎるだろ?

「こんな迷宮を作っちまうんだから、酔狂じゃなきゃやってられないよ」
「コホーッ」

 かもねッ。

 話している間に開いた扉から奥を覗き、健太郎は再び敵をバルカンで排除する。

「それって便利だねぇ」
「コホーッ」

 余り気分はよくないけどね。

 パムにそう返し、健太郎は先頭に立ち先へと進む。やがて一行は突き当り、地下九階へ続くエレベータへと辿り着いた。
 ごく自然に先頭に立っていた健太郎がエレベーターの扉を開く、それと同時に冷たい金属の煌めきが彼の首に襲い掛かった。
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