学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

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そう、決めたイーナは早かった。嫌がられようが、無視されようが、片端から生徒に訊き回る。
駆け回る内にある事が、発覚した。黄色い悪魔は、どうやら昨日教師に呼び出されていたあのレオンのようだ。
レオンは、この学園で術師としても、人としても、有名人のようで名前を出しただけで恐れられるか、賞賛されるかのどちらかである。

学園最強と謳われる術師。どこにいるのかも当然知らない。一学生に過ぎない自分が、その有名人にどうやって会うのかが問題だ。しかも、学年も上のようで出会う難易度がさらに困難を極めた。
知り合いすら見つからず、手紙を渡す事すら出来ないとは。

「……ソイツに会いたいのか」

そう言うのは丁度、黄色い悪魔について話してくれた男子生徒である。

「会いたいです。どうしても、その人に手紙を渡したくて」
 
どうしても届けなくてはいけない理由を、白い封筒に入った手紙を見せつけた。このままでは想いをのせた紙を無駄にしまう。この辺から親切というより、意地になってきた俺。
こちらの困った様子をみて、紫紺の瞳を持った人物は一度ゆっくりと目を閉じてから息を吐いた。

「分かった。案内してやる」
「えっ、いいんですか。というか知り合いだったんですか」
「……知り合いだな。丁度、彼奴に用があるのだがついてくるか」
「行きます! 行かせてください」

その人に頭を全力で下げた。話しかけた人が偶然にも黄色い悪魔と知り合いだったとは。

「それを、渡させるかどうかは分からないが」
「それでも、こういうのは行ったことが大事だと思うんですよ。心の折り合いをつけるために」
「それもそうだな」

会話をしながらレオンのところまで案内してくれる紫紺の瞳を持つ人は、ロタリオという名前だと自己紹介してくれた。

「それより、君、そのメガネどうしたんだ。片方だけ割れているようだけど」
「お恥ずかしい話。つまずいて、地面にそのままダイブしてしまいこうなりました。結構ドジなんですよね」
「そうかーーー、メガネの替えはあるのか」
「もちろん、ありますよ。今日、寮に届く予定なので」
「それはよかった」

前を歩いていたロタリオは振り返る。

「その、だな。一応俺は、この学園で秩序を守る役職をしている。何かあれば、ここに言ってくれてもいいし、俺に直接会いにきてもいいから、相談してくれ」

ロタリオが手渡してきたのは紙の切れ端。切れ端には学生相談室と走り書きされ、学園のどこにあるのかも書かれていた。
「あはは」とイーナは空笑いし、目を細めてはこめかみを掻く。

「……変な嘘をつくのは、やめた方がいいですね」
「その通りだ。言いたくないのは分かるが、こちらの仕事を奪わないで欲しい」
「善処します」
「前向きに考えてくれ」

再び、ロタリオは前を歩き出した。
良い人に出会えたなと思いつつ、案内されたのはある教室。授業はもう終わっているようで人がまばらであったが、その中でも一際目立つ人の集りがある。集まる者全てが色めき立ち、その中心となるのが目当ての男子生徒である。
隙間から金髪が見えるくらいで、入れる隙はない。

「どけ、俺はソイツに用があるんだ」

近づくのも億劫だが、ロタリオは気に留めることはなく人の塊を追い払う。
「うわ、ロタリオだ」「ほんとタイミングわる」と文句を垂れつつも蜘蛛の子を散らすように皆が離れていく。残ったのは学園最強と呼ばれる男だけ。

「何かよう」
「何か用かって? 貴様が昨日何をしたのか本当に分かっているのか。保護観察されていることを肝に銘じろ」
「はいはい、分かっている。散々昨日言われたんだ、もういいだろ。面倒な奴だな」

見た目は王子様だというのに、椅子の背にもたれるレオンは子供のようにそっぽを向いてしまった。話す気はないと拒絶され、ロタリオの眉の間に皺が溜まっていく。

「あの、いいですか」

腕を組むロタリオの後ろからイーナは顔を出し、ロタリオの一歩前に出る。そして、口を尖らせているレオンに手紙を差し出した。
話に割入ったのは二人の仲が悪くとも、自身には何も関係ないので手紙を渡し早く帰りたかったからだ。

「君は……」

外を見ていた青い瞳がゆっくりとこちらに向けられた。その視線が、内心ドキッとさせたイーナは頭を下げて目線を逸らす。

「あの……これ手紙で、受け取ってもらえませんか。大事なもの……らしいので」

突き出した手紙を持つ指先が震えてきては、カラカラと喉が渇く。自身が告白するわけではないというのに、冷や汗を流し緊張している。
やはり、この学園で有名人になるだけある。前に立つだけ足元が崩れそうになり、存在そのものが、全く住む世界違うのだと理解させられる。

「……もらっていいの」

レオンは椅子から立ち上がり、一歩、一歩と距離を詰めてくる。それだけで圧迫感を感じて足先は震えた。

「もっ、もちろんです。貴方のためにかぁいたっものなので、たぶん……」
「うん。ありがとう」

噛んでしまったが言葉は届いたようだ。
骨ばった綺麗な両手が見え、やっと手紙を受け取ってもらえると安堵する。けれど、手は手紙を通り過ぎ、長い指先はイーナのこめかみに添えられた。

「なにっ……」

頭を掴まれると身を引くが、こめかみにピリッとした静電気が走る。
音に驚いて瞼を閉じたが、特に掴まれることはなく。恐る恐る、瞼を開ければ手が離れていくところが見え、周りの景色が鮮明になっていた。

「メガネが直ってる……」

先程までひび割れていた筈のレンズは手に取って観察するが、どの角度から見ても傷一つない。先ほどの静電気はメガネを直すための術の光だったらしい。
そして目の前は人が、メガネを取ってくれた人だと気がついた。

「あっ、この前メガネを取ってくれた人ですよね。その時はどうも、ありがとうございました。助かりました。それに、メガネを直していいただいて、すいません」

イーナは謝罪もこめて頭を下げた。
 
「それくらい、いくらでするよ。それより、返事はいつがいいかな」
「そうですね、明日とかでいいんじゃないですかね。心の準備とかありますから」

彼は先程、杖を持たずに術を唱えたように見えた。術を唱えるには何かしらの媒介がないとできない筈だ。では、何を持って術を唱えた。手につけている指輪なのか、それとも揺れる赤いピアスか。見ても、全く分からないけど。

「分かった、明日返事するよ」
「はい、お願いします」

レオンが手紙を手にするのを確認してからイーナは離れた。

「俺は授業があるので、これで」
「ちょっ、君の名前は」

サッと身を縮め、何もかも振り切るように教室から脱出した。緊張から解き放たれてやっと落ち着いて息ができる。
目的は果たせた。あの人にもう会う事はないだろと思った午後だった。








「待って、兄さん……それ兄さんが告白した事になってない」
「はぁ?」

電話の向こうにいる弟が訳の分からない事を言い始めた。今日も学校が終わった夜に電話をかけ、巻き込まれた手紙の事件を話しての反応だった。

「だって、兄さん。落ち着いて考えてみてよ。その手紙に宛名はあっても、差出人の名前はあった?」
「うーん、なかったな。手紙は分からないが、封筒からは確認はできなかった」
「もう一個、その手紙は自分ではなく、違う人からですって相手に言って渡した?」
「言ってないな。というか、そんなこと言わなくても、分かるだろ。男だし、平凡だし」
「全く理由になってないけどね。できるだけ早く、明日でもいいから、その人にちゃんと話した方がいいよ。その人の勘違いが広がる前に」
「勘違いなんて、ないない。絶対にない」

あまりのありえない話に受話器を持ったまま、手を仰ぐ。勘違いがあったとしても、レオンが俺を選ぶ事はない。

「その根拠は?」
「あの人は、誰から見ても美丈夫だった。なのに、どこでもいるような、しかも男に告白されて受け入れる人じゃない。もっと美人な人とか、聖人みたいな人と付き合うね」
「それは兄さんの主観でしょ。その人がどう思っているかなんて、分からないよ。聴いていると結構前向きだし、もしかしたら兄さんの事、めちゃくちゃ美人だと思っているのかもよ」
「ハッ」

鼻で笑ってしまった。ありえない事を真面目に言う弟。少々、心配性なところがあるから、どんな事にも注意深くいろと忠告してくれているのだろう。

「兄さん、真面目に聴いてる?」
「聞いている、聞いてる。明日、その人にちゃんと話しておくよ」
「兄さん……全く聴く気ないね。俺は言ったからね。この件がどうなっても、俺は知らないからね。何が起きても自分でどうにかしてよ」
「はいはい、心配ありがとう。また明日、報告する」
「良い報告待っているよ。おやすみ、また明日」

おやすみ、また明日とイーナと繰り返して受話器を下ろした。
どんな勘違いが生まれようとも、明日、弟に報告することは何も起きていないか、あの人に振られたという事だけ。だから、この話は学園の有名人に会ったという話で終わるのだ。
さて、明日の用意でもしようと、電話を机に戻すのだった。



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